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お風呂の製造が始まった日の翌日とその次の日は何事もなく過ぎていくのであった。
とはいえ、ノルンが朝起きるとそこにはもう、譲る気はないのか当然のようにユラルルが一緒に寝ていたり。バーバから合鍵をもらったらしい。二人は仲良しである。
いつものように草原に出かけ、他の魔物に出会うことなくホーンラビットを狩っていった。その数2日で22匹。大量である。草原での冒険にも慣れたのかユラルルも見ていてかなり良い手際である。二人は晴れてGランクに昇格し、順調であった。といってもEランクまではずっとホーンラビットを狩り続けるつもりである。連日の狩りに流石に疲れたのかユラルルからの提案で次の日はお休みという事になった。
ノルンは新しい防具の受け取りに、それが終わったら二人でぶらぶらと買い物に出かける予定である。
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ノルンは目を覚ました。体を起こし、部屋を見やる。……、随分と、綺麗になっていた。普段は脱ぎ散らかされた服が地面に点在している。そして部屋のど真ん中に冒険の道具が乱雑に纏めて置いてあるのだ。しかし現在の部屋はそんなことはない。服はきちんと吊って壁にかけてあるし道具は部屋の端に綺麗に並んでおいてある。人は無意識に普段と同じ物を求める。ノルンも例外ではなく綺麗に整理整頓された室内に慣れぬ違和感を感じていた。
隣で寝ているユラルルを起こさないようにベッドから降りると吊ってあった服を着る。貨幣の入った袋、小物の入ったポーチ、スローイングナイフ、ナイフを腰に差し、背中に大きな両手剣を背負うと静かに部屋を出て行くのであった。
「おはようさん、朝食を一人分頼む。」
そう言って銀貨を1枚カウンターに置く。料金を払うとき二人分払うのにはもう慣れた物である。
「おうおはよう。……朝食一人分だ!」「へーい!」
いつも通りな日常だが以前と少しだけ違う。食事が豪華になったのだ。以前は野菜がメインで肉は気持ち添えられる程度だったが、最近は肉がメインだ。何があったのかわからないがそれについて別段文句も何もないのでノルンは何も言わない。ちなみにユラルルはお肉は減らして以前のように野菜がメインである。年頃の女の子は食生活も気にするらしい。
「今日は休みにするんじゃなかったのか?こんな朝早く起きなくてもいいだろ。」
常連の好みを把握するのもいい宿屋の主人の才能である。よって大体の行動も把握しているのだ。ノルンはカウンターに座ると背負った両手剣をはずし、立てかける。
「ユラルルは寝たまんまだよ。俺はまあ、目が覚めちまったんだからしょうがねぇ。」
そういうとノルンはカウンターにうつぶせる。飯が来るまで寝るつもりであるらしい。
「それよりこの宿本当に人すくねぇな。本気でつぶれるんじゃねぇか?」
うつぶせのまま顔だけバーバのほうへやったノルンがそう呟く。
「大きなお世話だ。しかしまぁ、お前さんらがいりゃ別につぶれたりしねぇよ。それにもうすぐあれも出来るしな。客もそのうち増えんだろ。」
バーバの言うあれとはもちろんお風呂である。急ピッチで作られているそれをノルンは知らない。別段興味がないことに意識をやったりしないのだこの男は。
「あれってあれか?裏庭でなんか工事してるやつ。なに作ってんだ?」
興味はなくとも話す事もさして多くない。適当な話題のつもりでバーバに振った。
「まあそれは出来てからのお楽しみってやつだな。早ければ明日にでもできんだろ。」
それもそのはず。金貨5枚と適当に言ったが実際には金貨4枚程度で作れるのだ。しかもそのうちの大半は火を起こすための刻印を購入する代金である。水を沸かす為の刻印魔術がべらぼうに高いだけで風呂の構造自体は簡単な物である。それもユラルルの指示によってかなり本格的なものへと変わってしまったのだが。
