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初めてのスライム狩り

 ルシカの町から一キロメートル程離れた平原。俺たちは宿代を稼ぐため、早速狩りの準備を始める。まぁ、アリスは見学しているだけだが。

 周囲を見渡すと……。


「一匹、二匹……三匹……四匹……確認できるのはこれくらいだな」


 スライムをしばらく観察していたが、特に何をするとのこともなく、ブヨブヨと上下に揺れている。体長はおよそ一メートル程だろうか?


「アリス、ツアコンだろ? スライムの特徴はわからないのか?」


 特に期待していないのだが、念のため聞いて見ると。


「ウフッ、そうきましたか。ええ、ありますとも。このスーパーアイテムが!」


 高らかに宣言すると、アリスは空中に手をかざし、大きな一冊の書物を具現化させた。


「……それ何?」


 何となく予想はついたが、あえて正解は伏せておこう。


「これはですね、何と魔物をこの本に備え付けのカメラで撮ると、ステータス情報が本に写し出される。超便利なモンスター図鑑なのです!」


 どうやら正解らしい。アリスは褒めて欲しそうに俺を見るが、無論、その気はない。


「なぁ、アリス」

「なになに?」

「それ、割と色んなゲームで見るアイテムだよな」

「……スライムの特徴は攻撃対象物を見つけると、バウンドしながら体当たり攻撃をしてくる。相手が動けなくなると体をアメーバ―状に伸ばし、対象を包み込みながらドロドロに溶かし食す。だそうよ。じゃあ、頑張って」


 プイッと後ろ向くと、アリスは早足で俺の元から離れてしまった。何それ、スライム超怖い。正直完全に舐めていた。なぜならゲームでは王道の雑魚キャラだから。しかし、ここは異世界とはいえ現実なのだ。

 俺は初の戦闘にビビリながらも、一匹のスライムにおそるおそる近づいていく。スライムとの距離まで残り約六メートル。すると、スライムもこちらに気づきバウンドしながら向かってきた。


 あれっ? 思ったほど動きが早くない。これなら倒せると思った俺は、わざとスライムをギリギリまで近づかせる。体当たり攻撃を仕掛けられた瞬間、サッと体を横にずらし攻撃を避けながら、スライムの背後に回り込んだ。俺を一瞬見失ったスライムに、素早く剣を突き立てる。スライムがドロドロに溶けた後、十ルピス銅貨一枚が出てきた。


「何だ、スライム狩り楽勝じゃないか」


 確かに集団で襲われると、今のレベルでは殺されてしまうだろう。だが、一対一で戦えば恐ろしい相手ではない。俺は中学・高校で鍛えたバスケのフットワークを活かし、残り三体のスライムも問題なく仕留めることができた。


「アリス、四匹倒したぞ。四十ルピス稼いだ。今日の宿代はいくら稼げばいいんだ?」

「……後十ルピスあれば、おそらく晩御飯も含めて足りるわ」


 アリスは冷たく言い放つと、地面に生えている雑草を怒りにまかせてブチブチと抜いている。まだモンスター図鑑を褒めなかったことを怒っているのか? ストレスを貯めると体によくないぞ。

 もはや楽勝モードになっている俺は、鼻歌を歌いながら周りを見てみる。すると、右前方五メートル程離れた場所にいるスライムを発見した。


「うん?」


 あのスライム随分小さいな。今までのスライムが一メートル程の大きさに対し、目の前にいるスライムは五十センチ程だ。あれはスライムの子供なのか? どう対処するべきか考えていると、突然スライムが話しかけてきた。


「お兄さん」

「えっ?」

「今までの戦いを見ていたけれど、お兄さん強くてかっこいいね!」

「………」


 こいつが武器屋のおっちゃんが言っていたしゃべるスライムか?


「あのね、お兄さん」

「……どうした?」

「私を仲間にしてくれませんか?」

「……何で仲間になりたいのかな?」


 奇襲に警戒しつつ、尋ねて見ると。


「見ての通り、私の体は普通のスライムより体が小さいでしょう? だから、同じスライムに仲間はずれにされていつも一人ぼっちなんだ……」


 話し方からすると、このスライムは雌なのか? よくわからんな。


「今まで色々な冒険者を見てきたけれど、お兄さんほどのイケメンは見たことがないです。是非、仲間にしてくれると私も鼻が高くて嬉しいな。あ! 鼻はないんだけどね」


 ほう。このスライム、見事な審美眼を持っていると思われる。ギャグのセンスはいま三だが。


「でも後ろにいるあの怖い顔したお姉さんは、これっぽっちも俺の事をイケメンだとは思ってないぞ?」

「えっ、そうなの? あのお姉さん見る目がないんだね。それにお兄さんには他の冒険者には感じられない……何と言うか、内なる輝きみたいのが感じられるんだよね。私が魔物だからそう感じるのかもしれないけど……後ろのお姉さんはきっとわからないんだよ」


 あれっ? このスライム……仲間としてかなり期待できるのではないか?


