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カミュとテレッサについては第2章第1話参照。

「ぴんち。ぴんちだよ私。テレッサ、今までありがとう。一緒に冒険できて楽しかったよ…… 」

「あああきらめるなカミュ。まだ決まってない、決まってないぞ!? 」

「思えばずっと一緒だったよね。一緒に土木作業したり、配達したり、懐かしいね。私、生まれ変わったら今度はすごいショタっ子になるんだ。それでいい子いい子されて生きていくんだ…… 」

「カミュ、戻って来い、お願いだからっ!」


 現在、彼女達二人はお互いに抱きつき、ガタガタと震えていた。

 さもありなん。

 彼女達の鼻先には巨大なアースドラゴンがいるのである。

 しかも、目と鼻の先である。

 まるで獲物の匂いを確かめるかのように鼻先を近づけていた。


「ひぃ!私、美味しくないよ~。お肉あんまりついてないし、骨ばってるよ~。昨日は夜更かししたし、朝食も抜いてるからスカスカだよ~ 」

「俺は筋肉ばっかりで食べても美味しくないぞ! 」

「ドラゴンさんは赤身が大好き~ 」

「おいっ! 」


 そんな中でも二人はコントをするぐらいには余裕があるようであったが。

 彼女達の他に周りには誰もいない。

 簡単な昼食を取る為に薪を探していたのである。

 といっても、今回の馬車は彼女達を除けばたったの二人、御者と同乗者が1名だけであるのだが。


「食べて、もういっそのこと食べて?あ、でも。痛くしないで。一思いにお願い~ 」


 グルグルと周囲を押さえられ、最早諦めた二人の前でギィルディアルの体の溝から光が発せられる。

 空間に魔力が溢れ、飽和し、それが一つの形となる。

 抱き合う二人の前に蹲ったノルンが形成される。


「え?え?なに?どういうこと? 」

「……これは、まさか 」


 困惑する二人にギィルディアルが声をかける。


「コノ男ヲ連レテ行クガイイ。我ハ眠ル 」


 テレッサとカーミュラがドラゴンとノルンを交互に見ている間に、ギィルディアルは話は終わったとばかりにばかりに上を向く。

 そうして声無き雄たけびを上げる。

 膨れ上がる魔力。

 空間から飽和した魔力が溢れ出し、辺りは色とりどりの光で満ち溢れた。

 そしてそれが頂点に達した時、ギィルディアルの体はノルンへと吸い込まれるようにして、消えた。


 後に残されたのは呆然とする女性が二人。


「……どうすりゃいいんだ、こんな事態…… 」


 テレッサのこぼした言葉にカーミュラは返事をしない。

 どころか聞こえてすらいないようであった。

 

「……キタコレ。ショタっ子。きっとドラゴンさんの贈り物。日ごろの行いが良いから 」


 カーミュラの視線はノルンに注がれていた。

 何故なら。



 ノルンは全裸だった。




「……わかった、もう何もいわねぇ。とりあえず馬車に戻って代えの服を漁ってくる。このままじゃカミュが襲いそうだし 」

「え?駄目なの?食べちゃ駄目なの?食べようよ。仲良く二人一緒でもいいよ? 」


 そういって服に手をかけるカーミュラ。

 止めるテレッサ。

 生命の危機を脱したばかりで高揚しているのか。

 青空の下は開放的であった。




------pf




 テレッサのおかげでどうやらノルンの貞操?は守られたようである。

 正統派の剣士で生きているテレッサがズボン等を持っていたことも幸いした。

 ただ、着替えさせている間も


「うん、ドストライク。ドラゴンさん、私の趣味、わかってる~ 」


 とか


「うわ、可愛い顔なのに、すごい。これでまだのんびり状態。やる気状態になったら……「おいやめろ 」……テレッサも一緒にやる?あ、痛い。暴力反対 」


 とか


「髪長い。つやつや。肌は、鱗と刺青みたいなのがあるけど個性だよね。可愛いは正義だから、許す。 」

「……頼むから戻って来い…… 」


 紆余曲折はあったものの、無事服を着せる事に成功した。

 そして現在テレッサが担いで馬車に乗せる事も達成している。

 御者にも説明して料金も支払い済みであった。

 現在、ノルンはカーミュラに膝枕をしてもらっている。

 揺れる馬車の中、未だに熱い視線をカーミュラはノルンに送り続けていた。


 そのノルンが身じろぎをする。

 カーミュラの目が爛々と輝く。


「ん…… 」

 

