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white child  作者: ハル
始まり
40/43

最終話〔後〕

「とうしゃん、さむい」「ルカも」


馬を走らせながら下に目をやると(たてがみ)に必死に掴まっているシャナ、そのシャナの背中に必死にしがみついているルカが冷たい風にさらされ身を震わせていた。


馬を止め自分だけ下りると着ていたコートを脱いだ。そして馬上にいる小さな2つの身体に掛けてやった。


「あったかーい」「とうしゃんは?」


ルカが薄着になったセヴィルを心配そうに見つめている。本当に優しい子だ、と思った。


「俺は大丈夫だよ、マフラー巻いてるし。さっきから少し暑かったんだ」


そう言うとルカは安心した様に微笑んだ。


「とうしゃん、なんでいつもお顔をかくしてるの?ケガしてるの?」


不意に質問してきたのはシャナだ。

シャナには1度も素顔を見せた事がなかった。自分の父親が何故顔を隠しているのか子供なりに不思議だったのだろう。たまにシャナが訝しげに自分の顔を見ていたのは気付いていた。しかし、1度もその事について聞かれた事はなかった。


いづれは話してやるつもりだが、今知るには幼すぎた。


「父さんな、恥ずかしがり屋なんだ。だから皆に顔を見られるのが嫌なんだよ」


「シャナたちにも?」


「そう。…父さんがこんな顔していて嫌か?」


そう聞くとシャナは首をぶんぶんと横に振った。

そして目をキラキラさせながら…


「カッコイイよ!シャナ、とうしゃんの顔だいすき!」


「…ハハッ、ありがとう」


思わぬ返事に笑いが込み上げてきた。シャナの頭をぐしゃぐしゃと撫でてやると、鐙に足を掛け騎乗した。


「もう少し走るぞ。2人とも寒くないか?」


「だいじょうぶ!」「だいじょうぶ!」



青鹿毛の馬は再び走り出す。


小高い丘を越え緩やかに流れる小川を通り過ぎると目的地へ到着した。旧ファルの家だ。


馬から降りシャナとルカを降ろした。


「ヴィルいないね」

「まだかえってきてないのかな」


シャナとルカは互いに手を繋ぎ「さがしてくる」と言って駆けていった。


「あまり遠くへ行くなよ」


その背中達に声を掛けると「はーい」と返事が返ってきた。無造作に打ち込まれた杭に手網(たずな)を結ぶと庭の木幹に背をもたれ座った。


「もう降りてきていいぞ」


独り言の様に呟いた。その言葉に反応する者が木の上にいた。


「元気そうだね、父さん」


「皆元気だ。母さん達もさっき家に帰ってきた。――仕事はどうだ?」


トンっという静かな音と一緒にヴィルが降りてきた。見ない間にまた背が伸びたようだ。目の前に佇む息子を見て思った。


清潔感ある短髪の白髪、その髪の色にも負けていなかった白い素肌は度重なる訓練で少し焼けたようだ。以前より健康的に見えた。


「まぁまぁだよ、軍界って忙しい所だね。遊ぶ暇もないよ」


愛用のサングラスをクイッと上に上げながらヴィルは顔をしかめて笑った。あらわになった両眼は緋色のままだ。


「モスキートが勝手に自決しちゃったもんだから奴の犯罪歴を洗うのに往生してるんだ。まぁ、着実に終わってきてはいるんだけどね」


半年前、モスキートは独房で首を吊って死んでいた。天井からユラユラと揺れる死体からはどこからか屈辱と悲壮感が漂っていた。最後の最後まで哀れな男だった。


「ゲルハルクさんは慌てず処理してくれたらいいって言ってるから後回しにしてもいいんだけど、いずれはしなきゃいけない事だし。徹夜処理に回してるのさ」


欠伸をしながら背伸びする息子は軍人らしく逞しく見えた。しかし振り返き向けるあどけない笑顔はまだまだ幼いものだ。


「ルカもシャナも元気そうだね」


「ありすぎだ。特にシャナの方がな」


「ははっ、また屋根にでも登ってたの?」


「違う。またいなくなったと探していたら酒蔵で酒を飲んでたんだ。まだ4歳の子がだぞ」


血筋だね、とヴィルは内心思いつつ失笑した。


「まぁ、どんなに悪ガキでも可愛いがな」


セヴィルの顔は昔と比べて柔らかくなっていた。微笑む父親の顔に満足していると……


「ヴィルー!」「みつけたー!」


「ぐっ!」


背後から2人分のタックルを受けた。そのまま前に倒れ込む。


やっぱ痛いよな、と内心呟くセヴィル。


「痛ー…」


涙目のヴィルにお構いなしに抱き着く2人。


「ヴィルー!いつからいたの?」


「今着いたんだよ、ちょっとシャナ…重い。父さん、助けて」


呆れながらヴィルの顔に乗っかるシャナを抱き上げた。ヴィルもルカを抱いて立ち上がった。抱き方も父親らしくなりしっかりルカの身体を支えていた。


「ルカ、元気にしてた?」


そう囁くように聞くとルカは何も答えず、父の首に手を回しそのまま顔を埋めて泣き出した。


「ヴィル…」


涙声で微かにそう言った。どうやら相当寂しさに耐えていたらしい。健気で幼い娘の背中をトントンとしてやった。


「いい子だ、よく頑張ったな。さて、お家に帰ろうか。ルカ」


顔を上げたルカの涙を拭いてやると、ルカは嬉しそうに微笑んだ。


「シャナもとうしゃんとかえる!」


腕の中でバタバタ暴れるシャナにセヴィルはほとほと呆れる。


「こら、シャナ!いい加減にしろよ、大人しくしないとお前だけ置いて帰るぞ」


「やーだ」と喚くシャナ。それをルカはきゃっきゃと笑って見た。


2人の父親は「はぁ…」と呆れつつ目を合わせると…


「帰るか」「帰ろう」


疲れた顔してそう言った。



青鹿毛の馬にセヴィルとシャナ。

白馬にヴィルとルカが乗った。



「父さん」


「ん?」


隣を歩くヴィルはニヤリと笑い…


「家まで競争」


言うや否や突然に馬を駆けさせた。


「とうしゃんっ、シャナたちも!」


焦り声のシャナに笑いかけると手網をしっかり掴み直した。


「シャナ、しっかり掴まってろ」


青鹿毛の馬は一声嘶くと疾風の如く駆け出した。















今まで読んでくださりありがとうございました。


読者の方がいたからこそ書き上げる事が出来ました。


重ね重ねお礼申します。

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