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フローラ・ガルシア その①

 窓を開けて、朝の爽やかな空気を感じていると。


「ふぁぁぁー。良介おはようー」


 両手を組んだ手をグッと伸ばしながら、アリスは何とものんきな声で挨拶をした。


「あぁ、おはよう。」

「あれ? 良介、あんまり寝むれなかったの?」


 アリスは俺の目の下のクマでも見つけたのか、不思議そうに尋ねてきた。


「あぁ、きっと昨日の俺の勇姿を見たら、全米が泣いていただろうな」

「何それ? 意味がわからない」


 まぁ、わかられても困るのだが。


「それより朝食を食べましょう」


 しっかり睡眠をとり元気一杯のアリスは、鼻歌を歌いながら階段を軽やかに降りていった。



 軽く朝食を済ました俺たちは、連泊する旨をおじさんに伝え、外に出た。


「アリス、今日はどうするんだ?」

「そうねぇ。とりあえずギルド商会に行ってクエストでも受けてみる?」

「それで構わないけど、その前に寄りたいところがあるんだけど?」

「いいけど、どこ行くの?」


 俺は昨日から考えていることを実行に移すべく行動を開始した。歩く道すがら、昨日も感じたことだが、俺が住んでいた日本とは違い空気が澄んでいる。空気が美味いと感じたのは初めてだ。

 そんなことを考えながら歩いていると、あっという間に目的地に到着した。


「ここ、魔本屋じゃない」


 そう、昨日のスライム戦では運よく傷を負わなかった。だが、魔物との戦闘行為が日常業務となりつつ現在、回復魔法は早めに入手する必要がある。まぁ、せっかく異世界にやってきたのだから、魔法を使いたいとの気持ちも多分にあるが。

 そんなことを思いつつ、扉を開けると。


「いらっしゃいませ!」


 元気な女の子の店員さんが俺たちを迎えてくれた。

 フム。

 大分イメージと違うな。

 所狭しに雑多に積まれた本。

 どこからとも立ち上るあやしい煙。

 ヒヒっと笑いながら黒いローブに身を包み、片手に杖をついているおばあさん。

 そんなイメージをしていたのだが……実際はそんなこともなく、大きな本棚に綺麗に魔本が並んでいる。しかも、ご丁寧にジャンルごとに区分けまでされていた。


「なになに? 攻撃魔法でも使いたいの? 全く男はあれねぇー。いつまでたっても子供というか。どうせ『ちっ! 俺のライトニングを受けてみよっ!』何てセリフでも言ってみたいんでしょう?」


 ニヤニヤしながら俺を見るアリスが鬱陶うっとうしい。確かにそんな気持ちもないわけではないが、アリスに見透かされているのが腹に立つ。


「昨日のスライム戦では運よく傷を負わなかった。しかし、これから本格的に魔物を刈ることを考えると、どうしたって手傷を負ってしまうだろう。痛いのは嫌だが。そうなると回復魔法は必須だろうと思ったから見に来たんだよ」

「ふーん。良介も足りない頭の割にはよく考えているのね」


 アリスは感心した顔で俺を見つめている。こいつ、俺の事をアホだと思っているのか?


「だから、お前は一言多いんだよ!」

「でも回復魔法は高いわよ?」

「あぁ、俺も安い物だとは思っていない。だから今日は下見だ」


 言いながら、回復魔法コーナーにある初級魔法書を手に取る。価格を確認すると十五万ルピス……。


「たかっ!」

「だから高いって教えたじゃない」

「いや、でもこんなに高いとは……」


 予想を上回る価格に俺はビビる。しかも、この本は初級回復魔法だ。まぁ、とりあえず当初の目的は完了したので店を出るか。

 店を出ると、アリスが魔本について解説してくれた。


「この世界はね、魔本を買えば誰でも魔法を使うことができる。でも、さっき見た通り魔本は総じて値段が高いの。おいそれと普通の人が気軽に買えるものでもないのよ。それにレベルを上げないと魔力も増えない。高いお金を払って魔本を買ってもレベルに見合ってないと魔法の発動はしない。必然的に主な購入者は冒険者ってことになるわね」

「なるほど……そうなると回復魔法が使える仲間を探したほうが早いのか?」

「何でそうなるのよ!」


 アリスはなぜかキレて俺に掴みかかってきた。


「へっ? お前何でキレてるの?」

「私がいるじゃない! こう見えて私は守備特化型の天使。攻撃魔法は苦手なんだけど、あらゆる防御、回復、補助魔法を使いこなすマルチな天使よ。一体全体何が不満だと言うのよ!」


