~No.37~
『あなたが必要だ』
侵入した北南の斥候はそう言い残すと夜闇へ消えた。机の真ん中には1枚の封筒が置かれていた。
"北南へ来るなら安定した社会的地位を保証する"
"その為には邪魔なセヴィルを排除し"white"を連合軍に兵器として差し出す事"
内容は省略するとこの様なものだった。
北南軍上層はモスキートの兵器製造の才能に目をつけた。モスキートにとっても願ったり叶ったりだ。
正直この国には何の未練もなくセヴィルに邪魔されて存分に腕をふるえない才能を使い余してる事にも大きな苛立ちを感じていた。迷いはなかった。
最初に造ったwhiteは眼球とそれに繋がる脳体があれば北南で大量生産できるし2体目のwhiteは即戦力として差し出せば条件をなお満たす事ができる。
国を捨て寝返る準備は全て整った。
うきうきする足取りで部屋に戻っていった。左手には麻酔銃を持って……。寝入ったwhiteに撃ち込めば後からやってくる斥候達と約束の物と共に北南へ向かう手はずだ。
静かにドアを開け中の様子を伺う。
ソファには遺体が置かれたまま、床には頭部が転がったまま…
『…いた』
机に背を向け月を仰ぐようにwhiteは座っていた。黒いフードを被り込み顔が見えない。しかしそんな事は関係ない。身体の何処かへ当たればよいのだ。
銃口を向け引鉄にかける指に力を入れた瞬間…
「こんばんは、モスキート殿」
「?」
椅子がくるりと回転し座っていたのはwhiteではない。
覆面の顔、死んだはずの男、セヴィルだ。
「セヴィル……」
手から銃が離れ落ちる。
セヴィルは狼狽するモスキートの様子をじっと伺った。沈黙の時間だけが2人に流れる。
最初に口を開いたのはセヴィルだった。
「驚いただろ、死んだはずの俺が生きているんだからな」
勝ち誇るようでもなくただ事実を言うように淡々とした口調だ。
モスキートは震える声で聞く。
「ど、どうして」
「whiteは自殺した。そこにくるまれているのは奴の死体だ」
急いで遺体の布を剥ぎ取った。口から血を流したままwhiteは死んでいたがその死に顔は何処か安らかなに見えた。
その顔が更に腹立たしく感じる。
「この出来損ないの役立たずが」
低く唸るように呟いた。
その直後頬に強い衝撃を感じた。
「痛…」
殴られた頬に触る間もなく胸倉を強く掴まれると壁に叩きつけられた。
「なんとも哀れな男だよ、お前は。全ては自分の欲望を満たす為にしてきた事なんだろうが、結局、最後は自分の首を締めているだけだったんだよ。なぁ、モスキート。しばらく牢の中で自分の犯した罪についてじっくり考えた方がいい。これ以上あんたの
姿を見ていると俺はお前が可哀想すぎて泣いてしまいそうだ。お前の為に泣くなんざ、まっぴらだからな」
咳き込むモスキートの顔に1枚の封筒を押し当てる。それが何だか分かるとモスキートの顔は更に青ざめた。
「息子がさっき面白いものを見つけてくれたんだ。
…北南へ寝返ろうとするとは、貴様の性根はとことん腐っているようだな」
「あ、あの、それは」
突然ドアが勢いよく開いた。雪崩のように転がってきたのは北南の斥候達だ。皆縄で頑丈に縛られ、その縄を束ねる長身の男の顔を見てモスキートは更に驚愕した。
「お前はっ?」
ヴィルはニッと歯を見せて笑うと明るい声で言った。
「さっきは騙してごめんね。あれは全部父さんに頼まれてやった事だから、恨むなら父さんにね」
「と、父さん?」
困惑するモスキートに向かってヴィルは笑顔のまま姿勢を正すと敬礼した。そして部屋に響きわたるぐらいの声で言った。
「ヴィル・ベルへルク・スグナ!これが僕の名であります!モスキート=バング。貴方はこの国に対して大きな罪を犯しました。よって、本日現時刻に貴方を強制逮捕します。罪名は……えっと、長すぎて忘れたので省略!ご同行頂けますか?」




