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 各種属性魔術、紋章術、精霊術、契約魔術。

 他にも様々な神秘を用いた奇跡が世界には溢れていた。

 その中のひとつに代償を払い対価を得る契約魔術というものがある。




 その男は一人死に瀕していた。

 数あるダンジョンを只一人で挑み、幾度も生還を果たしたその男も寄る年波には勝てないのか迷宮の一角で傍目にもわかるほどの重症をおい、後は死を待つのみとなっていた。


「俺も焼きが回ったか……。くそっ、俺の最後も、こんなもの、か。」


 持っていた治療薬は使いきり、もはや与える代償など残ってはいない。

 そこでふと彼は自身の右腕を見た。そこには複雑な文様が書き込まれている。彼が若いころに結んだ契約だ。契約の相手もわからないままに結んだ契約だったがここまで彼とともにあり幾度もの死線を越えた彼にとっては戦友とも呼べるものであった。


「お前とも長い付き合いだったが、これで終わりか。最後に名前ぐらい知りたかったが……。」


 ああそうか、俺もくたばるんだ。最後ぐらい派手にやるか……。


【契約魔術:代償】発動


「俺の全部をくれてやる。髪の毛ひとつから血の一滴まで魂の全てだ。だから最後にお前の名前を教えてくれよ……。」


 右腕の紋章が淡く輝き、その瞬間彼の体は喪失した。


 その消える直前に聞こえた声が彼に届いたかどうかはわからない。ただその声は一言、ネビィガノルンと囁いた。






 契約魔術を行使するにはまず、契約をする神、もしくは悪魔、邪神、はたまた魔獣、精霊、など、力あるものと契約を結ぶ必要がある。

 その力あるものに己の全てを曝け出し気に入られる、もしくは条件を決め、ある特定条件で力の一端を借り受けることで魔術を発動させることができる。

 前者はまずいない。力あるものに見初められるということはまずありえない。力あるものが矮小な存在に興味を示すことなどまれなのだ。であるからして契約魔術というものはその殆ど全てが後者である。

 まず、呼び出す力あるものを決め、それを呼び出し名前を聞き出す。聞き出した名前の力によって行使できる魔術が変わるのである。

 簡単に言ったが呼び出すこと自体が簡単ではなく、ましてや名前を聞き出すことなどさらに困難である。よって契約魔術というものは最初の一手からして決死で挑まなければならないのである。そして運よく名前を聞き出せたとしても力あるものとは名前を複数持つものである。

 得た名前によっては強大な力を行使できるが大抵の場合はその者に応じた力であることが多い。そしてそれは良心的な力あるものである。邪神や悪魔などは名前を聞き出す代わりに様々なものを要求してくる。それは生贄であったり魂であったり寿命であったり。

 そして得た名前もその力あるものにとっては自身の名前の中で最も力のない名前であることが多く、貰う物だけもらい名前を与えないことが殆どである。


 では契約魔術の一種である【契約魔術:代償】とは何なのか。

 それは契約をその都度行うことで代償を払い、その対価をもらう事である。

 力あるものは名前を渡すことなく代償を得られ、術者は死ぬかもわからない契約を行わなくてすむ。

 そういった妥協から生まれた魔術である。しかしこの魔術にも欠点がある。それは、やはり事前に力あるものと繋がっておかねばならないことである。

 その最も一般的な手法が刺青である。力を借りたい力あるものの刺青を入れることでその力を借りる為の基点とするのである。しかしその刺青も手に入りにくく、結局力あるものを呼び出した際に名前の代わりに与えられることが多いのが現状である。

 大体の場合はその刺青はその家系の秘術として伝えられる。何度も言うようだが力あるものを呼び出し、生きて帰ってくるものなど殆どいない。契約魔術というものは頭の狂った邪神崇拝や一縷の望みに賭けた没落貴族などの行う最後の手段である。



