幕開け2 俺の母ちゃんが悪の組織の一味のはずがない!!
さてさて、一旦場所は変わって、ここは人間界、の――――――。
「これは一体どういうことなのですか!?」
とある高層ビルの屋上階の一室。
道内一の大企業”首藤コンポレーション”本社であるこのビル一体に、若い女の声が地鳴りのように轟いていた。
その豪奢な造りの一室に一人の老人と若い女が対峙していた。
老人はまるでマフィアのボスのような、派手ながらもキチンとしたスーツを着用し、老衰を思わせないような若々しいオーラを身に纏い、不敵な笑みを張り付けながら眼前に立つ白衣姿の女を見つめていた。
「――――――どうしたのかね? 中村研究員。そんなに息せき切って。それに、今が何時か分かっているのかね? この時間帯には私はいかなる人物であろうと面会謝絶にしているはずだが?」
「――――――そのことは重々承知しています。しかし、今回ばかりは事情が違うのです」
「ほう? どう”事情”が違うのかね?」
顎鬚を撫でながら、老人は女に問い返す。
女は老人の食ったような態度に腹を立てて、バン!! と両の手で黒檀で出来た机を思い切り叩き、煮え滾る怒りのままに咆哮する。
「ッ!! ふざけないで!! 私は真剣なのよ――――――アグッ」
老人は女の言葉を遮るようにして、頭上で留めた柔らかな髪を思い切り掴み上げ、グイッと老人とは思えない力で引き寄せる。皺が深く刻まれた顔には涼しげな笑みが浮かんでいた。
その拍子に結わえていた髪がほどけ、艶のある黒髪が背中で踊る。
「――――――フフフフ、あまり怒るものではない。せっかくの美貌が、台無しであろう? ――――――なぁ、我が半身よ」
グッと力を込めて髪の毛を掴んだ手に力を込めると、女は痛みに顔を歪めて呻き声を上げる。
「あまり勘違いしない方がいいぞ、この”交じり物”め。お前は50年前にこの兄とは違う存在に成り下がったのだからな。何の不自由もなく生きていられるのは、この私の御陰だと思え」
耳元でそれだけを言い終えると、もう用済みだ、と云わんばかりの粗雑な態度で女の髪から手を放す。
女は目じりに涙を浮かばせながら、悔しげに唇を噛む。
「―――――そんなに怒るな。いいか? これは我が一族の”報復の幕開け”がやっと始まったばかりなのだ。決して邪魔など、させぬ。あの思い上がった異形に我が”人類”の恐ろしさを、とくと見せつけてやる。―――――フ、フフフ、アーハハハハハハハ!!!!!!」
高笑いをする老人、もとい、自分の血を分けた半身へと視線を向ける女は、目を背けるように首から提げたペンダントを取り出し、その裏に張られた小さな写真を見下ろし、ギュッと胸元で強く抱きしめ、
「―――――――勇人、ゴメンね」
許しを請うように、震える声で女―――――美里は呟いた。
願うなら、再び会えることを信じて。
美里はそんなことを願う権利はないことを分かっていたが、それでもまたあの”笑顔”が見たくて、一縷の望みを託して天へと祈った。
それはほんの、些細な願い。
――――――どうか、元気にいて、と。
今回はとっても短いです。なんかドロドロした展開になっています。美里も伏線の中の”ピース”の一人なのでよろしくお願いします。