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何時ものように目覚めたノルンは起き上がり深い溜息をついた。昨日色々あったためユラルルと買い物に出かける約束をすっぽかしてしまった事だ。帰ってきたノルンは膨れたユラルルを宥めるのに結局寝る間際まで付き合うこととなった。思い出すだけでも頭痛がしてくる。

 見た目は子供でもユラルルはそこに父親を感じていた。娘が父親に甘えるように駄々をこね、ノルンからの反応を引き出していく。そろそろ子供という年齢ではないユラルルではあるが、実家でお父様と呼んでいる男性はあまり好きではなかったのだ。そこにきて母親からの本当のお父様じゃないのよ宣言。見つけた男は聞いていた見た目とは180度違うが中身は聞いていたとおりであった。16歳の誕生日、世間では大人とされる日に聞いた真実に思わず飛び出してしまったのはもういい思い出である。

 ぼんやりと起きていたユラルルもノルンが起きた事ではっきりと目を覚まし起き上がる。

「うーーー、おはよ~、ノルン。」

 そう言って目をこする。

「おはようさん。今日は早いんだな。飯を食いに行くからお前も早く準備しろよ。」

 そういってノルンは着替えだす。もちろんユラルルの目の前で。全く気にするそぶりすらない。それをぼおっと見つめるユラルルは徐々に顔が赤くなっていく。ユラルルが正気を取り戻したのはノルンが着替え終わってからであった。

 正気を取り戻したユラルルは立ち上がり自分の部屋に向かおうとする。しかしなにを思ったのかノルンに近づくと言い放った。

「ちょっとこっちにきて。」

 そういって着替え終わったノルンの袖を引いて自分の部屋の方へ歩き出す。

「はぁ?なんだよ、おい、ひっぱるな。」

 ずるずると引っ張られていったノルンはそのまま部屋に連れて行かれた。ノルンと同じつくりの部屋である。しかしノルンの部屋と違ってどこか香水の匂いが立ち込めていた。

「はいこれ。」

 そういって白い陶器のようでどこか神々しい櫛をノルンに渡す。自身は化粧台に座ると備え付けの桶に手ぬぐいを入れ絞りだした。

「はいっていわれてもな。意味がわからん。」

 ノルンはそういうが実はわかっている。これはノルンが昔メリルルにプレゼントした物だ。ユニコーンの角から削りだした物で常に癒しを与えてくれる。これで髪を梳くと綺麗になると上流貴族に人気の一品だ。もちろんその値段はべらぼうに高いのだが。

(おいおい、これまで持ち出したのか。こいつ帰ったらメリルルに殺されるんじゃねぇか。)

 まさにそのとおりである。メリルルにせがまれて何故か買わされたのもいい思い出である。

「櫛を渡したんだから髪の毛を梳くに決まってるじゃない。」

 鼻歌交じりに肌を拭いていく。しかし流石に服から露出している所だけで服を脱いだりはしない。そうノルンは思っていたのだがおもむろにユラルルは服を脱ぎ始めた。それには流石にノルンもあきれを隠せない。

「ちょっと~、早くしてよ。」

 少し赤い顔で恥ずかしさを紛らわせるようにそういう。

(恥ずかしいならしなけりゃいいだろ。)

「ったく、はいはい。わかったよ。」

 どこまで行っても自分の娘かもしれない少女だ。劣情を催す事もなくユラルルに丁寧に慣れた手つきで髪を梳いていく。

「ん~、上手~。ねね、もしかしてこういう経験があったりするの?」

 体を拭き終わったのかクローゼットに向かい先ほどまで着ていた服をかけるといつもの黒いローブを出す。それを着ながらユラルルは尋ねた。

「別にこんぐれぇ誰でも出来る。」

「ふーん、じゃあ明日から毎日お願いしてもいい?」

 冗談めかしたようなそれでいて甘えるような。昨日の夜なにがあったのか。

「馬鹿なこといってねぇでさっさと仕度しろ。」

「は~い。」

 薄手のシャツと膝まで丈があるドロワーズを穿くとその上からローブを着込む。最後に編み上げのブーツを履くと壁にかけてあった帽子を手に取った。

(はぁ~、いくらなんでも順応能力高すぎだろこいつ。男の前で無防備どころの話じゃねぇ。)

