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white child  作者: ハル
始まり
4/43

~No.4~

「セヴィル軍隊長。今日の議会での報告書をお持ちしました」


「ああ……机に置いておいてくれ。今日はもう帰っていい。ご苦労だった」

「はい」


兵士は疲れた顔を少しホッとさせてから上司に向かって敬礼した。セヴィルも敬礼で返した。部下が出ていくと書類の山積みになっている机に座った。が、さっきの酒の酔いが残っているのか軽い頭痛でその日は仕事に取り組めそうになかった。


「…クソッ…飲み過ぎた」


水を飲もうと立ち上がった時、誰かがノックをした。


「入れ。……これはこれは、モスキート科学長。こんな遅くにどうされました」

「お仕事中に申し訳ない、セヴィル殿。少しお聞きしたい事がありましてね。宜しいか?」


そう言いながら同意も聞かずにモスキートはズカズカと部屋に入りセヴィルの椅子に座った。仕方無しにセヴィルは簡易椅子を持ち出してきて座った。


モスキート・バング。国の科学者の最高官で様々な化学兵器を生み出す通称"科学界最高権力者"だ。

その名の通りモスキート(蚊)の様に執念深い性格であった。何より高慢さが目立つ男でセヴィルの最も嫌う人物だった。


「何か飲まれますか?」

「いや、結構。どうにも血生臭い軍人の方の飲み物は私の口に合わなくてね。ここに来る前に前もって充分喉を潤してきた。どうか気を遣わないでくれたまえ」


モスキートの嘲笑を軽く笑って返したセヴィルだったが、目は上手く笑えていないように思えた。


「で、聞きたい事とは?」


長話をするつもりもなく話を切り出した。モスキートは余裕の表情を浮かべながら指を絡ませ口を開いた。


「セヴィル殿は覚えておいでかな?5年前、私は自分で生み出した最高傑作"white"を実験の為に装置から出しその力量を試すため森へ放ちました。あの時、"あれ"は人間で言えば8歳程度の知能を持っていたはず。どれだけ成長したのかを知る為、森に放ったその夜熟練の始末屋に仕事を依頼したのです……が、どうにも不思議な事が」

「何ですか?」


今は聞く時だ。セヴィルは自分にそう言い聞かせつつ余裕な顔をして聞いた。そのすましたセヴィルにイラついたのか少し目を充血させながらモスキートは話し出した。


「あの日あの夜、私が依頼した始末屋の前に別の始末屋が国門外で同様の仕事を行なったと……まだ幼い子供の殺しをね」

「ほぅ」


「仕事は失敗。理由は普通の子供では有り得ない身のこなしで逃げられたと。まぁ、話はここからが面白くてね。その始末屋を動かしたのは……セヴィル殿、あなただ」

「…………」


ここまで語るとモスキートは身を乗り出しセヴィルの顔に迫った。そして、憤怒の目で言った。


「何故貴様がそんな真似を?私の研究を荒らすつもりかね」


我慢するのも頃合だろう。椅子から立ち上がるとモスキートに背を向け棚からワインとグラス2つを取り出した。ゆっくりと酒を注ぐ。そして、後ろのモスキートに向かって話し掛けた。


「驚きました。ご自分で調べられたのですか?」

「ああ、何事も気になる事は答えを見つけるまで探求し続けるのが私のやり方だ」

「素晴らしい、まさに科学者の鏡ですね」

「話をはぐらかすな、セヴィル!何故私の邪魔をした」


ワインを注ぎ終え後ろを振り向いた。モスキートは息を乱しながら怒りの形相で自分を睨んでいる。少なく注いだ方を飲み干し机に軽く座った。噴き出しそうな笑みを抑える。


「さすが……と言いたいですが、モスキート科学長、あなたの話は事実と少し違います」

「何だと」

「確かに私は5年前、ある始末屋に仕事を依頼しました。あなたが育てあげた大事な大事な"white"に関してです。しかし、おかしな話なのですが私は依頼する際、一言も『殺せ』とは言っていない。私が頼んだのはあくまでも『捕獲』でした」

「…………」

「勿論始末屋達にはキチンと仕事をこなしてもらう為に少し脅しをかけました。が、彼らが戻って来てから状況を語っている時何かが変だと思いました。

彼らは最初から"white"を殺すつもりでいたのです。

まぁ、始末屋に捕獲を依頼する私もおかしいですが。それはさておき……その時私は気付きました。私が依頼した後、誰かが始末屋に依頼し直したんだと。私に変装してね。私はこの通り常に顔を隠しています。犯人は実にやりやすかったでしょう」

「…………」


ここまで話すと喉が乾いた。沢山注いでいるグラスには手をつけず、空のグラスに再びワインを注いだ。口に含むといつもより美味しかった。


「私もあなたと一緒ですよ、モスキート科学長。あの日からずっと調べていた。そして、真相を突き止めました。まさか、真犯人が自分から訪ねてきてくれるとは……嬉しい限りです」

「な、何だ。私が犯人…だと。証拠もないくせに」

「それはあなたも同じです。私が始末屋に依頼したという物的証拠はないはずだ。違いますか?」

「……証人がいる」

「誰ですか?始末屋達ですか?話になりませんね。法廷であなたが彼らを買収したと私が言えばあなたの負けですよ」

「…カリッ…カリッ」


モスキートの歯ぎしりの音は耳に付くいやなものだった。しかし、それを顔には出さず余裕さを保つ。


「こうなればお互いに黙っているのが最善でしょう。私も最初から公にするつもりはなかった。…最後にもう一つ。あなたは"white"を最高傑作と言いましたが、本当は失敗作なのでは?表向きは成長を測る実験と言っておきながら、本当は密かに殺処分するか野垂れ死にさせるつもりだったのでしょう。物事上手くいかないものですね」

「セヴィル…貴様」


プライドを傷付けられたモスキートにセヴィルは口を付けていないワイングラスを差し出した。モスキートはセヴィルを睨みながらグラスに手を伸ばした。しかし、最初からモスキートに飲ますつもりはなかった。手を伸ばしたモスキートの顔にグラスの中身をぶちかけた。そして、目を開けられないモスキートの胸ぐらを掴んだ。顔を寄せると殺気立った自分を抑えながら言った。


「自分で生み出しただと?…ふざけるな。"white"は…あの子は俺の子だった。貴様等が妻の体から無理矢理あの子を取り出して兵器にしやがったんだ。いいか、モスキート。悪い種を撒けばそれを刈り取るのはお前だ!決して逃げられないぞ、いや逃がさねぇ。よく覚えとけ」

「…お前もな、セヴィル。私は今日という日を忘れる事はない。必ず貴様の首を"white"の首と一緒にさらしてやる。言った事は必ず実行するのが私だ。どんな手を使ってでもな」


乱暴にセヴィルを振り払うと乱れた服を直しモスキートはセヴィルの部屋を出て行った。



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