最終話〔前〕
「そろそろか」
読んでいた本を元の場所へ戻すと壁にかけていた黒のコートを羽織りマフラーを巻いた。
«ガチャ…バタン…»ドアを閉めた。
«バンッ!!»「っ!?」反対側のドアが開いた。
「とうしゃんっ、どこいくの!」
「とうしゃんっ、どこいくの!」
右脇腹には娘がタックルを左脇腹は孫がタックルをセヴィルにお見舞いする。
「ぐっ!」
2人に抱き着かれたまま後ろに倒れ込んだ。
「痛〜…何だ、お前ら起きてたのか」
「おきてたー」「おきてたー」
キャハハと無邪気に笑う子供達に打った頭の痛みも忘れ一緒に笑った。
「とうしゃん、どこいくの?」
艶々しい長い茶髪に緑色の大きな瞳を持って生まれた孫は母親似の聡明で愛くるしい顔をしている。まだ4歳だというのにファルの医学書を何処からともなく持ち出しては一日中読むような子だった。何故か祖父にあたるセヴィルを〔お父さん〕と呼んでいる。
「おしょといくならシャナたちもいきたい!」
その横にいる娘シャナも孫のルカと同じ年に生まれ4歳。こちらは長い黒髪にセヴィルの瞳色と同じ黒くて大きな瞳だ。顔立ちはこれまた母親そっくりでヴィルと並べば双子の様だ。大人顔負けの観察力を持ち頭の回転が早い。
シャイナと喧嘩しているとひょっこり現れては「けんかりょうせいばい!」と夫婦揃って小さな拳で小突かれた。それをされるといつも3人で笑って何故喧嘩していたのか忘れてしまった。
片手に1人ずつ軽々と抱え階段を降りていった。
「今日は誰が帰って来る日だ?」
「?…」
シャナは分からないという風に首を傾げる。
ルカも少し考え込んでいたが閃いた途端、満面の笑で答える。
「ヴィルだっ!」
「ハハッ、正解。これから近くまで迎えに行く。お前らも来るか?」
「いくー!」「いくー!」
同時に答える二人に思わず失笑。降りていくと正面玄関からシャイナとファルが帰って来た。
「かあしゃんっ」「ファルっ」
それぞれの母親の胸に飛び込んで行った。
「ただいま、いい子にしてた?シャナ」
「してたー。ずっとルカとあそんでた」
「ルカ、風邪とか引かなかった?寒かったでしょう?夜は1人で眠れた?」
「シャナとねたからだいじょうぶだったよ。ファルは?びょうきもらわなかった?」
「フフッ、大丈夫よ。お母さん、皆治して病気やっつけてきちゃったから」
ファルとシャイナはこの三週間北国で蔓延していた疾病調査に特別調査員として赴いていた。二人の表情からすると、取りあえずは落ち着いたみたいだ。
「御苦労だったな、二人共」
「お義父さん、ルカの面倒ありがとうございました」
「こちらこそ急に頼んで悪かった。ティナーの奴がどうしてもお前を送れとうるさかったんだ」
「フフフ、ティナーさんは相変わらずファルに溺愛ね。…セヴィル、出掛けるの?」
「ああ、ヴィルを近くまで迎えに行ってやろうと思ってな。こいつらも連れて行く」
「とうしゃんといっしょ!」
「ヴィルをむかえにいくの!」
「いいわねー。気をつけて行ってらっしゃい」
「あなたもね、ルカ。お義父さんに迷惑かけちゃダメよ」
二人は元気良く「はーい」と言って飛び出した。
慌ててセヴィルも追いかける。
「おい待てっ!…«バタンッ»」
3人が居なくなると大きな屋敷はシーンと静まり返った。
「もしかしたら…ルカがセヴィルをお父さんって言うのはあなたがいつもそう呼んでるからかしら」
「えっ…ああそうか。何度言い直させても直らない訳だ(笑)……でもやっぱり、やめさせた方がいいかしら…」
心配そうに考え始めたファルにシャイナは笑って答える。
「いいじゃない、あのままで。あの人もまだお祖父ちゃんって歳じゃないし」
「ふふっ、そうよね。だってヴィルがまだ10歳だもの…考えてみれば、私達って変な家族」
「家族は家族よ。さぁてと、外は寒かったし、どう?軽く一杯」
グラスを傾ける仕草をしながらニコニコ誘うシャイナはヴィルに連れられて初めて会った時から何も変わらない。
「今から?お義母さんは先に荷物の片付け終わらせた方がいいんじゃないの。また、お義父さんに叱られるよ」
「全然平気よ。あの人は片付けるのが好きなの。帰ってきたら頼まなくてもやってくれるわ。さぁ、早く早く!先に呑むが勝ちよ!」
「ちょっと、お義母さん」
強引に手を引いていくシャイナに呆れつつも、握られた手の温かさが嬉しくて思わず笑がこぼれた。




