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    人類最弱な俺が(色々な面で)神様に勝てるはずがない(3)

(???)


 はぁ、本当にしつこいわね!!


 私は背後から執拗に追ってくる無骨な機械を巧みに繰っている、仇敵の姿を何度も振り向きながら木の枝を飛ぶようにして逃げ回っていた。


 ここはアニマリーファズでも有数の森林公園であり、かつマールスデウスに通う生徒しか立ち入れない場所でもあった。


 その理由の一つはここが希少動物の保護区であり、その動物を学院の生徒が飼育する名目で王政府から無料で下賜してもらったからだ。


 学院に通う生徒は王侯貴族の子息や令嬢がほとんどであり、かつここに通う生徒はみな武芸に通じており、夜盗や山賊から動物たちを保護するには打って付の逸材であった。


 しかし、人数が人数なので、生徒の中からより武芸に通じるのを選んで配属することに決め、その結果……、私が選ばれてしまったわけで。


 今になって弓の名手だったことを恨んだけれど、時すでに遅し。


 こんなのに選ばれたって全然名誉なことじゃなかった。


 みなは口を揃えて『羨ましい』『名誉なことだ』と言うけれど、いざ『そんなに言うなら代わってやるわ』と言うと、皆一様に目をそらす。


 ほんと!! みんな口先ばかりなんだから!!


 口で言うだけなら誰でも出来るわよ。無責任なこと言わないでよ!!


 と、激しく喚きながら暴れまわっていたところ、あの”お節介女”に鉢合わせたわけで……。


 それで今現在こうして追いまわされているわけ。はぁ、本当。いい加減にしてほしい。


 あの科学マニアには本当にウンザリしている。


 科学なんて何も出来ない猿が生み出した愚法じゃない。あんなの、万能の民である“耳長神族”の私たちには必要ないわ。


 なのにあの娘ったら、一神で勝手に盛り上がってさ。みんなの迷惑も顧みずにはた迷惑な発明を続けているし。


 今だって・・・・・・、チラリと後方を振り返ってみる。


 その瞬間、顔面へと粉々に砕け散った石粒がもの凄いスピードで飛んできたので、慌てて体勢を立て直して手にした弓を前方に突き出すようにして構え、それをクルクルと高速回転させながら石粒を弾く。


 まったく!! せこい攻撃ばっかり使って!! 


 チッ、私は小さく舌打ちすると、おもむろに腰に下げたポシェットから木の葉を一枚取り出すと、たった一枚の木の葉から白く輝く一本の矢を錬成させる。


 それを弦に番えた私は標的に照準を合わせ、弓を番えた弦を思いっきり引き絞る。慎重に鏃の先を標的に合わせると、なんの躊躇いもなく極限まで引き絞った弦から手を離す。


 ヒュン、と鳥が啼くような音と共に弦から勢いよく放たれた弓矢は、一寸もぶれることの無く一直線に標的に向かって飛んでいく、が・・・・・・。


 ガキン!! 私の手から放たれた矢は無様にも鋼鉄のボディにあっけなく弾かれてしまう。


 ッ!! クソ!! 本当に忌々しいわね!!


 岩をも貫く精度と攻撃力を兼ね備える私の矢も、あの特殊連金で錬成されたボディには全く歯が立たないわ。悔しいけれど、海神族だからと言って馬鹿にできないわね。


 私は再び飛んできた無数の石粒を弓矢を使って避けつつ、木々を巧みに使って森の奥にある“秘密の場所”へと急ぐ。


 あそこに避難できたらとりあえずは大丈夫だし、と私は追いすがる巨体を見やりつつ呟く。


 しかし、あいつはやはり“ぬかりなかった”。


 なんとあいつは鋼鉄製の機械の腕を事もあろうに、飛ぶようにして木々の合間を伝いながら逃げる私に向かってぶっ放してきたのだ。


 間接部分から火花を散らしながら、ゴゴゴ……、と爆音を響かせながら一直線に向かってくる二本の腕。 

 

