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第二話 乙女ゲームと、リーナという少女

 ここから連続投稿となります。

 一話目に関しては、最初の設定で間違えて、すぐに投稿してしまいまして……。すみませんでした。

「裏設定など(ネタバレ有り)」までは、一気に投稿しますので宜しくお願い致します。

 リーナの横に座った俺は、すぐに手紙の存在を思い出した。

 そう言えば、手紙がきていたな。今の内に、手紙の中身を見てみるか……。


 ……げっ!


 懐に入れていた手紙を手に取り、差出人を見ると、ソフィと書いてあった。

 このタイミングでソフィから手紙って……そういうことだよな。

 本心を言えば開けたくないのだが、この中には、今の状況が詳細に書かれている可能性が高い。ならば、開けるしかない。

 思い切って封を破り、中身を確認していく。


 ……ああ、やっぱり。


 俺は、憂鬱な気持ちになった。間違いないだろうとは思いつつ、心の中では、どこかで「間違いであってほしい」という気持ちがあった。だが、この手紙が、俺の予想が間違っていなかったのを証明してしまった。ソフィが嘘を書いてくることはないだろう。ならば、これは真実なのだ。受け入れるしかない。


 手紙の最初には、こう書かれていた。


 ――『ごめん、リーナが追放されちゃった』と。


 そして、その後に、今の状況に至るまでの経緯などが書かれていた。

 ことの始まりは、約二週間前のことらしい。ソフィがリーナからイジメを受けていたと、一部の令嬢たちが騒ぎ出し、それを聞いた第二王子や侯爵令息、そして伯爵令息といった男性陣がリーナを問い詰め、問答無用で王都から追放したらしいのだ。リーナは侯爵令嬢であったと同時に、第二王子の婚約者だった筈なのだが、そんなことは関係なかったらしい。ソフィが口出ししようとしても、「君は優しいんだね。大丈夫、君は私たちが守るから」と言われ、聞く耳を持ってもらえず、あっという間に追放が決まったとのこと。ついでのように、婚約破棄も言い渡されたらしい。当のリーナは、ポカーンとしたまま固まっており、何も反論をしなかったため、罪を認めたとみなされたようだ。


 ……おいおい、マジかよ。

 普通、事情くらい聞くだろう?実際にイジメていたとしても、だ。イジメが本当なら、追放とは言わなくても、退学くらいは有り得るかも知れないが……。

 そう思い、俺は手紙を読み続ける。

『あの人たち、本当に聞く耳を持たないんだけど!私がどれだけリーナの無実を証明しても、全く信じていないし!ぶん殴ってやろうかと思ったわ!』

 うわ、ソフィのヤツ、本当に腹が立っているみたいだな。文章からでも、怒っているのが分かる。

 

 ここで、ソフィについて触れておこう。

 いや、その前に、この世界について触れた方が良いか。

 この世界は、乙女ゲーム「襲来!ロリっ子悪役令嬢!君の処女は、俺のもの!」と似たような世界だ。実際に乙女ゲームの世界なのか、似ているだけの異世界なのかは分からない。


 ちなみにゲーム内容だが、本当にタイトルのような内容になる。

 実はこの作品、バリバリのR18作品で、男女問わずプレイされていた。と言うか、むしろ、男の方がプレイしていた気がする。ただ、女性キャラが主人公のため、乙女ゲームとして販売されていたんだよ。

 その内容は、ロリっ子な悪役令嬢のイジメに耐えつつ、男性キャラたちの好感度を稼ぎ、処女を捧げるというものだった。だから、タイトルは間違っていないんだ。ネーミングセンスは……うん、まぁ、置いておこう。

 このゲーム、男にも本当に受けが良く、かなりの人気ゲームだったんだが、その理由は明らかだった。

 

 ……めっちゃエロイんだ。


 タイトルでは、処女と出てくるが、それはルート確定までの話。処女を失った後は、個別ルートのキャラと色んなプレイをする。外でだったり、縛ったり、道具……は、あんまりないが、とにかく色んなプレイがあった。ビックリだろ?だけど、そういうのがユーザーたちに受けたんだよな。普通の乙女ゲームとギャップがあったから。美少女ゲームが好きなユーザーたちも、上手く取り込んでいた。ちなみにこのゲーム、全年齢版に設定変更することも可能だ。女性ユーザーたちは、攻略キャラたちのイケボ狙いでプレイしていたみたいだな。


 とにかく、そんな理由で、男からも絶大な人気を誇っていたんだ。俺も、このゲームは大好きだったんだよ。

 ……ただ、大多数の男たちとは違う理由だったけれど。


 ――俺は、主人公と攻略キャラたちのエロよりも、悪役令嬢が好きだったんだ。


 悪役令嬢というキャラは、存外、スタイルが良かったり、とんでもない美貌を持っていたりするだろ?でも、このゲームの悪役令嬢は違う。

 ロリっ子と書いてある通り、ロリ体型なんだ。顔も、可愛いんだが、美しいというタイプではない。見ていると、ほんわかするタイプの可愛さだ。また、少し幼い感じの雰囲気が、とても可愛らしい。

 え?ロリコンなのかって?いやいや、そんなことはないぞ。他のゲームでは、爆乳お姉さんタイプを攻略していたし、特別、ロリっ子が好きというわけではない。


 俺は、すぐ横で眠るリーナを見る。

 幼い雰囲気に、可愛い顔、そして、ロリっ子体型……。

 もう分かるよな?そう、リーナが悪役令嬢だ。

 悪役令嬢であるリーナだが、今の寝顔を見ていると、とても「悪役令嬢」とは思えない。

 だが、ゲームの中では、間違いなく、悪役令嬢だった。



 

