~No.11~
「今回招集をかけたのは……」
「あたしらの顔が見たかったからでしょ」
「黙れ、ティナー」
話を折るティナーを諌めるとセヴィルは目線をゲルハルクへと戻した。ゲルハルクはにこりと微笑み「ありがとう」と目線で礼をする。小さく咳払いするとゲルハルクは続けた。
「ここ数年、平穏状態だった我等の国の均衡に少々ヒビが入ってきている様な気がしてね。いや、これは君達の働きが悪いと言っているわけじゃない。北国と南国が前触れもなくこの国に宣戦布告してくると誰が予想できた?南村部で原因不明の疾病が流行り、しかも治療法が特定出来ないという状況を誰が予想できた?脱走子……私もよくは知らないが非常に危険な実験体が駆除されないまま国を歩き回っているなど――誰が予想できた?それぞれが抱える問題がいささか大きすぎやしないか」
脱走子とは、息子以外の誰でもなかった。
ゲルハルクが【駆除】という言葉を出した時大きな不快感に襲われるも平静時を保つ為セヴィルは目を閉じた。それを横目で見ていたモスキートは鼻で笑った。
「何か可笑しかったかい?モスキート」
「いや、失礼。気にしないで頂きたい」
「で、ゲルさんはあたし達に同情している訳だ。何をしてくれる?ただの言葉だけならあたしは受け取らないよ。そんなもの何の助けにもならないからね」
ティナーは長い脚を机に乗せながら横柄な口調で言い放った。その態度にセヴィルは溜息をつく。ゲルハルクは全く気にしていない様子でティナーに微笑んだ。
「勿論、きちんと援助しよう。三界の抱える問題を迅速に解決し、国の均衡を平和に保つ。それが昔から総界(=総合界)の上に立つ者に与えられた責任だからね。では、話を戻すとしよう。現在君達を悩ます諸問題に対処する優先順位を考えた。最初に解決すべきはティナー。君の医学界だ。国疫所の研究者達には既に調査命令書を渡してある。明日、君は彼等と一緒に感染源の村に行くように。与えられる猶予は2週間。もし処置法が見つからなければ――」
猶予は二週間、それを聞いた途端ティナーの顔は青ざめた。足を乗せていたテーブルを蹴り上げ抗議する。
「ちょっと待ってよ、猶予って何?それに2週間で原因を特定するなんて無―」
「感染者は駆除する。村ごとね」
その言葉にティナーは口をつぐんだ。有無を言わせない圧倒的な威圧力――どんな残酷な方法でも決定権は全てゲルハルクにあるのだ。選択権など存在しない。
暫くは睨み合っていた2人だったが最初に目を伏せたのはティナーだ。その様子に「結構」と頷くと、次にゲルハルクが目を合わせたのはセヴィルだった。
「次は軍事界か?」
ゲルハルクは人懐こい笑みと親しげな雰囲気で口を開いた。
「全く、君は人を守り国を守るという重大な責務に就いている。まさに【国雄】と呼ばれるに相応しい仕事だ。1つ方法を間違えれば全てを滅ぼしてしまう、失敗など許されない。北南が連合軍を結成した事は既に聞いている。いつこの国に攻め入られてもおかしくは無い状況だ。今現在、軍界の長である君が考える策を聞かせてほしい」
身を乗り出し聞く体勢のゲルハルクにセヴィルも同様の姿勢を取ると昨日頭に叩き込んだ情報に分析を加え話し始めた。
「現在、我が国の兵力は約3万。それに比べて相手はおよそ5万と圧倒的にこちらが不利だが……作戦次第では勝てなくもない。ほとんどの兵は必ず死ぬだろう。人の命を預かる者としてみすみす大事な兵士を死地に送り出すつもりはないよ」
「…ということは?」
「戦争はしない。両国の使者と話し合う旨を既に手紙にしたためてある。あとは何日寝ずにかかろうがお互い腹を割るまで話し合えば何か戦を回避する方法が見つかるはずだ」
「…フンッ、セヴィルらしいやり方ね」
セヴィルの考えにゲルハルクも納得の表情を浮かべていたが――1人だけは違った。
「………プフッ」
「何か可笑しい事でも?モスキート」
それまで一言も話さず黙っていたモスキートが頭を垂れ口を閉じて笑い出したのだ。セヴィルは睨みを効かせ聞いた。
「いえいえ。セヴィル殿は素晴らしい思考の持ち主だと感心してしまって、思わず笑いが出てしまった。申し訳ない。しかしですね…ゲルハルクさん、私も一つ考えがあるのです。発言する許可を、よろしいですか?」
「ほぅ…モスキート。話してみてくれ」
興味津々のゲルハルクにモスキートはゆっくりと席を立つと後ろで手を組み微笑を浮かべた。嫌な予感がセヴィルを襲い、それは当たった。
「この国の平和の鍵を握るのは"脱走子"です」
国疫所=市民が原因不明の疫病にかかった時、感染
経路の特定。感染防止。感染者の応急処置
などを行う機関。
国雄=国の英雄以上の存在。