 思いがけない奇抜すぎる攻撃に、私は紙一重で避けるので精一杯であった。


 髪の毛を数本ほど蹴散らせながら通り過ぎた“腕”は、私のすぐ真後ろに聳え立つ巨木を二本ほど薙ぎ倒し、見事な機動力で元の場所へと何事もなかったかのように帰還していく。


 私は自分の代わりに攻撃を食らった木々の顛末を見下ろし、サァァァァァと全身から血の気が失せるのを感じた。


 あの攻撃を直に食らっていたらと思うと……、とそこまで考えた私はブルブルと恐怖のあまり身を震わせた。


 っていうか、こんなの仮にも同じ学び舎で学ぶ級友に放つ攻撃じゃないじゃない!! 


 と、攻撃を仕掛けてきた張本神に直談判するも。


『……規律のためよ』の一点張り!!


 そうよ、こいつはこういう奴だったわ!!


 規律や戒律の為ならば、どんな手段も厭わない“変人アンギィル”なのだから!!


 怒りのままに再び数本の矢を練成すると、当人に当たるかなどお構いなしに容赦なくぶっ放す。


 こうなったらこっちも遠慮しないわ!! 



  ―――――――――切り刻め!! “ 三門の戦斧(ニエロ・スチュールフ)”!!



 私たちの一族に伝わる古代呪文を唱えたと同時に、放たれた数本の矢が三つの戦斧に変形し、鋼鉄のボディを切り裂かんばかりに鋭利な刃を向けて襲いかかる。


 向けられる鋭利な刃に臆することなく、機械の肩に腰を下ろすアイツは冷静沈着な態度で的確に指示を飛ばす。



『……ファイダナ(私の絶対なる友よ)、不届き者に聖なる鉄槌を』


 

 スッ、とアイツが手を前方に差し出すと、機械も同じようにして両の手を前へ差し出す。


 すると、その手を中心に光の粒子が纏わりつき、次第にそれはドンドンと大きくなり、やがて一つの光の帯としてアイツの周りを包み込む。


 その光がの正体が何なのか分からなかったが、私は本能的にその光がヤバいものであると察知し、慌てて身を翻して戦線離脱すると、近くの茂みに身をひそめるのと同時に。



『…… 撃て(ヴァグ)』と、アイツの淡々とした命令が辺りに響く。


 

 するとアイツを包んでいた光の帯がやがての機械の重ねられた両手のひらに集中し、やがて凝縮した力が解き放たれたかのように、ものすごい爆発音とともに一気に放出された。


 その凶悪な光の線は私が放った矢もろとも、辺りの物を盛大に跡形も残さずにぶっ飛ばした。


 その物凄い風圧には流石の私も耐えきれず、身を潜めていた私は無様にも体勢を崩して転げ落ちてしまう。その際に体のあちこちをしこたまぶつけてしまい、体の節々を襲う痛みと衝撃に小さく悲鳴をあげてしまう。


 な、なんなのあの威力は!? あんな威力の、“ノアシェラン様”以外に出せるはずが……。


 私は恐怖に彩れた顔つきになり、まるで信じられないという風に攻撃を放った張本神を見つめるも、相変わらずの無表情。


 そこには、何の感情も見受けられない。


 いつも見慣れた表情なのに、この時ばかりはとても怖く見えて仕方なかった。


 早く、早くここから逃げなければ、と心がしきりに警告のベルを鳴らす。


 この女は思いこんだら良くも悪くも一直線。要は加減を知らないのだ。


 そんなのに付き合っていたら命がいくつあっても足りないわ!!


 私は地球に生息するとされるコメツキバッタの様に跳ね起きると、ズシーン、ズシーンと地響きを伴う足音と共に迫り来る“奴”から、背を向けて逃げようとすると。



『・・・・・・逃げるのですか。エルフリーナ。その様な愚行に走るのなら、もう容赦はしませんよ』



 どの口がそんなことを!! っていうか、アレでも手加減してたつもりなの!?


