プロローグB ここってダンジョン? ~りほ・みやび~ ☆
「わけわからへん」
りほは立ち尽くしていた。
「わけがわかりまへんわ」
反応がないので再び同じ台詞を口にする。
「どーなってんのかなー?」
傍らに立つみやびは呑気そうにあたりを見渡している。
ここはファンタジー風異世界の街並み……ではない。
5mほどの狭い通路の途中のようである。石造りの壁には松明が掲げられ、視界はなんとか確保できている。
「オバケとかでそうー」
「やめて! そんなんゆうたらほんまに……」
言いかけてりほは背後に気配を感じて振り返る。
「ス、スライム?」
ゲームに疎いりほ達でも知っている。いや、あまり詳しくは無かったが、新しく始めるスマホ用RPGの紹介ページに載っていたので覚えている。
少なくともオバケではないが、この場合オバケとモンスターのどちらと出会うのが幸運なことかはよくわからない。
「どうするー?」
「と、とにかく今は状況がわからへんから……逃げる! 走るで! みや!」
「あっ! 待ってー!!」
スライムに背を向けて、二人は一目散に逃げ出した。
「階段だねー」
「階段やな」
なりふり構わずに走りまわった結果、りほとみやびは下へと続く階段に出くわした。
二人とも息が上がっている。
周囲の気配を探るも、特になにも感じない。一歩間違えると勢いで階段を下るところであったが二人の体力的な問題がそれを踏みとどまらせた。
「あかん。もう走られへん。ちょっと休憩しよ」
「みやも疲れたー」
そこでようやくお互いの恰好を、そして自分の恰好を確かめた。
みやびはローブ姿である。外からは見えないが何気にローブの下はビキニの水着というよくわからないスタイルだ。なにより特筆すべきはその頭に生えている猫耳だろう。
「みやび! 耳生えてる!」
「元からあるよー」
「そうやなくて猫耳!」
「ほんとー? そういえばゲームのキャラ設定で人魚と猫獣人とで迷ってたからー」
「ゲーム!? そうか、ゲームの世界……」
りほが何かに気付いたように頷く。
「考えにくいけど、考えられへんけど、うちらゲームの世界に入ってもうた?」
「あー、アニメとかでよくあるー」
「うちらはアニメキャラちゃうけどな」
「アニメだったらステータスウインドウとかーアイテムボックスとか……。ステータスオープン?」
みやびが念じると……。
「りほりん。ステータス見れたよー」
「ほんま?」
「アイテムボックスもあるー」
「やるやん! みゃんみゃん!」
そして二人は状況を確認すべくいろいろと試行錯誤を繰り返す。
「アイテムは回復薬が3つずつやな。あと携帯食料」
「そうねー」
「で、うちの種族は……ドワーフって! そんなん設定した覚えないのに! 妖精希望!」
りほのリアルで背が低いという個性が反映されてしまったのだろうか。
「みやは人魚みたいー」
「どこがやねん!」
りほのツッコミはもっともである。みやびには足も生えていれば、ヒレはなく。代わりにネコ耳が生えている。
人魚らしいといえばローブの下に着ているビキニぐらいのものだろう。
「ほんで、うちの装備は革の鎧に革の帽子。そんで木の槌やな」
「みやはねー、布の服で、武器は無いみたい」
「装備しょぼ!」
「でも魔法が使えるみたいー」
「ほんま! すごいやん!」
「回復魔法ー」
「戦われへん奴!」
「職業は治癒術士なのー」
「回復系か……、うちは……吟遊詩人? なんで?」
「りほりん歌うまいもんねー」
「まあ、ドワーフやから攻撃力はそこそこあるとして。ここが『はじまりの洞窟』ってわかっただけでも儲けものやわ」
「どうしてー?」
「洞窟ってことは下に行けば行くほど敵が強くなったりするし、下の方にはボスとかおるかもしれんけど、上に上がったら出口があるはず!」
「戻るー?」
「そやな。やけど……、さっきのスライムがまた出てくるかも……」
「りほりん、倒せそうー?」
「そんなんわかるわけないやん?」
「でも出てきたらどうするー?」
「また逃げるしかないな」
「足疲れたー」
「そんなんゆうても。それにさち達もおるかも知らんし。とにかく出口を探さな……」
普段からリーダー格のりほがみやびをリードして話を進める。
他の3人も確かに同じ世界に来ているのだが、スタート地点に天と地ほどの差があるということは露知らず。
りほとみやびのダンジョン探索が始まった。
◆ ◇ ◆
おまけ4コマ
(4コマ制作 桂麻様)