 目を開けたノルンが最初に見たのは自分を覗き込む女性の姿だった。


 

-pf



 目を覚ましたノルンは目の前で自分を覗き込むように見つめる視線に動揺した。

 起き上がろうにもぶつかる位置取り。

 仕方なしにノルンは声をかける。


「……おはよう 」


 明らかに警戒した声色。

 しかし、現状をいまいち把握していない彼にとってはそれ以外に打てる手段など存在しなかった。

 それに対してカーミュラが嬉しそうに声を上げる。


「うっ。か、かわいいいいいい!テレッサ!聞いた?今の声。私の心臓、鷲掴み! 」


 その声に、馬車に寄りかかっていたテレッサが少しだけ近づき、溜息をつきながら答えた。


「……それぐらいにしておけ。まずは自己紹介からだろう?俺はテレッサ。で、こいつが 」

「はい!カーミュラ。カミュって呼んで?」

「……と言う。君の名前を聞いても良いか?」


 と言いながらカーミュラの近すぎる顔をテレッサはノルンから引き剥がす。

 そうしてようやくノルンは起き上がることが出来た。


「……ノルンだ。此処は何処だ?どうして俺はこんなところにいるんだ? 」


 当然の疑問にテレッサが答える前にカーミュラが素早く割ってはいる。


「君はね、ドラゴンさんが私にくれた。だから私のことはおねえちゃっ、痛っ、もう。暴力反対、テレッサ横暴。……脳筋 」


 ボソッと言ったカーミュラの脳筋という言葉にテレッサの眉が釣りあがる。

 そうしてテレッサの両手がカーミュラの米神に伸びた。


「え、ちょっと、落ち着く。テレッサ落ち着く。今のはそう、きっと幻聴。神様の悪戯。私の心の声っていたたたたたたたっ!許してっ!?もう言わないからぁっ! 」

 

 全く信用できない言葉に一応やめるテレッサ。

 そしてノルンのほうに向き直り、コホンと咳払いをして続けた。


「君は先ほどトーキドェとテンザスの間の街道周辺で拾った。今、俺達が乗っている馬車はテンザスに向かっている。……ちなみに、カーミュラの言っていたドラゴンから受け取ったと言うのは本当だぞ? 」


 その言葉に何故かカーミュラが胸を張る。

 そうしてノルンは思い出した。

 ギィルディアルを追い詰めたと思っていたが実は手のひらで踊らされていただけだと言う事を。

 恐らく渡したドラゴンと言うのはギィルディアルなのであろう。


「……そうかい、そいつは世話になったな。ありがとよ。……ところで質問なんだがな、俺の装備、着ていた物をしらねぇか? 」

「いや、言いにくいんだが君を渡された時、裸だったんだ。今着ているのも私の服だ 」


 すこしすまなそうにテレッサは言う。横目でカーミュラを見ながら。

 そして言われたノルンは改めて自分の体を感じ取る。

 違和感が恐ろしくしているようだ。


(……髪が長い。それに、鱗か?全身じゃねぇけど、いたるところにあるな )