「ふーん。まあなんだっていいけどな。」
そう言った直後に朝食が届き、飯を食べたノルンは西地区にあるウイッデンの所にいくのであった。
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ノルンがウイッデンの店に行くと中にはウイッデンともう一人若い男が話していた。店内は朝っぱらだというのに少なくない冒険者が商品を見ている。二人は入ってきたこちらに気がつくと威勢よく話しかける。
「へいらっしゃい!お、先日のオーガを持ってきた坊主じゃねぇか!鎧取りに来たんだろ?こっちにきな!」
そういってカウンターの方へ手招きする。
「親方親方っ。こいつがこの間言ってた冒険者ですかい?まだ子供じゃないですか。こいつにそんな高価なもんやるんですかい?」
「ばっかやろう!見た目で判断するんじゃねぇよ!だからお前は何時までたっても見た目優先でいいもんが作れねぇんだよ。」
そういいながらウイッデンはカウンターの下から赤黒いレザーを取り出した。
「おう坊主。この素材は予想以上にすげぇもんだったんだぜ?刃物も殆どとおさねぇし、魔術耐性も半端ねぇ。いやー、いいもんもらったからよ、つい気合入れて作っちまったよ。」
職人は自分の作品の自慢を始めるとついつい饒舌になる。ウイッデンもどうやら同じようである。喋り始めたら止まらない。
「見てくれよこの皮の滑らかさ。しかも下手な金属より余程頑丈なんだぜ?中に黒鋼のプレートを入れて形を作ってあるが裏地に天蚕の糸を使った布地を張ってあるから肌触りも着心地も抜群だぞ!お前さんの体つきから言って成長するかもしれねぇから拡張の余地も残しておいた。更に極め付きは黒鋼に重量軽減の紋章を刻み付けておいたからオーガの皮なのにそれを感じさせねぇぐらい軽いんだぜ!お前さん両手剣使うみたいだから肩は結構ゆとりを持たせてある。あとお前さんスローイングナイフ使うみてぇだから胸ん所に3本分挟めるようにしといたぜ。こんだけの品は俺も久しぶりに作ったぜ?」
超上機嫌にあっという間に喋りきる。
「お、おう。ありがとよ。余った皮でもう何か作ったのか?」
その言葉にギラン!とウイッデンは目を輝かせる。
「おう聞いてくれるか?あれだけいい素材だと俺もなに作るか悩んじまってなぁ!とりあえず半分はすぐ使えるように処理をして置いて、他にも色々若ぇやつに作らせてやったんだよ。こんな素材なかなか扱えねぇがいい経験だと思ってな。作らせたやつは今店に並んでるよ。今日の朝に置いたんだが冒険者ってやつは耳がはえぇんだな。それ目当てでもうこんなに来てやがらぁ。」
「奥にあるライトプレートあんだろ?あれの裏地にオーガの皮を使ってるんだぜ。衝撃吸収の素材としちゃ一級品だからな。鎧が砕けようと最後まで自分のこと守ってくれんのはああいう装備だ。その隣にあるガントレットの腕の部分にも使ってるぜ。一見普通のガントレットだが性能は折り紙つきだ。こんだけ使っても使い切れねぇってんで今若ぇのが設計書もっておれんとこに来てんだよ。な?ベリベル。」
「親方ぁ、それでおでの図案どうなんですかい?作ってみてもいいですかい?」
そういって手に持った紙を見せた。
「だからさっき言っただろうが。おめぇのは見た目だけで使うもんの気持ちがまぁったくわかってねぇ。そんなもん作られたら素材が可愛そうでぇ。」
「そんなぁ。おでにも作らせてくださいよぉ。」
ベリベルは言葉に似合わない巨体をしょんぼりさせた。ベリベルは2mを超える身長と恐ろしくがっちりとした巨体の大男である。刈り上げた髪につぶらな瞳が全くに合っていない。体つきはともかく線が細そうである。
「ったく、手先は器用で装飾なんかを任せたら一級なのになんで実用品はてんでだめなんだ。」
ぶつぶつとウイッデンは呟く。しかし妙案を思いついたのかノルンに話しかけた。
「おう坊主、そういや名前はなんていうんだ?」
