第2話. 先輩、一緒にテスト勉強しませんか? 3
塩谷桃は約束の時間の30分遅れでやってきた。
初めて見る私服姿だ。私服だと彼女は普段よりさらに子供っぽく、どこかの可愛い中学生に見えた。
「先輩、遅れてすみませんでした」
「寝坊か?」
「ふゎ~はい、そーです」
本当に眠そうな声で答える。
塩谷桃は俺の隣に座り数学の問題集を出し勉強し始める。
しかし、早速一問目から分らないようだ。彼女のペンを動かす手は固まったままだ。
「お前なあ、こんな初歩の因数分解からわからないのか?」
「ふわわっ、この問題初歩なんですか~?超難問だと思ってましたっ」
「おいおい、初歩の初歩だよ。大体、数学なんてどんどんこれから難しくなっていくぞ。これが解けないと後々ヤバいぞ」
「ふわ~前途多難ですっ」
...やっぱり、こいつ、授業をまともに受けているとは思えないな。
◆◆◇◆◆◆
...一時間後。
「教えてください先輩、これ解説見てもよくわかりません~」
「だからな、これはこことここを共通因数でくくって...」
塩谷桃はことあるごとに僕を質問攻めにしつつやっと問題集を2ページ終えた。
周囲の一人で勉強している人達には僕たちが喋りっぱなしでおそらく迷惑だっただろう。
やれやれ。塩谷桃は手間のかかるやつだ。
彼女につきっきりで教えてたら自分のテスト勉強が全く進まないではないか。
...いま何時だろう。もう12時ごろか...
自習コーナーの前方にある時計を見るために僕は顔を上げる。
すると、ちょうど問題集をカバンにしまって帰ろうとしている倉田瞳と目が合った。
倉田瞳は僕と塩谷瞳を見て、まるで見てはいけないものを見てしまったかのように目をそらし、そのままさっと帰って行った。
...これはいけない。
多分僕と塩谷桃は付き合っていて、デートの一環として一緒に勉強しているのかと勘違いされたな。今日帰ったら誤解を解くため倉田瞳にメールでも送っておこう。