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期待したような描写はありません。ご容赦ください。
ノルンがイルアリアハートを背負ってオーガの所に戻ったころには一体分処理されていた。嬉々として解体しているベリベルの表情がちょっと怖い。
「ノルンの兄貴おかえりなせぇ。解体はもうちょっとで終わるんで待ってくだせぇ。っと、なんですかい?その肩に担いでる人みたいなもの。」
見たいではなくそのまんま人である。
「あれ?その子朝に来てた子だよねー?どうしたの?可愛いから拾ってきちゃった?」
拾ってきたと言えば拾ってきた事になるのだろうか。
「ちげぇよ。後ろで襲われてたから助けてやったんだよ。今ちょっと気絶してるだけだ。」
そう言って肩に下げていたのを両手で持ち直す。いわゆるお姫様抱っこである。
「まあこいつ抱えたまま戦闘なんてしたくねぇししょうがねぇから今日は帰るぞ。さっさとそのオーガ解体しちまえよ。」
そういって顎をしゃくる。
「ん~、確かにそうだよね~。なんか最近狼ちゃんも寄り付かないし、もっと奥に行ったほうがいいのかなぁ。」
ユラルルの言うとおり最初の襲撃の後、出会っても寄り付いてこない。恐らく勝てない相手として認識されたようだ。
「確かにお嬢さんの言うとおりっすね。遠巻きに見てるだけで近寄っちゃ来ません。きっとおこぼれでも狙ってるんじゃないですかい?」
シルバーウルフは頭のいい魔物である。それ故に群れを作る事も出来るし勝てない相手には挑まないという行動も取れる。
「ユラルルも言うようになったじゃねぇか。そろそろ丘越えてみるか?」
簡単げに言うノルンに吃驚したベリベルが割り込む。
「か、勘弁してくだせぇ!ノルンの旦那の事は信頼してやすがそれとこれとは別ですぜ。おでなんかが行ったら逃げらんねぇですぜ。でもいい素材は手に入るかもしれないんですよね……。」
身の危険とそれ以上の見返りに頭を悩ますベリベル。ノルンが強いからといって守れるかどうかは別である。元々ノルンの性格上守りなどは向いていないのだ。ユラルルなどは何でそんなに吃驚してるの?とハテナ顔である。
「てめぇも自分の身ぐれぇてめぇで守れよ、そろそろよ。せっかくでかい図体してんだからさ。」
「案外ベリベルさん向いてるかもよ?」
適当な事を言う女である。
「とんでもねぇ!おでなんか一瞬でさぁ!」
「まあ一瞬持てば良いじゃねぇか。」
そう陽気に話している所でどうやら剥ぎ取りが終わったようである。獲物を背嚢に詰めるとそれをベリベルは担ぐ。それを合図とするように今度は来た道をゆっくり歩いて帰っていくのであった。
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東の城門で少女を抱き上げた状態で帰ってきたため一悶着あったがノルン達は無事街に帰ってきた。
「そんじゃあベリベル、依頼とか報酬は明日まとめてで良いからよ、ウイッデンに宜しく言っといてくれ。俺たちゃこいつ運んでくるから。」
「へい!まかせてくだせぇ。そんじゃ今日はおつかれっした!」
「おう、またな。」
そういって手を振るノルンに90度の礼をするベリベル。下っ端根性もここまでくれば天晴れである。
「それにしてもこの子まだ起きないけど何処か悪いの?」
そう言って覗き込むユラルル。頬をぷにぷにつついている。あどけない表情にきめ細かい肌、
「いんや、傷は治しておいたから後は目が醒めるのを待つだけだろ。」
「え?魔術で治したんだ。も~、見せてっていったじゃない!」
「あ?だからお前が大怪我したら見せてやるよ。そんときゃ覚えてないだろうがな。」
「あ、そういう事言う~?もうお風呂で洗ってあげないんだから。いいの?ノルン体が硬いから背中に手が届かないくせに。」
「あーはいはい。別に風呂も一緒に入っていらん。」
「も~、少しは残念がってよ!それに一緒にお風呂に入るのはもう決まりなの。決定なの。だからもう変えれませーん。」
二人がそんな会話をしているうちに宿屋に到着した。
「おうバーバ、ただいま。」
「バーバさんただいま。」
二人して話しかける。それに振り返り返事をしようとしたバーバは固まってしまう。
「おう、おか……。」