ウイッデンはこの街では名の知れた存在である。そのウイッデンに名前を覚えてもらうというのはこの街の冒険者にとってある種のステータスである。荷物を置いてハードレザーの着心地を確かめていたノルンはめんどくさそうに答える。
「あ?ノルンだよ。」
ウイッデンに名前を聞かれたというのに全く意に介さず煩わしそうに答える。
「ノルン、ちいと頼みごとがあるんだが聞いちゃくれねぇか?」
その言葉を聞いたノルンは面倒事がまたふって湧いたのではないかといぶかしむ。
「ああ、聞くだけならいいぜ。」
「なーに、お前さんにもメリットのある話さ。ちょいとばかし狩に行くときこいつも一緒に連れて行ってくんねぇか?こいつは図体だけはでかいからな。荷物もちにはぴったりだぜ。お代はいらねぇよ。手に入れた素材をここにおろしてくれりゃあこっちとしても助かるしな!」
「ああん?」
突然の申し出に怪訝そうに眉をひそめる。しかし、とノルンは考えていた。確かに荷物持ちがいたほうが楽である。しかもタダらしい。この間みたいに荷物が多くてもてないという事もなくなるだろう。
「ちょ、ちょ。親方ぁ!そりゃないっすよ!?」
「うるせぇ!おめぇはちいと冒険者が実際に戦ってる所を見てきな。そうすりゃ使うもんの気持ちっつうもんが少しはわかんだろ。で、どうよノルン、受けちゃあくれねぇか?」
ノルンは少し考えたが別にいいかと思い直し簡単に返事をする。
「いいぜ。その代わり素材を買い取るとき冒険者ギルドを通してくんねぇか?手数料の分差し引いてもかまわねぇからさ。」
「そんくれぇ問題ねぇよ。草原にいそうな魔物全部依頼としてギルドに通しておいてやるよ。そんでおめぇランクはいくつなんだ?」
ベリベルがおろおろとしている間に勝手に話が進んでいく。
「今はGランクに上がったばかりだな。でもまあ、すぐにあがんじゃねぇの?」
ノルンのその言葉に二人ともびっくりしたような顔をする。
「ほら親方ぁ、Gランクじゃないですかい。やめましょうよ。」
「只のGランクがオーガ倒せるわけねぇだろうが!そうかそうか、そんじゃあギルドにはお前さんの名前を指名して依頼を出しとくよ。そうすりゃランクなんか関係ねぇ。ベリベルてめぇも明日から素材持ってなかったら店に入れねぇからな。そのつもりで行って来い。」
親方の言葉は絶対である。ベリベルはまさにムンクの叫びのような状態だった。
「そんじゃあ明日の朝8時ごろにギルドにこいよ。連れてってやるから。おいウイッデン、ここちょっときついんだ。緩めてくれよ。」
「ほぉ、ちょっとこっちに来い。調整してやる。ベリベル、ちょっと店番してろ。」
そういって二人は奥の部屋に入っていった。残されたのは未だに叫び続けているベリベルのみであった。
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ノルンはホクホク顔で宿屋への帰路についていた。いい装備にいい話、装備を作ってくれる職人と知り合いになれたのはそれほどいい話なのである。その雰囲気をぶち壊すかのように上機嫌で進むノルンの前に4人組が立ちふさがる。
「お前ウイッデンの親父さんから良いもんもらったみてぇじゃねぇか。お前みたいなお子様が使うにゃもったいないだろ、ここで痛い目にあいたくなけりゃそれ置いてけよ。ついでに金も。」
「ひゃはは!」
ノルンの前に立ちふさがった男達の中のリーダー格と思われる男がそう言い放つ。その周りでは取り巻きが頭の悪そうな笑い声を上げた。
そこでノルンは周りを見渡した。そこは大通りではなく路地に入った所で人の通りはノルン達以外ない。騎士団の巡回もここまでは来ないだろう。
めんどくせぇ。それがノルンの正直な感想であった。
「あー、お前ら死にたくなけりゃ回れ右したほうがいいぞ。今は気分がいいから見逃してやる。」
ノルンからすればいつものように言ったつもりだが今現在小さなお子様でしかも子供の声でそんな事を言われても強がり以外に聞こえない。
