~No.10~
次の日、子供は早くに目が覚めた。時計を見ると数時間程しか眠っていなかったが、それでもスッキリとした良い目覚めだった。
寝床はいつもセヴィルの部屋のソファだ。さすがに毎晩訪れれば守衛兵に見つかる危険がある。だからセヴィルの部屋を訪れるのは4,5日に一度。快適な睡眠もその時にしか取れなかった。
それまでは日中、浮浪者を装い狭い路地でうずくまり、夜になれば国のあちこちを転々と歩き回った。昨日の様に命を狙われる事も多々あったが、セヴィルから徹底的に仕込まれた剣術で難を乗り切った。銃だけはどうしても嫌だった。見るだけで幼い頃に味わったあの苦しかった記憶が蘇ってくるからだ。
幸いこの国に銃はまだ一般人に普及しておらず、襲来者の武器の大半は刀や長槍や弓など古代的なものばかりだった。時には、どこで仕入れたのか銃を片手に襲ってくる敵もいたが持ち慣れていない銃を持つその手首を捻り取るなど子供にとって造作もない事だった。
「セヴィルさん、今日も早いな」
隣のソファには折り畳まれた毛布以外誰もいなかった。これまでセヴィルが子供より先に眠る事も遅く起きる事もなかった。
「あの人、ちゃんと寝てるのかな?…まぁいいや。朝飯食べに行こう」
久々にファルの作るサンドウィッチが食べたくなった子供は使った毛布も畳まず慎重に窓から飛び降りると中庭で訓練中の兵士達に気付かれない様こっそりと建物から抜け出した。
~四界塔~
その塔は国の中心に建てられていた。全身白塗りの壁で窓も扉も一切ない。入口を知るは限られた者達だけだ。
朝日が昇ると白壁に光が反射して街全体を金色に輝かせる事から【琥白の奇跡】という現象名がついた。市民にとってこの塔はただの建造物。だが、国を担う幹部達にとってこの塔は神聖な場所であった。
セヴィルは地下に続いている螺旋状の階段をゆっくり降りていった。やがて―鉄で作られた頑丈な扉に行き着いた。
«ギギギィィィィィ……»
錆びついた扉を開けると、壁も天井も床も…何もかもが白い部屋の真ん中に3人の人物が席についてセヴィルを待っていた。
「久しぶりだな、セヴィル」
「招集は早めにかけたはずだろ!さっさと席についちゃって」
「お久しぶりですな、セヴィル殿」
「お待たせして申し訳ない。だが約束の時間までまだ15分ある。こんなに早く集まっているとは思っていなかった」
「久々に君達の顔が見られると思うと嬉しくてね。さ、お掛けなさい」
セヴィルの正面に座る人物。〔北〕
ゲルハルク・クリシュタイン、総合界最高権力者。
軍界、医界、科学界を束ねるセヴィルら幹部の中でも最高位に着く男であった。誰よりも優しく、誰よりも恐ろしいこの人物の本当の姿を知る者はいない。
「こんなテンション低い奴等の顔なんかあたしは見たくなかったけどね」
〔東〕
ティナー・カルマン、医学界最高権力者。
国の医療方針や医療の法律の制定、難病の新療法など医学に関わる全ての責任を担う幹部唯一の紅一点だ。喜怒哀楽が激しく、竹を割ったような性格をしていた。
「まぁまぁ、ティナー殿。私は嬉しいですよ。あなたのその女とは思えぬ下品な口調が耳に懐かしい」
〔西〕
モスキート・バング、科学界最高権力者。
科学を用いて国の生活水準を上げる事が主だがこの男が最も力を注いでいるのは専ら兵器の製造だ。噂では裏社会とも繋がりを持ち、良き兵器を作る為には犯罪にまで手を染める危険な人物であるがそのずる賢い頭脳により証拠は消され逮捕が叶わずにいた。幹部の中でセヴィルが最も嫌う人物だ。
「何も変わらず安心した。さっさと終わらせようか」
〔南〕
セヴィル・スグナ、軍事界最高権力者。
国の治安維持、国軍の統制を受け持っている。国の英雄【国雄】と人々から称えられ人望がある人物であった。
暗く日の届かない地下の一室で4人の権力者達による【四界議】が始まった。




