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婚約破棄しないために真実の愛を追い求める伯爵子息のお話

掲載日:2026/10/19

「次の研究テーマは『真実の愛の獲得』にしようと思う」

「は?」


 婚約者から思いがけないことを言われ、子爵令嬢エスラーピアは思わず間の抜けた声を上げてしまった。

 エスラーピアは婚約者の伯爵子息ルシェークと共に、婚約破棄をテーマとした演劇を観た。その帰りの馬車の中。エスラーピアは演劇の感想を語りたくてたまらなかった。王道にして見事なストーリー展開、卓越した役者の演技やきらびやかな舞台衣装、感動的なラストシーン……それらについて話したくてうずうずしていた。

 そんなところに研究テーマなどという言葉が出てくるとは思わなかったのだ。

 戸惑うエスラーピアをよそに、ルシェークは言葉を続けた。


「実に素晴らしい演劇だった。そして私は学んだのだ。男性は他の令嬢との間に『真実の愛』を見つけると婚約破棄してしまう。ならばあらかじめ婚約者との間に『真実の愛』を見つけておけばその心配はなくなるというわけだ」

「ええまあ。そういうことになりますね……?」


 得意げに語るルシェークの言葉についていけず、エスラーピアは生返事を返した。ルシェークはそんな彼女のことを気にせず、ぐっと拳を握った。

 

「よし! 帰ったら早速研究にとりかかるぞ!」

 

 エスラーピアはため息を吐いた。これはいつものことだった。彼女の婚約者ルシェークは、変わり者なのだ。




 伯爵子息ルシェーク・エーカデミス。肩まで届く黒髪に、透き通るように澄んだ蒼い瞳の美しい青年だ。年齢は17歳だ。

 しかし彼はその美貌より、才能で名を知られている。曰く、学園創設以来の天才。魔法学に長けており、奇抜な発想とそれを実現する堅実な理論で、学生の身でありながらすでにいくつもの新しい魔法を作り出している。


 その優秀さゆえにルシェークは引く手あまただった。しかし彼は魔法の研究ばかりしていて世間の流行には疎く、話が合わない。そのため女性との付き合いがうまくいかず、過去2回の破談を経験している。

 

 そんな彼の婚約者として選ばれたのは、子爵令嬢エスラーピア・ヴィローマイン。腰まで届く金髪に、深い緑の瞳のかわいらしい令嬢だ。年齢は15歳。子爵家の第三子として生まれた彼女は、姉たちより厳しい教育を課されておらず、自由に育てられ、細かいことにこだわらない奔放な性格をしていた。そんなエスラーピアならルシェークのことも受け入れられるのではないかということになったのだ。

 

 日常会話からすぐ研究に話が脱線するルシェーク。それを笑って受け流すエスラーピア。二人の関係はおおむねうまくいっていた。そしてエスラーピアの提案で、王都で評判の婚約破棄の劇を観に行ったのだった。




「これが『真実の愛を得る薬』だ」


 観劇に行ってから一週間後のこと。学園の中、ルシェークの専用の研究室。そこには無数の棚があり、専門書や魔法の実験器具が整然と並べられている。

 その研究室に設えられたテーブルを挟み、エスラーピアはルシェークと対峙していた。テーブルには一本の小瓶がある。

 

「たった一週間でもうできたんですか?」

「そんなに時間のかかるものではない」


 目を丸くするエスラーピアに対し、さも当然といったようにルシェークは答えた。

 

「それで……これはどういう薬なんですか?」

「飲んだ者が小悪魔になる薬だ」

「小悪魔? それが『真実の愛』とどう関係しているんですか?」

「婚約破棄に関する文献を調べた結果、『真実の愛』の相手は小悪魔と称されることが多い。つまり婚約者である君が小悪魔になってくれれば、私は『真実の愛』を見つけられるということだ!」


 ルシェークは自信満々に断言した。確かに婚約破棄の物語において、浮気相手は小悪魔的な少女であることが多い。だからといって本当に小悪魔にする薬を作ってしまうなんて、ルシェークは発想も技術も卓越しすぎている。

