プロローグA ここって異世界? ~さち・ちえり・はる~ ☆
あらすじにも書きましたが、1話、2話は小説っぽいですが、3話からはそうじゃなくなる予定です。
さちはキョロキョロと周りを見渡した。
馬が馬車を引いて走り、その道路は石畳。
行きかう人々は質素で地味な服を着ており、道の端には露店、屋台のようなものが並んでいる。
「最近のゲームは凄いね」
さちは振り返り、そこに居るはずの4人に声をかけた。
「これってゲームなの? ありえなくない? なにかがおかしいわ」
「頭が混乱してきたでごじゃるよ……」
答えたのはちえりとはる。さちの一番仲良くしている親友たちだ。
「あれ? みゃんみゃんとりほりんは?」
「近くには居ないみたいだわ」
「状況が理解できないでごじゃるよ……」
なんとなく呑気なさちとちえりとは異なり、はるは頭を抱えている。
さちたちがどうしてこんなところに来てしまったのか?
その理由は誰も知らない。
新しいスマホのファンタジーRPGアプリがリリースされたという情報を聞いて、5人でダウンロード。からの、キャラクターメイキング、からの一斉にゲームスタート。
やったことと言えば、それくらいなのである。
「最近のゲームは凄い」とさちは言った。
だが、最近のゲームにはもちろんバーチャルリアリティ―的な機能は搭載されていない。というかそんな技術は未だに開発されていない。
「ちえり殿、拙者のほっぺたをつねるでごじゃる」
「なんで?」
「これは夢なのでごじゃる」
「ああ、そういうことね」
未だ辺りをキョロキョロとしているさちを放置して二人で会話を進める。
ちえりがはるのほっぺたをつねる。
「い、痛いでごじゃる!」
「ということは夢じゃないんだわ!」
「え? どういうこと?」
「だってさち殿。おかしいでごじゃるよ。スマホのアプリでこんな世界に飛ばされるなんて。おかしいと思わないでごじゃるか?」
「そうなんだ。さちはあんまりゲームやらないから」
「そういう問題じゃないでしょ!?」
「それでこれからどうしよう?」
さちの問いに、
「みゃんみゃんとりほりんはどこかなあ?」
「二人もその辺に居るかもしれないでごじゃるな」
「探しましょう! あの二人も困ってるはずだわ」
そんなわけで3人は聞き込みを開始する。
その辺の屋台の店主とかは気のいい人が多く、また3人ともまだ若い少女ということで気軽に応じてくれた。
中世ヨーロッパ風世界観だというのに言葉は通じる。売っている品物に見たことがないような野菜や果物が混じっていたり、値札が数字以外は読めないという問題はあったものの。
が、それは徒労に終わった。
手掛かりなしである。普通は見覚えのない世界に放り込まれたトリッパーなどは黒髪黒目で格好も家で来ていた服だったりして、街ゆく人々から好奇の目で見られたりなんかするものであるが、さち達の恰好は世界に馴染んでいるのである。
さちは、少しくすんだ金髪のツインテールで恰好は剣士。種族的にはエルフになっており、耳が長い。
ちえりはゴスロリちっくな衣装をまとい、黒髪のロングヘアーではあるが頭に角が生えている。それはすなわち魔族の証し。
はるは、黒装束ならぬ青装束に身を包んだ忍者。髪は頭巾に隠れて見えない。他の二人よりも明らかに背が高いのは機械人間という種族のせいだろう。
逆に現代日本に突如現れたら、目立ちすぎる格好である。あるいはコスプレイベントの開催を疑う。
だが、3人の周囲には、プレートアーマーを着込んだ騎士だの、とかげ人間みたいなのだの、子供の背丈ぐらいで人語を話す2足歩行の猫や犬など、さち達の個性が埋没するほどの個性集団が数多く行きかっていた。
エルフだの、魔人だの、マシンナーなどはその中に埋もれてしまっている。
「みゃんみゃんとりほりんはどんな格好してるんだろ?」
「ゲーム始めてからいっせーのーせで見せ合おうって話してたからちゃんと聞いてないわ」
「みゃんみゃんは人魚とか猫耳とかぶつぶつ呟いてたでごじゃるよ」
「じゃあ人魚と猫耳を探そうよ!」
「人魚はともかく猫耳はその辺にうじゃうじゃいるでごじゃるな」
「っていうか、それって先に決めておけば2度手間にならなかったんじゃないかしら?」
結果として2度目の聞き込みでもなんの手掛かりを得ることもできなかった。
「人魚って陸に上がると個性がなくなっちゃうのでごじゃるな」
「みゃんみゃんのことだから髪の毛は緑にしてるんだろうけど……」
「緑の髪なんていっぱいいるわよ」
「そういえば、なんでおはるはずっとごじゃるごじゃるって喋ってるの?」
「ロールプレイングだからでごじゃるよ」
「ロール……?」
ちえりが頭を捻る。横文字には本当に弱い。
「役割を演じることでごじゃるよ。はるは忍者でごじゃるから、キャラの個性を活かすために語尾を変えているのでごじゃる」
「ござる……じゃない?」
「そう言ってるでごじゃるよ」
「ご・ざ・る」
「ご・じゃ・る」
「おはるの滑舌が悪いのはゲームの中でも一緒みたいね」
「そもそも……ここってゲームなのかしら……?」
とにかく前途多難な3人であった。
残る2人に比べると幾分どころか、ずいぶんましな状況ではあったが。
◆ ◇ ◆
おまけ4コマ
(4コマ制作 梅川和実様)