 やはりあの女は普通じゃないわ。やっぱりゴッド・ヴィアーヴ一の変人ね。


 ここは逃げるが勝ちよね、もうあんなのに付き合うのは止め止め。


 私は首をヤレヤレという風に振ると、慣れた手つきで次の枝に移ろうと手を伸ばそうとするも、そこにいたあるモノが視線に入り、



 ――――――――――い、いやぁああああああああああああああああああ!!!!!! 蛇、蛇がぁあああああ!!!!



 細長い緑色の鱗をした爬虫類を見た瞬間、私は情けなくもブワァと涙腺から涙を溢れさせ、まるで怪獣の咆吼のような悲鳴を上げた。


 そう、私は生き物が大の苦手なのだ。


 これは森の中で生活を営む耳長神族にとっては致命的で・・・・・・、治そう治そうとは思っているのだけれど、こればっかりはやはりいくら努力しても駄目なのだった。


 本当は草や花も駄目なのだけれど、どうにか手袋をしていれば触れる程度までは改善したのよ。だって木々を伝い渡れないと生活が出来ないんだもの。

 

 それでも素手とかでは触れないんだけどね・・・・・・。


 って、そんな回想に浸っている場合じゃなかったわ!! 木の枝に蛇が鎮座しているということは、私は木の枝を掴めないわけで・・・・・・。ということは私の体は地面に真っ逆さまというわけで。



 ――――――――きゃあああああああ!! この高さから死んじゃう!! 流石に無理、無理!! 


 誰か、誰か助けて!! 


 私は地面に吸い寄せられる間、目を瞑って必死に助けを請うていたが、今この場にはあの女と私しかおらず・・・・・・(あの女が助けてくれるなんて殊勝な考え持っているわけないし)。


 このまま死ぬのかしら、と体に感じる重力と共に深い絶望感に支配され始めた私の体。


 今か今かと地面に激突する自分を思い描きながら、短い神生に別れを告げようとしたその時、



 ―――――――――――――ブギュ!!


 

 あら? 何か柔らかい感触が。この生暖かい感触はもしかして・・・・・・。


 私は恐る恐るという風に瞼をうっすらと開けると、自分のお尻に退いている物体を確認すべく視線を下に向けると、なんと。



 ―――――――――――なんか見窄らしい出で立ちの男が目を回して伸びていた。



 私は思わず「きゃあ!!」と悲鳴を上げて、慌てて男の背中から離れる。


 どうやらこの男の上に落ちたおかげで怪我もなく無事だったけど・・・・・・、この男は一体・・・・・・?


 私は自分のピンチを助けてくれた男に興味を抱き、ついマジマジと観察してしまう。


 へぇ・・・・・・、こう結構見てみるとなかなか格好いい顔してるじゃない。それに珍しい服ね、こんなのこのアニマリーフィズでも、ううん。ゴッド・ヴィアーヴでも売ってないかも。


 それに黒い髪というのも初めて見たわ。本当に真っ黒なのね、何の混じり毛のない。いいなぁ、こういう髪色の方が威厳がありそうだもん。


 って、あら? なに、この耳。こんなに短くて丸っこかったかな?


 サワサワとしばらく手の中で黒く短い髪を弄んでいた私は、ふと見慣れない耳が視線に止まり、思わず自分の耳を触って確認してしまった。


 手の中にあるのは長く尖った、見慣れた耳。


 片やもう片方の手の中にあるのは短く丸い耳。


 

 これはもしかして――――――――――――――――――――。




『・・・・・・人間、ですか?』




 私が言う前に、いつの間にか私の背後に立っていた女―――――――エレーナが、私の肩越しにまるでのぞき込むような体勢のまま淡々とした口調で呟いたのであった。 


 

 

 


(エレーナ)


 全く、エルフリーナにも困ったものです。あれほど風紀を乱すなと再三注意しているのに。


 私はいつものように自室に引きこもり、これまたいつものように日課である多種多様な実験を行いながら、学院一の問題児である旧友の顔を思い浮かべながら呟く。


 あの馬鹿は、一日一回は何か揉め事を起こすのだから、その対応に負われるこちらにしてみれば堪ったものではないです。


 はぁ~。それにしても喧噪に満ちた外の世界に比べたら、やはり私の部屋は非常に和みますね。好きな物に囲まれて日々を満喫する、私こそが神としての立派なお手本的な生活を送っているのではないでしょうか。


