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第2・5章 あの腹黒神様っ娘が俺にベタ惚れなはずがない!!(2)

「テステス。只今マイクのテスト中。マイクのテスト中」


「……確か人間界では、場面を切り替えるときにこの呪文を口にするんでしたよね? え? 違う?」


「―――――――――誰ですか。デマを流した奴は。いいから出てこいや、デス」


「まっ、ぶっちゃけますと、私的にはどうでいいことなのでスルーしておいて……、読者の皆様。お久しぶりです。エレーナです」


「別に久しぶりじゃないし、いいから早く話を進めろって?」


「全くTPOがなっていない猿共ですね」


「いいですか。何事もその場その場の雰囲気作りと、状況に置いた説明が必要不可欠な物なんですよ。ですから……」


「はいは~い。ぶっちゃけトークしゅう~りょ~」


「んな!? エルフリーナ、横からしゃしゃり出てきて私のマイクを奪わないでください!! まだ私が話している最中でしょう!!」


「はいはい。その長い講釈はそこまでにして、早く本編に進もうよ。みんな待っているよ」


「~~~~~~ッ!! エルフリーナ、前々から思っていましたが、貴女のそのちゃらんぽらんな……、「はいは~い。それでは本編へどうぞ」ちょ、勝手に話に割り込まないでよ~~~~~~~ッ!!!!」


 ――――――――――――只今、修羅場進行中です。


 あ~、まさかひい様とアリッサがここまであの男に執着なさるとは……、少々予想外だったです。


 私は二神の巻き添えを食うのを避けるべく、そそくさと部屋の隅へと非難する。


 ふぅ~、どうにかテーブルの中に身を潜めた私は一息つく。


 少し狭いですか、まぁ、このくらいの狭さなら何の問題もないです。


 というか、私のようなジャンキーにはこのくらいの狭さが心地よいくらいで……、何それご褒美ですか的な。


 と、まぁ……、雑談はこのくらいにしておきまして―――――――。


 ヨイショ、との掛け声と共に私はほんの少しだけテーブルから這い出し、外の様子を窺おうと身を乗り出してみる。


 フム、まだ争いの最中ですね。というか、あのバカは……。


 そう、あのバカとは。


 この騒ぎの中でさえ涎を垂らして眠りこけてるエルフリーナのことです。


 感情が高ぶり、手当たり次第にそこら辺の物を投げつけているひい様とアリッサの巻き添えを食らいながらも、その場で熟睡できる貴女に呆れるどころか、むしろ敬意を送りたいくらいです。


 あっ、とかなんとかやっている間にエルフリーナが起きたようです。


 やはり流石の貴女も無理でしたか―――――――、って!! なんでこっちに入り込んでくるんですか!?


(いいじゃん。あたしだって巻き沿いは食いたいくないし……。っていうか、アンタだけ安全地帯に避難してるだけズルいじゃん。なんであたしもついでに起こしてくれなかったのさ)


 頬をプゥーと膨らましつつ、机の中にへとグイグイと体を押し込んでくるエルフリーナ。


 マジパネェ、です。


(―――――――そうは言いましても、普通あれだけの騒ぎがあったら嫌でも目が覚めるでしょーに。どんだけ図太いんですか貴女は)


 

(しょーがないでしょ。ここんとこしばらく満足に眠れなかったからさぁ~、ついね。それにしても……、アリッサとノアシェラン先輩があんなに怒ってるの初めて見たよ)


 いつもは喧嘩なんてしないくらい仲が良いのに、とエルフリーナ。


 ったく、本当にコイツの眼は節穴ですね。


 ひい様とアリッサは仲が良いなんて生ぬるい関係ではないです。あれはもう主人と奴隷の関係に等しいです。


 二神の間に何があったかは知らないですが、つい200年前からです。ひい様とアリッサが急に親しくなったのは。


 私はつぃと視線をアリッサたちの方へと向ける。


 まだ諍い中であったです……、ふむ。


 しかし……、気位も高いことで有名な二神が、あんな愚鈍で冴えなさそうな人間に首ったけとは。これは興味深いですね……。


(―――――――なに一神で笑ってるの。すっごく不気味なんだけど)