 第二王子の婚約者として登場するリーナは、主人公をイジメにイジメ抜く。取り巻きを使って、登校を妨害したり、教科書やノートをビリビリに裂いたり、トイレで水をぶっかけたりさせる。最後の方なんか、男子生徒を唆して、主人公をレイプさせようともした。そして、失敗する。それと同時に、今までの罪が暴かれ、婚約を破棄され、追放処分を受けるんだ。追放で済んだのは、リーナの両親が寛大な処置を願い出て、それが叶えられたからだ。その代わり、土地の何割かを国に没収され、没落への道を歩むことになる。しかも、だ。リーナは、追放されて、行方不明となったところで終わるのだ。

 まぁ、自業自得と言えばそれまでなのだが、リーナ好きの俺としては、何とも言えない結末だった。このゲームにはバッドエンドがないため、どのルートへ行っても、リーナは同じ目に遭うのだ。


 それにしても、何でこんな悪役が好きなんだと思うだろう?

 俺がリーナを好きなのは、ロリっ子だからとか、俺がMだからとか、そういう理由ではない。

 リーナの小さい頃の、苦労とか、悲しみとか、そういうのを全て見ていたら、いつの間にか好きになっていたんだ。いや、ちょっと違うのかな。この子にも、幸せになってほしいと思ったんだ。


 ゲームの中では、リーナの小さい頃の話も出てきて、悪役令嬢になった原因も描かれていた。

 今のリーナは、ゲーム通りなら十六歳の筈だ。だから、その出来事があったのは、約八年前のことになる。

 ゲームの中では、リーナが八歳の時、決定的な出来事が起きる。

 街にお忍びで遊びに来ていたリーナは、護衛を撒いて、お店を見て回る内に、迷子になってしまった。そして、その時、誘拐されそうになったんだ。そして、悪戯をされる。誘拐する前に楽しもうと思ったのかも知れない。不幸中の幸いというか、決定的なことが起こる前に護衛が駆け付け、助けられるのだけど、その時のことがリーナにとってトラウマとなってしまった。それまでは、心の優しい女の子だったんだ。平民にも、優しい笑顔が向けられる女の子だったんだ。だけど、この出来事から、リーナは変わる。変わってしまう。

 最初は、リーナもトラウマを克服しようとしていた。笑顔を浮かべて、心の傷を癒そうとしていた。だけど、周囲の心ない言葉が、それを邪魔する。なかったことまで噂にされ、リーナの耳に届く。そして、心に言葉の棘が刺さるたびに、リーナの心に闇が広がっていく。少しずつ、少しずつ……だが、確実に広がっていく。そして、数年も経った頃には、自分から幸せが逃げていくのを酷く恐れるようになった。自分には、これから先、新たな幸せなんて来ないと信じるようになっていたリーナは、自分の中に残っている数少ない幸せを、守りたいと思うようになっていた。


 そして――自分から幸せを奪う者を、憎むようになっていた。


 政治的な理由で第二王子と婚約をしており、それを継続していたリーナは、絶対にこの幸せだけは逃がしたくないと躍起になった。それこそ手段を選ばずに、婚約者の座を守ろうとした。

 

 そんな時に現れるのが――ソフィだ。

 

 ゲームの中のソフィは商家に生まれた女の子で、平凡な人生を歩んできたが、魔力の素養を見出されて十四歳の時にリーナたちと同じ学園に入学してくる。リーナたちの通っていた学園は、貴族たちと、何かの能力に秀でた平民が通っている学園だ。そしてソフィは、学園生活を送る内に攻略キャラたちと出会うことになる。

 そう……第二王子たちだ。

 ここで、悪役令嬢だったリーナが動く。

 少しずつ親しくなっていくソフィと王子たちを見たリーナは、何とか、ソフィを遠ざけようと画策する。嫌な思いをすれば、ソフィが学校を辞めるだろうと嫌がらせを始め、それがエスカレートし、最後は階段から突き落とそうとしてしまう。それが、破滅に続くとも知らずに……。

 結局、ゲームの中では、攻略キャラたちとの会話で一番ポイントの高かった人物とソフィが結ばれるのだが、それが第二王子でなくとも、ソフィをイジメた罪でリーナは追放されるんだ。


 もちろん、俺はイジメを認めるつもりはない。どんな理由があっても、イジメをするのは駄目だ。階段から突き落とそうとするなんて、言語道断の行ないであることも分かっている。されそうになっただけでも、トラウマになってしまうだろう。被害者の心は深く傷つく。だから、侯爵家という高い身分に身を置き、皆の見本になるはずのリーナが、その罪を問われて追放されるのは仕方のないことだとは思うんだ。処刑にならない分、他の乙女ゲームよりもマシだと言えるかも知れない。中には、悪役令嬢が処刑される作品もあるのだから。実際、ネットの感想欄では「リーナざまぁ(笑)」とか、「自業自得でウケる」という声もあった。そして何よりも、これはゲームの中の話だ。だから、そこまで真剣に考える方がおかしいのだろう……。


 だけど……俺は、思ってしまったんだ。もしもリーナが八歳の時、トラウマと……周囲の悪意ある声に苦しむリーナに、もう少し誰かが寄り添ってあげたら、リーナも幸せになれたんじゃないかって……。自分で護衛を撒いているのだから、自業自得と言われればそれまでかも知れない。だけど、一人でもリーナに寄り添っていれば……そう思った。


 ゲームの中の、リーナの最後……。

 涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにして、「なんでぇッ……?なんでぇぇッ……!?」と泣きじゃくるリーナが、今でも心に残っている。


 ……はぁ、ちょっと落ち着こう。

 ゲームの中のリーナを思い出し、何だか心が落ち込んでしまった。深呼吸をして、心を落ち着かせる。

 俺の目の前では、リーナが静かな寝息を立てていた。

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