三重苦な俺がヒーローになれるわけがない(3)
あの後、この大きさに呆然と突っ立つ俺を強引に生徒会室へと連れ去った樹理は、生徒会会長の権限を使って大っぴらに授業をサボることを担任に承諾させた。
こういうのが職権乱用なんだなぁ、と俺は遠ざかる意識の中で実感した。
ちなみに烏丸は気を遣ったのか、
「同じクラスの奴が二人も消えたんじゃ怪しまれるだろうから、俺はパスしておく。何心配するな。後のケアはきちんとやっておくから」
と、不敵な笑みを浮かべて言い放った。
まぁ、秀才の烏丸が言うなら絶対なのであろう。ここは下手に心配する方が失礼というものだ。
でも・・・・・・、俺はどうせなら授業に出る方が良かったな。
馬鹿だから、せめて授業に出て点数を稼いでおかないといけないし。なんつの? 授業態度が良かったら多少テストの点が悪くても大目に見てくれるというか。頭の悪い生徒の悪あがきというかなんというか。こうでもしないと進級できないのであって。
だから、俺は樹理の密会?とかには全く、いや一切の価値を見いだせないのである。
樹理に引きずられていく道中、俺は脳内で延々と愚痴を垂れ流していたが、乱雑な動作で生徒会室に放り込まれた衝撃が全身に走るのと同時に一旦中断されたのであった。
「ぐぉ!!!! ―――――――――ってぇ!! 何するんだよ樹理!!」
俺は強打した腰をさすりながら、扉の前に顔を俯けて仁王立ちする樹理へと怒鳴りつける。
勿論、俺に怒鳴りつけられた樹理は顔色を一つも変えずに器用に後ろ手で静かに施錠し、したしたと水がしたたり落ちるような実にゆっくりとした歩調でこちらへと歩み寄った。
俺はそんな樹理に得体の知れない恐怖を抱き、ダラダラと冷や汗にも似た脂汗を流しながらジリジリと後退した。しかし、俺が後退する分の距離をすぐさま埋めてくる樹理。
そんな攻防を展開していた俺と樹理であったが、なんと俺の背に固い何かがぶち当たった。どうやら後退する内にいつの間にか部屋の隅にまで追いやられていたようだ。
もう逃げ場がない・・・・・・、ゴクリと生唾を嚥下しながら、迫り来る悪の権化と化した樹理へと視線を向ける。
あぁ、どす黒い固まりが迫ってくる~~~~~!!!! ってか、人ってリアルに黒いオーラ纏えるんだな、とピンチな状況の時に限って本当にどうでもいい内容が頭に浮かんでくる。
こういったことは何も俺ばかりではない。映画などを観ているときに主人公がピンチな状況に陥った際、なんでもっとこの状況を打破するような名案を思いつかねぇのかよ、と馬鹿にしていたのだが・・・・・・。実際に自分がそういう状況になった際に良い案など思いつかないもんだな~、と身に染みて理解できた。
くそ、他人のふり見て我がふり治せってこういうことだったのか~~~~~!!!!
俺はあの映画の主人公を馬鹿にしていた自分が恨めしい、と思うのと同時に情けなくも感じた。
ってか、あの黒いオーラマジで痛いんだけど。触れた指先がピリッて痛むんだけど。何あれ? もしかして触手? 触手なの?
と、恐怖心で極限まで達していた俺は頭の中がパニックになっており、本当は感じるはずもない痛みまでも感じ取るまでになっていた。
モモモモモ、と不快な効果音と共に黒い固まりと化した樹理が、徐々に近づいて来るのを感じた俺はますます半狂乱になった。
「あ、あの!! 樹理、マジで悪かったって!! 何か悪いこと言ったんなら謝る、謝るからさ!! そ、その、うわぁあああああああああ!!!!」
口を開くや否や、どす黒い固まりが視界いっぱいに広がり、俺は咄嗟に目を瞑り自分の身を守るために姿勢を低くし頭を抱えて身構えた。
しかし・・・・・・、いくら待っても想像していた通りの衝撃が来ず、代わりに誰かに抱きつかれた様な感触が上半身に広がった。
ふにょん、と柔らかな二つの感触が胸をやんわりと押し、俺はその心地よさに「ほへぇ~」とだらしない溜息を漏らしてしまう。
ついで微かに立ち上る香しくも甘い香りに自然と鼻腔が広がってしまう。
って、何してんだ俺は!?
