~No.18~
悪魔は音もなくやって来た。
「ここは……?」
目覚めたのは緑色の電球がゆらゆらと揺れる気味が悪く薄暗い部屋だった。
起き上がって周りを見ようとしたが……
ガシャン……「――っ?!?」
その首には手錠の様な代物が付けられており鉄のベッドに固定されていた。両手両足も同じ様に固定され身動きが取れないようにされていた。
何をされるか分からない恐怖で身体は小刻みに震え始めた。
ギィィィ…「やっと目が覚めましたか、随分待ちましたよ」
錆びついたドアを押し開けながら誰かが入って来た。そのねっとりとした耳障りな声にシャイナは目を見開いた。
(この人は……)
「…モスキート科学長?」
白衣姿のモスキートはシャイナを拘束するベッドまで近寄ると椅子に座り親しみ深い微笑みを見せた。
「お久しぶりです、シャイナさん。御主人の任命式以来ですね」
セヴィルの総督任命式に出席していた時、シャイナは初めてモスキートと顔を合わせたが、好印象ではなかったのを覚えている。
見下すような高慢溢れる話し方、馬鹿にする様な目つき、おまけに骸骨に皮を張り付けたような容姿を見ていると次第に気分が悪くなり…
「では、また。夫と共に伺います」
と、早々に避難したのであった。
後でその事をセヴィルに話すと「俺もアイツの事は好きになれん。どうも虫が好かないんだよな」と同調してくれた。
「身重のあなたをこの様な手荒に扱って申し訳ないのですが…身重のあなただからこそ、こうして来てもらったわけです。では、時間があまりないので手早く説明させて頂きます」
(説明?)
「あの、モスキートさん。先にどうして私が――」
「まず行程から」
混乱しているシャイナの質問を遮りモスキートは構わず続ける。
「あなたの身体から胎児を取り出します」
一瞬頭が真っ白になった。震えていた身体はいびつに固まり声も出ない。それなのにモスキートは楽しげに話続ける。次第に腹が立ってきた。
「心配しなくともシャイナさんもお腹の子供も死ぬ事はありません。慎重に取り出しますからね。ただし、ここまで大事に育ててきたお子さんは科学界に預からせて頂きます」
「ふざけないで!何の為にそんなこと…!」
声を荒げて起き上がろうとしたが頑丈に付けられた鎖が食い込みベッドに引き戻される。
「あなた達のお子さんは兵器として生まれ変わるのですよ。私の手によってね」
「兵…器……」
余りにも愚かで悍ましい事案に呼吸が乱されていくのが分かった。胎児にも恐怖が伝わったのだろうか。いつもと違って暴れる様にシャイナのお腹を蹴った。
「私はこれまで戦場でいかに効率よくまた安全に敵を殺傷できる兵器を作れるか考えてきました。しかしそんな兵器など作れるはずなどない。なぜなら、どれだけ性能が良い兵器であったとしても人が操縦しなければ使えない。そこで思いつきました。人間が使う武器を作るのではなく、人間自体を武器にしてしまえばいい」
「…いかれてる」
憎悪を込めて呟くとモスキートは悪魔の如く顔をにやつかせると、白衣の中に手を入れ何かを探り始めた。
「何とでも仰ればよろしい。既に実験は始まっている。あなたがここにいる時点でね」
ポケットから出てきた手は赤い液体の入った注射器を握りしめていた。モスキートの顔は既に狂人と化している。
乱暴に口を塞がれた。不安と恐怖、さらにはどうしようもできない悔しさが混じり合い涙が溢れた。
「ああ、そうだ。眠らす前にもう一つ。恐らくあと何時間もすればここにセヴィルがやって来るでしょう。彼にも伝えておいてくれるかな。もし私の邪魔をするのなら…この子供はすぐに殺しますよ。――ではシャイナさん。少しの辛抱ですよ。あなたが妊娠したと聞いた時、あの男の悲痛な顔を見ることが出来ると思い嬉しかった。奴の子を孕んでくれたあなたに感謝しますよ」
腕に刺すような痛みを感じたのを最後にシャイナの意識は暗い暗い場所へと落ちていった。




