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文章を少し変えて見ました。感想いただけれる嬉しいです。
作者は以前の方がいいのかな?と思っています。
宿に入ってきたジライとアリスと名乗る二人は、メリルルの目の前まで行くと膝を突いた。
「当主であるバッハハイゼン様から、言伝を頂戴いたしております。お伝えしてもよろしいですか?」
そういってメリルルの方へ視線を移すジライ。それにあわせるようにメリルルが答えた。
「ええ、いいわよ」
懐から手紙のような物を取り出すと、それを広げ読み出した。
「ではお伝えさせて頂きます。『メリルルが心配で二人を送りました。僕の代わりだと思って使ってやってください。お金が足りなくなりそうだったら、遠慮なく僕に伝えてください。心配ですので、定期的に手紙をもらえると嬉しいです。最後に、いつでも僕は貴女の味方です。バッハハイゼンより』、以上です」
読み終わると、手紙を畳んでメリルルに渡す。
「そう、しょうがないわね……。アリス、帰るわよ。それとジライ、ちょっと話したいことがあるから外に来てもらえるかしら。ああそうそう、バーバに金貨5枚ほど渡してくれる?」
「かしこまりました」
そうこともなげに言う。周りで聞いていたものはビックリである。
「え、お母様帰っちゃうの?」
先ほどまで怯えていたとは思えないほど、残念そうな声でユラルルが言った。
「ええ、あの人を放って置くわけにもいかないから」
時間がたつと軍隊をつれてくるかもしれないわ、と嘯く。不安そうなユラルルに近づくと耳打ちした。
(恋人にしたい人と結婚をしたい人って言うのは違うものなのよ?)
「貴女にもわかるときが来るかもしれないわね。それに、ここにはヴォルグもいるんだし、安心でしょ?私の大事な装備は暫く預けておいてあげるわ」
そういうと二人を連れて宿から出て行く。
その後姿に、ノルンが話しかけた。
「また来いよ」
その言葉に驚いたのか目を大きく開く。その後、物凄く笑顔でメリルルは答える。
「また来るわ。それまでに少しは男らしくなってなさいよ」
そう言うと踵を返して出口を出て行く。カウンターにはいつの間にか金貨が5枚置かれていた……。
メリルルとお付の二人が出て行った後、フリーズしていた他の面々が動き出す。
「災害みたいな女だったなありゃ……」
心の声が漏れているバーバである。
「そんなもんだ。それよりさっさと酒よこせ」
いつまでも待たされて、少しご機嫌斜めなノルンである。
そのノルンに、いつの間にか後ろに回っていたユラルルが抱きつく。
「えへへ。お母様が帰ったのは寂しいけど、ノルンがいるもんね。それに、まだまだ冒険続けたいし。あ、そうだ。お父さんって呼んだ方がいい?ね、ねね?」
うっとうしいぐらいに顔をすり寄せてくるユラルル。もはや、かもしれないが、お母様公認!に変わったのだ。嬉しさもひとしおだろう。
「うっとおしい。はなれろ」
少し顔が赤いのは気のせいである。
「おう、待たせた。それにしても、ありゃほんまもんの貴族だな。嬢ちゃん箱入りだったんだな」
そしてノルンの前にエールが置かれる。一気にあおっていくノルン。
「だからそう言ったじゃない。もしかして、信じてなかったの~?」
その口調はあくまでも優しい。未だノルンにへばりついている。
「そんなことより、これからの事について話しましょう。とりあえずノルンさんの酒代ですが」
そんなことにしてしまうのは、一刻も早く先ほどのことを記憶の隅に追いやりたいからであろう。
「ああ、一日樽一つでいいぞ」
新しいエールを注文しながら、紙袋からつまみを取り出したノルンはそう言った。
「……まあ、それはもういいです。ノルンさんの楽しみを奪うわけにはいきません。それよりも報酬の件ですが、とりあえず当座の生活資金や必要経費以外は、ノルンさんのギルドカードに入れておきます。私たちはまだ何の役にもたってませんので」