と、みっともなく鼻の穴を広げた状態でふと我に返る俺。
この感触に香り・・・・・・、まんま樹理じゃん。そもそも嗅ぎ慣れた匂いだし、この場にいるのは俺と樹理だし。やばいよ、学院のアイドルの樹理に抱きつかれたとあっては俺の今後の学院ライフは地獄の学院ライフになっちまう!!
慌てた俺は上半身に齧り付くように抱きついている樹理を引き剥がそうと肩に手を置くも、その肩が微かに震えているのに気づいた俺はギョッと目を剥いて視線を下へと向けてみる。
すると、絶対に俺の前では泣かない樹理が・・・・・・、俺に泣き顔を見せないように顔を伏せ、泣き声を押し殺して一人静かに泣いていた。
閉じられた形の良いふさふさの睫がかかった瞼からは、真珠のような涙の粒がポロポロとこぼれ落ち、俺のシャツをしっとりと濡らしていた。
あの気丈な樹理がこんな状態になるまで気づかないなんて、俺は幼なじみ失格だ。
ギリッと唇を強く噛み締めながら、俺は肩に置いた手をソッと背中へと回し、小刻みに震える手をゆっくりと宥めるように撫でさすった。
「ゴメンな、樹理。俺が無神経だったよな。本当は、怖いんだ。急にスケープ何とかになれって言われたって、俺には俺の生活があるし。何だよ、神の生け贄なんて。なりたくねぇよ。一介の高校生でいてぇし、ここでの生活は俺にとってとても大事なんだから」
そう、今口にした言葉が俺の嘘偽りない本音であった。
何だよ。神の生け贄なんて、そんな現実味のない話。信じろって言う方が無理だろ。でも、こんなに取り乱した樹理の様子を見て、あぁ。これは嘘なんかじゃなくて本当のことなんだな、と改めて実感した。
それに今まで樹理が俺に嘘を言ったことがあっただろうか。いや、ない。
冗談や悪口は言うが、樹理はいつだって俺に嘘をついたことなど一度もない。
いつだって本当のことしか言ってこなかったのに。
俺は一体何回、樹理の言うことを疑ったのだろう。俺はそんな懐疑的な自分を恥じた。
そうだよ、俺と樹理は幼なじみだ。幼なじみの間に“壁”なんてないのだ、最初から。
壁を作っていたのは、この“俺自身”だったのだ。
樹理と比較されるのが嫌だった俺が作り出した、最後の心の“砦”だったのだ。
なるほど。いざ砦が崩れ落ちてみると案外簡単なものだ。
こんなにも自分の本音をさらけ出せれるのだから。
樹理は俺が口にした本音を聞いて、ピクリと肩を震わせた後、おずおずと伏せていた顔を上げてきた。端正な顔にはくっきりと涙の痕がこびり付き、いつもは澄み切った空色の碧眼も今はどんよりと曇り、目元には涙の粒が溢れていた。
こんな泣きっ面を見るのはいつ以来だろうか。
昔は樹理も泣き虫だったのに、いつからだろう。
泣き虫だった樹理は、誰からも尊敬される秀才へと変貌していった。
そんな樹理を誇らしく思う反面、俺は心のどこかで寂しく思っていたんだと思う。
もう俺なんかいなくても大丈夫なんじゃないか、一人でも十分やっていけるんじゃないか、と。
だから、樹理の口から出た“Scapegoat”とかいうのに選ばれた時に、内心ではホッとする自分がいたのもまた事実なのだ。
でも、そんなことを思う自分が今は恥ずかしく思う。
俺はこんなにも樹理に心配されていたのに・・・・・・。
これ以上樹理に心配させまいと気丈に振る舞って見せた。何たって、俺は樹理より年上なんだからな(数ヶ月程度の差だけど)。
「なぁ、樹理。心配するなよ。俺は、絶対お前の所に帰ってくるよ。何たって俺の故郷はここなんだから」
「・・・・・・本当? 絶対、絶対に戻ってくる?」
「あぁ、本当だ。約束する」
だだっ子のように聞き返してくる樹理の細い肢体をギュッと抱きしめ、俺は断言した。
もう、違わない。
絶対にここに戻ってくる、そう思ったら何だか楽になってきた。
そうだよ、神様が何だっていうんだ。
生け贄だろうが、何だろうが、やってみせようじゃねぇか。
と、決意した矢先に――――――――――――――――――――――――――
ガッシャ―――――――――――――――――――――――ァァァン!!!!!!
