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第四話 過去の出会い そして、願い……

 その出来事とは、俺とリーナが初めて会った時のことだ。

 それが約八年前……そう、リーナが街にお忍びで来た時のことだった。


 あの時のことは、今でも鮮明に覚えている。

 

 当時の俺は、王都に住んでいた。平民向けの学校に通いながら、両親の手伝いをしていたんだ。両親も道具屋を営んでいるから、注文された道具なんかをお客さんの家へ運ぶのを手伝っていた。その日も、注文されていた道具を届けるために、街を歩いていたんだ。

 そんな時、リーナに出会った。本当に驚いたよ。国の名前とかで、この世界がゲームにそっくりだとは気が付いていたけれど、まさか、リーナに出会えるとは思っていなかった。会った瞬間、驚きで頭が真っ白になってしまったけれど、すぐに正気に戻った。リーナは泣いていたんだ。迷子になった直後だったらしく、一人で裏路地を歩いていた。幸いなことに、まだリーナは襲われていなかったけれど、安心は出来ない。俺はすぐにリーナに駆け寄り、話し掛けた。

 最初は怖がっていたけれど、俺がリーナを護衛のところまで連れて行ってくれると分かって、ようやく笑顔を浮かべてくれた。可愛かったな……。あの時、俺は、「この子が笑っていられますように」って改めて思ったんだ。

 その後、リーナの手を繋いで裏路地を離れ、護衛の人を探した。

 そして、護衛の人を見つけて、リーナを引き渡そうとした時――リーナと、こんな会話をしたんだ。


「お兄ちゃん、ありがとうっ!」

「いやいや、何てことないよ。護衛さんが見つかって良かったね」

「うん!それでね、あの……実は、私、貴族なんだ……」

 少しだけ迷った後、自分が貴族だと打ち明けるリーナ。多分、貴族とバレては駄目なんだろうなと、その時、何となく思った。

「そうなんだ。今度からは、街に出ることがあっても気を付けないと駄目だよ?」

「こ、今度からは、気を付ける……。護衛さんから離れないようにするもん……。そ、それよりね!私、貴族だから、お兄ちゃんのお願い、叶えてあげられると思うんだ!だから、ね、お兄ちゃん、何か叶えてほしいことってない?私、お父さんにお願いしてみるから……」

 そう言って、俺を上目遣いで見つめてきたんだ。

 

 そこで、俺は考えたよ。人生で一番じゃないかっていうくらい考えた。

 そして、俺は、リーナにお願いをしたんだ。


「じゃあ、俺のお願い……聞いてくれる?」

「うん!」

 そう言って、笑顔を見せるリーナ。俺は、リーナの前にしゃがみ込み、リーナと目線を合わせた。

「これから先、君は色々な経験をすると思う。楽しいことや、嬉しいこともあると思う。だけど、悲しいことや辛いこともあると思うんだ。それは、もしかしたら君を苦しめるかも知れない。だけど――」

「……お兄ちゃん?」

 キョトンとするリーナ。そうだろうな。いきなり、こんなことを言われても困るだろう。だけど、俺は言葉を続けた。

「――これから先も、優しい気持ちを忘れないでほしい。人を傷付けることの痛みを……そして、傷付けられる人の痛みを想ってほしい。……これが、俺のお願いだよ」

「お兄ちゃん……そんなことで良いの?」

 きっと、もっと凄いことをお願いされると思ったんだろう。だけど、俺には、この願いが何よりも叶えてほしいものだった。少しでも、リーナが幸せになれますようにと、心を込めてリーナに語り掛ける。

「そうだよ。それが俺のお願いだ。そして、最後にこれだけは覚えておいてほしい。君が困っている時、君が悲しい時、君を想っている人は必ずいる。君は――一人じゃない。それを覚えておいてほしい」

