第五話 考察②
俺の前に小さなモニターが現れ、そこに、驚いた表情のソフィが映し出された。
これが、この魔法の良いところだ。テレビ電話みたいな感じで繋がるので、向こうの状況も把握することが出来る。
「久しぶりだな、ソフィ。手紙、見させてもらったよ」
「あ、うん、久しぶり、お兄ちゃん……って、大変なんだよ!手紙にも書いたけど、リーナが追放されちゃったの!」
慌てた様子のソフィ。そんなソフィを安心させるために、俺は、リーナのことをソフィに話す。
「それなんだけどな、安心してくれ。リーナは俺の家で寝ているよ」
「どうしよ……へ?」
キョトンとした表情になるソフィ。説明が足りなかったな。
「さっき、森の中で倒れていたんだ。それで、連れて帰って、お医者さんに診てもらって、今は隣で寝ているよ」
そう言って、モニターを横に向ける。
「あッ!……よ、良かったぁ」
リーナの寝顔を見て安心したのか、ソフィがホッとしたような表情になる。
ここで俺は、ソフィの後ろの背景が寮ではないことに気が付いた。どうやら、まだ街中のようだ。
「もしかして、リーナを探してくれていたのか?」
「あ、う、うん……だって、リーナが危険な目に遭っていたら、嫌だし……」
「ありがとな。リーナも、きっと喜ぶよ」
「え!う、ううん、お礼を言われることなんてないよ。私、リーナのこと好きだし……」
ソフィは、照れたように笑っている。
「いや、改めてお礼を言わせてほしい。今まで、リーナのこと見守ってくれて、本当にありがとう」
俺は、深々と頭を下げた。ソフィには、感謝しかない。
「え、いやあの、あはは……うん、分かったよ。お兄ちゃんの気持ち、しっかりと受け止めたから、だから頭を上げてよ」
「そっか」
「うん」
「なら、お言葉に甘えようかな」
「あはは、そうしてよ」
お互いに微笑み合う俺たち。
やっぱり兄妹は良いな、と改めて感じた。
「さて、いくつか聞きたいことがあるんだが、良いか?」
「うん、私で答えられることなら」
「よし、じゃあ――」
あのやり取りの後、俺は、ソフィにいくつかの確認をした。
「――やっぱりな」
「え?どういうこと?」
そして、俺は確信した。この状況になったのは、強制力のようなものが働いたせいだと。
「実はな――」
ソフィに、俺の仮説を話していく。
「……なるほど、可能性は高いよね。つまり、あの人たちやリーナは、強制力のような力で操られていたってことだよね?」
「そうなるな。そうじゃないと、リーナもそうだが、攻略キャラたちの行動がおかしすぎる。いきなり、何の脈絡もなく、複数人の行動が豹変するなんて考え難いからな」
「うん……あれ?でも、それならなんで私は自由に動けているんだろう?」
「俺たちは転生者だからな。もしかしたら、強制力が働かないのかも知れないぞ。まぁ、これは可能性の話だし……何より……もう終わってしまったことだからな。今となっては分からないな」
「あ……そうだよね。もう……終わっちゃったんだよね……」
俺たちの間に、しんみりとした空気が流れる。
そうなんだ。今、俺が状況を把握して仮説を立てているのは、リーナの状況を把握するためだ。もう、リーナは追放されてしまっている。だから、この世界が、ゲームの世界なのか、似ている世界なのか、それに、俺たちに強制力が働いていない理由すら、もう知る必要のないことだった。いや、知ってもどうすることも出来ない話だった。
俺は、リーナを助けることが出来なかったんだなぁ……。
今更ながらに、その気持ちが重くのしかかってくる。
「でも、お兄ちゃんのところに居るのなら、リーナも安心だね!」
――そんな時だ。ソフィが安心したように、そう言った。
「……は?」
え、どういうことだ?
「ええ……、何で『え、どういうこと?』みたいな顔になっているの?もしかしてお兄ちゃん、気が付いていないの?」
「……ど、どういうことだよ?」
「あのさ、ゲームの最後って、リーナが追放されるシーンがあったよね?」
「そうだな」
「それで、その後のことは何も出てこなかったよね?」
「ああ」
「なら――その後は、リーナに強制力が働かないんじゃない?」
「……ッ!?」
た、確かにッ!!
「だから、お兄ちゃんのところに居れば、少なくともリーナが、生活に困ることはないんじゃないかな。強制力が働かないのなら、普通に生活が出来ると思うしね」
「そ、そうだな。そこは考えていなかった。今のリーナは、ゲーム終了後の状態だ。なら、俺がリーナを支えてやれば……」
「私も相談に乗るから、何かあったらすぐに連絡してね」
「ああ、ありがとな。また連絡するよ」
「うん、リーナをよろしくね、お兄ちゃん」
そんな会話をした後、俺は魔法を解除した。
これで方針は決まった。
ナイスなアイデアをくれたソフィに感謝する。
後は、リーナがどう言うかだが……。
まずは、リーナが起きるまで待つとするか。
全ては、その後だ。
俺は、リーナの穏やかな寝顔を見て、そう決めた。