 ---------------pf



「くっ、なんだぁ?眩しいな……。」


 男は窓から降り注ぐ朝日に目を細めながら起き上がる。


「ふぁ、朝か……。腹減ったな、とりあえず飯でも食いにいくか。」


 そう男は呟きベッドから降りて立ち上がる。しかし男はそのまま微動だせず呟いた。


「あぁ?なんだこれは……。」


 男は困惑していた。いつもと目線の高さが違う。見える風景が違うのだ。そしてさらに気がついた。先ほど呟いた声。それもまた聞き覚えのある自分の声ではなかった。

  そうして最後にとうとう思い出してしまった。なぜ自分はここにいる。ここは自分が泊まっている宿屋の部屋の中だ……。


「なんだこりゃ……?おいおい、まじかよ。」


 男は自分の体を見て、更に自分の目線の先を見て驚いた。

 どう見ても子供の体、そして身長は大体150位だろうか。そして声変わりしていないような綺麗な声。

 男は部屋に備え付けられている鏡の前まで進むと改めて自分の姿を見た。

 身長はやはり150ぐらい、淡い茶色い髪に整った容姿。体つきは細く、あまり強そうには見えない。

 最後に股間部に男のシンボルを見つけると男はあからさまにほっとした溜息を吐いた。

 男は全裸だったのである。何も身に着けないままなのはあまりにも心もとない為、元々の自分の荷物をあさり始める。

 予備の服はあるがサイズが全く合わない。ダボダボである。

 しかしそんなことは言っていられないので紐で何とかサイズをあわせながらあまった袖などを切り落としていく。一応着れる事を確認すると男は現状を考えだした。


 何故かはわからないが死んだはずの俺が生きて戻ってきている。まあ、よくわからん餓鬼の姿になっているがよく考えるとそれもまあいいかと思ってきた。

 男は齢50を超えていた。もう冒険者として生きるには辛い年齢であった。

 しかし戦いの中で生きてきた男にはそれしかなく、それ以外の生き方も死に場所もないと考えていたのである。そこにきて若返った訳ではないので生まれ変わったのはいい事である気がした。

 しかしこれからどうするか。恐らく俺が元の冒険者であると名乗っても誰も信じないだろう。ならばもう一度人生をやり直すのも面白いかもしれない。

 そう思ったところでふと思い出した。死ぬ間際に自身を代償に捧げた時、確かに俺は聞いた。俺が若いころに自身を過信し行った契約魔術。その相手の名前を。そう、たしかに聞こえたのである。


「ネビィガノルン……。」


 男がそう囁くと同時に男の足元に魔方陣が刻まれ眩い光が立ち込める。

 そして男の体が淡く蒼く光ると同時に右腕に刺青が刻まれる。

 それは以前男がつけていたものより大きく複雑で、右腕全てから首まで覆っていった。


「ぐぁぁっ!ぐ……、くぁ、はぁ、……はぁ。」


 焼けるような痛みと同時に何かと繋がるような感覚。若かりしころに結んだ契約のときと一緒であった。一つ違うとすれば刺青の規模であり、そして名を知らない仮契約などではなく力ある名前を持って行われた本契約であることであった。


「……本気で、教えてくれたって訳か?ったく、ありがとよ。別にここまでしてくれなくたって良かったんだがな……。」


 男はそこでやっと気がついたのである。何故死んだはずの自分がここにいるのか、何故生まれ変わったかのような姿をしているのか。そして極めつけは名前を教えてくれたことである。


「ちっ、くそ、ありがてぇじゃねぇか。」


 男のその言葉に答えるように刺青は仄かに蒼く煌いた。



 -----------------pf



 気持ちを落ち着かせた男はとりあえず荷物を整理した。

 今の自分は元の冒険者ではないのだ。この部屋にいつまでもいて見つかったら物取りと勘違いされて叩き出されてしまう。急がなければならない。

 予備としておいてあった両手剣を背中に担ぎ、ナイフを腰に差し、スローイングナイフを胸に下げる。防具はサイズが合わないのでこの際いいだろう。

 緊急時用に置いておいた資金を持つとそのまま扉に向かう。慎重に扉を少しだけ開けて外をうかがう。誰もいないのを確認するとそのまま廊下の突き当たりの窓に向かった。

 この窓は建物の横にあり、人目につかずに出るにはちょうどいい場所にあるのだ。宿屋が襲撃などされた場合はここから逃げようと以前当たりをつけていたがこんなところで役立つとは思っていなかった。