 手間のかかる娘に悩まされる父親そのものの溜息を吐いた。



 準備を終えた二人は1階へと降りてきた。二人の姿を見つけたバーバは視線をやった。

「おはようさん。朝飯を頼む。」

 そういってカウンターに銀貨を1枚載せた。

「おう、おはよう。……、どうやら嬢ちゃんのご機嫌取りには成功したみたいだな。」

 悪党顔が更に凶悪になっている。

「成功も何ももう思い出させないでくれ……。」

 疲れきった中年のようにカウンターに頬杖をする。まんま年齢だけで言うと中年なのだが。

 ユラルルだけは機嫌よさそうである。

「ああそうだ、今日から草原に行くときベリベルって言う荷物もちも一緒に行く事になったからよろしく頼むわ。」

 まるで今思い出したかのようにノルンは告げる。実際今までそれどころではなかったのだ。

「ふぇ?荷物もちって……。あ、そっかこの前持ちきれなかったもんね。そう考えると必要かぁ。でで?どんな人?男の人?女の人?ベリベルって名前から多分男の人だと思うけど。」

「男だよ。でかくてがたいが良いくせに気の弱そうなやつさ。でもまあ、依頼を選ばなくても良くなったから楽になったけどな。」

「え?どういうこと?」

 不思議そうな顔でユラルルは顔を傾げた。

「ウイッデンっつう加工屋と専属契約を結んだんだよ。だからとりあえず獲物を狩ってくりゃなんでも依頼達成になるはずだぜ。」

「へ~。」

 あまり理解できてなさそうなユラルルである。そこへ話を聞いていたバーバが会話に割り込んだ。

「坊主おめぇ、専属契約とかすげぇじゃねぇか!普通Aランクぐれぇ有名にならねぇとそんなもん結んじゃくれねぇ。しかもウイッデンとか、やるじゃねぇか!」

 バーバの話のとおり今現在Gランクのノルン達が専属契約など普通は結べる物ではない。とはいっても世間一般の専属契約は店側がほしい素材を契約を結んでいる冒険者が獲りに行くといった物である。ノルン達の状況とは少しばかし違う。

 未だになにがどうすごいの?と頭の上にハテナマークをユラルルは乗せていたわけだが。



--------------pf



 宿屋で朝食をとった二人は一度部屋に帰り準備をしてギルドに向かった。未だに上機嫌なユラルルはその魔術師の帽子の先を揺らしている。しかしギルドがもうすぐという所で急に真顔に戻った。

(そういえばあのエリスとかいう受付、ノルンにはものすごく優しいのに私にはものすっっっごい辛く当たってくるのよね。あれは敵だわ。)

 女の勘というやつである。

 そうこうしているうちにギルドの前まできたノルンは気がついた。扉の脇に隠しきれない巨体が縮こまって立っているのだ。時折ちらちらと周りを見ている。ベリベルである。

「おうベリベル、朝早くからご苦労さん。ちょいとばかし依頼受けてくるからもうちょい待っててくれよ。」

「おはようっす。今日からよろしくお願いします!」

 そういって巨体を90度折り曲げると元気良く挨拶をした。

「お、おう。そんな畏まらなくてもいいよ。まあ受付してくるわ。ユラルルギルドカード貸してくれ。」

 へい!と威勢の良い声をあげるベリベル。

 ベリベルは昨日、親方に自分と同じぐらいの頑丈な背嚢を渡されこう言われたのだ。


「多分な、毎日これが一杯になるぐれぇ狩ってくると思うぜ俺は。お前さんに危険はねぇよ。俺が保障してやる。そんでお前は獲物の処理を完璧にして持ち帰って来い。それと自分の思った事を全部手帳に書き込んで持って来い。これもいい経験だ。お前には期待してるんだぜ?」


 親方であるウイッデンは嘘を言わない頑固親父である。長年の経験と実力に裏づけされたその作品は彼の店にいる職人一同の憧れである。そのウイッデンに期待しているといわれたのだ。なにが何でも自分の糧にしてやるとベリベルは燃えていた。

(親方の言う事は信じてますけど、この小僧が本当にそんなやるんですかいねぇ?)

 内心は別として。



 ベリベルとユラルルを残してギルドに入ったノルンはいつものようにエリスのカウンターへと足を運ぶ。

 ユラルルは恐ろしい受付にあいたくないのか、外で待ってるね!と強引にノルンを送り出したのだった。

「おはようさん。ウイッデンから依頼がきてると思うんだが全部受理してもらって良いか?」

 そういってギルドカードを2枚差し出す。

「あらノルン君、おはよう。昨日のうちにノルン君を指名して依頼がきてるわ。内容は草原の魔物の素材各種。期限は無期限だって。すごいじゃない、いったいどんな魔法を使ったのかお姉さんに教えてくれない?」

