一期一会
私のクラスに一人の転校生がやってきた。名前は甲賀虎次郎といった。その名の猛々しさとは裏腹に背は私と同じくらいで、とても気の弱そうな顔をしていた。指は女の子のように繊細で、私には芸術家肌の持ち主のように見えた。だけど、それはただの第一印象でしかなかった。
「近いうちにお前らのしっぽをつかんで一網打尽にやるから覚悟しておけよ。ねずみ女め」
転校してきて最初の休み時間に彼はそう私の耳元で低い声でささやいた。そう、彼は私の正体に気づいていた。私が泥棒という裏の顔を持っていることを。そのとき、私の心臓の鼓動が一気に高まったが、辛うじて平静な顔を保った。
その日の昼休み。竜太郎に事情を話した。どうやら竜太郎は彼と面識があるようだった。
「甲賀の忍者?」
「そうだ。虎次郎は甲賀の忍者の生き残りだ。甲賀の忍者は俺みたいなハンパ者の伊賀忍者と違って主君への忠誠心が高いんだ。おおかた、公安あたりの偉いやつの命令で俺たちを捕まえに来たんだろうな。中学のとき同じ学校に通ってたけど、まさかここまで追ってくるとは思わなかった。あのしつこさじゃあ、女にモテないね」
「私はどう対処すればいいかしら」
「学校に居るときは普通に過ごしていればいいさ。やつも証拠をつかまないことには俺たちを警察に売れないだろう」
竜太郎の楽天的な性格に一抹の不安を覚えつつもその場は納得して引き下がった。
来る者あれば去る者もあり。私の友達の彩香が学校をやめると聞いた。家庭の事情だそうだ。将来は看護士を目指して短大入学の勉強していたと彼女から聞いていたのに、突然のことだった。詳しい話をさりげなく聞いて見たが、彼女が口を開くことはついになかった。