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 宿に帰ってきたノルンは入った瞬間に身構えた。

 目の前に昨夜襲ってきた執事がいるのである。当然の行動であった。

「……おい、おめぇもう体はいいのか?」

 そう尋ねたノルンに一瞥をくれると執事は何も答えない。

「おい!てめぇ、どうやらもう一回死にたいらしいな。」

 エリスに散々いじられ、精神的に参っていたノルンはつい攻撃的にそう怒鳴る。

「……さて、もう一度して見ますか?」

 そういってノルンを正面から見据えるジライ。先ほどまでの執事然とした姿はそこには全く無かった。

「おおい!お二人さんちっとは落ち着けよ。まずは自己紹介から、な?」

 また一階を壊されては堪らないとばかりにバーバが仲裁に入る。

「……。」

「……。」

「……、こいつは今日からうちで働く事になったジライだ。乱闘騒ぎは勘弁してくれ。んで、知ってるとは思うがそっちの子供はノルンだ。うちのお得意様だよ。」

 何とかこの場を収めようと必死である。

 無い髪が更に剥げるのではないか。そういえばもう剥げていた。

「あぁ?働く?ここでか?こんなんがいたら一時も休めねぇじゃねぇか。バーバさっさとこいつやめさせろよ。」

「なぜ貴方にそんなことを指図されなければならないのですか?これは私の自由です。貴方には関係ありません。せいぜい後ろを気にする事ですね。」

「……。」

「……。」

「だーかーら、落ち着けってお前ら。ジライもここで働くならノルンに変なことすんじゃねぇ。ノルンもそれでいいな?」

 一触即発の空気を何とか収めようとバーバは苦労する。まあ、利益を優先したのだからそれも織り込み済み、のはずである。多分。

「ちっ、わかったわかった。だが、次につまんねぇ事したら一瞬であの世に送ってやるよ。バーバ鍵くれ。」

 カウンターまで歩いていくと鍵を受け取り階段へと向かう。

 ノルンは自分の甘さに後悔しているようだった。

 そしてそのまま階段を上がっていった。



 ノルンが部屋に行くと既に鍵は開いていた。

 扉を開くと自分の道具の手入れは終わったのかベッドで横になっているユラルルと、化粧台の前の椅子に座り、しげしげと黄金の果実を見ているイルアリアハートがいた。

 ユラルルは自分の部屋が臭くなると言って、常にノルンの部屋で整備を行う。恐らくそれにイルアリアハートは巻き込まれたのであろう。

 ノルンは部屋に入ると声をかける。

「おうただいま。俺の分も手入れしてくれよ。」

 入ってきたノルンに体を起こすとユラルルが駆け寄ってくる。

「おかえり。ご飯にする?お風呂にする?それとも、」

「はいはい。分かったからとりあえず整備しようぜ。」

 そういって装備品や道具を取り外し始める。

「も~。これぐらいのお茶目良いじゃない。もう少し相手してくれてもいいのに。」

 そういってベッドに座りなおすと足をばたばたとさせる。昼間の草原での、頼れるユラルルは影も形も無い。

「……ノルンさん、これはなんですか?どうしてこれをもっているのですか?」

 ここまでのやり取りが耳に入らないぐらいに凝視していた黄金の果実をノルンに差し出すと、イルアリアハートはそう尋ねた。

「どうしてって言われてもな、確かポーチの中に紛れ込んでたんだよ。んで捨てようと思ったんだが、ユラルルが綺麗だから置いとこうとか、確かそうだよな?ユラルル。」

 更に服を脱ぎながら答える。

「そうだよ~。ノルンったらこんなに綺麗なのにぽいって捨てちゃうんだよ?信じられないでしょ?」

 そう言いながらもノルンの装備品を持って整備を始めるユラルル。教育の賜物である。

「そんなことはどうでもいいのです。これはハバフに実っていた果実です。聞いたことも見たこともありませんが恐らく危険な物なのではないでしょうか。」

 そういいながらノルンに手渡した。

「あ?ハバフの実か。ん~、確かに魔力は感じるな。でもそんな言うほどのものか?まあ、明日ギルドに売りに行くか。珍しいもんだろうし高く買い取ってくれんじゃないか?」

 そういってイルアリアハートに返す。

「そうですか……。」

 なおもハバフの実を興味深そうに観察するイルアリアハート。

 その手で色々と角度を変え、覗き込んだりと余念がない。そうしている所でイルアリアハートが声を上げる。

「 あっ! 」

 手に持った黄金の果実が零れて落ちていく。そのまま放物線を描き、手入れをしていたユラルルの目の前に落ちた。

 