「私は、一人じゃない……うん、分かった!私、お兄ちゃんのお願い、ちゃんと守るね!だから、お兄ちゃんも私のこと覚えていてね!」

 幼いながらに、リーナは俺の言葉を真摯に受け入れてくれた。心に刻んでくれた。それが、この上なく嬉しかった。

「ありがとう……」

「うん!あ、そうだ。私の名前、リーナっていうの。お兄ちゃんは?」

「そう言えば、自己紹介していなかったな。俺は、ライトっていうんだ。宜しくな、リーナ」

「うん!ライトお兄ちゃん!えへへ……♪」

 そうして、最後はお互いに笑いながら俺たちは別れた。


 そして、その約一年後、ソフィに出会い、今に至る。


 以上が、あの時に起きた出来事だ。

 

 

 この全ての情報から、俺は、ある仮設を組み立てていた。

 その仮説とは、こうだ。


 リーナは、俺との約束を守り、人が嫌がることはしなかった。自分の婚約者が、平民の女の子に親し気に話し掛けているんだ、きっと、思うところはあっただろう。だけど、我慢した。我慢してくれた。そして、月日が過ぎていく。本当なら、このまま終わるはずだったんだと思う。ソフィは攻略対象たちに興味がないし、リーナはソフィをイジメていない。なら、これで終わるはずだったんだ。だけど、それは叶わなかった。


 ――ゲームの強制力によって。


 ゲームの強制力……補正力とでもいうような力が働き、リーナがソフィをイジメるように、強制しようとしたのではないだろうか。実は、さっきの手紙に『あの人たち、それまで普通に会話をしていたのに、リーナの話が出た瞬間、人が変わったみたいになったんだよ!』と書かれていたんだが、それも強制力だと考えれば、辻褄が合う。

 きっと、リーナは抗ったんだろう。だから、あれだけの――ソフィに、全くダメージが入らない行動で済んだ。

 だけど、強制力はそれを良しとはせず、更にリーナを追い詰めた。関係のない令嬢たちに行動を起こさせ、攻略キャラたちにリーナを断罪させた……。

 そして、まさか婚約破棄や追放をされるとは思っていなかったリーナは、考えのまとまらないまま、追放されてしまった……。


 全てが、一本の線に繋がった気がする……。



 俺は、時間を確認した。

 ……今なら、もう家に帰っているかな。


 時刻は、既に夕方から夜に変わろうとしていた。王都に住んでいる学生たちも、寮に帰っている可能性が高い。

 

 だいたいの予想はついた。後は、ソフィから直接話を聞きたい。そう思った俺は、ある魔法を使用することにした。


 ――「通話」魔法だ。


 通話魔法は、魔法の使用者から、登録してある人物への通話が可能となる。この魔法自体、レアな魔法で、覚えることの出来る人物が少なく、また、それなり以上の魔力を使うため、使われることは少ない。幸いなことに、俺はこの魔法が使えるのだが、魔力がそれほど多くないため通話はニ十分程度が限界だった。本当なら、手紙ではなく、この魔法で連絡を取り合いたかったのだが、昼間の仕事で魔力を消費しているため、ほとんど使うことが出来ず、手紙でのやり取りになっていたんだ。手紙なら、後でもう一度読み直すことも出来るしな。


 俺は、この世界に転生してから、かなりの種類の魔法を扱うことが出来る。ただ、魔力が多くないので、器用貧乏みたいになっていた。まぁ、道具屋として生活していくのに、何の問題もないんだけどな。ちなみに、俺ぐらいの能力では、ソフィたちの通っている学校には入学出来ない。上には上がいるというわけだ……と、そんなことを言っている場合じゃなかったな。とりあえず、ソフィに繋いでみよう。


 俺は、脳内で魔法を唱え、ソフィの名前を口にする。

 これでよし、と。

 今、ソフィの頭の中には、俺からの通話を伝えるメッセージが流れているはずだ。もしもソフィの都合が悪ければ、着信を拒否されることもあるが……「もしもし!お兄ちゃんッ!?」……ッ!


 ――よし、繋がったな。


 俺の耳に届く声、それは数年ぶりに聞く前世の妹――ソフィの声だった。

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