~No.12~
「脱走子……自分で創った出来損ないの"兵器"を鍵と呼ぶ根拠を聞かせて欲しいものだね。どういう事だ?」
解せぬゲルハルクはモスキートへ問うた。
「その前に…あれを"出来損ない"と呼ぶのは訂正していただけませんか?あれは私が長年培ってきた研究人生全てを掛けて造り上げた"最高傑作"なのですから」
「それは申し訳ない。失言だった。話を続けてもらえるかな?」
謝罪に満足するとモスキートは話を続けた。
「"脱走子"…私が"White"と名付けていた実験体が地下の培養器から抜け出して既に5年が経ちました。その存在の危険性ゆえ、司法部から正式に指名手配を出し行方を追っているものの未だに数少ない目撃情報しか入ってこない。きっと、何も知らない誰かが。あるいは、知っている誰かが……"white"を匿っているのでしょう」
モスキートは隣の男と目を合わせようとするも、決してセヴィルは目を開けようとしなかった。
まぁいいだろう、とモスキートは心底嘲笑した。
「しかし、今この状況を考えるなら…私はその"誰か"に感謝をしたい。よくこの時まで"white"を守ってくれたと」
「この時…とは?」
椅子に深く腰掛けつつモスキートは細く血色の悪い指を絡ませた。
「今、目前に控えているこの戦争こそが"white"が今まで生きている理由という事ですよ」
閉じていたセヴィルの目が開いたのはその時だ。聞き捨てならない台詞を前にセヴィルはモスキートを睨んだ。それを待っていたかのようにモスキートは余裕の表情でセヴィルと目を合わせた。
「俺の話を聞いていたのか、モスキート。戦争は回避すると言ったはずだ」
「あなたこそ人が話している時は最後まで聞くということを知らないのですか。いつ私が戦争をすると言いました?ったく、軍人はこうもせっかちだからいけないんだ」
「モスキート、今のはあなたの失言だ。気をつけなさい」
ゲルハルクの叱責にモスキートは首を竦め頷いた。
「申し訳ない、セヴィル。つまり…私が言いたいの、未だ何処かでさ迷っているだろう"white"を捕獲しそれを手土産に相手と交渉してみるのです。そのほうが和平を結びやすいはずです」
「Whiteはそれ程価値のある人なのか?兵器としての価値は?確かに北南は戦好きで軍事には国を挙げて強化に励んでもいる。が、所詮発展途上の国。投資力が乏しい。もしもwhiteにそれ程高い能力があり優秀ならば利用できるかもしれないが」
「でも"white"って見た事ないけどまだ子供なんでしょ。どれだけ強くても戦場では使い物にならないんじゃなくて」
ティナーの口ぶりは医者としてまだ小さな"white"に憐れみを抱いているようだった。
「ティナー、奴等が欲しいのは"white"の持つ能力。"white"自身ではない。恐らくあちらに引き渡せば解剖されてホルマリン漬けになるだけだ。だが、そんなこと今はどうでもいいんです。この国が平和になるなら。セヴィルが望む戦争回避に繋がるなら。私は喜んで"white"を捧げますよ……ねぇ、セヴィル」
後ろに立つ陰湿な男に目をやると男の目は確かにこう言っていた。
『この前の礼だよ。我が子が敵に売り渡される様子を、ズタボロにされる様を父としてその目でよーく見ておくんだ』
残酷で卑劣な声はセヴィルだけに聞こえた。
息子を守る事が出来ない父にはただ己の感情を押し殺し平静を保つ事しか出来なかった。セヴィルは恥じた。