生徒会室の窓ガラスが景気よく割れ、破片が勢いよく室内に散乱した。
しかも、上手い具合に俺たちが座っていた壁側の窓ガラスは割らずに。どこかに監視カメラがしかけられてるんじゃねぇの!? と本気で疑うぐらいに隙のない仕事であった。
キラキラと割れたガラスの破片が降り注ぐ中、日の光に反射しながら一筋の銀色を伴った光が室内へと降り注ぐようにして降り立った。
その光の正体は、髪の毛だ。樹理と同じ、銀髪の。
しかし、銀髪という表現はこの神々しい光を放つ髪には、あまりにもちんけな言葉かもしれない。そう思うほどにとても綺麗であった、ものすごく。
降り立ったのは、一人の少女であった。
腰まで伸びるストレートな銀髪と白い?何だアレ?法衣みたいな服を翻し、俊敏な猫のような身軽さで足音もさせずに木面の床へと足をつけた。
雪のような肌は吸い付きそうなほど柔らかく、その白さと質感と着たら遠目からでも目視できるほどであった。
少し貧乳なのが気になった・・・・・・、ゲフンゲフン!! が、顔なんかはべらぼうに整っており、女神様とか言われても納得がいくほどの美少女であった。
しかし、問題なのは頭頂部にある“アレ”
これでもかと激しく自己主張している黒いネコミミである。
それとスカートに隠れていて分からなかったが、裾の所からちょこん、と黒いフサフサの尻尾の先が覗いていた。
しかも、オモチャかなとか思っていたけど、アレ完璧に動いているよね。ネコミミバンドとかじゃ絶対無理な動き醸し出してるよね。
そんな幻想的な風貌に俺は開いた口が塞がらず、多分間抜け面で突如現れたこの少女のことを見続けていたんだろうと思う。
そんな俺の視線に気づいたのか、少女は洗練された動作で俺の方へと振り向き、閉じられていた瞼をゆっくりと開けた。
少女と目があった瞬間、俺は全身に稲妻が走ったかのような衝撃を受けた。
人の目で有り得ない色彩――――――金色――――――の目であり、瞳孔なんかまるで猫のように細長かった。けれど今まで見たどんな目より神秘的で美しかった。
その幻想的な風貌に似合った言葉を、その整えられた唇からはどんな言葉を紡ぐのだろう、と少しばかし期待して耳を澄ましてみると、
「――――――――――貧相な猿ね。こんなのが選ばれたというのかしら?」
―――――――――――――――あれ? 何か汚らしい言葉遣いが聞こえたような?