そう提案するイルアリアハート。彼女なりに現状を踏まえているのだろう。
「あ? そんなんでいいのか? 別に俺は等分でいいと思うが」
「いけません。そんなの許されません。いいですねユラルルさん」
そう話を振られたユラルルは、まだ興奮冷めやらぬのか、今度はノルンの膝の上に乗っている。
「ん~、良くわかんないからイルちゃんに任せるよ~」
今は何を言っても駄目そうである。
それから細かい事を決めていくイルアリアハート。それに適当な相槌を打って怒られていくノルンであった。
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「ようやく寝たか……」
そう言って布団からでるノルン。現在の時刻はとっくに寝静まる時刻である。
ベッドからそっと降りると音を立てないように着替えていく。そして鎧はつけず、ナイフを腰に挿しスローイングナイフを胸に下げると、静かに部屋を出た。
そのまま一階まで下りると、静かに外に出る。
「……出て来いよ。ずっと殺気ぶつけやがって眠れねぇんだよ」
ノルンが晩飯を食べているときから感じていた、不快な刺すような殺気。それは未だ続いている。
「なんだ、これだけ殺気を隠さねぇんだから、相当の自信家かと思ったが、意外と臆病なんだな」
その台詞が終わるや否や、ノルンの後方からナイフが飛んでくる。
それが見えているかのように、ノルンは半身になり軸をずらすとそれをかわす。明らかに首を狙った一撃である。
「そっちか」
ナイフが飛んできた方向を向くと、其処には昼間見た執事が立っていた。
「なんだ、メリルルの仕業か? それはないか。おめぇみたいなのはよこさねぇよな。」
「メリルル様ではありません」
言葉少なくそう答える。
闇討ちをするにしても、顔ぐらいは隠す物である。明らかに、昼間見た執事服のまま、素顔を晒しているこの壮年の男は馬鹿なのか、それとも自信があるのか。
「へぇ、じゃあお前の言う旦那様か。いいね、自分の女を自分の物にしたい。男じゃねぇか」
(俺にはそんな勇気は無かったがな……)
「……」
ノルンの言葉に答える事無く男が動く。その左手に持ったナイフをノルンの顔めがけて投げる。それを上体を振ってよけた瞬間、もうすでにノルンの足元に這うように男が接近していた。
「おおはえぇはえぇ」
余裕げなノルンの足元から、一気に跳ね上がるようにしてジライは起き上がった。その両手には何故か既にナイフが握られている。左で持ったナイフで頚動脈を、右で持ったナイフで心臓を。その動きに迷いなど無く、まさしく超一流の暗殺者のようである。
「……!」
しかし、ノルンの動きはジライの予想を上回る物だった。飛び上がるジライよりも早く、ジライの頭を基点に倒立前転をすると、ジライの頭を持ったまま投げ飛ばす。嫌な音が通りに響く。
「背骨がいったか。まだやんのか?」
そのノルンの言葉に答える事無く、ジライは右腕を力なく上げようとする。
それをノルンは踵で踏み砕いた。
「っ……!! 」
声にならない悲鳴が上がる。奥歯の軋む音が聞こえてきそうだ。
「おまえさん結局何しに来たんだ? メリルルと一緒に帰ったとばかし思ってたんだが。やっぱり旦那様か?」
返事など期待していない。一応聞いてみただけだ。予想通り返事が来ないことを確認すると、面倒だが殺すか、と結論を出そうとしていた。
「……旦那様は、関係、ない」
それを聞いたノルンは面白い物を見たような顔をする。
「はっ、はははは!そっか、それじゃお前の独断か。そうか、慕われてんだなその旦那様とやらは」
そういうと踵を返し宿に帰ろうとする。
「ま、て……」
背骨が折れ、腕も砕かれ体も殆ど動かない。彼を動かしているものは、既に何も残っていないはずである。
帰ろうとしたノルンが振り返る。
「まあなんだ、あいつが愛されててよかったわ。俺はそういうの与えられねぇからよ、運よく生き残ったらその旦那様に伝えてくれや。メリルルを頼むって」