それ以上口から言葉が出る事もなく、ノルンの抱き上げているイルアリアハートに目が釘付けになる。
「おまえそれ……、殺したのか?」
「殺してねぇよ!ったく、人のことなんだと思ってんだよ。魔物に襲われてるところを助けてやったんだよ。今は気絶してるだけだ。こいつここに泊まってんだろ?部屋の鍵くれよ。寝かせてくるから。」
「あ、私は水桶が欲しいな。ついでにお風呂の用意もお願いしたいな。」
明らかにほっとした表情である。ノルンには前科があるのだ。騎士団の兵士が聞き込みにこの宿を訪れたのは記憶に新しい。
「なんだ、そいつが来た事知ってんのか。ほらよ、そいつの部屋は嬢ちゃんの隣だ。」
そう言って部屋の鍵を3つ投げてよこす。それをノルンは器用にキャッチした。
「ありがとよ。じゃあな。」
そのまま階段を上がっていく。その後に送れて水桶をもらったユラルルが上がっていった。
ノルンは一旦自室に行くと自分のベッドにイルアリアハートを寝かせる。そうすると自分の装備をはずしだした。全ての装備をはずすとユラルルが入ってきて慣れた手つきで手入れを始める。暫く手入れをしていたユラルルだがあるものを見つける。
「ねぇノルン。これなに?物凄く綺麗でピカピカしてるけど、美味しくはなさそう。」
そういってポーチの中にあったレモンほどの大きさの黄金の果実を見せる。
「あ?なんだそれ。美味そうってそれ食えるもんなのか?そんな色してんのに。」
ノルンの疑問のとおり見た目食べられそうにはない。流石のノルンであっても精霊樹ハバフは知っているがその実である死者の実のことは知らなかったようである。渡された黄金の果実をしげしげと眺めると興味を失ったのか部屋の隅にあるゴミ箱に投げ捨てる。
「あーーーーー!捨てなくても良いじゃない。綺麗なんだから飾っとこうよ~。」
そういってゴミ箱から持ってきた果実を化粧台の上に置く。それからまた手入れに入った。
そこでベッドで寝ていたイルアリアハートが目を覚ましたのか体を起こす。
「あ?起きたのか。どうだ体の調子は、多分大丈夫だと思うんだが。」
そう聞かれたイルアリアハートはぼうっとノルンの事を眺めながら鈍った思考回路で考える。
(ああそうでした、確か私は岩に弾き飛ばされてそれで……。)
そこまで考えて体を見下ろした。どうやら体は問題なく動くようである。どうやら本当にこの男は治療を行えるみたいであった。しかもかなり高いレベルで。薄れ行く意識の中で助けてくれたのはこの男で間違いないようである。
「……、危ない所を助けて頂いただけでなく治療を行いここまで運んで頂き有難うございます。」
とりあえず考えるのをやめてまずは感謝する事にしたようだ。言葉を言い終わるとそのまま大きく頭を下げる。
「まあ確かに危なかった。けどな、ハバフなんて普通しらねぇからな。しょうがねぇよ。それにお前さんが生きてんのはその装備のおかげだろ。いいもん着てんじゃねぇか、それミスリル銀の糸で編んだ物だろ?」
そういわれて改めて自身を見下ろすイルアリアハート。所々に血が固まって残っているが服自体に傷などはない。綺麗な物である。
彼女の着ている神官服はノルンの言うとおりミスリル銀で編まれた高級品である。ミスリル銀を魔力をこめながら糸状にし、それを編みこんで作られた物である。魔術的な耐性もさることながら並の武器では傷など付かない。但し軽く薄いその素材から衝撃などには弱いという特性があるが後衛職が着る物としては最高級である。
(私が生き残ったのはみんなのおかげですか。)
何ともいえない感慨に浸りながら彼女は改めて自分の為すべきことを思い出す。そう、強い仲間を手に入れるのだと。それが自身の望みに近づく事であり、今は亡き、(まだ死んでいない)仲間達との約束なのだ。そこに彼女のプライドなどという物の入り込む余地はない。
居住まいを直したイルアリアハートはその場で土下座をする。
「助けて頂いた上に更に恥を忍んでお願いします。どうか私をパーティーに入れてください。なんでもします。掃除から洗濯、道具の手入れから何でもします。もし貴方が望むなら、した事はありませんが……、夜のお相手だってします!お願いします、どうか入れてください。」
突然の申し入れにノルンは吃驚する。なにがそこまでさせるのか、と。その申し入れはまるで奴隷のようではないか。