 そういって予め準備していたのか依頼書とギルドカードを後ろの職員に渡す。

「別に普通だよ。依頼に関係ない素材が手に入ったから直接加工屋に持ってったら頼まれただけだ。」

 簡単そうに言っているがかなり難しい話である。

「やっぱりノルン君はすごいのねぇ~。見る人が見たらわかっちゃうのかな?」

 今にも乗り出してきて頭をなでなでしそうである。

「別にお世辞はいい。獲物は直接ウイッデンの所に持っていけばいんだよな?」

「ええそうよ。ほんとはギルド職員の立会いがいるんだけどウイッデンさんはこの街でも有名な人だからごまかしとかしないって判断されたみたいね。だからウイッデンさんのサインをもらってきたら依頼達成ってことになるのよ?」

 手数料はウイッデンさんもちだから気にしなくていいわよ、と続けた。

「はい、ギルドカード。今日も頑張ってね?でも怪我しちゃだめよ?」

 もはや子ども扱いされるのは諦めたのかノルンは適当に相槌を打つとギルドカードを受け取った。

「じゃあな。受付ご苦労さん。」

「うふふ、またね。」

 手を振りながらギルドの扉を抜けるとそこで二人が待っていた。

「待たせたな。じゃあ行くか。」

「は~い。」「へい!」

 3人はそのまま草原の方へと歩いていった。



----------------pf



 東の城門を抜けた3人は草原の方向へ歩いていっていた。いつもは草原から1時間程度の位置でホーンラビットを狩り続けるのだが依頼の縛りもないのでノルンはずんずんと奥に向かって歩いていく。

 ユラルルは暢気な物だがベリベルはそれどころじゃない。Gランクの冒険者がこんな奥深くに入り込むなんて正気の沙汰じゃない。

「ノルンの旦那ぁ、まだ行くんですかい?こんな奥に来ちまったら銀色狼に襲われちゃいますよぅ。」

 銀色狼とはシルバーウルフの事である。群れで行動する彼らは大体6匹から20匹ぐらいの集団で行動する。オーガと良く縄張り争いをするほどに強い。1mほどから大きい物で3mほどの個体がいる彼らは草原で最も出会いたくない魔物である。

「気にすんな。出たら毛皮をはいで持って帰ればいいだろ?」

 簡単げに言う。

「あ、銀色狼ってもしかしてふさふさでものすごく手触りが良いあれ?良く友達とほしいねーって話してたんだよね。」

 もし手に入れたら少し分けてよ、とふざけた会話が聞こえる。ベリベルは気が気ではない。恐怖を打ち払うようにノルンを凝視していて気がついた。

「へ? ……、ノルンの旦那、そのスローイングナイフ良く見せて頂けやせんか?」

 ベリベルの目が確かならそれはかなりの希少品である。

「あ?いいぞ。ほら。」

 そういって手渡す。

 まじまじと凝視して実際にそれを手で触って確かめる。いつもの気弱な感じからは程遠い声で叫んだ。

「こ、これ!アースドラゴンの牙じゃありやせんか!しかもこれだけの物を作ろうと思ったら一本丸々必要ですぜ!」

 そのとおりである。ノルンの使っているスローイングナイフは握りから刃先まで全て同じ素材で作ってある。もちろん繋ぎなどはなく完全な一品物であった。

「あ?そうだよ。それがどうかしたか?」

 何でそんなに驚くんだ?といった表情である。しかしノルンはある種全く常識を知らない。一人で魔物を狩って職人に渡して作ってもらう。素材と物々交換な為値段など知らないのだ。先日手に入れたレザーアーマーも恐らく金貨30枚はくだらない。

「そりゃ驚きやすぜ、なんでこんなもったいない使い方をしてるんですかい?別に刃先だけでもいいじゃないですか。」

「ああ、そりゃ俺がそう注文したんだよ。全部同じようにしてくれって。そうしたほうが重心が安定するし使いやすいだろ?」

 金に無頓着な上位の冒険者だから出来る発言である。大陸の冒険者は皆口をそろえて言うだろう、ふざけるな、と。

 しかしそれを聞いたベリベルは雷に打たれたかのような表情である。つぶらな瞳が限界まで見開かれていてぶっちゃけキモい。

 いそいそと懐から手帳を出すと何かを一心不乱に書き出した。

(親方。親方の言ってた事が少しだけわかりやしたぜ。確かにこれは良い経験になりやすぜ。)

