第1話 二人の新入部員 1
~プロローグ~
「あいつは死ぬんだ。あと一ヶ月以内で」
「俺にそれを見届けられるか?いや、俺には耐えられない」
「あいつは徐々に弱っていく。たくさんの機械をつけてなんとか生き長らえて、そして最後には必ず死ぬんだ」
「そんなところは見たくない。見られるわけもない」
「だからもうここを出ていくんだ」
俺は家をそっとでていく。後に一枚の紙切れを残して…
「行かないで!!」
後ろから声が聞こえた。でも俺はもう振り返らない。
もし振り返ったら、
もし声を聞くだけでなく彼女の姿を見たら、決心が揺らぎここまで来た道を引き返してしまいそうだったから…
◆◆◇◆◆◆
僕は三谷 春秋。岬高校の二年生になった。
今まで16年間生きてきて彼女ができたことはない。
身長は高めだが、顔はいわゆるイケメンではないだろう。
でも一応、何となくやさしそうな雰囲気には見えるらしい。
勉強がたいしてできるわけでもない。
でも音楽が好きで、ピアノが少し弾ける(人前で弾いたことは少ないが)
高校生から始めたトランペットは一年間練習して、ある程度は上手くなった。
吹奏楽部に所属しており、練習、練習の毎日だ。
今日は一年生の入部式。
新入部員が入り、もう「先輩」と呼ばれる立場だ。
練習、もっと頑張らなきゃな…
入部式では会議室に部員全員が集まり
一年生が一人ずつ自己紹介する。
一列に並んだ一年生の中に、ほかの人より
頭一つ分ぐらい小さな女の子に目が行った。
うん、なんか小さくてかわいい女の子だな。
動物に例えるとハムスターか?
僕は昔ハムスターを飼っていたけど、
ペットショップで買ってから三か月で死んじゃったな。。
そのハムスターに似てるな…
などと考えていると、自己紹介が進み、その子の番はもうすぐだ。
「倉田瞳。トランペットを中学生の時からやっています」
「トランペットパート希望です。よろしくお願いします」
おっ、この小さな女の子の隣の子はトランペットパート希望なのか。
この子も可愛いな…
でもどちらかというと可愛い系というよりは美人系だ。
次があの小さな女の子の番だ。
「ピンポーンパーンポーン」
校内放送のチャイムが鳴る。
「塩谷桃さん、塩谷桃さん」
「至急、職員室まで来てください」
「至急、荷物をすべて持って職員室まで来てください」
「至急、荷物をすべて持って職員室まで来てください」
「ピーンポーンパーンポーン」
その小さな女の子はすいっと立ち上がる。
「すいません、私が塩谷桃ですっ」
「なぜだかわからないけど、至急職員室に行かなければいけないみたいなので」
「行ってきますっ。よろしくお願いしますっ」
言い終わるとすぐに、タタタっと、駆け足で会議室を出ていった。
あれ?何パート希望か聞いていないぞ。
この子もトランペット希望だといいな。
しかし、動きがちょこまかしててかわいい。
本当に小動物っぽいな。