~No.27~
軍界に着いたのはすっかり暗くなった夜だった。
血の匂いが漂ってくる門に歩いていくと長銃を持った兵士が阻むように立ちはだかる。
「どこの隊の者だ」
「私は医界権力者ティナー・カルマンの代理で来た医者です。負傷兵の所まで案内してください」
すると兵士は蔑むように笑った。
「医者だと?そうか…片手片足が無い女に頼らなければならない程軍界の医療部は人手不足のようだな……内通証は?さっさと見せろ」
「…………」
横柄で失礼極まりない兵士の言葉に思わず押し黙ってしまう。悔しい気持ちを抑え込みファルは内通証を取り出し渡そうとした。
「……何?」
不意に横から伸びてきた手がファルの手首を掴む。
横に目をやると白髪男がニッコリと笑いファルの手から内通証を抜き取った。
「これが内通証です。確認を」
差し出すと兵士は乱暴に内通証を受け取った。と同時に……
ガシッ……
「貴様、何の真似だ!」
白髪男は兵士の手首をきつく掴んだ。兵士が振りほどこうとするも白髪男の力は凄まじかった。
それとは逆に白髪男は爽やかな笑みを浮かべながら流暢に口を開いた。
「ご心配なく、そのまま確認を続けてください。今から僕は独り言を話しますので聞き流してくださって結構です」
「なんだと?」
青筋の立つ兵士に億さず白髪男は続ける。
「全く…同じ軍界として僕は恥ずかしい。こんなにか弱い女性がこの暗い中、僕等の為に不自由な身体で来てくれたのに。そんな無礼極まりない言葉で迎え入れるなんて…君はどこのだれ?」
掴まれた手首が更に締め上げられる。
怯え出した兵士はどもりつつ、それでも咆えた。
「お、お前こそっ!見かけない顔だ、一体どの部隊の人間だ!?」
白髪男はニッコリと親しみ深い顔を作り言った。
「僕は情報密部第二狙撃部隊隊長ヴィル・ベルへルク。 君の上司は僕の部下だ。よって、貴様の任務態度については後でじっくりと話合おう」
そこまで言うと青ざめた兵士の手首を離し、白髪男は中へと突き進んでいった。ファルも慌てて白髪男の背中を追った。
「ちょっと…何なのよ、さっきの」
少し起こり口調のファルに、子供のように舌を出しながら白髪男は笑った。
「ヘヘッ、デタラメ言っちゃった」
「全部嘘なの?!」
一体この男は何を考えているのか、ファルにはますます分からなくなった。
「当たり前だよ。まぁ、所属はセヴィルさんから聞いた事のあるものを適当に繋げたんだけど…」
「名前は?」
「それも嘘。セヴィルさんの名前からヴィル、シャイナさんの姓からベルへルク。適当に並べただけだよ」
「そゆこと」と締めくくると白髪男は本部の扉を開きファルと共に中へと入って行った。
医務室に着いた。
ファルは早速、無菌着に着替え負傷者の治療を始めた。白髪男も手伝おうとしたがファルに止められた。
「あなたは人目に付かないようにセヴィルさんの行方について調べて。ここに今必要なのは助手じゃなくて医者よ」
「…そうだね。じゃ、行くよ。必ず迎えに来るから」
「うん、約束よ」
「約束」