「おっと、ナイフ返してくれよ。団体さんの到着みたいだぜ?」

 ノルンの視線の先には先ほど話題に上がっていたシルバーウルフの集団が見えた。



「二人とも俺からあんまり離れるなよ?ユラルルはある程度近づいてこようとするやつに魔術を投げて牽制しろ。ベリベルはまあ、縮こまってりゃいいけど離れんなよ?」

 ノルンは二人にそう指示を飛ばすと背中の両手剣を引き抜いた。


 ノルン達が戦闘準備をしている間にシルバーウルフは3人を囲むように近づいてくる。その数は8匹。6匹が囲むようにし、残りの2匹は遠巻きにこちらを伺っている。恐らく群れのリーダー格なのだろう。一匹が群れの統括、もう一匹が周囲の索敵なのだろう。

「足手まといがいちゃ突っ込めねぇな。仕方ねぇ。」


【契約魔術:本契約ネビィガノルン】


(ランス)

 ノルンの手のひらの上に魔力が凝縮され闇色の2m程の槍が出来る。それをまるで投げ槍のようにノルン達を囲んだまま隙をうかがっていたシルバーウルフに投げつける。その槍自体に加速する術式がこめられているかのような速度で一匹のシルバーウルフの腹に突き刺さった。絶叫が響き渡ると共にそのシルバーウルフは倒れこむ。

「アオーーーーーン」

 リーダー格のシルバーウルフが遠吠えを上げる。どうやら攻撃の合図であるらしい。仲間がやられた動揺を打ち消すかのように集団から一匹がノルンに向かって飛び掛った。

「俺に正面から来るたぁ良い度胸だ!」

 飛び掛ってきたシルバーウルフの頭蓋を叩き斬るように両手剣を叩きつけると頭蓋が弾け飛び胸まで切り裂かれる。そのまま後方に吹き飛ばされた。


【火炎魔術:火球】


 短く呪文を唱えたユラルルは後方から飛び掛ろうと方向転換しようとしたシルバーウルフに火の玉を投げつける。それも一つではない、合計6つもの火球がシルバーウルフに降り注ぐ。

 最初の一つをかわしたシルバーウルフの体に次々と火球が命中し大きな炎を上げてシルバーウルフの体を包み込んだ。

「おいおいおいおい、もったいねぇなぁ!まあこんだけいりゃべつにいいか!」

 シルバーウルフの絶叫に笑いながらそう言い放つとノルンの左右から挟みこむようにシルバーウルフが襲い掛かる。

「なかなか賢いじゃねぇか!」

 胸からスローイングナイフを抜き取るとそのまま左のシルバーウルフに向かって投げつける。もうすでに跳躍していたシルバーウルフの眼球によける事も出来ずに突き刺さる。そのまま脳髄まで突き抜けたのかぴくぴくと動かなくなった。

 ノルンは投げたナイフの行方を追うこともなく右から来たシルバーウルフに向き直ると飛び掛かってきたその首に両手剣を突き刺した。それは止まることなく首の後ろへと突き抜けその姿勢のままノルンは両手剣を横に凪ぐ。

 絶叫を上げる暇もなく2匹は地面に倒れ付した。

「アオーーーーーン!」

 リーダー格の遠吠えが響き渡ると同時にこちらの隙を窺っていた残り1匹と状況を見守っていた2匹は大きく距離をとりそのまま踵を返すように逃げようとする。

「おいこら逃げんじゃねぇよ!」

 ノルンがそう言うものの脱兎の如き速さであっという間に見えなくなった。

「まあいい、一匹丸こげだから牙ぐらいしか取れねぇだろうが4匹分は良い状態だろ。俺は警戒してるんで処理は任せる。ベリベルがユラルルに剥ぎ方教えてやってくれ。おい、ベリベル!」

(あの無骨な両手剣すごいですぜ。重心のバランスが完璧に近いんじゃないですか。親方の言ってた余計な装飾なんて本当に邪魔なだけじゃないですかい。親方の作った鎧も物凄い考えられてるじゃないですか。スローイングナイフを引き抜いたそのままの挙動で投げれるような位置にしてありやすね。動きやすいように作られてやすし。ああ中がどんな構造になってるかもう一度確かめさしてほしいもんです。こっちの嬢ちゃんの杖もかなりの業物っつうかおでじゃ判断つかないぐらいすげぇもんってぐらいしかわかんねぇです。しかも何気なく着てるローブもあれ悪魔族の皮じゃないんですかい。あんな一枚皮どんだけの値打ちかさっぱりわかんねぇですわ。装飾みたいに見える刺繍も魔術的な施しを感じやすしあの帽子もきっと同じ素材なんでしょうね……。)

