幕開け2.5話 俺の幼馴染がヤンデレのはずがない!!
ヤンデレの定義が分からないので、自分の思うヤンデレを表現してみました。樹里がえらく暗黒面に陥っていますが……、決してお父様を殺すわけではないので、そこはご了承ください。
次回はアリッサたちへと焦点を向ける予定ですので、よろしくお願いします。
今回も短くてすみませんです(>_<)
勇人がいなくなってから、約5時間45分24秒経った。
思い出しただけでも、本当に忌々しい。
いつも隣にいた、最愛の人の存在を無意識的に感じながら、あたしは一本ずつ丁寧な手つきで藁を編み、数体の人形を作り続けていた。
勇人が連れ去らわれた後、あたしは為す術もなくて、何もできない自分に歯痒さを感じつつ、この衝動を抑えるためにも自室に閉じこもり、一人黙々と藁人形作りに精を出しているというわけなのだ。
今まで作った藁人形の数は……、合計19体ほどだ。今作っているのでキリがいい20体になる。
「――――――よし。完了、と」
最後の藁を編みこんだあたしは、自身の内で燻る怨念を人形に籠め、窓際の縁にそっと置いた。
うん、我ながらいい出来だわ。
これなら、多少は効果があるかもしれない。
窓際を禍々しく彩る人形たちに視線を向けながら、ギリ、ギリと歯で何度も爪を噛む。
あぁ、またやっちゃった。
せっかく綺麗に整えたのにな……、と噛んだせいで少し欠けてしまった爪へと視線を下す。でも止めようとは思わない。
だって爪なんていくらでも生えてくるもの。
それに比べて、あたしの”勇人”はたった一人しかいないもの。
彼を取り戻すためなら、あたしの体なんてどうなってもいい。
でも、もし”勇人”が帰ってきたら、いつもの綺麗なあたしでいなくちゃ。こんなボロボロのあたしなんてきっと幻滅すると思うし。
そんな事態を招かないためにも、あたしは身も心も勇人が憧れる”優等生”でなければいけないのよ。
でも、今はいいよね。
だって、勇人はいないんだもの。
だから、あたしがどんなに薄汚れても、大丈夫なの。
フフ、フフフ。
待っててね、勇人。
必ず、このあたしが助けに行くから。
そうだわ。その為には、少々手荒なこともしないとね。
あたしは部屋の隅に置かれた鏡台へと赴き、ジッと自分の今の姿を見つめる。
自分でもゾッとするほどに、暗く禍々しい雰囲気をまとった女が立っていた。数時間前までの”自分”はもういなかった。
しかし恐れるどころか、むしろ喜ばしく思う自分がいた。
そうよ、今更怖気つくわけにはいかない。踏み止まるわけにもいかない。
あたしは、前に進むほかないのだから。
彼を取り戻すためなら、どんなことでもしてやるわ。
そうね、まずは手始めに―――――――――――。
「―――――――”あの男”か邪魔だから、少し痛めつけちゃおうかな」
フフフフフ、と薄ら笑いを浮かべながら、あたしは壁に貼り付けた一枚の写真へとコンパクトナイフを突き刺した。
その写真には、楽しそうに笑うあたしと、――――――お父様の姿があった。