 それに付け加え、お尻の辺りや手先がムズムズする。気を抜けば何かが生えてきそうなほど。

 とうとう人間を超越してしまった事に溜息を吐いた。


 それがカーミュラには物憂げで不安な表情に写ったのか、ノルンに向かって抱きついた。


「不安?大丈夫だよ、私が養ってあげるし 」


 堂々とした紐になってもいいよ発言であるが、当のノルンはそれどころではなかった。

 カーミュラの豊満な胸を顔に押し付けられ、息が出来ない。

 小刻みに震えるノルンにカーミュラは勘違いしたのか言葉を続ける。


「やっぱり不安だったんでしょ?私が一緒についてあげる 」


 そういってチラッとノルンをカーミュラは見やる。

 何だかんだ言いつつも流石は大人の女性である。しっかり状況を確認しながら行動していた。

 その視線の先でノルンはついに堪忍袋の緒が切れる。

 カーミュラの胸を鷲掴みにし、顔を引き剥がすと言い放った。


「ぶはぁ!てめぇらいい加減にしろよ!助けてもらって下手に出てりゃ意味のわかんねぇ事言いやがって、誰かに養われるほど落ちぶれちゃいねぇよ! 」


 威嚇するように言うノルンに何故か期待を込めるような瞳のカーミュラ。


「攻め?ノルンは攻めが良い?どっちもいけるよ私 」


 そういってカーミュラは、ノルンの胸を掴んだ手の上に自身の手を重ねた。

 呆れかえってどう収集をつけたものかと思案するテレッサと、未だに噛み合わない会話を続けるノルンとカーミュラ。

 それを終わらせたのは第3者であった。


「……五月蝿いぞ。これ以上騒ぐなら、降りろ 」


 その言葉に全員の視線が集まる。

 その先にはこの寄り合い馬車のもう一人の同乗者であろう男が馬車に背もたれを預けていた。

 一瞬の沈黙にすかさずノルンは逃げ出し、安全地帯と思われる男のそばに陣取る。


「ありがとよ。俺はノルン、テンザスで冒険者してる。見たところあんたも冒険者なんだろ?テンザスで困ったことがあれば言って来いよ、色々紹介ぐらいはしてやれると思うぜ 」


 ノルンの言葉に伏せていた頭を上げる男。

 フードで隠れてはいたが、その容貌は見て取れる。

 額に生える短い2本の角。

 それは鬼と言う種類の亜人特有の者である。

 男が纏う空気も重く、話しかけるのも躊躇われる。

 しかし、ノルンは気にしなかった。


「それにしても、武器も防具も消えちまった。また1から作り直しかよ…… 」


 そこに気負った感じは全く無く、自然体の一言である。

 それを感じ取ったのか、男は答えた。


「……ナージェスだ。ノルンだったか?宿は何処に取っている?高くなければ俺も同じ所にしよう 」

「ナージェスね、よろしく頼む。俺はバーバの宿屋って所にいるよ。騒がしい所だが、融通も利くし、良い所だぜ? 」


 そのまま、男同士で話しやすいのか会話を続ける二人。

 完全に会話に割り込むタイミングを逃してしまったカーミュラとテレッサは二人で顔を見合わせて、テレッサは溜息をつき、カーミュラは諦めていないのか聞き耳をこれでもかと立てていた。


 それは馬車がテンザスに到着するまで続けられた。




--------------pf



 