 慎重に辺りを気にしながら2階の窓から飛び降りる。かなりの重量がありやばい、と一瞬思ったのだが何事もなく普通に着地できたのにはさすがの男も驚いた。


「おいおい、この体かなり性能がいいんじゃねぇか?」


 うれしい誤算に驚きながらも辺りを気にしながら慎重に進む。

 しばらく歩き、街の反対側にある古ぼけた宿屋に入っていく。とりあえず荷物を置けるところを確保しなければならないと思ったからだ。

 宿屋に入っていくとそこは一般的な宿屋によくある構造をしていた。入ってすぐ左に受付カウンターがありその反対側は酒場になっている。こんな朝っぱらから酒を飲むやつももおらず閑散としている。


「おうおやじ、暫く泊まりたいんだが部屋は空いてるか?」


 カウンターで受付をしている中年の親父にそう問いかけると親父は此方を睨みながら向き直った。


「若ぇくせにえらい態度のでけぇ奴だな。金はあるんだろうな?」

「あるに決まってんだろ?」


 そういって男は懐から貨幣の詰まった袋を取り出して見せた。


「金はあるみてぇだな。俺はこの宿屋の主人のバーバっつうもんだ。一泊銀貨2枚、朝飯は銅貨5枚、晩飯は銀貨1枚だ。飯を食うときに

 払ってくれたらいいぞ。部屋は空いてるから何か希望はあるか?」


 少し憮然としながらも商売をする気はあるのか簡潔に説明してくる。


「長期で泊まりたいからそのつもりの部屋を頼む。とりあえず10日ほど前払いしとくから頼むぜ。」


 そういって銀貨を20枚カウンターに置く。


「へぇ、若ぇくせに一端の冒険者みたいなこと言うんだな。この街の迷宮にでももぐりに来たのか?」


 そういいながら銀貨を受け取りカウンターの下から鍵を取り出す。


「暫くはそうだな、ランクもあげねぇといけないだろうし依頼でものんびりこなすよ。つうことで暫く厄介になるぜ。」


 鍵を受け取り奥にある階段を上っていく男を見ながら宿屋の主人は首をかしげふと思い出したように呟いた。


「そういや名前聞いてねぇや。まあ後で良いか。」



 -----------------pf



 男は部屋に着くと荷物を降ろしてナイフとスローイングナイフだけもって直ぐに部屋を出た。男に貸された部屋は3階の突き当たり。広くもなく狭くもない。大きなベッドと簡単な机と椅子、化粧台が置かれていて奥にはクローゼットが一つ。普通の部屋である。

 男は階段を下りるとフロントに鍵を渡し出ようとしたがバーバによって止められた。

「そういや坊主、名前はなんていうんだ?一応聞いておこうと思ってな。」

 宿屋の主人が客の名前を聞くのは当然である。当然であるのだが聞かれた男は止まってしまった。それも当然である。元々の名前を名乗るわけにもいかずさりとてそんなことを今まで考えていなかったのであるから気の効いた名前が思い浮かぶはずもない。暫くたって男は偽名を決めたのかバーバに向かって言った。

「……ノルンだ。さっきも言ったが長い間いるつもりなんでうまい飯を頼むぜ?」

 そう言って入り口の扉から出て行った。



 -----------------pf



 男、ではなくノルンはその足でまず服屋に向かった。当たり前である。いつまでもだぼだぼの服のままでいられるわけもない。ノルンはそこで目立たない長袖の黒のシャツと同じ色の半袖のベスト、黒のスボン、皮のブーツ、皮の手袋を買うと服の細かなサイズを直してもらい代金を支払う。非常用の資金は大分使ってしまいもう半分ぐらいしか残っていない。