ポチャン


 もちろん落ちた場所は水桶の中である。

 そのまま拾おうとしたユラルルの前で奇怪な現象が起きた。

 水桶の中の水が渦を巻いて浮いている黄金の果実に吸い込まれていく。それは一瞬で全てを吸い込み桶の中には黄金の果実だけが残った。

 着替え途中で上半身裸だったノルンは、一瞬で腰に挿したナイフを引き抜くと臨戦態勢を取った。いつでも魔術が撃てるように集中もしているようである。

 明らかに危険なものにイルアリアハートも直ぐに立ち上がり一歩引くと事の経緯を見守る。

 ユラルルはなにがおきているのか分かっていない。桶の前に座ったまま果実を取ろうかどうしようか悩んでいるようだった。

「ユラルル、離れろ!」

 ノルンがそう警告を発し、ユラルルが動こうとしたときそれは起きた。


 黄金の果実が半分に割れ、そこからは小さな人の姿。しかし、その小さな人には背中に綺麗な濡れそぼった羽がついている。出てきた妖精のような生物は、体を振ると羽を広げる。

 綺麗な黒い蝶のような羽である。

 2、3度羽を羽ばたかせるとノルンに向かって飛び立った。

 その姿は愛らしく危険のきの字も感じさせない。

 

ペシ


 飛んできた愛らしい妖精をノルンははたき落とす。可哀相だが、危険かもしれない生物への対処としては優しい事この上ない。

 はたき落とされた妖精は不思議そうな顔で首を傾げていたが、立ち上がるとまたノルンに向かって飛び立った。


ペシ


 またはたき落とされる妖精。やっていて罪悪感が浮かんだのかノルンの表情も複雑である。

 またしてもはたき落とされた妖精は、今度はとぼとぼと床を歩くとノルンのズボンにしがみついた。

 少し泣きそうな顔ではあるが嬉しそうでもある。

「なにこの可愛い子~~!ノルンそんな可哀相な事しちゃだめだよ~。」

 ことの経過に呆然としていた一同の中でユラルルがまず先に動き出した。そしてノルンの足元にしゃがみこむ。

「うわ~、綺麗な羽。それに可愛い~!ねね、この子触っていいのかな?ねね?」

 その視線から逃れるように妖精は飛び立ちノルンの腕にしがみつく。

「いや、まずいだろ。実物を見たのは久しぶりだが、多分これハーヴィーじゃないか?見た目に騙されると直ぐ死ぬぞ。」

 そういいながら腕をぶんぶんと振るうがしがみついたままの妖精はなかなか離れない。

 少し楽しそうですらある。

「まあ直接的な被害はあんまないんじゃねぇか?確かこいつの得意とするのは幻術や誘惑、念動ぐらいだったと思うしな。」

 腕を振るノルンにしつこく引っ付いている妖精が弾かれる。

 ノルンの腕の刺青が、怒るように蒼く、見せ付けるように煌く。

 そのまま空中で体勢を立て直すと、イルアリアハートの後ろに隠れるように飛んでいった。視線は未だにノルンを捉えて離さない。

 ハーヴィーというのは魔物よりも精霊寄りの生き物である。その力は下手な悪魔族など歯牙にもかけない。得意とするのは幻術や魅了、念動、そして吸収である。先ほどは誰も気がついていないが、ノルンから魔力を奪おうとしていたのである。それも未遂に終わってしまったが。