 皆さんも早く趣味を見つけたらいいのに、クスクスと笑いながらフラスコに入った紫色の怪しい液体を、部屋の中央に置かれた窯の火で熱せられた鉄鍋の中にこなれた手つきで注ぎ入れる。


 ドポドポドポ、と重々しく粘着質的な音を立てながら液体を鍋の中へと注ぎ終えた私は、空になったフラスコを錬成すると、私の手の中でフラスコは一本の銅製のかき混ぜ棒へと姿を変える。


 しばらくそれを用いて鍋の中身をかき混ぜていると、透明だった鍋の中身が七色の光を放ち始めたかと思うと、物が腐ったかのような刺激臭が立ち上ったかと思うとあっという間に部屋中に充満し始める。


 ―――――――――――クスクスクス、いい出来です。これが完成した暁には、私の野望が完遂することに。


 思えば長かったですね。研究等に没頭してから早1000年・・・・・・。しかし、この長い道のりももうじき実りますです。


 私はフフフフと含み笑いを漏らしながら、いい感じに沸騰し、ボコボコと無数の気泡を弾けさせる青紫色の液体へと、一週間前に町の薬屋で調達した材料を投入しようと試みる。


 ――――――――――――干した蜥蜴の目、サキュリーの根、淡色鼠(ネオドラヌ)の尾、っと。


 私は購入した商品の確認をしながら順番ずつに机の上に並べる。どうやら購入品の欠品はない様子。


 さて、そろそろ仕上げに取りかかりましょうか。


 私は液体をかき回す手を止め、机上に置かれた材料を手に取り、やや緊張した面持ちで鍋に投入したその時。




 ――――――――――――ドカァァァァァアアアアアアアアアアンン!!!!!!




 激しい爆発音が私の部屋がある西館の反対側―――――つまりは東館―――――で轟き、その爆発音が響くのと同時に激しい揺れが学院内を襲い、私の部屋もその揺れの被害をもろに受けた。


 下から突き上げるかのような縦揺れのそれは、事もあろうに後もう少しで完成間近だった鍋をひっくり返し、約200年かかった汗と涙の結晶を床にぶちまけさせるハメに・・・・・・。


 液体がもろに溢れた木面の床がシュワシュワと音を立てて溶けていく様を呆然と見下ろしながら、私は深い虚脱感に支配されるのと同時に、まるで沸騰した溶岩が血管中を巡り回ったかのような激しい怒りが沸き上がってくるのを感じた。