 早急に稼がなければ危ない状況である。服屋の恰幅のいいおばさんにありがとうよと声をかけるとその足でノルンは冒険者ギルドへと向かった。そう、ノルンは冒険者である。生まれ変わったとはいえそれ以外に生き方を知らず、そしてそれ以外の道に歩む気もノルンにはなかった。


 ノルンのいるこの町はテンザスという。大陸に散らばる国々の中では中くらい、大国ではないが小国でもない微妙な位置取りの普通の国である。名前をレェビィルフト王国といい、そのレェビィルフト王国の東に位置する王国2番目の大都市がテンザスである。

 大陸の中央西端に位置するこの王国は気候に恵まれた豊かな穀倉地帯を有し、南には高くそびえるザグラ山脈があり北には同盟を結ぶルウツウ聖王国があり、西の漁港では海産物が取れる豊かな国である。東には大きな平原があり、そこを国境として隣接するこのは大陸で3番目に大きな国であるアステノール帝国である。

 隣国とは取り立てた争いはなく豊かな国であるこの国はそれに見合った騎士団を有しており、手を出せば手痛いしっぺ返しではすまない反撃がくるだろうとされている。

 そしてその王国にはこの大陸に点在する迷宮の中でも未だ踏破されていない迷宮であるオウル迷宮がある。その迷宮は500年前に突如として現れそこから定期的に魔物が溢れてくるようになったとされている。

 それに危機感を募らせた王国はその迷宮のそばに砦を建て出てくる魔物の駆除を始めた。

 そこを中心に街が広がっていき、現在のテンザスという町ができたのである。

 町の西端にある迷宮の入り口を囲むように城壁が建てられ更に迷宮の少し東にある元々は監視の為の砦であった場所を中心に街が広がっている。かなり広大な街である。


 冒険者ギルドは街の中心からだいぶ西に行ったところにある。迷宮に近いところに建てたらそのまま街に飲み込まれていってしまったと言う方が正しい。その大きな建物にノルンは入っていった。

 入り口に入ってから右には掲示板があり、依頼などの紙が所狭しと張られている。

 左にはカウンターがあり受付と買取など業務によって分けられている。

 そのカウンターの後ろでは忙しそうに職員が業務を行っているのが見える。

 入ってきたノルンをギルドの中にいた冒険者が好奇の視線で見てくるがそれを無視してノルンは正面にある受付カウンターのほうへと歩いていった。


「おう、こんにちわ。冒険者登録をしたいんだが頼めるか?」


 そう言ってカウンターに銀貨を1枚置くと受付嬢のほうへと視線をやる。

 受付嬢の名前はエリス。もちろんノルンは知っている。しかしエリスは目の前の小さな子供があまりにも馴れ馴れしくしかも登録の際のギルドカード発行手数料である銀貨1枚をカウンターに置いたことにかなり疑いの眼差しを向けている。


「初めまして。受付のエリスといいます。今日は冒険者登録ということですが此方の記入用紙に必要事項を記入頂いてよろしいですか?」


 あくまでもエリスはギルドの職員である業務を優先して必要な事を告げていく。


(この子なんなのかしら。何でこんなに堂々としてるんだろ。)


 エリスの疑問は尤もである。普通冒険者登録をする若い子は緊張しまくってがちがちである。なのに目の前のどう見ても10台前半のこの子供は鼻歌を歌うかのようにリラックスをしてすらすらと必要事項を書いている。


「これでいいか?」


 ノルンは必要事項を書き終わりエリスに差し出す。受け取ったエリスはその記載事項の確認をしだした。


(ふんふん。名前はノルン、可愛い名前ね。年は12、ヒューマンかぁ。まあ見た目どおりかな?えーっと出身は王国の南のレイレアン村と。特技は……ってなにこれ?両手剣に契約魔術?この子魔術つかえるんだ。レベルとかは未記入って事はギルド登録したことがないからだろうけど……。)