「……」
「じゃあな。ああそうだ、もう殺気は勘弁してくれよ。眠れねぇからよ」
そういって手をひらひらとさせて宿に入っていった。
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少し早めに起きたイルアリアハートは、今まさに昇ろうとする朝日を見ながら、二度寝するか、起きるか悩んでいた。しかし自分を叱咤すると、勢い良く起き上がり準備をする。そう、昨日買ったばかりの弩を使ってみようと思ったのだ。
着替えと身だしなみを整えると、いつもの神官服に弩と、それと一緒に買った矢筒を持って下に下りる。流石にバーバもまだ起きていないようであった。
そのまま宿屋を出たイルアリアハートは、目の前に転がる死体に動転する。
「……え?」
どう見ても死体である。全く身動きすらせず、腕は変な方向に曲がっている。しかも良く見ると、昨日見た執事さんであった。
一度だけの遭遇とはいえ知り合いである。イルアリアハートは慌てて駆け寄った。
「だ、大丈夫です……か?」
顔に耳を近づけると、微かに呼吸の音が聞こえる。少しだが胸も上下しているようだ。しかしその顔には脂汗が浮かんでいる。体温も明らかに危険なほど下がっていた。
それを確認すると、イルアリアハートはジライの胸に手を当てる。ふ~、と息を吐くと集中し始めた。
【神聖魔術:再生】
神聖魔術の中でも、使えるものはあまり多くない再生であるが、その効果は非常に高い。高速で体が元の状態に戻っていく。それはビデオの逆再生を見ているようである。
短くない時間それを続けると、どうやら呼吸も安定してきたようだ。それを確認するとイルアリアハートは周りを見渡す。
(とりあえず宿の中に運びますか)
とりあえず宿の中に運んだイルアリアハートは、またしても悩んでいた。とっさに助けてしまったがこれからどうしよう。流石にここまでしておいて、見捨てるわけにはいかなかった。
暫くうんうん悩んでいると、寝ている男が目を覚ます。
「ここは……」
「あ、目が覚めましたか。大丈夫ですか?まだ治療したばかりなので、動かない方がいいです」
起き上がろうとした男の頭の上に手を置くと、そう制止する。
「貴女は、確か……、うっ」
無理に起き上がろうとして全身に痛みが走ったのか、苦しそうに呻く。
「あああ、無理はしないでください。そうですね、何処かもっと休める場所に……」
そういって周りを見渡すが全くそれらしき物がない。
「その、いっている事が矛盾していますが立てますか? 私じゃ、貴方を運べないので……」
その言葉を聞くと男はよろよろと立ち上がる。
「……あ、肩ぐらいは貸します。こっちに来てください。とりあえず私の部屋に行きましょう」
イルアリアハートは肩を貸そうとするが、身長差がありすぎて手をかけるぐらいしかできない。
「……すまない。有難う」
「いえいえ、こういうときはお互い様です。ではこっちです」
そういって階段の方へゆっくりと歩いていく。
部屋に着いたころには、ジライは汗だくだった。全身が痛む中、良く3階まで上がったと褒めてあげたいほどである。
そのジライをベッドに寝かせたイルアリアハートは、椅子に座って額の汗をぬぐっていた。
「とりあえず眠ってください。何故あんな事になっていたか、とかは聞きません。とりあえず体を休める事が先決です」
ひとしきり拭き終えると、もう一度イルアリアハートはジライの胸に手を当てる。
【神聖魔術:癒し】
当てられた手のひらを中心に、ジライの体全体が徐々に、本当に徐々に癒されていく。
その心地よい感覚に、とうとうジライは意識を手ばなすのであった。
ジライが目を覚ますと、そこにはベッドに寄り添うようにして突っ伏しているイルアリアハートの姿があった。30分か、はたまた1時間か、短い間だが十分な休養を取ったジライは、体の調子が戻ったのを実感した。体を起こそうとすると慌てたイルアリアハートにまたしても止められる。