「全く、栄えある“Scapegoat”に選ばれた猿が、こんな見目も冴えなそうな愚鈍なオスだったなんて。この国はみんな見る目がないわね」
・・・・・・聞き間違えじゃないな。何だよ、さっきから猿とかオスとか。失礼な女だな、おい。
ピキピキと青筋を浮かばせて暴言を受け止めている俺の背後で、同じように頬を強張らせた樹理がポツリと呟いた。
「―――――――――獣神族の姫、アリッサ・ズィリャ・フェーレース」
俺は樹理の口にした単語を聞いて耳を疑った。
えっ? あれが噂の四神族? てっきり俺はあの雑誌に載っていたおっさんのことを指すのかと・・・・・・。こんな美少女だなんて夢にも思わなかったぜ。
てか、○○族っていう位なのだからものすごい数がいるのかな? まぁ、どうでもいいけど。
俺がまた下らないことを考えていると、目の前の少女は樹理の声を聞いてニヤリと下卑た笑みを浮かべた。
「あら? その声は・・・・・・、樹理ね? 一昨日の会議で急に飛び出したきり姿を見せないと思っていたら。ふ~ん、そう。“ソイツ”と出来ていたのね」
「・・・・・・アリッサ、相変わらず人を小馬鹿にしたような態度は変わらないのね。それに、勇人のことを馴れ馴れしく“ソイツ”だなんて呼ばないでくれる?」
俺を守るように前へと競り出た樹理はフンスと鼻息も荒く腕組みをした後、殺気を込めた視線でアリッサと呼ばれた少女を睨み返す。
睨まれたアリッサも何のその。常人なら失神してしまう樹理の一撃必殺の睨みを難なく受け止め、その上余裕の笑みを浮かべて同等の睨みをお見舞いする。
正に一触即発。
先に動いた方が負ける、そんな緊迫した雰囲気が三人の間に漂う。
つか、樹理さんや。神様と呼ばれている相手によくメンチ切れますね。その神経の図太さに賞賛の拍手を送ります。
樹理の背後でビクビクと肩を小刻みに震わせて怯えた表情を浮かべた、ヘタレな俺を樹理の肩越しに見やったアリッサは両手を挙げて肩を竦める。
「あ~、もういいわよ。あんたを怒らせたら後が怖そうだし、ね。お父様からも国防省長官の娘を怒らせるなって釘を刺されたことだし。でも・・・・・・、私、言ったわよね?」
アリッサはスゥーと金の目を細めて、気怠げに髪を掻き分けながら、
「そのオスはもう我が四神族のモノなのだから、余計な感情は抱かぬように、ってね。頭の賢い樹理なら重々承知の上だった思ったのだけれど・・・・・・。どうやら私の買いかぶりすぎだったようね。やはり、猿はみな同じだった、と―――――――――」
「違う、違うわ!! パパの考えに違えるつもりはない」
「なら―――――――――「けど!!」?」
アリッサの声に被せるようにして続きを口にする樹理。
いつもは冷静沈着で賢い樹理の異変に疑問に思ったアリッサは、頭上に疑問符を浮かばせながらも思うところがあるのか、黙ったまま樹理の言葉に耳を傾ける。
勿論、俺もだ。
「それは国防省長官の娘としての考えであって、私個人としては反対よ、こんな下らない措置・・・・・・、アグゥ!!!!!」
パン!! と樹理が言い終わる前にアリッサが樹理の頬を張った。軽く叩いたように見えるのに、その威力はハンパなく、体が小柄な樹理の体は紙屑のように吹き飛び部屋に置かれた机にぶち当たり、背中を強打したのか悲鳴を上げて崩れ落ちる。
「樹理ッ!!」
俺は力なく崩れ落ちた樹理へと慌てて駆け寄り、その細い肢体を優しく抱きかかえる。どうやら背中を強打した際にはずみで頭を打ち付けてしまった様子。額が少し切れて血が滲んできていたが、どうやら頭も打ったようで意識が朦朧とているようだ。
微かな呻き声を上げながら、それでも樹理は虚ろに開いた瞳を真っ直ぐ逸らさずに、怒りで頬を赤く染めたアリッサを見据えていた。