 特に記載事項に変な事は書いてなく、一応受理しても問題はなさそうである。エリスはそう判断した。


「じゃあノルン君、登録の前に冒険者ギルドの説明と登録の為に魔力パターンを読ませないといけないから一緒に来てくれるかな?」


 ちょっと登録の説明してくるから受付おねがーい、と後ろのギルド職員の同僚らしき人に声をかけるとノルンの手をとって二階に連れて行こうとする。もちろんノルンの手を引いて。


「ああ、わかった……、ってなんでわざわざ手を引いていくんだ?」

「え?だめだった?」


 と言いながらももちろんエリスは手を放さない。そのままかなり上機嫌で歩いていく。

 そういえばこのエリスという女は冒険者がどんなに食事に誘おうがつっけんどんに断るよくわからない女だった。しかしノルンは今現在の状況についていやな予感がしていた。もしかしてこの女、恐ろしいほどのショタなんじゃないだろうか?


 エリスは2階のギルド職員専用の会議に使われる部屋の中でも一番小さな応接室にノルンを連れ込んだ。

 まさしく連れ込んだと表現するのが正しい光景である。連れ込まれたノルンは内心かなりビビッていた。

 今までの人生で経験したことのないような悪寒にゾクゾクとしている。そんな大人しくなったノルンをソファーに座らせるとエリスは自身もノルンの隣に腰掛ける。


「おい、なんで隣に座るんだ?目の前にもう一つソファーがあるだろ。」


 ノルンのいうとおり目の前には机をはさんでもう一つソファーがある。


「ごめんなさい。つい隣に座っちゃったわ。」


 そういってノルンの対面に座るエリス。


(うふふ。かわいいなぁ。綺麗な顔立ちに華奢な体格、さっき書類を書くときの指なんてものすごく綺麗だったなぁ~。それに恥ずかしがりやさんなのかなぁ?かーわいい!)


 そう、エリスは可愛い男の子が大好物である。なので冒険者ギルドに来るようなむさい男共など眼中にない。エリスはそういえば登録だったっけ?といまやエリスの中ではかなり優先順位の下がってしまった本来の業務について辛うじて思い出した。


「それじゃあまずギルドの説明からする何かあったらその都度質問してね?」


 冒険者に向ける冷たいクールな普段の彼女からは想像も出来ないような声を出しながら説明を始める。

 ノルンはもはや頷くのみである。

 エリスの説明はもはや何十年も冒険者を続けてきたノルンにとってはおなじみの内容であり特に聞くべきことはない。

 ただ、初めて冒険者登録をするのにもう知っているからいらない。とはさすがに言えないので大人しく聞くことにしたのだ。エリスの説明をまとめると大体こんな感じである。


 ・冒険者ギルドは冒険者への仕事の仲介屋である。

 ・依頼の仲介料としてランクに応じて仲介料が発生するが冒険者には関係ないので気にしなくていいとの事。

 ・仕事を失敗、もしくは期限に間に合わなかった場合違約金として報酬の3割を支払わなければならない。これを支払わなければギルド員資格を失うとの事。他の国でも受けられなくなるので払ったほうがいいよとエリスは言っている。なので自分の実力に合わない依頼は受けてはならない、また実力がぎりぎりではなく余裕を持った内容にしたほうがいいらしい。

 ・原則自分のランクの一つ上のランクまでしか依頼は受けれない。ランクはHから始まりA、更に上のSランクまであるとの事。ランクアップには自分と同じランクの依頼を20回連続で達成すると上がるらしい。一度でも失敗や期限に間に合わなかったりすると上がらないらしい。但し、B以上になる為には依頼達成だけでなくある特定の魔物の討伐実績がなければならない。護衛や採集などの依頼だけでは上位のランクへは上がれないとのことである。

 ・ギルドは依頼だけでなく物品の買取や魔物の素材の換金、貨幣の両替や銀行などの業務も行っている。特に迷宮の魔物を倒した際に出る魔石の買取はギルドでしかしてはいけなく、これを破った場合除籍されるらしい。