 はっ!? どうやら顔に出ていた様子です。


 エルフリーナの驚愕に染まった視線がチクチクと刺さるようで……、何だか非常に居心地が悪いです。


 ふぅ~、にしてもこのままの状態ではいけませんよね。早急に対策を講じねば。


 私はひい様から直に手渡された”風紀守護隊(アークヴァンヤ)第1部隊隊長”の証である腕章を握りしめ、グッと唇を噛み締めながら崇拝してやまないひい様へと正義の鉄柱を下そうと決意する。


 スゥーと大きく息を吸い、フゥーと肺の中に溜まった空気をゆっくりと吐き出す。この一連の動作を数回ほど行い、ようやく準備が整った私は机の下から這い出し、ひい様とアリッサの元へと歩み寄る。


 私が歩み寄っても全く気が付かないとは……、凄い集中力です。


 ヒシヒシと肌を通して伝わる気迫に、何度もゴクリと喉を鳴らしながら唾を嚥下する。


(――――――喉が渇いて仕方ないです。やはり実力は神界随一と謳われるだけありますね)


 しかし、ここはゴッド・ウィアーヴとは違う理屈で成り立っている次元”マールスデウス”なのだ。


 ここでは私の言うことに従ってもらう、そう。それが例えひい様であろうと。


 このままこの騒ぎが続けば、学院の規律が乱れる、ひいては学院の風格が貶められることになるのだ。


 それだけは絶対に見過ごすわけにはいかない。


 学院の問題を取り除くのが、この私”風紀守護隊(アークヴァンヤ)第1部隊隊長”の使命だからです。


 いざ、と意気込みながら右足を踏み出す、も―――――――。




「――――――エレーナ。決意を固めた矢先にこんなこと言うのは、ほんとーに申し訳ないんだけどさ。……なんかもう仲直り? したみたいよ」 



 ――――――――ズコォォォォォォォォ!!!!!!


 

 そんなバカな、ですぅぅぅぅぅぅ!!!!


 