「ねぇ~、ノルン~。この子、ここに置いちゃ駄目なのかな?」

 未だ視線をイルアリアハートの方に、妖精がいる方に向けたままユラルルが聞く。

「あ~。多分だな、俺らなんて餌ぐらいにしか思われてねぇぞ。しつこいようだがそいつは滅茶苦茶強いぞ?見た目に騙されんじゃねぇよ。」

 ノルンはその処分に困っていた。

 明らかに魔物寄りであるのだが危険そうではないのだ。それに何もしてこない。

 気づいていないだけだが。

 ノルンはイルアリアハートの後ろに行った妖精を追いかけるとそれに手を伸ばす。

 その手のひらに乗った妖精はかなり嬉しそうである。

「おい、てめぇの名前を教えろ。」

 自分の手のひらを顔の前まで持ってくるとノルンはそう言う。

 それに対して真面目な顔になった妖精と少しの間見つめあった。

 その均衡は妖精が口を開いたことで終わる。


『LYLLIN』


 妖精から声は聞こえない。直接頭に響くようにしてノルンに語りかける。

「……おいおい、それはお前の本当の名前だろうが。俺に言うんじゃねぇよ。そうじゃなくてだ、もっと違う、何て言うんだ、弱い名前だよ。」

 妖精の言った名前は力あるものとしての本当の名前である。おいそれと人間に言うようなものではない。ノルンはそうではなく、もっと力無き名前を言えと言ったのである。

 明らかな力ある名前をいう妖精に呆れると、ノルンは頭を振った。

「おい、別に置いてもいんじゃねぇか。名前を知られてたら悪さもできねぇだろ。」

 そういうとユラルルの顔がとたんに嬉しそうなものになる。

「やったー!触っていい?触っていい?ううん、もう触る。」

 そういって触ろうとしたユラルルだがまたしても逃げられる。

 妖精はノルンの顔の周りをじゃれるように飛び回る。まるで名前を呼んでほしいとでも言わんばかりである。

「おめぇの名前はよばねぇよ。さっきからこいつが怒ってるぞ。」

 ノルンの腕の刺青が威嚇するように煌いている。確かに怒っているといえなくも無い。

「その子の名前なんていうの?聞いたら教えてくれるのかな~。」

 あくまでも無邪気なユラルルとは対照的にやっと警戒を解いたイルアリアハートがノルンに質問をする。

「ノルンさん、名前を呼ばない、ということは名前を教えてもらったというのですか?しかも口ぶりからすると力無き名前ではなく本当の名前を。」

 イルアリアハートの目はあくまでも冷静に、力を求めている目をしている。

 その目を見ながらノルンは答えた。

「ああ。だけど俺には無理っぽいな。*******が怒ってる。名前なんて呼んでみろ、契約を切られかねない。」

 ノルンは普通にネビィガノルンと言った。しかし、その名前を与えられていない者には決して聞こえない。意味の分からない発音が聞こえるだけである。

「では、私に名前を教えてください。私はいつまでも足を引っ張っていたくありません。」

 瞳にはその言葉の強さが窺える。

 イルアリアハートは神の使徒である。その思いがイルアリアハートの根底にはある。しかしながらそれだけでは届かないのだ、ならば使命を果たす為にも更なる力を望むしかない。

 しかし現実は無情である。

「イルは契約結んだことが無いからわかんねぇよな。名前は他人に教えられねぇんだ。例え口に出しても伝わんねぇよ。だからどこまで行っても自分自身で聞き出すしかねぇ。イルがもし聞きたいんだったら自分の全てを曝け出してみな。そうすりゃ届くかもしれねぇ。」 

 ノルンの口調は優しい。力を求める者を、望んでやまない者をノルンは大事そうに見つめる。過去の自分がそうであったように、現在の自分にもそれしかないように。

 イルアリアハートはうな垂れる。

「やはり、簡単に力は手に入りませんね。分かっているとはいえ、やるせ無くなります。」

 彼女自身のポテンシャルは恐らくかなり高い。時間をかければ大成するであろう。しかしイルアリアハートは今このときに力がほしいのである。理想と現実はいつまでたっても交じり合うことは無い。

