~No.25~
~数時間前~
本部の異変に気付いたセヴィルは唖然とした。
殺伐とした空気、怒号が飛び交う兵士達の表情…
ジュノから降り建物に入ろうとした。
「セヴィルさん、ダメです!危険です!」
強く呼び止められ足を止めた。
振り向くと遠距離用ライフルを持ったヒュートが血走った目で走ってくる。
「何があった、ヒュート。何故危険なんだ?」
「脱走子です、セヴィルさん」
(脱走子……だと?)
ナイフで刺された様な激痛が頭を襲う。
「状況を説明しろ」
「はい」
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太陽が西に傾き始めた時刻――
黒のマントを羽織った長身の白髪男が突如現れた。男は躊躇なく番兵2人を射殺。発泡音で集まってきた兵士達を次々と斬り殺し、建物内の何処かに潜伏している……
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「死傷者4名、重傷者12名です。これ以上の損害を防ぐ為、建物内にいた兵士全員外で待機させています。狙撃隊はすでに準備を整え、あとはセヴィルさんが指示を出すだけです」
「脱走子だと断定する根拠はなんだ?」
「兵士達の数人が顔を目撃しています。白髪頭で赤の瞳をしていたと。科学界が提出した手配書の特徴と一致しています。ですから…
「ヒュート隊長!!至急報告したい事が!!」
部下に呼ばれたヒュートは「失礼します」と言うと走って行った。
『あの子がこんな騒ぎを起すはずはない。…だが、万が一の事を考えそれも視野に入れて策を立てなければ…待てよ。射殺?あいつに銃の使い方なんて教えてない』
目を閉じ考察を続けるが、冷静を欠いた周りの兵士の声が邪魔をする。
「武器の使用許可は!?」
「持ち場を離れるな!さっさと戻れ!」
「俺の銃は何処にいった!早く持ってこないか!」
「………うるさい」
拳銃を引き抜き冷たい青空を撃ち抜く。
重い銃声は兵士達の声を一瞬で奪い尽くした。
「喚くな。貴様ら、それでも一国の軍人か。侵入者1人ぐらいでかき乱されるな。冷静になれ」
セヴィルの怒声に兵士達の動きは凍りつく。
しかしそれも一時だけだった。
先程とはうって変わり落ち着きを取り戻した兵士達は迅速に任務をこなし始めた。
「ヒュート、他の部隊長を集めろ」
「はっ!」
策は決まった。
後は各部隊に指示を出すだけだ。
ガシャン……
「?―っ?!」
上の方から何かが割れる音がした。
見上げるとガラスの破片が空に舞い上がり、雨の様に中庭へ降り注いできた。腕を盾に身体を守る。
バリッ……
壁をぶち破る音が続けて聞こえてきた。
「なんだ?!」
再び空を見上げれば……そこには上空を舞う人の姿があった。男は空中で身体を捻りながら空気抵抗を少なくし静かに着地した。
(お前…)
黒いマントに身を包み、立ち上がる拍子にフードが頭から落ちる。白く艶めく髪、瞳は血のように赤く染まり、セヴィルを睨んでいる。無表情な顔からは何も読み取れない。それに不気味さを感じる。
どこからどう見てもあの子だ。息子だ。
反射的に銃を向けていた手が困惑と動揺で震える。
「あんたがセヴィルか」
口調も声もあの子とは違い冷たい。
ゴクリと息を飲み込むと震える声で聞いた。
「お前の目的は?」
目の前の白髪男はただ一言口にする。
「あんたの誘拐」
「…誘拐?俺の?」
白髪男はコックリと頷くと腰から長剣を抜き取った。その刀身からは斬った兵士の血がたらたらと滴り落ちている。少しだけ口元を緩めると白髪男は楽しそうに言った。
「足の1、2本は斬ってもいいと言われた。あんた、強いから死なないよね。…では、」
その瞬間、白髪男が視界から消えた。
「!?」
背後に殺気を感じ、振り向くと白髪男がニヤリと笑い、足元目掛けて斬りかかろうとしていた。
しかし、セヴィルは早かった。
「がっ?!」
気付けば白髪男は地面に倒れていた。
起き上がると頭に激痛が走る。額に手を伸ばすとべっとりと血がついた。
「遅いんだよ、餓鬼」
振り向く際、セヴィルは銃巴を白髪男の額に思い切り食い込ませたのだ。
銃を持ち直すと、邪魔なコートを脱ぎ捨て、地面で唖然とする白髪男を見下ろす。
「お前も手足の1,2本吹き飛ばして問題なさそうだ。いや、それで丁度いいかもしれん」
白髪男の目つきが変わった。
凶暴でおぞましい。なのに、口だけは笑っている。
額の血を拭うと白髪男はゆっくり立ち上がった。
その時セヴィルは確信した。
(こいつはあの子じゃない。化物だ)
白髪男との死闘は続いた。
周りの兵士達も加勢しようと試みるも白髪男の間合いに入った時点で斬られ絶命した。
「…くそ、定まらねぇ」
ヒュートも狙撃体勢で白髪男に標準を合わせていたが闘う2人の動きが速すぎて狙いが定まらない。間違えばセヴィルを撃ってしまいかねない。結局、歯痒い思いをしながら2人を見ていることしか出来なかった。
「ハァ、ハァ、ハァ…」
「ハァ、ハァ、ハァ…」
互いの身体は擦り傷だらけになり、息も切れ始めた。それでも2人は止まらなかった。
白髪男の攻撃は銃身で受けた。
セヴィルの攻撃は銃口を見て避けた。
持久力では若い白髪男が優勢だ。
しかし経験の差では圧倒的にセヴィルが上だ。
その証拠に白髪男の動きが僅かに鈍くなってきた。攻撃も無駄で投げやりなものに変わった。そうなれば隙も必ず出てくる。その好機をセヴィルが見逃すはずがなかった。
バンッ!!…
「あ?!」
疲弊しきった白髪男の左脚にセヴィルの弾が当たった。続けて左肩を撃ち抜く。
カシャンッ……
白髪男の手から剣が落ちた。
肩を抑えたままその場に座り込み、頭を垂れ肩で荒い呼吸を繰り返している。
自分も呼吸を整えつつ、手を伸ばせば白髪男に触れられるくらいまで近づいた。
「終わりだ。さて、苦しんでるとこ悪いが答えてもらおうか。誰の指図だ?俺を誘拐するなんて馬鹿な話を考えた奴は……」
バンッ!!……
白髪男が突き出す銃口は自分に向けられている。
白い煙が昇るのをセヴィルはゆっくりと眺めた。が、次第にその顔は苦痛に歪み、膝をつき倒れた。
「ぐっ…」
腹が熱い。手を当てると黒い血が掌を塗りつぶした。撃たれた激痛で声も出ない。妙に眠い。身体は力を失い、地面に倒れた。
「セヴィルさん!!」
遠くで叫ぶヒュートの声が薄く聞こえた。
重たい瞼をうっすら開けると、目の前で白髪男がにやりと不敵な笑みを見せている。
「悪いな。卑怯と言われれば仕方が無いけど、あんたも撃ったし…おあいこだろ?」
何とか立ち上がろうと身体を持ち上げたが…
「ゲホッ……」
大量の血を吐いた途端に視界は真っ暗になった。
霞んでいく目に映るのは遠くの方で必死に何かを叫ぶヒュートの姿だった。