「おいこら、無視すんじゃねぇ。」

 そういって一心不乱に手帳に何かを書き綴っているベリベルを殴る。

「へ?あああ、すいやせん!聞いてませんでした!」

 懐に手帳をしまいこんでぺこぺこする。

「ああ、別にいいよ。ちょっとユラルルに剥ぎ方教えてやってくれよ。俺は見張りしてるからよ。」

「へい!任せてくだせぇ!」

 そう言って一番近いシルバーウルフに走り寄る。

「ベリベルさんすごいんですね。周りで戦闘してるのに全く怖そうじゃなかったじゃないですか。」

 ただ単に自分の世界に没頭していただけである。

「いやぁ、さっきは別のこと考えてて良く分からなかったんでさぁ。あ、お嬢さん。そこからナイフ入れちゃまずいですぜ。一番安い腹の所から入れるんでさぁ。ああ、そんなにぎりぎりで剥がなくてもうちらが持って帰ってから処理すんで肉が少々ついていようが大まかに切ってくだせぇ。」

「え?こうかな・・・?ああごめんなさい~。これはこう?」

 なんだかんだいってうまくやっているようである。


 それから1時間ほどで剥ぎ取りは終了した。

「う~、べとべと。帰ったらお風呂に入りた~い。」

剥ぎ取りのときの血飛沫で顔までべとべとである。

「風呂なんてそんなもん入れるわけねぇだろ。」

「ふふふー。」

 ユラルルは知っているのである。恐らく今日帰るころには待望のお風呂が完成しているという事を。しかし逸る気持ちを抑えて口からその事を言うのをあと少しのところで抑えた。

(帰ってからびっくりさせてあげるんだから!)

「さーて、まだまだ入るだろ?もっと大物を狩に行こうぜ?」

 出立の準備が出来たようで声をかけるノルン。彼は基本的に戦闘中毒なのである。ノルンの目線の先にはベリベルが背負う背嚢がある。あれだけ詰めてもまだ半分以上空きがあるようだ。


 それから3時間ほど狩って行くと背嚢が一杯になったのかしぶしぶ帰路についていくのであった。



------------------pf



 3人が帰ってくるころには昼も半ばまで過ぎ去りあと数時間で夜の帳が落ちるころであった。そのままウイッデンの所に行く。

「へいらっしゃい!ってノルンじゃねぇか。今日はどんなもんだったんだ?」

 ノルンの姿を見たウイッデンは威勢よく話しかける。それに対してノルンは後ろを顎で指し示した。そこには巨体の背中に更に巨大な背嚢を背負ったベリベルの姿がある。入り口に引っかかっているようである。

「うお!ベリベルなんだそりゃ!?もしかしてそれ全部素材なのか?」

 引っかかっていた背嚢を手で抱えて入ってきたベリベルに尋ねる。

「親方ぁ!すげぇですぜ!こんだけあればいろんな物がつくれるんじゃないですかい?」

 そういいながら背嚢を地面に下ろすと袋を開いた。

「うお、こりゃボアスネークの皮じゃねぇか。完全な形でここまででかいもんはそうそうねぇぞ。こっちはオーガか、普通のやつみてぇだが一匹丸ごとみてぇだな。」

 ごそごそと袋の中を漁っていくウイッデンは底のほうにある毛皮を見つけた。

「おおおおお!こりゃ銀色狼の毛皮じゃねぇか!しかもほぼ完全な形!最近流通しなくなってたんだよなぁ!」

 銀色狼といわれるシルバーウルフは単体ではCランク程度の討伐対象であるが集団のものは一気に跳ね上がる。B以上の、それもBランクの上位パーティでなければ太刀打ちできないとされているのだ。しばしばBランクに上がるための試験にも採用される魔物である。

「まあ今日はもう一杯になったから帰ってきた。そんで物は相談なんだが報酬は金貨1枚ありゃいいからなんかいいもん作ってくれよ。そしたら残りの素材全部もってっていいからよ。」

 ノルンの言葉にベリベルとウイッデンは絶句する。この素材を全部買い取ろうと思ったら金貨40枚以上するだろう。加工されていない状態でそれなのだ。それを使った装備や装飾、服など加工して売ろうものなら金貨200枚は叩き売っても稼げる自信がウイッデンにはあった。

「はっは、おめぇ、言うじゃねぇか。いいぞ、んな事言われたのは久しぶりだぜ!ちょっとこっちに来いよ。全身のサイズ測らせろ。おうベリベル、奥から全員呼んで来い!劣化しねぇうちに処理するぞ!ついでだ、お嬢ちゃんも一緒に測ってやるからこっちにきな。」

 へい!と威勢のいい返事と共に奥に走っていくベリベル。残された二人はウイッデンについていくのであった。


長いのでいったん区切りました。


ツギハネンガンノオフロタイムダー。

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