反射神経は大事だよね
「校長先生、俺を学校で雇ってください。」
翌日、俺は早速学校の校長に直談判した。普通ならアポもなしに校長には会えないしそもそも学校に入れないのだが、俺はこの学校に出入りしている業者に伝があったので、それを利用して学校に不法侵入し、校長室に立ち入って今に至るというわけだ。
「いいよ。」
ここで俺は秘密兵器を取り出した。封筒を懐から出して、目の前の校長に差し出した。
「つまらないものですが。」
こういう時って、つまらないものでなくともこう言うものだよね。
「金なら受けとらんよ。」
と言いつつも、封筒を開けて中身を拝見する校長。なかなかがめつい男だ。
「こ、これは!」
金だと思った?ブッブー!中に入っていたのは白いパンツでした!普通なら動揺してそれで終わりだろう。しかし、校長は違った。
「お、お前はいつから気づいていたのだ!」
明らかに狼狽える校長。この時点で負けである。常にクールでいなくちゃね。
「最初からですよ、校長。私は貴方のことを同志だと思っておりましてね、そもそも貴方が教師をなぜ志したのかも全て知っていますよ。」
どうせ女子生徒とイチャラブすることを目指していたんだろう。だが、イケメンじゃないアンタではその夢を現実にすることはできない。だから、あんなことをしているのでしょう?
「ぐ、わしを破滅させる気か?」
これまた随分と大袈裟である。老いぼれを破滅させたところで俺にメリットがない。
「いえいえ、これは善意からのプレゼントですよ。ところで、私を雇う件は前向きに考えていただけるでしょうか?」
「く、殺せ!」
おいおい、その台詞は女騎士の専売特許だ。秘密がバレたからと言って使うべきじゃない。
校長の秘密……それはこの学園の伝説の下着泥棒である「ファントム」の正体が彼であるということだ。
王族ですら正体を知らない学園七不思議の一つである。ファントムは学園内の隠し通路を全て把握しており、たった一人で捕まることなく何十年も下着を集めてきたプロである。俺は学生時代に犯人が校長であることを特定したが、いざというときのためにずっと黙ってきた。
ところで、俺がファントムの正体に気づけたのは俺が奴だったらこうするだろうなというプロファイリングをしたからである。そうすることで自ずと容疑者は絞られた。俺と大叔父は似ているから簡単に目星がついた。
「採用の件は前向きに検討していただけるでしょうか?」
「さっき、いいよって言ったじゃん。それよりも例の件はばらすなよ。」
そういえば言ってたな。いらないという意味だと思ってた。断られたと思って脅したのに無駄になってしまった。
ならパンツは返してもらおう。バレたらシレネに怒られるからね。
「あ」
悲しそうにする校長をよそに、俺は校長室を後にした。こうして俺は学校で雇われることになった。運が良かったのか、歴史の先生の枠が余っていたのでそこに放り込まれた。
どうやらこの学園は現在、修羅場というのが展開されているらしい。教師が少なくなっているのもそのせいで、俺が雇われることになったのも人材不足が主な原因らしい。
採用試験もなく、いきなり明日から授業をしろというのだからビックリポンである。
◇◇◇
翌日、俺はシレネのいる教室に入った。今日の授業をする教室で合っているはずなのだが、なぜか学年の違う第一王子や騎士団長の息子がシレネの近くの席に座り、教卓に背を向けてペラペラと話していた。目が節穴なのか、王子は彼女の目が死んでいることに気づいていない。
俺が教室に来た途端、パアとシレネが笑顔になり、頬が少し赤くなった。可愛い。
すると、それまでシレネを視姦していた第一王子が凄まじい早さで後ろを振り返った。俺も反射的に後ろを振り返った。すると、俺の後ろには豚のように丸々とした貴族のお坊ちゃんがいて、シレネに笑いかけられたと勘違いしているのか気持ち悪い笑いを浮かべている。
「おい。誰の許可があって俺のシレネを見てやがる。」
お前のじゃないよ。お前のじゃ。
「す、すいませんでした。」
豚のお坊ちゃんは顔を青くして即座に謝罪をした。やっぱ権力って凄いよね。王族って怖いね。俺の反射神経が少しでも悪かったら謝罪を要求されたのは俺であっただろう。我ながら俺の反射神経も捨てたものじゃないな。
「おはよう、皆さん。今日からこのクラスの歴史の授業を担当することになった。マーク・コリガザだ。よろしく頼むよ。」
「おい、お前。苗字がコリガザってことは俺のシレネの親戚なのか?」
シレネは私の嫁でーすとか愛人でーすとか第一王子に言って煽りたいのが本心だが、そこまでの勇気はない。
「ええ、私はシレネの父親です。」
「申し訳ございませんでした。大変失礼をいたしました。御父上様。」
すごい変わり身の早さだ。それまで横柄だった態度が鳴りを潜めて、いきなり随分と下手に出たものだ。ここでもし彼女の処女は俺が貰ったとか口にしたらどうなるのだろう。
冗談は置いておいて、彼には自分の教室に帰ってもらいたい。
「王子様、誠に申し訳ないのですが、ご自分の教室に帰ってもらってもよろしいでしょうか?このクラスは受講する生徒分しか席の数がないので、後ろの方に立ち聞きの生徒がいらっしゃるので、ご配慮していただけるとありがたいです。」
「ほう、貴様は何様のつもりだ?俺とシレネの時間を邪魔するつもりなら彼女の実の父親とて容赦はせぬぞ。」
ヤバい、王子が怒こっていらっしゃる。こういう時こそ反射神経だ。来い、反射神経。チラッ
俺は横で所在なさげに立っている少年に視線を送った。そして、シレネの方を見た。
「私はシレネの味方です、王子。お相手を選ぶのは彼女です。それだけを言いたかっただけにございます。」
自分で言うのもなんだが、随分と意味深な態度である。これではシレネと名前も知らないお坊ちゃんが好き合っているようではないか。まあ、そう思わせるのが狙いなんだけどね。
「ふん、俺以外の男が選ばれるなどありえんし、まさかそこのデブに俺様が負けるとでも思っているのか?」
王子、やはり誤解をしていますね。馬鹿め、戦う前からとっくにてめえは負けてるわ。
「そうは言っておりません。ただ、あまりにも上級生の貴方が下級生の教室に入り浸るとシレネの評判が下がってしまいますし、それが不本意なだけです。彼女が貴方に釣り合う女性になるまでの間どうか見守ってあげてください。」
とっとと部屋から出ていって欲しいなー。