 抑えきれない怒りのオーラに呼応するかのように、私の水色の髪や白衣がユラユラと風もないのに靡き、その揺らめきが私の怒りのパラメーターを表しているかのようです。




 ―――――――――――――――――――――ゆる、しませんよ、エルフリーナ。




 コハァ、と肺に溜まりに溜まった酸素を吐きつつ、私は呪詛の言葉を呟く。


 もう、絶対に許しません。泣いても、叫んでも、絶対に。



 私がキッと片眼鏡モノクルの奥の瞳を殺意で煌めかせると同時に、部屋の扉がバァン! と勢いよく開き、




『た、大変です!! 西館3階の西灰燼ダウトハイヴァの間で、エルフリーナが数名の生徒と抗争を繰り広げております!!』



 と、私の直属の部下である獣神族の男子生徒が息を切らせながら、事の旨を知らせに室内を飛び込んできた様子です。


 やはり、あの馬鹿が発端ですか。いいでしょう、少しあの馬鹿にお灸を据えてやりましょうか。


 私は今まで着ていた白衣を脱ぎ捨て、ソファーの背に無造作に掛けてあった黒いマントを羽織り、左腕に白色の腕章を巻き付け、黄金で出来たピンでずり落ちないように留める。



 ――――――――――――――さぁ、行きましょうか。




 クスクスクス、この私を本気で怒らせたことを、たっぷりと後悔させてあげますよ、エルフリーナ。





 このマールス・デウスは東西南北の4つの館で構成されており、西と東は生徒たちの寮、南と北は抗議棟や実技棟と定められている。


 東は海神族と巨神族、西は耳長神族と獣神族と種別ごとに割り振られており、せめて寮の中でならあの馬鹿の相手をしなくていいと思っていた矢先にこれである。


 全くいい迷惑です、本当に。


 私はズンズンと荒い足取りで西館へと続く連絡通路を、背後に数名の部下を従えながら進んでいく。少し長い黒マントも私の怒りに呼応するかのように激しく靡いていた。


 私の怒りのオーラに気圧された部下の内の一人が、恐る恐るといった体で話しかけてきた。


『あ、あの隊長。今日は何故そんなに怒っていらっしゃるのでしょうか?』



 ――――――――――――――何故って、どういう意味ですか?



『ひっ!? だ、だってエルフリーナの事はいつもの事じゃないですか。いつもは笑って済ます隊長にしては、その怒りようは珍しいかと思いまして・・・・・・』



 ――――――――――――――貴女は馬鹿なのですか? ネリー。


 

 私の声を聞いた女生徒隊員であるネリーはヒィィィ!! と叫び声を上げてズリズリと後退りする。


 そんなに後ずさるほど私の声が恐ろしいのですか? まぁ、自分じゃよく分からないですけどね。


 私はそんな彼女に一瞥することもなく、クルリと踵を返し目的の場所へと足早に向かう。


 一刻も早くこの騒動の原因であるエルフリーナを痛めつけたいです。しばらくは動けないくらいに、メタメタのギタギタです。それほどまでに私の怒りは大きいのです。


 そうこうしている間にどうやら目的地に着いたようですね。


 私は凄惨な争いが繰り広げられている、通常は静閑な趣の西灰燼(ダウトハイヴァ)の間を冷え切った眼で見渡す。


 どうやらホシは逃げたようですね。チッ、逃げ足の速い。


 着いたことは着いたのですが、もう既に事が終わった後でした。ぬかっていたです。 


 先程の爆発のせいで壁の一部は損壊し、粉々になった大理石の破片が真紅の絨毯が敷かれた床に散らばり、飛んだ衝撃によるのか新品同様だった絨毯は派手に引き裂かれ元の体を失っていた。


 あの馬鹿、こんな狭い場所で“爆撃の戟グランデル・ノヴァンズ”をぶっ放したのですか。


 ゴッド・ヴィアーヴ広といえど、この様な大規模な攻撃を行えるのは、私を含め四神しかいないですしね(もちろん四神というのはアリッサ・エルフリーナ・ノアシェラン様・そして私を含めた神の総称なのです)。


 各神族の王族は大なり小なり神紋を所有していますが、大体後天的な要因で神紋を己の体に刻み込むのですが、ノアシェラン様だけは別なのです。

 

 あの方こそ“奇跡”の象徴なのです。神の中の神と言ってもおかしくないです。


 まぁ、話がそれましたが・・・・・・。とにかく、その神紋のおかげで私たちは特別な力を行使できることが出来るのです。


 今回の騒動もエルフリーナの神紋が原因でしょうね。神紋の力は感情によって左右されるものですし。

 


 ――――――――――――――それでは、此度の事故の報告を。簡潔かつ明瞭、そして迅速に。



 私の指示を聞いた部下たちはハッと声を揃えて敬礼すると、順に口を開いて己が得た情報を報告し始めた。


『負傷は約25神ほどで、不幸中の幸いと言ったところでしょうか。今のところ死傷者は出ていません』


『ですが建物の損壊が激しくて、しばらくは西館を封鎖せねばならないかと・・・・・・』


『エルフリーナのおかげで資金がもう底を尽きかけています。あいつのせいで学院の生徒は路頭に迷うことになりますよ!!』


『もう学院側もこれ以上修繕費を工面することは容認できないと仰っています』


 良い報告が挙がらなくて皆『万事休すだ』と口を揃えて、絶望的な表情を浮かべて天井を仰ぐ始末。


 ふむ、今回ばかりはちょっと、いやだいぶ風向きが悪いかもしれないですね。


 少々度が過ぎたようですねエルフリーナ。



 ――――――――――――――皆、これは最悪の事態も想定せねばならなくなったようです。


 