 肩を怒らせながらまくし立てるアリスに、何事があったのかと通行人たちが興味深く見ている。


「いや、お前最高神に戦闘介入行為は禁止されているんだろ?」

「……まぁ、そうね……そういう設定だったわよね」

「設定?」

「こ、こっちの話よ」


 なぜかしどろもどろになるアリス。そういえば……結果的にキラースライムを倒したあの結界は戦闘介入行為にならないのだろうか? 俺が疑問を感じていると。


「ええと……回復魔法が使える仲間だったわね。それなら、ギルド商会に行けばパーティー募集の掲示板があるはずよ。クエストの内容を確認するついでに見ればいいじゃない」

「ふーん。なら、とりあえず当初の目的通りギルドに行きますか」


 疑問は残る。が、アリスに根掘り葉掘り聞いて、かえって絡まれるのも面倒臭い。ここはスルーしよう。



 アリスのおかげで道に迷うことなくギルド商会に到着した。扉を開けると何組かの冒険者が一瞬、こちらをチラッと見たが、特に気にするでもなく再び談笑している。中央奥のカウンターを見ると、冒険者カードの色ごとに専門のカウンターが設けられ、専属のスタッフがそれぞれ座っている。

 今は暇なのかカウンターに冒険者の姿はなく、スタッフ同士楽しそうにおしゃべりしていた。


「良介こっちよ」


 アリスに呼ばれ向かった先は銅色専門のクエスト掲示板。見ると、左から順に銅、銀、金、プラチナと掲示板が並んでいた。


「ふーん。カードの色で受けられるクエストは決まるのか」

「依頼主から直接クエストの申し入れがあった場合は別だけど、ギルドも商売だから依頼主に対して、いい加減な冒険者を派遣できないでしょう? だからランクごとで冒険者をある程度区別し、冒険者が受ける依頼を精査し、情報を与え、送り出すの。そして、無事依頼が達成されたら、ギルドは報酬の3割を徴収するという仕組みよ」


 さすがツアコン。事情に明るいな。そう思いながら掲示板に貼られたクエスト依頼書を見てみる。魔物の討伐クエストは勿論あるが、そのほかにもアイテム探し、ダンジョン探索、護衛任務等々、依頼内容は多岐に渡っている。

 今現在のレベルは4。それに見合った依頼を探していると。


「お! 一件だけ見つけた……散歩途中にはぐれてしまった迷子の犬を探してほしい。冒険者のレベルは問わない。報酬十五ルピス。推奨レベル1……」

「プフッ! 今の良介にピッタリのクエストじゃない。面白そうだから受けなさいよ。」


 アリスは腹を抱えて笑っている。何が楽しくて異世界まできて迷子の犬を探さねばならんのだ。俺はアリスの言葉を無視し、反対側に設置してあるパーティー募集掲示板に向かった。


「ちょっと! 私を無視するなんて百万年早いわよ!」


 さらに無視して歩を進める。


「ちょっと良介! ……良介さん? ……ゴ、ゴメンね」


 意外にチョロイな。


 パーティー掲示板を見ると、クエスト掲示板同様に色分けされている。掲示板横の説明書きによると、色分けされているのは単純に見やすいようにとの配慮みたいだ。冒険者同志の合意があればレベル40の冒険者が、レベル1の冒険者と組んでもなんら問題はないらしい。

 しかし、時期が悪いのか募集件数は数えるほどしかない。一応、全部の募集内容をチェックしたが、初級回復魔法を持っている冒険者の募集は一件。求めている冒険者のレベルは8以上。近接攻撃主体で、遠距離攻撃用の魔法を持っているものに限るとのこと。


「うーん。そうそう上手くは見つからないか」


 そりゃそうだな。回復魔法はパーティーの命綱。そう安売りはしないだろう。


「良介さん、気を落とさないで。きっと見つかりますよ」


 アリスは先程の無視攻撃が効いたのか、妙に優しく接してくる。


「仕様がない。とりあえず魔物刈りに行くか!」

「そうしましょう!」


 ホッとしたのか、アリスはニコニコしながら出口へと向かう。俺も出口に向かおうとしたそのとき、掲示板の隅に貼ってある小さな紙切れを見つけた。おいおい、こんな場所に募集用紙を貼っても誰も気づいてくれないぞ。そう思いながら内容を見てみる。



 私は初級回復魔法所持者です。

 レベルは1です。

 求める人は怖くない人です。

 よろしくお願いします。



「……何なの、この求めている条件?」


 いつの間にか戻って来たアリスが、横から紙切れを覗き込む。


「……変ねぇ」

「どこが変なんだ?」

「えっとね。人の魔力は個人差があるの。だから、レベル4でライトニングを使える人もいれば、レベル7になって、やっと使えるようになれる人もいるってこと。初級魔法のヒールはどんなに魔力が高くてもレベル5から。一般的にはレベル7~8くらいかしら」


