~No.21~
元へ戻ります。
「シャイナ、俺達の子は生きてるんだよ」
頭の中が一瞬真っ白になった。待ち焦がれていたはずなのに、嬉しいはずなのに。何故か冷静に聞いている自分がいた。
「ふーん……そっか」
予想とは裏腹のシャイナの反応にセヴィルは拍子抜けした。もっと我を失うかのように喜び叫ぶくらいするかと思っていたからだ。
「それだけ?」
「何が?」
酒瓶を勢いよく傾け口から溢れた酒を袖で拭くシャイナは「何か驚くことが?」みたいな顔をしている。
「自分の子が生きてたんだぞ。お前のことだから叫んだり喚いたりするかと思ってた」
もっと喜んでもいいんじゃないか、と言いかけた時―
「…しい」
「ん?」
「嬉しいよ…嬉しくないわけないでしょ」
「シャイナ?」
瓶を片手にいきなりうずくまるシャイナに、傷口が開いたんじゃないかと思い慌てて傍に駆け寄った。
「おい、シャ…「引っかかった」
ニヤリとした笑みを浮かべるシャイナの顔を見た瞬間、「しまった…」と思った。その場を離れようとした途端に腹に大きな衝撃がきた。
これはシャイナの悪癖の1つだ。嬉し過ぎの絶頂点に達するとその華奢な身体のどこから出すのか凄まじい俊敏力と激しいタックルで襲いかかってくるのだ。これが真面目に痛い。長年軍で鍛え上げたセヴィルの肉体でも必ず大きな痣ができてしまう程だ。
しかし、今日は違った。
「あれ?おかしいな」
いつもは痛々しい音を立てて倒れ込むセヴィルの身体が何故か動かない。キョトンとして上を見上げると…そこには先程のシャイナの様にニヤリと笑ってみせるセヴィルがいた。
「何度も転ぶと思ってるのか、この馬鹿」
事あるごとにこのタックルを食らわされていたセヴィルにとって耐える事くらい造作もない。シャイナはがっかりした。いつものように無様に転んだセヴィルにもう一度キスをしてやろうと狙っていたのだ。
「もー。いつもみたいに転んでくれたら――」
「転んだら?」
セヴィルの顔が急に近くなる。ドキリとした。
「転んだら……その、」
「俺をどうしようとしたんだ?」
その声は少し威圧的だ。しかしその顔は明らかにシャイナが何をしようとしていたのかを知っていた。その証拠にセヴィルは意地悪げに笑っている。
シャイナが答える前にセヴィルはシャイナの体を軽々と持ち上げ、そのまま二人は奥の寝室へと消えていった。
「セヴィル」
背中に手を回し抱きついた。鍛えられた夫の身体は少し痩せたみたいだ。セヴィルも眠っていたのか、少しの間の後、返事が返ってきた。
「どうした?」
「どっちに似てたの?あの子」
「そっくりお前だったよ。髪の色も顔も。泣き顔までな」
泣き顔も似てると聞かされシャイナは小さく笑った。
「そっか、泣き虫さんか。じゃあ、性格もきっと私似ね。あなたに似てる所とかはなかったの?」
「俺に似てる所?…背が高い」
それしか思いつかない。実際あの子の容姿はシャイナ瓜二つで自分とは全く違っていた。
「背?私よりも?」
「お前なんかとっくに越してる。さすがに俺よりは低かったがな」
「そうなの。……会わせてくれるよね?」
シャイナはむくりと身を起こした。潤んだ目をセヴィルに向ける。透けるような白い肌にセヴィルは毛布を掛けるとゆっくり抱き寄せた。
「その時が来たらな。必ず連れて帰る。そう約束しただろ」
「うん……」
セヴィルの暖かな温もりを感じつつシャイナはセヴィルの胸に顔を埋め目を閉じた。
白髪男が目を覚ましたのは暗い明け方だった。
「ふぁ……」
ちゃんとした睡眠を取るのは何日ぶりだろう。おかげで体のダメージは一気に回復していた。
「体が軽い。さすがベッドで寝ると気持ちいいなぁ」
軽くなった身体を起こし寝静まった廊下へ出た。
シャイナかディナに礼を言ってから帰ろうと二人を探し始めた。
ガチャ…「違う」
ガチャ…「いない」
ガチャ…「ここもいない」
沢山あるドアを片っ端から開けていくもどの部屋も使用人達が寝ているだけだ。
「どこにいるんだろ…」
最後にやってきた部屋は屋敷の一番奥に位置していた。ドアからして他よりも大きく造りが上等だ。期待が持てた。
ギギギギィィィィ…
「うわぁ……」
あまりにも広い部屋に思わず声を漏らした。置いてある家具も1つ1つが高級そうだ。
「シャイナさん…居ませんか?」
小さく呼び掛けてみると、奥のベッドが動いた。近付いていくとその周りには服が乱雑に放り投げられていた。しかし、隣の椅子にはコートやシャツなどがシワにならない様丁寧に掛けられている。
「セヴィルさんのとそっくりだ」
起こさない様ゆっくりベッドの傍に立ち覗き込んだ。すると毛布からシャイナの寝顔が出てきた。寝ていても綺麗な人だ、と観察していると……
「――ん、…」
シャイナの隣に誰かがいる。ぎょっとして後ろへのけぞった。男の様だ。毛布を掛けて眠っている為、誰だか分からない。
(男?シャイナさんの……)
少し警戒心を出しつつ2人が被っている毛布を少しだけめくってみた。
「――げ!?」
そこには抱き合ったまま眠る裸の男女。
シャイナと、セヴィルがいた。バサリと毛布を掛けても二人はピクリとも動かない。
「なんで二人して裸なんだよ…馬鹿じゃないの」
冷や汗を拭くと白髪男は急ぎ足で部屋を後にした。