 そこは少し前までトーキドェが存在した跡地。

 そこは最早無残な廃墟と成り果てていた。

 叩き潰され、全ての人が押しつぶさた。

 辛うじて生き残った人間もいることにはいた。

 しかしその全ての人間は結局息絶えることとなる。

 他の小さきものに矛先が移った後、ギィルディアルはその戦場を素早く離れたのである。


 元々、ギィルディアルにやる気は皆無であった。

 ノルンに刺青を刻んで、ちょこちょこと自分の趣向に沿った体に作り変えようとした瞬間に襲われたのである。

 発動していた魔術を維持したままの戦闘で、本来の力も出せない状況。

 やる気などでようはずも無い。

 矛先が写ったと感じた後、これ幸いと離れたのである。


 ギィルディアルが戦場を離れた後、周りを蹂躪尽くした巨大な木人は、気が晴れたのかトーキドェの街のど真ん中で活動を止めた。

 そして起こった現象は生き残った人々を絶望させる。


 地面に吸収された木人。

 その直後に、その地面から新たに一本の樹が生えてきたのである。

 それはすぐさま成長し、周りに森を形成する。

 それは何千年前の再現のようであった。

 大森林の存在は意図して行ったことではないが、それは切り離された力が別個のものとして生まれた瞬間である。

 まるで切り離された枝を地面に植えることでその木が根付くかのような現象であった。

 そうして森は、元々トーキドェがあった街全てを飲み込む。

 そこに存在する、奇跡的に生き残った人々をも飲み込んで。


 新しく生まれた存在。

 しかしそれは大森林とは違った。

 何故なら、その存在には確固たる自意識が存在したのだ。

 故にその存在は自らの手足となる新たなる生物を作り出す。

 街に残っていた人間、それを吸収し、作り変える。

 出来上がったのは人型の樹の魔物。

 

 此処に、魔樹の森、トーキドェが出来上がることとなる。




------------pf




 トーキドェの街が壊滅された瞬間から暫く立った後、トーキドェのギルドマスターであったバミルを中心に話し合いが行われていた。

 そこにいるのはオークとの激戦を潜り抜けた激戦の猛者達。

 一部には、ブタや、時と確立の女神に愛された(一方的に)、後にラッキーガイと呼ばれる男や、影の薄すぎる男もいることにはいるが。

 その集団が話し合っていた。


「わしはこの事を王都に報告に行かねばならん。よって此処で分かれることとする。キング討伐の報酬がほしいものはわしについて来い。話は通す 」


 その言葉に全員が頷く。

 しかしバートンだけはは首を振って言葉を発する。


「あ、僕は現在依頼を受けているのでテンザスに帰らないといけません。日程的に見ても王都に行くと間に合わないのでここで別れさせてもらいます 」

 

 その言葉にバミルは頷いた。


「うむ。今受けている依頼を優先するとは関心じゃのぉ。少ないがこれをやろう。少しは足しになるであろう 」


 そういって懐から小さな袋を取り出し、バートンへと投げた。

 バートンは一瞬躊躇ったが、ありがとうございますと言って懐にそれを収める。

 中身は宝石が数個。

 金貨数十枚はするであろうことに、後で驚愕するのであるがそれはまた別の話。


「では、残りのものはわしと一緒に王都じゃの。ルル家のじゃじゃ馬言わんでもええ、バッハハイゼンのところに行くのじゃろう?途中まで一緒に行こうではないか 」

「う~ん、そうなのよねぇ。悩ましいわ。その予定だったんだけど、もういいかなって思うし、そうね。アリス、あの人に報告だけしておいて頂戴?私はこのままテンザスに戻るわ 」

「……わかりました。旦那様不憫 」

「今回の事でこの辺りを任されるのは隣を治めるうちの人になる可能性が高いわ。私に構ってる場合じゃなくなるでしょ?だからいいの 」

「ほう、淑女が聞いて呆れるのぉ?うわっはっはっは! 」


 大きな声で笑うバミル。

 しかしその相貌の先は鋭い。

 今も旧トーキドェの街は巨大な森と化している。

 早急に対処が必要な事案であった。


「では分かれることとしようかの。メリルルよ、今回は助かった。バッハハイゼンにはうまく伝えて置こうではないか 」

「あら、おじさま熱でもあるんじゃありません?こんなに気が利くなんて 」

「うむぅ、ルル家はあいも変わらずじゃのぉ 」


 話は終わったのか、全員が立ち上がる。

 最後にバミルがメリルルに話しかけた。


「これは前触れかも知れんのぉ。ここだけではないかも知れぬ。ぬしも気をつけるのだぞ? 」


 それにメリルルは笑顔で答えた。

 まるで、望む所よ、とでも言わんばかりの笑みである。


 そうしてお互いに背を向けて歩き出す。




 世界は唸りを上げて変わろうとしていた。




スペランカー「あれ?キング倒したの俺だよね?ってことは報酬俺の独り占めじゃないの?え?山分けなの?まじで?」

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