 私の言葉を皮切りに周りに控えた部下たちからザワザワとどよめきが轟く。


 それもその筈ですよね。あなたたちの気持ちも痛いほど分かります。


 あんな馬鹿で問題児(トラブルメーカー)でも大切な級友ですものね。


 私の、つまり学院の風紀全般を取り締まる“風紀守護隊(アークヴァンヤ)第1部隊隊長”の発言力は、このマールスデウスにおいて3番目くらいの権限があるのです。


 つまり、今のは私を介しての学院側の最終通告といったところでしょうか。


 

 ――――――――――――――では、あなた方は学院に残って事態の収束を。私はあの馬鹿を追いかけます。



 私は部下に命令を告げると、『はいっ!!』と元気よく足並み揃えて敬礼し、命令を果たすべくそれぞれ対応する場所へと一様に駆け出す。


 私は遠ざかる部下の背をしばらく見つめた後、足早に踵を返してある場所へと駆け足で向かう。


 


 その場所とは――――――――――――――――――――――――――――。





 学院東館の外れにひっそりと佇む一軒の小さな小屋であった。


 瓦礫で作られたいかにも古そうな外装とは裏腹に、いざ扉を開けてみると、その内装はまるでSF漫画さながらの中々神界ではお目にかかれないほどのハイテク機器で埋め尽くされていた。


 そのハイテク機器の中央の台座に眠るようにして座っている、一人の少女? がいた。


 その少女は数え切れないほどのケーブルを体の至る所に繋げ、そのケーブルが伸びる先には精密そうな機械が所狭しと並び、複雑な機械音をひっきりなしに発していた。


 まるで眠っているかのように見える、この人形のような精巧で無機質な美貌を持つ少女は室内に、誰かが入ってきたのに気づいた様で閉じていた瞼をゆっくりと開ける。


 キュイィと機械音を響かせながら開いた瞼の奥に宿る瞳は、逆十字架と一振りの短剣が交差した模様が入り組んだ、まぁ、要は普通の体を為していなかった。


 明らかに作り物の目をゆっくりと360度四方に動かしつつ、自分のテリトリーに侵入してきた何かの正体を探っていると、視界の端に見慣れた姿が映り込み、少女は瞳に宿る警戒心を雲散させる。



『・・・・・・貴女でしたか、マスター。他神(よそ)の部屋に入る時はノックするというマナーを忘れたのですか?』


 

 ――――――――――――――相変わらずの減らず口ですね、ファイダナ。



 いつもと同じ調子の“発明品(ファイダナ)”に、私はフゥ~と息を吐きながら相槌を打つ。


 ここは私の第二の発明部屋であり、寮の部屋では出来ない部類の発明を行う際の場所であり、この深いダナは私の記念すべき発明品第1号なのです。


 今はこの部屋の所有者はこのファイダナに移行しつつあるのですが、まぁ・・・・・・、今はそのことはどうでもいいです。


 

 ――――――――――――――ところで、そのファイダナ。貴女に頼み事があるのですが・・・・・・。



 こいつに助けを求めるのは少々癪ですが、今は時と場合を選んでる余裕はないのです。


 私の心理を巧みに汲み取ったファイダナは、無機質な美しさを持つ顔を心なしか嬉しそうに綻ばせ、


『・・・・・・どうしよう、かなです。あの傍若無人なマスターが、このファイダナに頼み事なんて。こんな機会(チャンス)滅多にないことですし』


 フフフフ、とバンドの巻かれた手を口元に寄せて忍び笑うファイダナ。

  

 なんていう性格の悪い機械なのでしょうか。作った奴の顔が見てみたい・・・・・・、って、私でしたね。


 でも私はファイダナよりは性格いいです、多分・・・・・・。

  

 

 ――――――――――――――巫山戯ないでファイダナ。本当に緊急事態なのよ、今回は。 



 私はファイダナの足下に縋りつき、切羽詰まった表情を浮かべて彼女の顔を見上げて呟く。

 