 ・最後に冒険者は魔物の襲撃や戦争などの緊急事態には現在いるギルドの指揮下に入らなければならない。但し、国家所属の冒険者は除く。

 ・冒険者は最初に受付をした者が担当者になるので依頼などを受けるときは必ず自分エリスの所に持ってくるように。居ないときはしょうがないので他の人のところでもいいよ。テヘペロ。


「以上かなぁ?この内容でよければこの契約書にサインしてね?」


 こちらを見ながら何か期待したような目で見つめてくるエリス。


「ちょっと待て。最後の依頼の受付がエリス専属と言う内容はおかしくないか?」


 ノルンは抗議をしてみた。しかしノルンはなぜかこの抗議が通るとは思えなかった。


「え?おかしくないですよ?そういうものだと思いますけど……。」


 あくまで白を切るエリス。まさしく職権乱用である。しかしノルンも村を出てきたような田舎者が何故そんなに詳しいんだと言われる可能性から強くはいえない。仕方なくノルンは妥協することにした。まあ別に受付がこいつになるだけで実害はないからいいか……。後々ノルンはこのときの判断を大きく後悔するのだが後の祭りである。


「そういうものか。じゃあ頼む。」


 そう言うとノルンは書類にサインをしエリスに差し出した。それを見たエリスは満面の笑みである。美人が笑顔で怖いとはこれいかに。


「それじゃあこれに触ってもらえるかな?」


 そういって机の下から取り出した布の中からカードに触れないように取り出すとノルンのほうへと差し出す。ノルンは何の躊躇いもなくカードに触るとカードが仄かに蒼く煌く。一瞬の後には収まりカードには文字が刻まれていた。


「それじゃあこのカードに固定化の術式を刻印してくるから30分ぐらい下で待っててもらえるかな?終わったらカウンターに呼ぶからね!」


 普段の彼女とは大違いである。


「わかった。下で待ってる。」


 借りてきた猫のようにかちこちになりながらノルンはそそくさと部屋を出て行った。


(あ~、かわいいなぁ。多分冒険者になりにこの街まで来たんだろうなぁ。もう直ぐお昼休みだしお姉さんがどこか美味しいものでも食べに連れて行ってあげよっ。)


 いつの間にか昼の時刻に差しかかっていた。




 ノルンは一階の依頼掲示板を見ながら唸っていた。新しく冒険者に登録したことでランクが初めからになってしまったからだ。

 ノルンの元々のランクはAである。それも迷宮探索を専門にしており、ソロで活動していた為かなりの凄腕であった。

 ぶっちゃけHランクの依頼など面倒でやる気にもならない。

 Hランクの依頼はやれ街の中の建物の修理だ荷物の移動を手伝ってほしいだの馬の世話の手伝い、果てには草むしりなんていうものまである。

 ノルンは全くやる気がなかった。

 Hランクの一つ上のGランクの依頼は薬草の採集や畑仕事、夜の街の警邏などである。正直この辺りの依頼もノルンはやる気がない。今まで何十年迷宮一本で生きてきたノルンはあまり対人関係が得意ではない。

 Gランクの依頼書に自身が求めていた依頼が無い事にげんなりしつつ素材買取欄の方へいく。そこに貼ってあった依頼内容を見てノルンは思わずにんまりする。


 ・ホーンラビットの毛皮

 一匹分銀貨1枚*複数可

 ランク~F


 要するに毛皮を獲って来いとのことである。ホーンラビットは街の東側の平原にいる一番弱い魔物である。兎の頭に角が生えておりその角も買取掲示板に貼ってある。


 ・ホーンラビットの角

 一本銀貨1枚*複数可

 ランク~F


 ノルンは今まで魔物の素材はギルドの受付カウンターに直接持っていっていたしAランクに上がったのはもう何十年も前のことである。それ以来依頼を受けて素材を求めるなんてことはしていない。この掲示板を見るまで忘れてしまっていたのだ。