イルアリアハートは草原で見た事を思い出していた。このノルンとか言う男は口先だけでは全くない。自分よりも幼いようなのにまるでそれを感じさせない。まるで熟練の冒険者のようである。しかも実力は今までに見た事がないほどに超一流である。なにが何でも仲間に迎え入れてもらわなければ。なりふりなど構っている場合ではない。
そのイルアリアハートの思いを他所にノルンからの無情な言葉が投げかけられる。
「だから言っただろ。別にパーティーメンバーを今増やすつもりなんてねぇ。ただでさえ使えねぇやつの世話してんだ。これ以上はやってられねぇよ。」
その言葉に顔を上げたイルアリアハートの目にはみるみる涙が溜まっていく。
(やはり駄目なのですか。元々言われていましたがこんなにもクルものだとは思いませんでした。)
イルアリアハートは今まで何だかんだ言われつつ甘やかされていたのだ。自分ではきちんと冒険者をしているつもりでも細かい所を周りの者が助けていた。そんなイルアリアハートにとって余りにも明確な拒絶は初めてである。
「だーーーっ!大体だな、簡単げに体を許すとか言うんじゃねぇよ。意味分かってんのか?これだからお子様はよぉ。それに神官を雑用に使う馬鹿がどこにいんだよ、お前馬鹿なのか?他んとこいきゃちやほやされるだろうに何で俺に言うんだよ。だいたいだなぁ!」
更に罵詈雑言を並べ立てるノルンをユラルルはニヤニヤしながら見つめている。
「分かってんのか?大体実力もねぇくせに草原に一人で来るんじゃねぇよ。死にてぇのか?あ?あーくそ。ちっ、おいユラルル。おめぇはどうなんだよ?」
ひとしきり貶し終わるとユラルルに振る。それを待ってましたとばかりにユラルルは喋った。
「私はもちろん賛成だよ~?イルちゃんちっこくて可愛いしなんか守ってあげたくならない?でしょ?ノルンだってそんなつもり無いくせに、ひどい事言い過ぎだよ~。イルちゃん泣きそうになってるじゃない、もう!私はユラルルっていうんだよ。宜しくね?イルちゃん。」
もはや泣き出す一歩手前だったイルアリアハートは状況の推移に思考が追いついていない。
「ノルンだ。はぁ~、また子供かよ。もうちょい頼れる奴が欲しいもんだ。さっきお前が言ってた事は別にしなくていい。まあなんだ?これからよろしく頼むぜ、イル。」
その言葉を聞いたイルは耐えていた瞳からぽろぽろと涙を溢れさせる。
「わ、私の名前は、イルアリアハート。……です。よろしく、お願いします。」
そういうとまた土下座をする。
「あーーっ、もう。ノルンがひどい事言うからだよ~。女の子いじめて楽しいのー?」
「はぁ?ちげぇよ。まあなんだ?泣き止めよ。な?イルアリアハート。なげぇな、イルでいいや。それにここはよろしくお願いしますじゃねぇだろ、仲間にそんな事言わねぇよ。よろしくな!これでいんだよ。」
自分の名前をきちんと呼んでもらった時、イルアリアハートの胸が少しだけ高鳴った。涙ながらにイルアリアハートは思う。この人は口は悪いがいい人なのではないだろうか、と。
「……、よろしく、です。」
それから気持ちを落ち着ける為に大きく息を吸って吐く。そうしていつもの様に明瞭に話し出す。
「ですが譲れない事もあります。私の名前はイルアリアハートです。両親が心を籠めてつけてくれた大切な名前です。省略されるのは好きではありません。きちんと呼んでください。」
「あぁ?イルアリアハートだろイル。分かってるよんなこと。」
「分かっていません。全く分かっていません。ちゃんと私を呼ぶときは省略せずに言ってください。」
「イルアリアハート、イルアリアハート。やっぱ長いからイルで良いや。」
大分緊張も取れたのか表情も柔らかくなっている。やはり神は私のことを見守ってくれているとイルアリアハートは、そう思った。
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処変わって現在イルアリアハートは困っていた。非常に困っていた。何に困っているかというと目の前の光景に困っていた。イルアリアハートの目の前では先ほど仲間になったばかりの二人がその着ている服を脱いでいる。そう、ここはお風呂の脱衣所である。
時は少しさかのぼる。イルアリアハートとノルンが名前の事について激論、(一方的にイルアリアハートが突っ込んでいるだけなのだが)をしているとユラルルが二人に話しかけた。どうやら道具の手入れが終わったようである。