 こんなことがあっていいのか!?  私は今ひじょーに味の濃いものをヤケ食いしたい気分です。


 どうせエルフリーナの言っていることだから嘘なんでしょう、とモヤモヤする胸の内に保険をかけながら、チラリとひい様たちの方に視線を向ける。


 ――――――――本当、だったです。


 なんですか、このやるせない感じは……。


 ああいうテンプレ的なのはいらねぇです。


 自分たちは分かってる、みたいな雰囲気。


 そういうのはラブコメの主人公とヒロインだけにしてほしいですね。


 と、いうか……、せっかくの私の出番だったのに、残念です。


 どうせ、私は日陰者なんですよ。メインヒロインはあの二神なんです。


 ネガティブオーラを纏いながら、床にへたり込みながら指先でのの字を書き連ねる。


 確か”人間界”では気分が落ち込んだ時に、こうやるのが基本なんですよね。ワールドワイドなんですよね、本で読みましたから完璧です。


 しかし……、こうもあっけなく終わるとは。少々拍子抜けです。


 もう少しドロドロしてくれたら面白―――――、ゲフンゲフン!! 治めがいがあったのにです。


 まぁ、仲よくすることには何の異論はないですし……。この場合は良しということにしましょうか。


 私は気を取り直して、いつもの調子でひい様たちの元へと歩み寄る。


「――――――――ひい様、アリッサ。どうやら落ち着きを取り戻したようですね」


 ひいさまたちは私の存在に気づいたようで、肩を荒く上下に揺らしながら未だに殺気宿る瞳をこちらに向けてくる。


 特にひいさまの赤い瞳に見つめられると、無意識的に喉がヒュウと息を吸い込み、心臓がバクバクと激しく脈立つ。


 だが、その事を悟られぬように表面上は何でもないような素振りを見せ、勤めて冷静に淡々とした足取りで徐々にその距離を縮めていく。


「……エレーナ、何の用よ」


 ぞわぁ! ……うわぁ、鳥肌がたったです。


 普段より一割増ほどの威圧感があるです。怖い、怖いです。


 しかし、ここで逃げるわけにはいきませんです。


 私は、この学院の風紀を守る使命があるのです。


 それは、引いては”ひい様”を守る、ということにも繋がるのです。


 ゴクリ、と渇いた喉を潤すために唾液を飲み込みつつ、



「――――――――――私の存在意義は、この学院を守ることだけにあります。故に、どんな些細な争い事も見逃すわけにはいかないのです」



 震える声でそう言い放つ。


 すると、間髪入れずに、



「――――――――――――だから?」



 不機嫌そうなひい様の声が突き刺さる。



 ひい様ははっきりしない答えは好かない性分の持ち主で有名なお方だ。


 確かに、さっきの言い方では今一つ意味が伝わらないです。


 脳内で言う内容を逡巡させつつ、私はゆっくりと閉じた口を開く。



「―――――――――――私は、この学院と貴女様の事を尊敬しております。学院の風紀を守るという事は、”マールスデウスの白薔薇(ネーブリュス・ガイル)”の異名を持つひい様を守るという事に繋がるわけなのです」



 ですので、何が何でも私は、己の任務を全うする所存でありますです。


 私の答えを聞いたひい様たちはポカンとした表情を浮かべていたが、やがて呆れを超えた、何だか痛い子を見守るような憐れみが困った笑みを浮かべて、


「そう、それは良いことね。けれど、もう大丈夫よ。貴女は、貴女の果たすべき事を第一に行動しなさい。――――――――――いいわね?」



 あぁ、やっぱりひい様は私の崇拝すべきお方だ。


 あの方をお守りすれば、私は―――――――――――。



 だけど、何故でしょう。


 なんで、こんなに胸がチクチクと痛むのでしょうか。


 ひい様を崇拝するこの気持ちに、何ら偽りはない。


 むしろ、以前よりもっともっと、ひい様を思う気持ちは強まったハズなのに……、この胸の内に立ち込める黒く、モヤモヤとした気持ちはなんなのでしょうか。


 まさか、この私が―――――――――――、嫉妬している?


 誰に? アリッサ? それともあのバカ(エルフリーナ)? 


 ―――――――――――もしや、ナカムラユウトに?


 いえ、そんなはずはないです。


 なんで、私があんな人間風情に嫉妬しなければいけないんですか。


 でも……、考えられるのはそれしかないですよね。


 そうです。私は、ナカムラユウトに嫉妬しているのです。


 何百年と一緒にいたひい様が、ずっと恋い焦がれてきた人物が目の前に現れたことに危惧し、気づけば私は年甲斐もなく嫉妬していたのです。


 運命というのは、なんと残酷なんでしょうか。


 それは、我々()も例外でないのかもしれません。


 嫉妬の行く末は、”破滅”でしかないのに。


 分かっていても、止められない。


 否、止めるわけにはいかないです。


 結局、私たちと彼とでは進む時間が違うのです。


 だから、人間なんかに恋慕を募らせたって、後でひい様が悲しむだけです。


 これ以上、ひい様の心を無くすわけにはいかないです。


 


 ですから、私は―――――――――――――――――




「―――――――――――御身の仰せのままに」



 

 跪き頭を垂れて、お決まりの口上を口にする。



 

 

 ―――――――――――――貴女様を守るため、心を鬼にしますです。






「……人間なんかに、私のひい様をやれるものか、です」




 誰にも聞かれていないと思った独り言が、背後に控える一神に聞かれていると思わないエレーナであった。




 

 その言葉を聞いた一神は、たった一言。





「――――――――――愚かね、エレーナ」と、呟いたのであった。





 今回はえらく矢継ぎ早に仕上げてしまいました。

 ほんとんどエレーナの視点ばっかで、ノアルは最後の方にちょっことしか出番がありません。今後は気を付けていきたいと思います(焦)。

 次回からはようやく本編に移行する予定ですので、よろしくお願いします。

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