「面白いこという餓鬼だな。もういい、さっさと剥いじまえ。」
そうリーダーの男が指示すると周りの3人が一斉に踊りかかる。完全になめてるのか徒手のままである。
(こういうやからは生かしておいても面倒なだけなんだよな。)
ノルンは完全に殺す気でいる。可愛そうな男達の先頭の男がノルンに向かって殴りかかる。残りの二人は左右に分かれノルンを逃がさないつもりである。手馴れた物なのかリーダーは最初の位置から動きもしない。
【契約魔術:本契約ネビィガノルン】
(身体能力強化)
ノルンの右腕の刺青が歓喜に振るえ蒼く煌く。次の瞬間にはノルンは背中の両手剣を抜き去り目の前の男の首をすれ違いざまに切り飛ばし、返り血を浴びるのを嫌ったかのように大きく距離をとる。そのまま右の男に切りかかった。
「は?」
男は仲間の首が飛ぶのを見ながら何が起こったのか声を上げようとする。その目には一瞬だけ振り上げられた両手剣が映ったがそれが男の最後に見た光景だった。
「はぁ?え?ちょ!」
右にいた男を切り飛ばしたノルンはまたしても大きく距離をとり、その後左にいた男に詰め寄る。鮮やかに首を刈り取り血を浴びないように離れた。ノルンは最後に残った男に向き直る。
「俺を狙ったのが運のつきだったな。俺はおまえらみてぇなのは全部殺すって決めてんだよ。」
ノルンの言葉に我を取り戻した男は声にならない悲鳴を上げながら一目散に背中を見せて逃げようとする。しかし反転しようとした男の首にはナイフが刺さっていた。よろよろと自らの首に手を当てて信じられない物を見るような目でノルンを見た後、倒れこんでいった。
「あー、めんどくせぇな。騎士団に報告しないといけないんだろうなぁ。」
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死体を放置したまま街の中央にある騎士団の巨大な砦に行くとノルンは衛門の兵士にはなしかけた。
「なぁ、ちょっとそこで強盗に遭いそうになったんだが返り討ちにしたんだけどよ、死体をそのまま放置してるから片付け頼みたいんだが。」
ノルンの言葉に表情を引きつらせる衛兵。当たり前である。ノルンの言い草も大概な物であるが。
「ちょっとこっちに来い。詳しい事情を聞こうじゃないか。」
衛兵の後ろから出てきた厳つい壮年の男がそう言う。
「これはグランツ隊長。お疲れ様です。」
そう言って衛兵が敬礼をする。それに対してグランツと呼ばれた男はうむ、と答えノルンに向き直った。
「お前の話を疑うわけではないが確認など話を聞かせてもらう。とりあえずこちらについて来い。」
男の言葉には有無を言わせない権力のあるもの特有の威圧感があった。
(ほらみろ、あーめんどくせぇ。)
ノルンの考えももっともな話であるのだが、元々殺さずに追い払うか無力化して騎士団に引き渡せばよかったのである。わざわざ殺す必要は微塵もない。
騎士団に逆らっても良い事など一つもないと諦めたノルンはグランツの後についていった。
騎士団の砦の中の一室でノルンは取調べを受けていた。もうすでに結構な時間が経過している。
「だーかーら、俺は強盗に遭いそうになったから返り討ちにしただけっていってんだろ。正当防衛だよ。この国の法律で強盗は死罪って決まってるんだから早いか遅いかの違いだろ?だから面倒だから殺したんだって何回いやぁわかんだよ。」
このやり取りももう何度も繰り返されている。
「それも確認済みだ。西地区から南地区へ行く途中の路地に確かに死体が4人分あった。死体の形状もお前の言うとおり3人が首を刎ねられていて一人が首にナイフが刺さっているような死体だった。」
「だからそういってるだろ。いい加減腹減ったんだよ。帰っていいか?」
もう取調べが始まって6時間は経っている。昼はとっくの昔に通り過ぎていた。
「もう少し待て。お前が言ったとおりその強盗の荷物には手をつけていないようだったな。」
この国の法律では盗賊などの持ちものは原則国が引き取る事になっている。
