第一話 悪役令嬢、拾いました
お初にお目にかかります。
少しでも、楽しんで頂けたら嬉しいです。
本日、何話か連続投稿する予定ですので、宜しくお願い致します。
(残りの数話は、正午に投稿する予定です)
……どうなっているんだ?
目の前の光景に、俺は呆然としてしまう。
俺の目の前には、一人の女の子が倒れていた。ここは、村近くの森の中、周囲には誰も居ない。
ここまで、一人で旅をしてきたのだろうか。旅人が着るような服は、ところどころが破れ、その顔も泥で汚れてしまっている。
普段の俺なら、すぐに抱えて医者のところに連れていくところだ。だけど、今回は違った。その女の子に見覚えがあったから、呆然としてしまったんだ。すぐに介抱してあげないと駄目なのは分かっているのに、身体が、心が、この現実を拒否している。
だって、この状況になっているということは――彼女が追放されたことを意味しているのだから……。
「……リーナ」
自然と口から、女の子の名前が零れる。リーナは、侯爵令嬢だった。いや、今の状況を考えると、もう貴族ではないのだろう。俺の中にある知識が、そう告げている。
「……ん」
「ッ!」
リーナの苦しそうな吐息が、俺を現実に引き戻す。
駄目だ!このままじゃ、どうしようもない。とにかく家に連れて行って、お医者さんを呼んでこよう。
直接、医者に連れて行くと、どうしても村の中を通らないといけない。彼女は、曲がりなりにも侯爵令嬢だった女の子だ。状況が分かるまで、なるべく人目に触れさせない方が良いだろう。トラブルが起きても困るしな。
俺はリーナを背負うと、自分の家に向かって歩き始めた。
よし、着いたぞ……ん、手紙が来ているな。
家に帰り、中に入ろうとした時、ポストに手紙が入っていることに気が付いた。その手紙を手に持ち、中に入る。そして――。
ごめんな……
――心の中で謝って、リーナの服を脱がせ、シャツに着替えさせる。不衛生なままだと良くないと思ったからだ。続いて、濡れたタオルで腕や足を拭いていく。
……よし、これで良いな。
大分、綺麗になったのを確認した俺は、すぐに医者の元へ向かった。服を脱がせている過程で、そんなに怪我をしていないのは分かったが、念のためだ。
この村には、診療所を開いている親子が居て、村の人たちはいつもお世話になっている。夕方になると、仕事を終えた村人たちが、怪我などを見てもらうために来ることが多いが、今の時間なら大丈夫だろう。
「――うん、これで大丈夫」
「……どうですか?」
「擦り傷のような怪我はあるけれど、それ以外は大丈夫だね。どうやら、疲労に加えて、お腹が減って倒れていたようだよ。ほら……」
促されて、リーナのお腹に顔を近づけてみると「くぅぅ……」という可愛らしいお腹の音が聞こえた。
「……良かった」
俺はホッとした。起きたら、何か食べさせてやろう。
「それじゃあ、僕はこれで……。何かあったらまた来てくれれば、見に来るよ」
「ありがとうございます、ヨシオさん」
「いやいや、それじゃあお大事に」
「はい」
微笑みを浮かべて去って行くヨシオさんに、お礼を言って部屋に戻る。
部屋のベッドの上では、リーナが眠っている。お腹は減っているだろうが、自然に起きるまで待つとするか。
近くの椅子をベッドの横に持っていき、そこに座る。
――この時の俺は、リーナとあんな関係になるなんて、夢にも思っていなかった……。