「ユラルル、手入れはどうすんだ?水がなくなっちまったけど。」

 言われて初めて気がついたのか、ユラルルが妖精に伸ばしていた手を下げる。

「あ、そういえばそうだね。しょうがないからもう一回もらってくるね。」

 そういって桶を持って部屋を後にする。

 ユラルルの居なくなった部屋で、今度はイルアリアハートが真剣な顔で妖精を追いかける。

 どうやら妖精本人から名前を聞こうと思ったようだ。

 しかしどう見ても遊ばれているようにしか見えない。

 それはユラルルが帰ってきて整備が終わるまで続けられた。



-----------pf



 ユラルルが手入れを終え、下に降りるとそこにはベリベルが一人カウンターに座って待っていた。

「おうベリベル、もう来てたのか。」

 そう言ってカウンターに座る。

「おうバーバ、飯をベリベルと二人分、それとエールくれよ。」

「おう任せろ。おーい!飯を4人前だ!」「へーい!」

 いつもの掛け声、いつもの返事である。

「ノルンの旦那、お邪魔してやす。お嬢さん達はいないんで?」

 いつもノルンと一緒にいるユラルルの姿もイルアリアハートの姿も無い。

 それに疑問を持ったのだろう。

「ああ、あいつらは先に風呂に入るんだとよ。良いじゃねぇか、男同士で飲んだ方が酒もうまいってもんさ。それに風呂から上がったら来るだろどうせ。」

 実際にはベリベルが来ること自体を伝えてないだけなのだが。

「そうでしたか、それじゃあ今日は男二人で飲みやしょう。」

 ベリベルも女性が苦手なのか少し安心したような表情である。

「ああそうだ、これ渡しておくわ。」

 そういって取り出したのは迷宮通行許可証である。エリスから頑張って手に入れたアレである。

「へ?これは……、迷宮の許可証ですかい。ああ、そういえばもうすぐEランクに上がるころっすね。」

 日々Cランク以上の魔物を相手にしてきていたベリベルにとって、ノルンが未だに低ランクの冒険者であると言う事などとうの昔に何処かに吹き飛んで行ってしまっている。迷宮に行くと言われても今さらである。

 そして渡された許可証によりベリベルは納得する。

「そいじゃあおでも迷宮に連れて行ってくれるんですかい?」

 ベリベルにしては珍しく、危険な所に行くというのにも関わらず嬉しそうである。職人であるベリベルが迷宮などと言う場所に行くことなど人生に1回、有るか無いかという出来事である。最近ではその人生に一度を何度も体験しているのであるが。

「あたりめぇだろ?おめぇが居なけりゃ誰が素材もつんだよ。それに剥ぎ取れねぇやつも出てくるしな。それに今日アレだけやっておいて単なる荷物持ちなんて通じるわけねぇだろ?」

 ノルンにはもう、迷宮に行く際に他の荷物持ちを雇うつもりなど無かった。もはやベリベルはノルンの中で戦力なのである。

「そいつは嬉しいっすね。おでもなんだかノルンの旦那について行くのが楽しくなったんでさぁ。」

 笑いながら答える。

 そこへバーバがエールを持って現れた。

「おう、いいところにすまねぇな。エール持って来たぜ。」

 そういって二人の目の前にエールを置く。

「まあなんだ、とりあえず飲みながら話そうぜ。」

 そのまま目の前のグラスを掲げる。

 それに合わせるようにベリベルのグラスを掲げた。

 傍から見ればガタイの良い冒険者とひよっこの新人冒険者の子供であるが中身はまるで逆であった。

 その二人がグラスを合わせる。

「これからもよろしくな。」

「おでのほうこそよろしくっす。」


 二人が笑い合っていると階段から降りてきたユラルルとイルアリアハートに見つかった。

「あ、ベリベルさんだ!って、ちょっと~!なんで二人でもう飲み始めてるの!?」

 ユラルルの言う事はもっともなのであるが、ノルンは全く悪ぶれる事無く返事をする。

「先に飲み始めてるから風呂上がったらこいよ!」

 それに対し暫くの間文句を言っていたがしぶしぶお風呂に入りに行く。

 それを見送ってやっと話し始めた。

「んで、最近どうだ?おめぇは忙しいかもしれねぇが。」

 ベリベルは冒険者の手伝いに、帰ると素材の処理、そこから自分の構想で設計図の製作、そして新しい素材の構築など、まさしく寝るのも惜しいほどに動いている。

「いえ、最近はほんとに充実してまさぁ。今までじゃ考えもつかなかったようなアイデアばかり浮かぶんでさ!今日は親方に無理行って出させてもらいやしたが、ノルンの旦那からの誘いじゃなきゃ今頃工房に篭ってたかもしれやせん。」