「そのまま放置してきたんだから当たり前だろ。その後に盗まれてたらしらねぇけどな。」
「うむ。今周りの住人に話を聞いているところだ。それで、お前は何故そこに居たんだ?」
「だーーっ!それも何度も言っただろうがしつこいな。ウイッデンの所に防具を取りに行った帰りだよ。南地区でなにかつまみでも買って帰ろうと思ってたんだよ!」
ノルンがそうわめいている間に兵士が一人入ってきた。グランツになにかぼそぼそと耳打ちしている。内緒話が終わったのかその兵士は一礼して部屋を出て行った。
「ふむ、部下からの確認も終わったようだ。お前の言うとおりお前の名前はノルン、冒険者ギルドに登録しているGランクの冒険者。今現在はバーバの宿屋に泊まっているそうだな。あんなあばら家に泊まるとは物好きなものだ。今日はウイッデンの防具加工店に寄ったところまでは本当のようだな。時間帯的にもお前の話は信用できる。後一つ情報が来れば開放してやる。もう少し大人しくしていろ。」
どうやら先ほどの兵士は情報を伝えに来たようだ。
「で?あとなにがわかりゃいいんだよ?」
ノルンのイライラは頂点に達している。
「あまりにも争ったような形跡がないのでな。お前が襲ったとも限らん。きちんとした目撃証言が来るまで待て。」
グランツの言うのも最もである。傷一つないピカピカの鎧を着たノルンはどう見ても怪しすぎた。
「目撃証言ってな……、ぱっと見た感じ人なんかいなかったぞ。」
ノルンの言うとおりである。そのせいで時間がかかっているのだが。
「本来なら街の治安に寄与したという事で褒章を出す所なのだが、すまんな。」
グランツの言うとおり今回殺された4人は強盗などを生業とする街のゴロツキであり騎士団は以前から捕まえようと画策していたのだ。よってグランツには目撃証言がたとえなかったとしてもノルンをどうこうするつもりなどない。しかし壮年の騎士であるこの男はなにより規律を重んじる。なので形式上やっていることに過ぎないのだ。
それから更に2時間ほどノルンは拘束されていた。もうすぐ晩飯の時間である。ノルンは机に突っ伏したままだらけている。そこへ新たな兵士が入ってきた。
「グランツ隊長、入ります。」
そうして入った兵士はグランツに耳打ちをする。それに対して頷いていたグランツは全て聞き終わると立ち上がった。そのままノルンに向かって喋りだす。
「目撃証言が入った。確かにお前の言うとおりであった。どうやらウイッデンの店の辺りから目をつけられていたようだな。ここまでの協力と街の治安維持に貢献してくれた事に感謝する。これは報酬だ、受け取れ。」
そういうと兵士が袋に入った硬貨を差し出す。
「ああ、あんたも仕事だもんな。ご苦労さん。」
そういうと袋を受け取り部屋から手を振りながら出て行った。出て行った背中が見えなくなって暫く経つとグランツは口を開いた。
「あんな男がいようとはな。」
「隊長?それはどういう意味で?」
部屋に入っていた兵士は怪訝そうに聞き返す。
「わからんか……。わしももう少し若ければ手合わせしてみたくはあったな。」
「え?隊長、あんな子供に隊長の相手が勤まるわけありませんよ。」
兵士の言う事も最もである。テンザスのグランツといえば歴戦の猛者である。かつては一つの騎士団を率いていた実力ある重騎士である。今は年と言うこともあり後発の育成の為、騎士団の一つの部隊の隊長を務めているが未だにその名を慕うものは多い。
兵士の言葉に答えることはなくグランツはノルンという名前を胸に刻んだ。
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宿に帰ったノルンを膨れに膨れたユラルルが迎えたのは言うまでもない。
よく盗賊などを倒して報酬をもらうという場面を目にします。おそらくその報酬をもらうまでにはこういうやり取りがあるのではないかという内容でした。
膨れたユラルルをなだめるのに四苦八苦したのはまた別のはなし。




