第2楽章 5 ~交差しない2人~
『ねぇ、キミ、名前も無いの?』
何…これ…?
『…200人分集めれば貰える。』
これが…昔の記憶?
え、音声のみ、ですか?
『えー、面倒くさい!私が付けちゃ、駄目?』
『私』って、誰だよ?
『…良いけど。どうせ別のが付けられるんだよ?』
こいつ卑屈だな…
…もしかして、これが、僕?
『まあまあ、良いじゃん!私だけのキミになるんだから。』
思い出した、というより、記憶の中から引きずり出した、もしくは与えられた、そんな行為に近い。
僕は、そんなの要らなかった。
「どうだった?
良い夢、見られたか?ww」
後ろで、今一番逢いたくない者の声がした。
「…ヴェルディ…」
そいつは、僕の前に歩いて来ながら、尚も僕に話しかける。
「お前と、お前の恋人との会話。聞こえただろ?
良いよな、好きな人が、同じ部類で…」
「同じ、部類…?
どういう…」
「お前は知らなくて良い。」
間髪入れずに、言葉が刺さる。
ヴェルディの様子がおかしい。
いつもみたいに、
笑って 無い
「俺さ?俺にもさぁ?
愛する人は、居るんだよ。この世で一番の、何にも代え難い、いつもいつも俺より先を歩いていく憧れの人が!
なのに…一度だって、振り向いてくれたことが…っ」
彼は、顔を歪ませ、僕に感情をぶつける。
僕は、何も知らないって言ってるだろ?
しかし、絶えず何か声にならない言葉をしきりに動かすヴェルディ。
…頭に押さえられた手が、わなわなと震えていた。
一瞬、口を止めた。
「あの時と同じように、してやるよ。」
ヴェルディが、盛大に笑って僕の前に立った。
この恐怖、前にも感じた事がある。
「サヨナラしな、エリ!!」
僕は、記憶を全て取り戻した。
キーワードが、自分の名前であることをヴェルディは知ってて言ったんだと思う。