 ノルンがこれからのことについての事について目処をつけているとカウンターからエリスが呼んでいた。


「ノルン君~?ギルドカードできましたよー?」


 その場にいた冒険者や同僚の職員は皆してエリスの方を向いて何が起こったのかわからないような目を向けている。その目線に気がついたのか咳払いをするともう一度言い直した。


「ノルン君、ギルドカードの製作が終わったのでカウンターまで受け取りにいらしてください。」


 いつものエリスである。ギルドにいた皆はどうやらなかったことにして折り合いをつけたようで自分の作業に戻っていく。


「あんがと。じゃあ早速だがこの依頼を頼む。」


 そう言ってエリスに依頼の紙と今もらったばかりのギルドカードを渡す。


「え、うん。これね……。」


 そういってエリスは何か考えるとおもむろに口を開いた。


「この依頼って駆け出しにはきついと思うんだけどノルン君大丈夫?もっとHランクとかの依頼で体力をつけてからの方がいいんじゃない?それにこの街のことも多分あまりよく知らないと思うしHランクの依頼はこの街のことを良く知ってもらってなるべく沢山の知り合いを作ってほしいっていうギルドの配慮もあるんだよ?」

(けどあんまりムキムキマッチョになったらいやだなぁ)


 エリスのお姉さんぶりに後ろの職員が噴き出しそうになっているがエリスは構わず続けた。


「だからいきなり討伐系の依頼は難しいと思うよ?装備とか仲間とかきちんと準備していかないと草原は危険な魔物で溢れてるんだから。」


 ごもっともな話である。駆け出しには東の草原の魔物はきつい。きちんとした装備で挑まなければあっという間にお陀仏である。草原にはホーンラビットだけが出てくるわけではないのだから。


「いや、大丈夫だ。草原の魔物如き相手にならん。と言うわけで受理を頼む。ああそうだ、複数持って帰ったら複数回依頼を達成したことになるのか?」


 エリスの心配をよそにノルンは構わず質問する。


「依頼主が何回までなら買い取ってくれるかわからないけど買い取ってくれる回数だけ依頼達成になるよ?でも……。」


 あくまで心配して受けさせないようにしようとしているエリスに畳み掛けるようにノルンは続けた。


「大丈夫だ。暗くなる前までには帰ってくる。安心しろ。」


 自信満々なノルンに更に心配になるエリスだがしぶしぶ依頼を受領していく。


「はい、依頼を受領しました。終わったらここに依頼品を持ってきてくれれば依頼人を呼ぶから頑張ってね?けど無理しちゃだめだよ?だめだと思ったら直ぐに逃げるんだよ?」

「わかったわかった、じゃあな。」


 そういってノルンは冒険者ギルドを急ぎ足で出て行った。


(けどまあ、多分大丈夫なんだろうなぁ。)


 エリスはノルンの後姿を見ながらそんなことを思っていた。なぜなら


(だってあの子、ヒューマンじゃないし。それに年齢も51だったし。見た目子供なのにおじさんかぁ。やばい、めちゃくちゃ好み。でもレベルが1ってところがすごく気になるんだよね。あれかな、ランクアップしたばっかりとかなのかな?)


 ギルドカードを作成したときにエリスはその情報を読み取っていた。(ちなみに越権行為)その種族はドラゴノイド。職業は魔剣士であった。


エリスは22歳のヒューマンです。シルバーブロンドの髪を肩より少し長めでそろえています。顔立ちは北欧系で目鼻立ちがすっきりとして大きな目が印象的。全体的に肉感的なのにプロポーションもよく、ギルドの看板娘です。ちなみに冒険者に絶大な人気があり常に誰か食事にでも誘おうとしている。しかしエリスは15歳以上の体つきに興味が無い為ガン無視。いつも興味なさげにクールなたたずまい。そこがいいという方も沢山います。ノルンに敵意を向けている人がかなりいましたが、お子様だと言うのに気がついてなんだお子様か、と言った具合になっています。ちなみにノルンはそのときそんなことを気にする余裕なんてありませんでした。まさに蛇に狙われた丸々太った蛙状態です。

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