~No.29~
「……うっ」
割るような頭痛に耐えながら目を開けた。
吊り下げられた剥き出しの電球がゆらゆらと揺れ、その光が眩しかった。
「…なんだ?ここ…」
殴られた頭に何かが触れている。
手を伸ばし"それ"を取ろうと触れてみた。
「ん?」
手だ。驚いて、身体を起こした。
「セ…セヴィルさん……」
そこには弱り果てたセヴィルがいた。虚ろな目で何とか呼吸をしている。拉致され、気絶していた白髪男の頭を撫で、必死に起こそうとしていたのだ。
「セヴィルさん、僕だよ。分かる?」
白髪男の問いかけにゆっくりとセヴィルは頷いた。
しかし、声は出ない。
「ごめん。もっと早くに来ていたらこんな事にはならなかったかもしれないのに…。…セヴィルさん?どうしたの?」
セヴィルの異変と同時に生臭い臭いが鼻につく。
「―っ?!」
気付けば血だまりの床に服が浸っていた。自分は撃たれてなどいない。だとすれば……
「セヴィルさん…」
うつ伏せのセヴィルを急いで抱き起こし仰向けにさせた。見れば、腹部に空いた小さな穴から黒い血が噴き出していた。止血の為、自分で押さえていたのだろう。セヴィルの手も血で濡れている。呼吸をする度に傷口から血がポンプの様に流れた。
(早く血を止めないと…)
既に疲労しきっていたが迷っている暇などない。視神経にありったけの力を集中させた……
ガッ……
物凄い力で手を握られた。下を向くとセヴィルが何かを言おうと口を動かしている。かすれて力のない声を聞き取ろうと耳を近づけた。途切れ途切れの小さな声はこう言っていた。
「はやく、逃げろ。俺に構うな」
「――セヴィルさん」
白髪男は握られた手を優しく包み込んだ。
そしてゆっくりと微笑んだ。
「あなたが僕の立場にいたらそうする?しないよね。だから僕もセヴィルさんを捨てて逃げたりなんかしないよ。少し黙ってて」
白髪男は深呼吸すると再び目を閉じた。
次に開かれた時、その瞳は美しい緑色の光を放っていた。そのままセヴィルの傷を手で覆った。
「……っ!?」
触れられた痛みに呻くセヴィルだったが、暴れはしなかった。
「ごめん、このまま我慢して。少し時間が掛かるから……」
傷口が熱くなるように感じたが同時に心地良く思った。傷が塞がっていくと浅くしか出来なかった呼吸も深く息を吸い込める様になっていった。
どのぐらいの時間そうしていたのかは分からないが完全に呼吸が整う頃には小さくも声を出せるようになっていた。未だ汗を垂らして治癒に集中するwhiteはセヴィルの回復に全く気付いていないようだ。セヴィルは小さく呼び掛けてみた。
「……ヴィル」
"white"となど他人に付けられた温かみもなく愛のない兵器の名前など聞く度使う度に嫌気がさしていた。名はヴィルなのだ。あの日シャイナが教えてくれたこの子の唯一本当の名……生まれた時に初めて聞かせてやるつもりだった名。
傷に集中するwhite…ではなくヴィルには全く聞こえてはいなかったがセヴィルの声には反応した。
「…?セヴィルさんっ、気が付いたんだね。血も止まってきたしもう少しで全部塞がるから」
『……聞こえていなかったのか』
残念なような安心するような……
伝わってはいなかったものの初めて呼んでみた我が子の名前というのは父からしてどこか気恥しくそして嬉しいものだった。