 もうこなったらプライドなんて、犬にでも喰わせてやればいいわ。


 一国の姫が退学なんて汚名が広がれば、学院の名が、ひいては私の名前に傷が付くハメに。


 これは早急に片付けなければいけないのです。


 それに何も策を講じてないわけじゃないですしね。勝算は我が手に、です。


 私の懸命さが伝わったのか、ファイダナは渋々といった感じだったが私の指示に従うと言ってくれた。



 ――――――――――――――やはり、貴女は私の一番の友ですねファイダナ。


 

 私は喜色満面の笑みを浮かべ、彼女に繋いでいたケーブルやらバンドらを外しつつ、ファイダナの耳元にソッと唇を寄せ、恋人に囁くような甘く蕩けるような口調で、



 ――――――――――――――囁け(ヴィラ)我が蒼天の小鳥よ(ヘリオウィル)その歌声を天に響かせ(キーリンス・コール)



 彼女の最深部にインプットされた呪文を言い終わるのと同時に、ファイダナの体が眩い光に包まれ、次第にその光はどんどんと輝きを増していき、この室内を真っ白に埋め尽くすほどであった。


 光が静まるのと同時に私の小屋は巨大な何かによって派手にぶっ飛び、綺麗サッパリに跡形もなくその姿を消した。


 濛々と辺りに立ちこめる白煙とパラパラと頭上から降り注ぐ木屑の合間から覗くのは、無骨な造りの巨大で強大な一つの歩行機械。


 私は天にまで聳えるかのような、巨大なソレの足下に歩み寄り、ザラザラとした表面を撫でながら愛おしげな眼差しを向けて、



 ――――――――――――――行きますよ、ファイダナ。あの馬鹿に正義の鉄槌を下しに行きましょうか。



 私の声に応えるかのように、歩行機械(ファイダナ)はグォォォオオオオオ!!!!! とその無骨で強大な体に釣り合ったまるで獣が飢えたような咆吼を上げた。

 




 それからしばらくして、保護区に指定されている森に潜んでいるエルフリーナを見つけて、戻るように説得していたのですが、“変人(アンギル)”だのと馬鹿にされたら黙ってはおれません。


 私はつい我を忘れて攻撃をお見舞いしてしまい、もしかしたらエルフリーナを殺してしまったかと危惧したのですが、まぁ・・・・・・、あの馬鹿なら大丈夫でしょう。悪運も強い方ですしね。


 それにしてもやはり、ファイダナは素晴らしいです。


 少なくとも私が過去に作った数多の発明品の中でも最高の類に位置しますね。


 それでもこの威力の強さは考えものですね、後で調整しておきましょう。


 それにしても、エルフリーナはどうしたのでしょうか? まさか、本当に死んだのではないでしょうね。


 私は得も言われぬ不安感に誘われるようにして、ファイダナの肩から飛び降りてエルフリーナが吹っ飛んでいった方へと歩み寄っていく。


 少し盛り上がった斜面を登っていくと、そこからちょうど真下の位置に四つん這いのエルフリーナと、何やらもう一神の姿が小さくだが見え、私は関係ない者を巻き込んでしまったという焦燥感に駆られ、慌ててエルフリーナの元へと向かう。


 しかし、近づくにつれて何やら様子がおかしいことに気づいた私は、ソォ~とエルフリーナにばれないように背後から近づく。


 そして肩越しに様子を窺おうと体を乗り出してみると、そこには驚きの光景が広がっていた。




 そこにはエルフリーナのお尻に轢かれた丸い耳をした少年が目を回して伸びていたのですから。




 ――――――――――――――もしかして、人間ですか?



 

 私は信じられないと言った口調で呟きました。




 そう。



 今思えば、これが始まりだったのかもしれないです。



 

 私ははやる胸を押さえながら、これから起こることに期待を胸一杯に膨らませるのでありました。


 

 

 今回はこれで終わりです。

 次回から主人公と絡ませる予定ですのでお願いします。

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