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一生嫌命  作者: 水綴
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誕生と回顧

※特定の誰かを貶すものではありません。

世界の残酷さを再考して下さい。

 その胎内に宿るは、望まれた命。暗闇の中、音とともに蠢き、殻を破るその刹那、初めて息を吸った。その経験も、久方ぶりの感覚。

幾度となく生と死に向き合った彼女は、これだけは慣れぬと笑みを零していたが。

さすがに俺は、慣れてしまった。繰り返すたび、愛してやまない彼らを精一杯愛する。そこにあるのは彼らへの情、ただそれのみ。本来ならば恨みと怒りに我を忘れても無理はないのだが。どこか、諦観しているのだろう。

ああ、与えられた体躯が酷く重くて、まるで鎧のよう。

だが、これもまた償い。

永遠の矯正者たる俺には、これくらいが丁度いい。

答えなど、見つけてしまったら今までのすべてが無に帰してしまう。

許しなど永遠に与えられない。それくらい、理解しているとも。

さあて、今度はいつ死ねるだろうか?


昔は、よかった。どれほど生きることに必死でも、人は互いのために協力し合って生きてきた。一部はもちろん違うだろうが。

今となっては、誰もが自分第一主義。他人を助けたところで、何にもならない。正義の味方は、誰かに押し付ければいい。そうして、ただでさえ残酷な世界は悲劇を生み続けることになった。

醜くて、歪んで。必ず誰かが不利益を被る。助けてやりたくても、個人の力など無力に等しい。指をくわえて、心の中で謝りながら、素通りしていくのだ。

考えるまでもなく、世は崩壊の道をたどっている。最期を迎えたその刹那、愛する彼らは何を思うだろう。


生贄は、村の豊作や降雨を願って捧げられた。大人たちは割り切っていて、どこの家の子どもが犠牲になろうと構わなかった。友人が贄となって、与えられた我が子の傷など顧みなかった。

矯正者の立場から言うならば、彼らがまともに自分と誰かを平等に扱えるようになるための通過点に過ぎないが。

『残された側は、いつだって辛いんだよ。』

いつかどこかの生で、家族だった人にそんなことを言われた気がする。

子どもらは心を痛めながらも、失うことにだんだん慣れていく。それでも、最初に深く抉られた傷が疼くことに気付いている。昔を回顧しながら、罪悪を抱えて赦しを乞いながら、彼らは環に還った。

まともな人間は、最期まで決して俺たちを忘れることなく、俺たちの思惑通りに命尽きた。

そんな贄となる子どもは、ほとんどが女。されど、男がいなかったわけじゃない。あんまり少子化になっちゃ、女を差し出すわけにもいかないだろ?

戦争然り、長子ではない子供があっけなく差し出された時代だった。



続く

少し長くなりそうです。

お付き合いください。

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