第1楽章 1 ~街歩く少年は~
一人の少年が、街灯も少ない街の中に、下を向いて立っていた。
少年は仏頂面で、見た通りだとしたら、何か嫌なことでもあったのだろうか、とこっちが気を使ってしまいそうな雰囲気だった。
しばらくして、少年はゆっくりと歩き出した。
そうして、浮かんでいった。
目を疑うような光景だったのは確かなのだが、何故だろう。
少年の顔を、もう思い出せなくなっていた。
辺りが子ども達でいっぱいになった。
昼間なら静かなこの丘も、今は声で溢れている。声、というよりは、音に近いが。
「おーい、元気だったか?」
一人の男の子が、少年に話しかけた。
「…まあ。」
口数少ない少年。話しかけた子は、構わず話し出す。
「相変わらず愛想悪ぃな!まあ、それがお前だけど。なあなあ、お前、いくつ集めた?」
「…秘密。」
「ええー?良いじゃねぇか、ケチクセェ。ま、俺は5人だけどな♪あと3人居れば、俺はついに…ムフ。」
「…気色悪い…」
「酷っ!」
『皆さん、お静かに』
一人の女性が、丘に唯一ある木の下に、突如として現れた。辺りが、静まる。
『では、さっそく始めます』
淡々とした口調で話し始めた彼女は、一人一人、持ってきたものの個数を聞いて回っていた。
『あなたは、いくつ?』
最初に話しかけられた子が、驚いたのだろう、上擦った音で返事をした。
「はいっ!ろ、6人ですっ!」
『そう。先週より2人も案内出来たのね。これからも頑張りなさい。』
「は、はひっ!」
そう言った子は、そのものを彼女に渡した後、跳ねるように浮かび、どこかへ、またそのものを集めに行った。
そうやって、20数人が浮かび上がった頃、少年の番が来た。
『あなたは、いくつ集めた?』
少年は俯き、ぼそりと唱えるように言った。
「…一人も」
隣に居た男の子は、少し残念そうな顔をした。
『そう。では、また来週まで頑張りなさい。』
また、淡々とした話し方。
少年は、段々小さくなっていく男の子が元気良くものを渡しているだろう音を聞きながら、また街へと浮かんでいった。
『では、これが今週集めたもの達です。』
彼女は誰もいなくなった丘を後にし、上界と呼んでいるところで報告をした。
(そうか…今週は31人…よく集めてくれた。)
彼女の頬が、僅かに染まる。
『有り難きお言葉です。』
(…エリーヌよ)
『何でございましょうか?』
(お前は今日で、10000人を上に届けてくれた。よって、お前を昇進させる。)
彼女の表情が、こわばる。
『…分かりました。あなたの…大天使様の御命令ならば、喜んで行かせて頂きます。』
一瞬にして、彼女…エリーヌが消えた。承諾したのだろう。
上界は、また静かになった。