証拠
こんな理不尽な話があるだろうか。国の不祥事で死に至る病にかかったのにその補償はされずに、経済面でも家族は苦しめられる。私は怒りに震えた。この怒りをどこへぶつけるべきか。私の足は涼子さんの家に向かった。もちろん尾行には気を払って。
「次の配給対象は彩香の家にしてください!厚生省の役人の家からお金を盗むんです!」
「あなたの言いたいことは分かったわ。でもね、本当に彼女のお父さんの病気と血液製剤の因果関係が証明できるのかしら。いい?あなたの言ってることはただの感情論でしかないわ」
「因果関係の証明……」
「そう。彼女のお父さんがかかっている病気は血液製剤以外の理由でも感染することがあるのよ。何が原因か分からないケースまで相手にしていたらいくらお金があっても足りない。だから、国だって一部の患者にしか補償しないのよ」
「だけど、それはカルテが病院に破棄されたから……」
「その話もどこまで信用できるのかしらね。記憶違いかもしれないし、同情を引くための作り話かもしれない」
「ひどい……」
だけど、涼子さんの言うとおりだった。私の集めた情報は全て人伝に聞いたものでしかない。証拠能力がない。無力間を背に負い、私は涼子さんの家を後にした。
3日後、私は竜太郎に呼び出されたので放課後に学校の屋上へ向かった。心当たりはなかった。また、からかい半分に口説き文句でも言うつもりなのだろうか。
「面白いものを見せてやるよ」
竜太郎から手渡されたのは何かの書類のコピー。そこには病院名と彩香のお父さんの個人情報と診療情報があった。
「これって、もしかして……」
そう、カルテだった。私が喉から手が出るほど欲しかった病気と輸血との因果関係を証明するもの。
「水島のおばさんからあゆ姉が泣きついたって話を聞いてよ。面白そうだから、ちょいと病院へ侵入してみたんだ。人間ってやつは面白い生き物でさ。自分の立場を悪くするような記録でも密かに残したがる性分なんだ。処分したってのは真っ赤な嘘っぱちだったってわけだ」
「これを提出すれば、彩香の一家は助かる」
「ところがそういうわけにもいかないな。カルテをどこから入手したと聞かれたときには、今度は俺たちの立場が危うくなる。こればかりは裏の仕事で片付けるしかない」
竜太郎はカルテのコピーを木っ端微塵に千切って捨てた。
「さて、そこでだ。黒田のおっさんにこの件を相談したらおあつらえ向きの泥棒先を紹介してくれたぜ。旧厚生省OBの山本勘太郎、某製薬会社元社長の加藤清志、某医科大学名誉教授の柴田勝俊。どいつもこいつも薬害の責任者だが、刑事の責任からも民事の責任からもうまく逃れやがった。こいつらから金をぶん取って下条一家をはじめとする薬害の被害者たちに配って回ろうってわけよ。ゾクゾクしてきたね」