 その理屈だと、レベル1でヒールは使えるはずがない。


「確かに……何か胡散臭いな」

「どうする?」

「まぁ、とりあえず話だけでも聞いてみるか」


 受付のお姉さんに事情を説明すると。


「あぁ、あの子ね」


 部屋の隅にあるテーブルに、ぽつんと座っている女の子を指さす。受付のお姉さんに礼を言い、女の子の元に向かった。


「すみません」

「は、はい!」


 突然話しかけられてビックリしたのか、椅子から転げ落ちそうになっている。

 うーん。

 髪は腰まで届く漆黒のロングストレート。長くしっとりとしたまつ毛に、少し垂れた目。服装もリトルブラックドレス風の上品なものだ。どこからどう見ても、お嬢様風の美少女なのだが……この子が冒険者? やはり、胡散臭いものを感じるが、とりあえず話を進めよう。


「パーティー募集の張り紙を見たんだけど」

「あ、そうでしたか。あ、ありがとうございます」


 そう言いながら、空いている椅子を進めてくれた。


「えーと、初めまして。俺は鏑木良介、二十歳です」

「私はアリスよ」

「わ、私は、フローラ・ガルシアです。十八歳です。好きな食べ物はデーモンウルフステーキです」

「お、おう」


 何なの? その怖そうな食べ物。


「えーと、フローラさん。早速、聞きたいことがあるんだけどいいかな?」

「は、はい」

「デーモンウルフって何?」

「良介、そこ!?」


 アリスが目を丸くして驚いている。


「いやいやいや、気になるだろ? デーモンウルフだよ」

「フフッ」


 そんな俺たちの会話が楽しかったのか、フローラは微かに笑った。


「えっとですね。デーモンウルフは深い森に住む獣なんです。体長は約二メートル程。全身漆黒の毛に覆われていて、巨大な赤い一つ目、頭部に二本の角を生やしています。普段は周辺にいる他の獣を食べますが、たまに森に入ってきた人間や魔物を食い殺すそうです」


 やだ、ほんとに怖い。


「良介、本題!」

「わかったよ」

「……フローラさんは今、レベル1だよね?」

「はい。そうです」

「魔物狩りの経験は?」

「一度もありません」

「初級回復魔法は使えるの?」

「はい! ヒールが使えます!」


 この子、レベルが1なのにヒールが使えると言い切ったな……。


「……ええと、隣にいるアリスに聞いたのだが、ヒールを使うにはどんなに魔力が高くともレベル5は必要とのことなんだけど……」

「……あっ!?」


 俺の質問の意図がわかったのか、フローラは難しそうな顔をしながら答えてくれた。


「えっとですね。説明が難しいのですが……能力といいますか。私は生まれたときには、既にヒールの魔法を習得済みだったんです」


 俺は全く意味がわからず、ぽかーんとしていると。


「あなた、もしかして超越者?」

「あ! そうです。よくご存知ですね」


「えっ? 超越者って?」

「えっとね。この世界はごく稀に神の力の一部を宿した人間が生まれることがあるの。おそらくこの子は癒しの加護を持っているのね。だから、レベル1でもヒールが使える。おそらくレベルが上がればヒールの能力も増すはずよ。それに魔力も常人とは比べものにならないほど莫大な魔力を持っているわ」

「ほえー」


 俺が驚きつつも感心した顔でフローラを見ていると、フローラは顔を真っ赤にして恥ずかしそうに下を向いてしまった。


「でもフローラさんはどうして冒険者に? 正直あまり似合わないと思うけど」

「そうですね。私も向いているとは思いませんが……ガルシア家の家系は代々超越者が生まれやすい家系らしいのです。それでも昔に比べれば生まれる確率は大分低くなったのですが。そして、超越者に生まれた子は十八歳の誕生日を迎えると冒険者として己を鍛え、この世界に貢献するべしとの家訓がありまして……」


 何だ? そのアバウトな家訓……。


「まぁ、話は大体わかったよ。フローラさんも大変なんだな」

「えぇ……」


 肩を落とし、力なくフローラは答えた。


「それでどうだろう? 俺たちの仲間になってくれないかな?」

「……私でよければ」

「へっ? 仲間になってくれるの?」

「はい」


 どうしよう。あっさり仲間になってくれた。それはそれで不安を感じるのだが。

 俺が動揺していると、フローラは何か問題があるのかと小首を傾げながら俺を見つめていた。


「いや、仲間になってくれて嬉しいけど回復魔法の使い手は人気があるから、俺たちのほかにも誘いがあったんじゃないかなと……」

「はい。おっしゃる通り、何組かの冒険者が是非仲間にとお誘いはございましたけれども、その……皆さん雰囲気が怖くて……その点、良介さんは怖くないので」


 あぁ、そう言えば募集用紙にそんなことが書いてあったな。しかし、冒険者になる者がそんなことで大丈夫なのだろうか?


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