~No.28~
いつもは窓から侵入するように入っていたセヴィルの部屋をドアから入るのはどこか緊張した。
ガチャ…
誰もいないか確認しつつゆっくりと開け、外の廊下を見廻しながら素早く中へ入り鍵を掛けた。
「うわぁ……めちゃくちゃ」
整頓されていて埃1つ落ちていなかった部屋の状況は一変していた。
窓ガラスは割られ、机の引き出しの中身は全て投げ出されている。棚に並べられていた本達は死体の様にあちこちで倒れて散らされていた。
(何か探していたのかなぁ…)
無残に置かれた本の1つを取り上げ何気なく見ていたが……
「そんなに殺気出してたらバレバレだよ」
「ありゃ?見つかったか」
部屋に入った時から白髪男は気付いていた。
天井から漂ってくる赤い色をした殺気。それが自分に向けられている事も知っていた。
スタッ……
「いきなり声を掛けられるもんだから焦ったぜ」
「………」
まるで鏡に映る自分を見ているようだった。
服装は違えど…同じ顔、同じ体格、立ち方まで似ているような気がした。暫く、互いにまじまじと見つめあった。
「ホントにそっくりだなー、何から何まで俺だ」
「本当だね。……お前の目的は?」
そう聞くと偽の白髪男はにやけた表情で棚にあるワインを取り歯でコルクを抜いた。ポンッという音と共に酸味な香りが少し離れた白髪男の鼻まで届いてきた。
まるでジュースの様に美味しそうに一気に飲んだ偽者は空瓶を壁に投げ付けた。
ガシャンッ……
苛立っている白髪男を逆撫でする様に瓶は音を立てて砕け散った。殺意のある赤眼で睨んでくる白髪男を偽者はさも面白いもの見たかのように笑ってきた。
「そう怖い顔をしないでくれよ。俺だって仕方無しにやったんだ。ある奴に命令されてね。逆らうと後が面倒だからな。この部屋にいる筈だと思い込んでたセヴィルとか言う奴が外をほっつき歩いてなきゃここまで人を殺すつもりもなかった。セヴィルも大人しく捕まってくれたら痛い目に遭わずに済んだものを」
「セヴィルさんを…どうした」
偽者は耳をほじり始めた。
「まだ生きてるよ。連れて行く時に腹を撃ったが急所は避けてある。なかなか眠ってくれないからここへ来る前に麻酔弾もくれてやった……?!」
ガキンッ……
怒りに任せて振るった刀は偽者の首筋に触れそうな所で止められた。
「ちっ……」
「そう怖い顔するなって」
「怖い顔?そうだな。だけど、そうさせたのはお前だろ」
2つの刃は月に反射し美しく光る。
しかし刃握る者達の内面を支配していたのは憎悪・憤慨。何とも正反対で悍ましいものであった。
「まぁ…無理ねぇよ。自分の父親をあそこまで傷付けられて何も感じねぇ方が…」
「……父親?」
その言葉に刀を持つ手が震え始めた。思わず出してしまった隙を偽者は見逃さなかった。
偽者は白髪男の腹に重い蹴りを食らわした。
「ぐはッ…」
壁に叩きつけられた白髪男を偽者は優雅に見下ろす。
「知らなかったのか?軍界最高権力者セヴィル・スグナはお前の実の父親。モスキートは身重の母親から強引にお前を取り出し培養器に入れ奪い去ったんだよ」
「……モスキート?」
「科学界最高権力者モスキート・バング。胎児だったお前にその能力を植え付け"人間兵器"とやらを造ろうとしたクソ野郎だ。…まぁ、俺をここまで育てた父親でもある」
何もかもが信じられない。頭の中が廻らない。
(セヴィルさんが父親?モスキートが僕を奪い去った?じゃあ母さんはシャイナさん?……あの傷は僕を取り出された時のもの?)
赤眼が不安定に動き回り、しゃがみこむ白髪男に大きな黒い影が被さる。白髪男が見上げると剣を持った偽者が不敵な笑みを浮かべ自分を眺めている。
震える声で聞いた。
「お…お前は……一体何なんだ…」
偽者の顔から笑顔が消えた。
そして、偽者は耳元でそっと囁いた。
「俺はお前から造られたクローン。つまり…もう一人のお前だ」
(もう一人の…僕……)