「よし、おーわり。それじゃイルちゃんお風呂にいこっか。まだ少し汚れてるしやっぱり宿に帰ってきたらお風呂でしょー。」
「ですから私の名前はイルアリアハートだと……。確かにそれはいいかもしれません。」
仲間になったばかりでお互いの事を良く知らないのである。この機会に打ち解けるのもいいかもしれないと思いそうイルアリアハートは答えた。
「それじゃいこっか?ノルンもほら、いくよ?」
余りにも自然にノルンの事を誘うユラルルに慌ててイルアリアハートは口を挟む。
「ちょっと待ってください。この男も一緒に入るのですか?それは流石にどうかと思います。未婚の男女が肌を曝け出すなどあってはなりません。」
先ほどの自分の言葉などなかったかのようにイルアリアハートは言い切った。ここのお風呂は広くて豪華だが浴室は一つしかなかったはずである。
「ああそう思うだろ。俺はあと、」
「一緒に入るの!えっとね、イルちゃん。パーティーはみんなでお風呂に入るものなの。だから別に変な事じゃないよ?」
ノルンの言葉を遮ってユラルルがそうまくし立てる。
「おいこらうそ、」
「他の所はどうだか知らないけどうちはそうなんだよ!だから気にしちゃ駄目!」
「……。」
更に言葉を言おうとしたノルンはまたしても遮られる。もはや言葉も出てこない。
「……、つまりそれがこのパーティーの流儀で常識で約束事なのですか?」
明らかに疑う眼差しである。
「もっちろんだよ!私とノルンは毎日お風呂一緒に入ってるよ?ほんとだよ?バーバさんに聞いてくれてもいいんだから。」
嘘はない。確かにそのとおりなのだがそんな決まりは初耳である。ノルンは溜息と共に首を振るのみである。
「……わかりました。それが決まりというのであれば従います。私は新参者ですから。」
明らかに不満そうな声で答える。
「それじゃいこっか。10分後に一階に集合だからね。ちゃんと着替えももって来るんだよ?」
そういうとユラルルは自分の部屋に鼻歌交じりで歩いていった。残された二人が微妙な空気だったのは言うまでもない。
そして今に至る。恐ろしく普通に服を脱いでいる二人を見ると先ほどの話が本当なのだといまさらに自覚した。早くも後悔の念がよぎる。服を脱ぎ終わったノルンが先に入って行き、それに遅れてユラルルも入っていく。
(これが神の試練という物ですか。)
全くそんなことはない。
とうとう覚悟を決めたのか、のろのろと服を脱ぎ始める。まるで呪いがかかっていて動きが遅くなっているようである。全ての服を脱ぎ終わるととうとう観念したのか浴槽の扉を開いた。
そこにはもうすでに湯船に浸かるノルンの姿と体を洗うユラルルの姿。ノルンはこちらに背を向けるように湯船に浸かっている。それを見たイルアリアハートは明らかにほっとした表情を浮かべる。遅いか早いかの違いしかないのであるが。
「イルちゃん遅いよー。来ないかと思っちゃった。あ、お風呂のこと分かる?私が体を洗ってあげようか?」
自分の体を湯で流しながらそう囁く。しかし表情は実に親父くさかった。
「いえ、結構です。お風呂のことはわかりますので手伝いなどはいりません。」
そっかーといいながらユラルルはノルンの隣の湯船に入っていく。
(近いです。おかしいです。お二人はお付き合いされてる方ですか?それならそれで私を巻き込まないで欲しいです。)
溜息を吐きながら椅子に座ると湯を体にかける。そうして体を洗っているイルアリアハートにノルンが尋ねる。
「ああ、そういやイル、お前何が出来るんだ?」
イルアリアハートは向けられた視線に思わず体を隠すがそんな事に意味がないのを悟ると開き直り手を下げる。そうして聞かれた問いに答えた。
「……何がと言うのはどういう意味ですか?」
確かに聞き方が悪い。その言葉の意味が分かるほどノルンとイルアリアハートはツーカーではないのだ。
「そりゃお前の出来る事だよ。神聖魔術が出来るのは聞いたからそれ以外だよ。」
ああ、なるほど。と納得する。要するに冒険の際の技能の事を言っているのだ。
「思えば当たり前の事ですね。メンバーの力量を知っておくのは当然でした。私はCランクの冒険者です。冒険者暦は1年程です。冒険に必要な知識は一通りあると思います。知ってのとおり神聖魔術でしたら私は得意です。非接触での治療も2mほどでしたら行えます。迷宮探索も神聖国家ユビベルンのビュルマー迷宮で25階まででしたら行ったことがあります。」
