第3楽章 終章 ~大罪を犯した2人の天使~
久し振りに、ここに足を踏み入れる。
30数年…くらいだろうか。
僕は、あの時と違った心境で、ここに立っていた。
罪を受ける覚悟の、
あの時とは。
その天使は、ベッドの上に座っていた。
柔らかそうなそれの上にだらんと足を乗せ、いつもとは雰囲気までもが違っている。
そいつは僕の姿を認めると、真っ直ぐ目を向けて、
互いに分かりきったことを、道化る。
「…どなた?」
「悪魔ですよ。大天使様。
僕を迎えに来ました。」
「おや。
君はそこに居るんじゃなかったのかい?」
「これも僕ですよ。
あなたも僕ですが。」
「では、僕と僕は今、会話をしているのですか?」
「ご冗談を。
僕と、あなたで話をしていますよ。」
大天使が、諦めて手放したように、呟く。
「…もう、エリは居なくなった。」
「…そりゃ、そうでしょう。」
「エリは、居なくなってしまった。」
「あなたの罪とは、僕の罪ですから。
よく知っていますよ。」
「エリは、もう、居ない…エリは…」
「しつこい!
エリはあなたが消した。
僕がつまり消したんだ!
僕は無駄話をしに来た訳じゃない。
あなたを消しに来たんだ!」
「知ってる。
でも、全部全部必要なのだよ。」
「怒ることも?悩むことも?
全て必要と言いたいのか!?」
「そうだね。
僕が君なのならば、君が次は僕をする。」
「…あなたも、そうやって?」
「違うよ。
僕は僕自身を生み出すだけ。
僕が僕である意義を守るだけ。」
「…あなたと話すと、目眩がしてくる。」
「でも僕は、君の未来まで知っているよ。」
「…エリ、は?」
「残念だけど、君が今生きているうちは会えない。」
「じゃあ、また次、か。」
「うん。
あと、ヴェルディとエリーヌだけどね?
前より、ずっと近くて困るくらいになってしまった。
エリーヌが先を進むのは、少し近くなったけれどね…」
「あの2人は、結ばれないのか?」
「それが彼等の運命なんだよ。
エリーヌが先を行き、
ヴェルディが後を追う。
告げようとすれば死が間に入り、また繰り返し。」
「…死ぬのはいつも、ヴェルディが先だよな?」
「それが不可思議な、彼等の運命さ。
君らの方が、ずっと奇怪だけど。」
「…互いに救い合うことが?」
「逆だよ。
救った相手に忘れ去られたり、自分が死んだり、それが裏目に出たり。」
「…おい、それって僕じゃないか?」
「昔、サリーもそうだったよ。
ボスの君を庇ったのに、反逆者と誤解した君が…」
「うん、もういい。」
「…ヴェルディはまだ、君を恨むかな?」
「…さあ。
毎回好きな人を殺していれば、恨むのも分かると思うけど。」
「…そうだね。エリーヌが自ら死を選んだのにね。
君も酷だよ。」
「…そろそろ、あなたを消そうと思うけど。」
「僕は消えないよ。
君が居る限り。」
「そうかな?
運命は変わるんだよ?」
「見方が変わった、とも言うけどね。」
「…エリは、僕なんかとの運命で、楽しいかな?」
「それはエリが決めることだよ。
エリが、育った環境の中で決めることだ。」
「そっか…
…やっぱり、あなたを消す。」
「消して、どうする?」
「消して、僕も消える。」
「エリも消えちゃうかもしれないよ?」
「…それでも僕は、
僕を許せない。」
「…そうか。
なら、消したまえ。
君の未来を、自らの手で、消したまえ。」
「…ありがとう、大天使様。」
「この名もまた、人々が付けたのさ。」
「…知ってるよ。」
「…!?」
気づけば、頬に涙。
何かを失った、そんな気がした。
一つ消え、
ぽたり。
もう一つ消え、
ぼたぼたと。
とめどなく流れる雫の名前を、私は知っている。
「大天使様、私、あなたと同じ涙を流しました。」