先程の余裕ある表情は消え失せ、激しい怒りに全身を打ち振るわせていた。よく見ると猫耳と尻尾の毛がボワァと逆立っていた。
どうやら樹理の一言が彼女の琴線に触れたようだ。
つうか神様も怒るんだな、と目前で怒りまくる少女を見やりながらそんな感想を抱く俺。
しかし、これはいくらなんでもやり過ぎではないだろうか。暴力で訴えるなんて俺は許せないぞ。
目の前で幼なじみがやられたんだ。ここで黙って指を咥えて見てたんじゃあ男が廃るだろ。
と、息巻いて見せるも・・・・・・。目の前であのような荒行を見せられては勝ち目は無いように思う。
何せ、俺より運動神経がある樹理が紙屑のように吹っ飛ぶんだぜ、張り手の一つで。
じゃあ、俺なんか窓ガラス突き破って三階下に落下だよ、張り手の一つで。
でも・・・・・・、樹理が怪我を負わされてでも俺を庇ってくれたんだ。なら、俺もこいつのことを守らなきゃ、守らなきゃいけない男だったら。
グッと拳をきつく握りしめながら、俺よりも幾分か背の低いアリッサの前に歩み寄る。目と目の先ほどの距離まで近づいてみると、その少女の美しさはますます際だっていた。
背なんか俺の胸よりちょい下くらいで、樹理より少しばかり高いくらい小柄さだ。なのに同じ体格の樹理をぶっ飛ばすなんて・・・・・・、神様マジぱねぇ!!
だが、ここで怖じ気つくわけにはいかない。樹理の敵討ちを取らなければ。
「お、おい!! テメェ、よくも樹理を殴りやがったな。親に暴力を振るうのは最低だって教えられなかったのかよ?」
と、なるべく高圧的に言い放つが、怒りで我を失っているアリッサには通用しなかったようで。
素早い手つきでネクタイを掴まれてグイッと引き寄せられた。あと数㎝で唇がくっつきそうなほどの近距離で俺と彼女の息が交差する。
まるで猫のような瞳孔を見ているだけで背筋がブワワワワと粟立つ。
少しでも油断したら首元に噛みつかれそうだ。そう、例えるなら俺と彼女は獲物と捕食者の立ち位置にある。
永遠にも感じられる時間の中で、俺がゴクリと唾を飲み込む音だけが嫌に響き渡る。
そんな時間を先に打ち破ったには、意外にもアリッサの方であった。
彼女は更にグイッとネクタイを手繰り寄せ、自分の方へと俺を引っ張り込む。引っ張れたことにより体勢を崩した俺の耳元へと形の良い唇を寄せて、
「―――――――――暴力? それは同等の相手にだけに使う言葉よ。そうね、今のはしつけ、よ。お前たちもタチの悪い家畜をしつける時に手を出すでしょ? それと同じよ」
クスリとせせら笑い、俺の言動を妙に説得力のある言葉で論破してみせる。完璧な答えに頭の悪い俺は次の言葉が出てこない。
しかし、そんなのは“間違い”だ。最近はそう、動物愛護の精神が広がっているのだ。
だから、俺たち人間も動物に理不尽な暴力を振るうと訴えられる世の中に変わっていっているのだ。
フフフフ・・・・・・、この事を知ったらこいつも慌てふためくに違いない。
俺は怪しい笑みを浮かべながら、俺の異変に気づき怪訝そうな表情で見つめているアリッサへと、ズビシッと音が鳴る程の勢いで指を突きつけ声高々に叫ぶ
「ハハハハハ!!!!! もう少し人間界のことを勉強してくるんだったな。所詮は付け焼き刃の知識。神様も大したことがないと見えるぜ!!」
「何、その自信満々な態度。ひ弱な猿にしてはえらく強気に出たじゃないの・・・・・・」
フフフフ、どうやら俺の本気モードに恐れを成したようだな。フッ、神様と言っても所詮は女。大したこと無いぜ。
「ハッ! どうやらその様子だと知らねぇようだな。いいか? 今、人間界では動物に暴力を振るうと訴えられる制度になってるんだよ!! どうだ、恐れ入ったか!!」
