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そのまま和葉は学園までフルスピードで突っ走り、裏手に回っていつもの茂みの中へとNSRを隠した。
膝に着けていたプロテクターも、頭に着けていたフルフェイス・ヘルメットも外してNSRと一緒に隠し、そして何気ない風を装って学園の正面へと回っていく。
「かーずはっ!」
そうして校門への道を歩き出した矢先、後ろからの声と共に和葉は思い切り誰かに背中へ抱きつかれ。驚きギョッとしながら振り返ると、しかし抱きついてきたのは何てことない、親友の朱音だった。
「なんだ……朱音か」
呑気に笑う朱音の顔を背中越しに見た途端、和葉ははぁ、と安堵と疲労の入り交じった溜息を漏らす。すると朱音はそんな和葉の疲れた横顔を見て「んー?」と訝しむみたいな顔になり、
「どったのさ、和葉。何かあったの?」
なんて具合に、朱音にしては珍しく割と真面目な声のトーンで訊いてくる。
しかし和葉は、それにただ「何でも無いわ」と素っ気なく返し、「それより、行きましょ?」なんて続けて言って、ぽかんとする朱音を置いて先へ先へと歩いて行ってしまう。
「あっ、ちょ、ちょっと待ってよ和葉ぁ!」
何秒かのタイムラグを置いた後に、ハッとし慌てて朱音が追いかけてくる。後ろから迫ってくる彼女のパタパタとした駆ける足音を聞きながら、和葉は再び小さな溜息をついた。
(流石に、朱音には言えないわよね)
そうすれば、次に和葉が浮かべるのは自嘲するような自虐的な笑みだ。
――――あんなこと、朱音に言えるワケがない。万が一の時に朱音を巻き込むワケには、いかないんだから。
そうだ、あんなことを朱音に相談するなんて出来ない。まず彼女が信じられないだろうということもそうだが、何より和葉は、もしあのハリー・ムラサメが言うことが本当だった時に、朱音を巻き込んでしまうことを酷く恐れていたのだ。
隣を歩く朱音は、和葉にとって数少ない――――いや、最早唯一と言ってもいい親友だった。小学校も高学年の頃からの付き合いで、それ以来は中学、高校と毎度毎度同じクラスで同じ刻を過ごしてきた。何処か人が近寄りがたい雰囲気を放ち、孤独で居ることが多かった和葉にとって、血縁こそ無いものの朱音は実の姉妹のような存在だった。
数年前、丁度中学の頃だっただろうか。母を交通事故で亡くした時だって、唯一慰めてくれたのが朱音だった。あの多感な時期に実の母を亡くした和葉を気遣い、自分のことのように一緒になって哀しんでくれた時の朱音のことは、今でも昨日のコトのように思い出せる。
そんな彼女を、姉妹に等しいような朱音のことを、今回のことに巻き込みたくなかった。自分にまつわることで彼女を巻き込み、あまつさえ傷付けてしまうことを、和葉はひどく恐れていた。彼女自身もその原因が分からないほどに、強く……。
だから、和葉は未だ胸の内でぐるぐると渦巻く不安を吐き出すことが出来ないでいた。出来ることなら朱音に話して肩の荷を下ろしたいところだが、それは出来ない。それをしてしまえば朱音に要らぬ負担を掛けることになるし、何より回り回って彼女を巻き込みかねなくなる。
(…………杞憂、だよね)
そうであることを、和葉は祈るしかない。今朝の一件がただの勘違いで、自分の早とちりで終わってくれることを、ただ祈るしかなかった。
(流石に明日からは、あのハリー・ムラサメとかいうアイツの言うこと、聞いておいた方が良いのかな……?)
悩みながら、和葉は朱音と横並びになって学園の校門を潜る。
「…………」
――――しかし、和葉は気付いていなかった。遠く離れた所から自分の背中をじっと眺める不審な影があることに。確かに背中を見られていることに、彼女は気付かないままだった。