神聖国家ユビベルンは帝国の南にある小さな国であるが宗教色が強いため誰も手を出さない国である。その国唯一の迷宮が首都外縁部にあるビュルマー迷宮である。
すらすらと答えるイルアリアハートにユラルルは凄いねーと相槌を打っている。恐らく分かっていない。
「ひよっこに毛が生えたぐらいじゃねぇか。ビュルマーの25階っていやオークとかインプとかだったっけ?そうじゃなくてだ、お前本当に神聖魔術以外からっきしなのか?いつも迷宮で戦闘してるとき何してんだよ。」
ノルンの言葉にムッとしつつイルアリアハートは答える。
「……、戦闘では主に周囲の警戒を担当していました。他には戦闘中の重傷者の手当てとか戦闘後の治療とかです。」
段々とノルンの言わんとしている事を理解してきたようである。要するに戦闘中は見てるだけなのか?という事である。
「はぁ~、。まあ、見た感じそうじゃないかとは思ってたんだが随分甘やかされてたんだな。」
「……それはどういうことですか?」
なんだか自分だけではなく仲間まで貶されているように感じて口調が強くなる。
「あ?要するに戦闘中役に立たないって事だろ?仲間が危険な目にあってるときに一人安全な場所にいるようなもんだ。本当に1から教えなきゃならんのか……。ユラルルだけでも面倒だってのに。」
普通の神官はイルアリアハートの言っている様な立ち回りをする。パーティーの文字通り生命線なのだ、大事に扱うのが基本である。
「いいか、よく聞いとけよ。俺が昔パーティー組んでた神官とも言えねぇような神官はな、ゴリラみたいなアマゾネス女で破城槌片手に敵に突っ込む戦闘狂だったぞ。それを見習えとはいわねぇが神聖魔術以外のことも出来るようになった方がいいぜ。まあ、非接触で治癒できるのはすげぇけどな。」
神聖魔術は即効性の無い魔術である。普通は怪我をした患部を直接触る必要があり尚且つじんわり治癒していく為、戦闘中にするのは自殺行為である。なので神官は大体後方で待機しているのだ。ノルンの常識は壊滅的に間違っている。
「それってナーユさんの事でしょ?すっごいムキムキなんだよね!」
それまで神妙に聞いていたユラルルがそう話の相槌を打つ。
「そうそう、あのゴリラ気持ち悪いぐらいに筋肉ムキムキで……、いや、違うぞ?そいつはナーユとか言う名前じゃ……、無かった、気がする。」
にこにこと笑顔なユラルル。お風呂に入っているの背中に冷や汗が流れるのをノルンは感じていた。横を見てはいけない。第6感がそう告げている。その一瞬の静寂をイルアリアハートの言葉が切り裂いた。
「……確かに貴方の言うとおりです。私だけが後ろで見ているわけにはいきません。私は皆に甘えていたんですね。」
怒っていた表情から一転してシュンとうな垂れる。それを見てこれ幸いとノルンは話し出した。
「まあ、一緒にお前が出来る事を探してやるからそうしょぼくれんなよ。な?」
話の矛先をそらす事に必死である。
「いいのですか?貴方ほど強ければ求める物も高くなるはずです。なのに私はこの程度です。もとよりあまり期待されていなかったのは分かっていましたがその上面倒を見ていただくなんて、良いのですか?」
悲痛そうな表情に何か救いを求めるような目。それを見ながらノルンは答える。
「当たり前だろ、俺たちはもう仲間なんだから頼って頼られては当然だ。」
イルアリアハートはその言葉を聞いて思わず破顔する。私もいつかこの男に頼られるまでになってみせる。そう思いながら。
「ねぇねぇ、私には聞かないの?何が出来るんだーって。」
話に入ってきたユラルルにノルンはそっけなく答える。
「お前はそれ以前の問題だ。ひよっこ卒業したら聞いてやるよ。」
「もーーっ、意地悪ばっかり言うんだから。この口?この口がそんな事いうのー?」
そう言ってノルンの口を引っ張る。
「ごら、でべ、ひーあへんひひお!」
ノルンは気が付いていなかったが、自分で凹まして自分でフォローする。ジゴロの手口そのまんまである。
そのままあーだこうだ長い間3人で話していた。もちろんのぼせた。
またしても長くなるので分割。
次はサブタイトル:それぞれの夜 に続きます。