 興奮気味に話すベリベルに相槌を打ちながら新たなエールを頼むノルン。

 実際、今現在のウイッデン防具加工店は戦場である。一人でも戦力がほしい所で、よくベリベルを送り出したとウイッデンの男気を褒めてやりたい。

「そういえば今日のマッドブルっすけど、半分は王都に流すらしいですぜ。もったいないんですけど、ああいう装飾品とかに使う素材は王都の職人の方が腕の良いのが集まってやすからね。親方もあんまり乗り気じゃないんですが流すらしいっす。」

 ノルンはへ~、と言うだけである。

「って言いやしても、残った半分も当分使い切れないぐらいあるんすけどね。おでもマッドブルの皮を使ったローブとか作りたいですぜ。そういやノルンの旦那に相談なんすけど、マッドブルの角を切り出してスローイングナイフみたいなものを作ろうと思うんすけど、ちょっとこれを見ていただけやせんか?」

 そういって懐から手帳を取り出す。何故か前のよりも新しい。恐らく2冊目なのだろう。

「こういう形状にしようと思うんすけど、どうっすか?使い勝手とかはおでじゃわからなくて。」

 ノルンの見た手帳には、薄く切り出された鉤爪状のマッドブルの角の絵が描いてあった。それは長細い手裏剣、とも言えなくもない。

「こんなもんどうやって使うんだ?まっすぐ投げれそうにねぇんだが。」

 この世界に手裏剣と言う概念はない。少なくとも冒険者の間では。

 せいぜいナイフを投げやすくしたスローイングナイフぐらいである。

「これはっすね、旦那みたいに真っ直ぐ投げるんじゃないんすよ。回転させながら投げるんでさぁ。旦那がスローイングナイフ投げるのを見てて、おでじゃ真っ直ぐ飛ばないだろうなぁって思ってたら閃いたんすよ。」

 物凄い笑顔で顔を近づけるベリベル。興奮しすぎである。

 しかしそれもしょうがない事である。親方であるウイッデンから他の者に見せないように言われているので、周りに自慢する事も意見を求める事もできなかったのである。その反動がここに来て現れている。

「ああ、その発想はなかったなぁ。そう考えるとこの形状でもいいのか。貫通はしにくそうだが足止めにはちょうどいいかもな。」

 ノルンにもやっとその発想が伝わったのかうんうんといっている。

「分かりやすか?作ってみない事にはわからないんすけど、投げやすいように重心は偏らせた方がいいかもしれやせん。それと周りに補強と切れ味を追加させる為に金属を張るのも良いかもっすね。どうしても重くならないように基本素材は魔物のものが必要になりやすけど。あ、まだまだ聞きたいことがあるんすよ。」

 そういってごそごそとまた手帳を取り出すベリベル。

 そこに晩飯ができたのか運ばれてきた。

「待たせたな。今日は豪勢だぜ?ヘッドボアのステーキだ。こんなご馳走そうでねぇぞ。」

 出された皿には美味しそうに焼かれたステーキ。そこから上がる匂いは食欲を刺激する。

 その匂いに釣られたのかノルンの服の中からごそごそと妖精が這い出してきた。

 そのままカウンターの皿の上に行くとステーキにかぶりつき始めた。

「おいこのやろう!俺の肉食べんじゃねぇよっ!」

 可愛らしく頭を傾げるがやめる気はないようだ。

 それを見ていたベリベルとバーバは驚きから動きが止まっている。

 それに気がついたのかノルンが言い訳を始めた。

「いやな、なんて言うかこいつは拾ったって言うかな?持って帰っちまってな。別に害はねぇから気にすんな。」

 そういって妖精に取られていた肉を取り返そうとして、追い払おうとしている。

 この状況を見て気にするなといわれて気にしないなど出来ようはずもない。

「へ、へぇ。ノルンの旦那がそういうんでしたら気にしやせん。それでですね、次なんすけど。」

(おいおい、そこは普通突っ込むだろう。)

 バーバの心の声は後に続くベリベルの興奮した声にかき消されていった。


 それはユラルルたちがお風呂から出てくるまで続いた。

 もちろんベリベルの会話を聞いていたノルンは肉を食い損なった。



この辺りで第1章が終わります。


第1章仲間達との邂逅篇から


第2章オークキングの来襲と未帰還迷宮の謎篇をお送りします。

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