「なぁスライムよ。正直、俺たちの旅路は過酷だ。もしかすると旅の途中で力尽き、倒れてしまうかも知れない……それでも、お前は付いて来てくれるか?」

「まかせてください! 私は回復魔法も使えます。わたしが盾となりお兄さんを守り抜きます」


 完璧だ。こんな素晴らしいスライムは見たことがない。別にモンスターを仲間にしてはダメということもないだろう。しかも、このスライムは俺を的確に理解している。そして、回復魔法のおまけつきだ。早速町に連れ帰って名前をつけてあげよう。


 新たな仲間を紹介すべくアリスを見ると、なぜか真っ青な顔でスライムを指さしながら、こっちに戻ってこいと手招きしている。何を慌てているのだと思い振り返ると、三メートル程に広がったスライムの体が、今まさに俺を飲み込もうとしていた。


「うわああああああああああっ!!!!」


 あまりの恐ろしさに腰が抜けそうになった。足がもつれそうになりながらも必死でアリスの元に逃げる俺に、通常より三倍もの早さでバウンドしながら追ってくるスライム。アリスは素早く両手を頭上に広げ、呪文を詠唱している。そして、アリスの元まで残り二メートルに到達した瞬間、呪文が発動した。


「プロテクション・フィールド!」


 アリスが叫ぶと、ドーム状の結界がアリスと俺を包み込む。勢いを殺せなかったスライムはそのまま結界にぶつかると、『グシャッ』と嫌な音を立てて消滅していった。俺はアリスの腕にしがみつき、ガタガタ震えながらその様子を見つめていると、五枚の百ルピス金貨が地面に転がり落ちた。


「はぁー」


 アリスの手を握りながらトボトボと町に帰る途中、この日何度目かの溜息を聞く。呆れてはいるようだが、嫌な顔もせず手を握っていてくれるのが今はありがたい。


「良介さん」

「………」

「あなた、おバカなの?」

「ウッ」


 先程、アリスに問い詰められた俺はスライムとの会話をしぶしぶ報告した。


「まぁ、良介があのスライムとのんきにおしゃべりしている最中に、写真を撮って図鑑に収めたから見てみなさい」


 アリスから図鑑を受け取りページをめくると。



 名前:キラースライム

 推定討伐レベル:10

 主な特徴:高い知能を持ち、人語を解す。

      捕獲者を見つけると甘い言葉でたくみに相手を誘惑し、油断したところ

      を一瞬で襲う。

      また仲間を使い、相手の力量を調べる等の狡猾さも併せ持つ。

      回復魔法も使えるため、かなり倒しづらい魔物である。

      レベルが低いうちは逃げるのが得策だろう。



「……いや、スライムでこんな知能の高いのは反則だろう?」

「確かに異世界に来て初めての魔物討伐。そしていきなりレベル10の魔物との戦闘。これは仕方がないことかも知れない……だけどね」

「……何だよ?」

「良介は武器屋の店主から、しゃべるスライムに注意しろと言われていたわよね。」

「うっ」


 確かに最初は警戒していた。


「にもかかわらず、この有様」


 ジッと俺を見つめるアリス。


「もう一度言うわよ」

「………」

「あなた、おバカなの?」


 アリスは満面の笑みで俺を見た。


「……スライム狩りが楽勝なのが嬉しくて、つい調子に乗りました。申し訳ございません!」


 俺はビジネスマナー研修で会得した最敬礼(角度四十五度)を持って謝罪した。


「ウフッ、よろしい」


 くそっ、完全な失態だ! アリスに頭を下げる日が来るなんて。いつか必ず報復してやる。そんなことを思っていると。


「でも……無事で良かったね!」


 見ると、美しい夕日を背に受けながら、さらに美しく微笑ほほえむアリスの姿がそこにいた。


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