「だめです。まだ駄目です。大人しくしてください。体が動くようになっても、失った体力はそのままなんですから、まだ寝てないといけません」
そういわれて大人しくベッドに横になった。
「……こんな格好で申し訳ありません。瀕死のところを助けて頂いて、感謝の思いで一杯です。申し遅れましたが、私はジライと申します。もしよろしければ、貴方の名前を教えて頂けないでしょうか?」
丁寧な口調でジライは礼を述べる。
「私の名前はイルアリアハートです。助けるのは人として当然の事です。お礼は嬉しいですが、とりあえずはもう寝てください」
優しい口調で返事をする。その言葉を聞いたジライは安堵からか、糸が切れたように眠りについた。
それを見ながらイルアリアハートは思う。
(とりあえずノルンさんに相談しなくてはいけませんね)
この瀕死の重傷の原因が、ノルンにあるとは知らないからできる考えである。
そう考えたイルアリアハートは、急いでノルンの部屋へと向かうのであった。
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部屋で寝ていたノルンはイルアリアハートに叩き起こされた。鍵を破壊するような勢いでドアをノックされ、一応の着衣を整えると、(ユラルルによる教育の賜物)ドアを開ける。もちろんユラルルは起きるのを拒否して布団に包まったままである。
「朝早くからすいません。早急に相談したい事がありまして」
朝早くから元気だなこいつ。と寝起きのノルンは思っていた。
「なんだよ。昨日寝るのが遅かったから眠いんだよ。手短に頼むわ」
そういって欠伸をかみ殺している。
「それはすいませんでした。それでですね、今朝、宿の前で瀕死の重傷を負った男性を発見しました。それで治療して私の部屋に運び込んだんですが、面識のある方なので一応どうしようかノルンさんにも考えてもらおうと思って来ました」
それを聞きながら徐々にノルンは眉をひそめていく。
(それって、昨日やりあったジライとかいう奴じゃねぇの? もしかしてあいつ一人だったのかよ。そりゃ死にかけるわな)
そうなのだ。てっきり他にも複数いると思い込んでいたノルンは、仲間が回収するだろ程度の認識だった。
「あ、ああ。とりあえず見に行くか」
眠気などとうの昔に吹き飛んでいた。
イルアリアハートの部屋では男が一人眠っていた。昨日の昼に宿を訪れたジライという男である。ノルンはその後もう一度会っているが。
その男はノルンの部屋と全く同じ構造の部屋のベッドに寝かされている。ノルンは部屋を見ながら、ユラルルと違って必要最低限のものしか置いてないな、と違う事を考えて意識を逸らしていた。
「それでその、どうしましょうか」
何をどうしようというのか。ノルンはイルアリアハートが昨日の夜の一幕を見ていて、止めを刺せといっているのか? と誇大妄想じみた考えを少し思い浮かべたが、頭を振って否定する。
(どうやら治療は終えてるみてぇだな。腕もちゃんと伸びてるし、呼吸も安定してる)
「こいつの治療ってもう終わってんだよな? 」
「はい。とりあえず魔術でできるところまでの治療は終えました」
それを聞いてノルンは感心した。
(結構大怪我だったと思うんだがな。腕がいいのは聞いてたが、こりゃ予想以上かもな)
「治療がすんでるんなら、後はなんもすることはねぇよ。起きたら飯食わすぐらいだ」
「そうですか、それは安心しました。ではとりあえずこのままですね」
そうだな、と返事を返すと適当な話題を振る。
「もう起きちまったし飯でも食いにいくか」
ジライのことは放置である。
「そうですね。ジライさんも当分起きてこられないと思いますし」
じゃあいくか。といって二人して一階に下りていくのであった。
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