うん、人間もある意味動物の一種だし。人間界の機敏に疎い神様ならこれで十分通用するはず・・・・・・、と高をくくっていたのだが。俺の完璧な言い分を聞いてもアリッサときたら全く動じてなかった。
というか、何だそんなこと? と逆に呆れ返っていた。
「何を自信満々に言うと思いきや、実に下らないわね。いい? 下等な猿の間で為された法なんて私たちにとっては意味がないのよ。“神”は“神以外の生物”を好きに出来る権限があるのよ。それもあんたらがウホウホと野山を駆け回っているより、遥か大昔から」
と、逆にズビシッと指を指し返されてしまった。
くそぅ、妙に貫禄があるな。さすが神様。
でも、何か納得がいかない。何で樹理が殴られなきゃいけないんだよ。
「でもさ、いきなり殴るのは失礼だろ。そりゃ喧嘩腰にいった樹理も悪いけどさ。殴られた理由を言ってくれなきゃ納得しねぇぞ俺は。幼なじみが怪我したんだ。黙っていられるわけがねぇ」
「・・・・・・まぁ、カッとなったのは事実だし。一応謝るわよ。でもね、樹理は私たちの前では一番口にしたら駄目なことを口にしたのよ。しかも、最低な形でね」
「もしかして・・・・・・、アレのこと?」
「そうよ。我ら四神族にとって“Scapegoat”は神聖な言葉。四神族でさえおいそれと口に出来ず、ましてや否定するなんて以ての外。それを樹理は“措置”と言って否定した。だから、叩いた。それだけよ」
そ、そんなに大事なモノなのか。というか、俺ソレに選ばれたけど、まだ詳しい説明聞いてねぇや。神様の生け贄とかなんとかって烏丸は言ってたけど、まさかそのまんまの意味じゃねぇよなぁ。
「そのさ・・・・・・、良くわかねぇんだけど、そのスケープなんとかってそんなに大事なものなのか? 俺、選ばれた身で何なんだけどよく分かってなくて」
申し訳なさそうに頭を掻きながら呟くと、アリッサは信じられないという風に目をまん丸に見開けた。
「えっ? 知らないですって? お前、樹理から説明されなかったの?」
との問いに俺がコクリと首を縦に振ると、アリッサは忌々しそうに舌打ちした。
(なんてこと・・・・・・、あまりに遅いからもう説明し終わっているかと思っていたのに。まだだなんて・・・・・・)
ブツブツ、と重苦しい表情で呟くアリッサ。
だが呟いている内に苛々が募ったのか、急に全身の毛(髪、猫耳、尻尾)を逆立たせ咆吼する。
「あ~~~~~~~~~、もう!! これだから下等種族は!! 果たすべき事をせずにただイチャイチャと・・・・・・!! もう、樹理なんてアテにならないわ。何故かお前を前にすると冷静じゃいられないようだし」
でも、これは案外好都合かも。あの子も気絶しているようだし、とチラリと気絶している樹理へと目配せし、薔薇の花が咲き誇るような可憐に微笑むアリッサ。
そんなアリッサの笑みを見て俺は可愛いという感想を抱かずに、何故か背筋が凍り付き冷や汗をダラダラと垂れ流す。
もう、嫌な予感がビンビンだよ。ていうかイヤな予感しかしない。
どうやら俺は予知能力を新たに開眼させてしまったらしい。
っていうか、これ以上変な能力を開眼させたくないんだけど!!
しかし、運命は残酷かな。
俺の嘆願を華麗にスルーして、世知辛い方向へと展開させていくのだから。
「さぁ、共に行きましょう。ナカムラユウト。お前は、神に選ばれた“唯一の人間”なのだから」
アリッサが俺に手を指しだしたのと同時に、背後から無数のヘリが、見たことのない異形の鳥が空を黒く塗りつぶすようにして、俺の目の前に現れたのだ。
今、思えば、そう。
――――――――――――――――――これが、すべての始まりだったのだ。
何か急に進んだな。次の回で詳しい説明をしますので、よろしくお願いします。アリッサも可愛く書けていけたら良いなぁ思っていますので、可愛がってやってくださ~い(笑)