他の子のレスキュー
スノーボードカーが止まる。
「この家よ。一緒に来る?」
「うん」
外へ出る。すぐに足をとられて雪の中へころんだ。でも全然いたくない。ほんとうにおもしろい、雪って。つめたいけどたのしめる。
メラニーが首からかけている鍵で、その家のドアをあけた。ふ~ん、それがマスターキーか。
「冬眠レンジャーです。失礼します」
ぼくも一緒に家のなかへはいった。しかし、そこには誰もいなかった。メラニーは台所からリビングまでドアをあけて子供を探した。
「ああ、まさか」
メラニーは地下室への扉を開けた。すぐに子供の泣き声が聞こえてきた。
子供はカプセルの中で泣いていた。子供用のカプセルにはセンサーもついている。自分でレスキューのボタンが押せなくても、中でめざめたら本部にわかるようになっているのだ。
メラニーは泣いている女の子を抱きあげた。
「さびしかったわね。もう大丈夫よ」
その子はメラニーの首に腕をまわし、ぜったいに放さないぞというくらいにしがみついていた。
ぼくはすぐに台所のドリンクメーカーのスイッチを押す。どこの家にも同じマシンがある。子供はこのホットチョコレートで育つようなものだから。
その女の子は泣いていた。悲しそうな泣き声が切ない。妹のリアナと同じくらいだろう。リアナが一人で起きてしまったら、きっとこの子とおなじように泣いてしまうんだろうなと思った。
「ケイちゃんって言うのね。ほうら、お兄ちゃんもいるのよ」
急にメラニーが、その女の子をあやしながらぼくの方を向かせた。
ケイはまだ、目に涙をいっぱいためてこっちをみていた。まだおびえている感じ。
そこでぼくは妹のリアナがげらげら笑うギャグをやることにした。
「あ、バナナ。スッテ~ン、ころりん」
と言って、床に転がった。
バナナの皮をふむ真似をして派手にころぶという単純などうさ。
メラニーの腕の中のケイは、初めは驚いていたけど、やがてはじけるようにげらげらを笑った。メラニーまで笑っている。
「ティジェイ、やるじゃない」
今の笑いで、ケイのおびえがどこかへすっとんでいた。
「ティジェイ、あなた、私の助手にならない」
「えっ助手って」
「そう、つまりアシスタントよ。どうせ起きちゃったんだし、ヒマでしょ。この冬、時々でいいから私と一緒に冬眠レンジャーになってほしい」
冬眠レンジャー、ぼくが・・・・。
「子供がめざめると大体、私が呼ばれる。子供には子供がいいの。大人の男性がいくと、この子みたいに泣いていると、もっとおびえることになるから。私だとあんしんするのね」
「ああ、実はぼくも」
そう言いかけた。ぼくもそう思ってた。もし、大人がきていたら甘えてしまい、ワンワン泣くか、知らない大人に緊張していたかもしれない。ちょっと年上の少女だったから、泣くまいってがんばったところがある。
「それに気が利くし」
ぼくがすぐにホットチョコレートを作ったこともよかったみたいだ。
「オフの時は勉強も教えてあげる」
「オッケー、わかった。アシスタントになる」
このメラニーと一緒だったら、残りの冬も楽しくなるかもしれないから。
ケイがホットチョコレートを飲み干した。ほっぺが桜色にそまったから、体が温まったんだってわかった。
「じゃ、行きましょう。ケイちゃんにスーツを着せて、予備のヘルメットをかぶって、と」
ぼくらは準備をしてスノーボードカーにのりこんだ。