 

「さあ実験だ! この薬を飲んでくれたまえ!」

 

 ルシェークはずいと薬を差し出した。普通の令嬢なら引いてしまうことだろう。小悪魔になる薬なんて、怪しいことこの上ない。だが、エスラーピアは違った。

 

「小悪魔になるなんて、ちょっとおもしろそうですね!」


 エスラーピアは小瓶を手に取ると薬を一気に飲み干した。


「あ……なんだか不思議な気分になってきました……」


 エスラーピアはしばらくぼうっとしていたが、やがてしゃっきりとすると、不敵な笑みを浮かべた。

 

「おお、その人を小馬鹿にしたような、それでいてかわいらしい笑み! まさに小悪魔だ!」


 興味深げに婚約者を眺めるルシェーク。そんな彼に対し、エスラーピアはクスリと笑った。

 

「ルシェーク様はエッチですね」

「な、なんだと!?」

「だって……小悪魔になったわたしに誘惑されたいだなんて……いやらしいことを考えていたんでしょう?」

「そ、そんなことはない! これは純粋な学術的な興味のためだ!」

「ええー、本当ですかー?」


 そう言いながらエスラーピアは立ち上がると、ルシェークの隣に座った。


「な、なぜ隣に座る?」

「婚約者ならこのくらいの距離感は当たり前。それにルシェーク様がいやらしいことを考えていないなら、近くにいてもなんの間違いも起きないでしょう?」

「う、うむ。そうだな」


 ソファの上でエスラーピアは少しずつ身を寄せてきた。ルシェークはじりじりと下がる。

 やがてソファの端に着き、ルシェークはそれ以上動けなくなった。エスラーピアは止まらない。

 

「ねえルシェーク様」

「な、なんだ?」

「ドキドキしていますか?」

「ド、ドキドキなどしていない!」

「嘘ついているでしょう? 確かめさせてください」


 エスラーピアはぐっと顔を近づける。ルシェークは恥ずかしげに顔をそらす。それでもエスラーピアは止まらない。ルシェークは目をぎゅっと閉じた。

 エスラーピアは触れるほど近づくと、彼の耳元にそっとささやいた。

 

「キスされると思ったんでしょう?」


 そして、ふっと息を吹きかけた。

 

「うひゃあああああああ!」


 ルシェークは情けない悲鳴を上げた。

 

「あははっ! ルシェーク様、かーわーいーいー!」


 そう言ってエスラーピアはくすくすと笑った。男を手玉に取るその様は、まさに小悪魔だった。

 ルシェークは羞恥に顔を染め上げた。

 

「じ、実験中止だーっ!」


 ルシェークは懐から小瓶を取り出すと、その中身を振りまいた。小瓶の中には粉末が入っていたようで、エスラーピアはそれをまともに浴びることになった。


「けほっ……なんですかこれはっ!?」

「魔法薬の無効化薬だ! 緊急事態に備えて振りかけるだけで効くようにしておいた!」


 無効化薬は即効性のようで、たちまちエスラーピアからあの小悪魔の笑みが消え失せた。


「あらやだ、はしたない」


 小悪魔から戻ったエスラーピアは、そそくさと席を立つと、元通りテーブルを挟んでルシェークの前の席に着いた。

 ルシェークははあはあと荒い息を吐いていた。

 しばらく沈黙が下りた。

 ふと、エスラーピアは問いかけた。

 

「それで、『真実の愛』は見つかりそうですか?」

「見つかるわけがない! 小悪魔とはなんと危険なものなのだ! 完全に想定外だ! 実験は失敗だ!」


 残念ながらこの実験で『真実の愛』は見つからなかった。

 でも、エスラーピアは実験が無駄だったとは思わない。

 いつも真面目で研究ばかりのルシェークが、あんなふうに取り乱すとは思わなかった。それに、照れている彼は、本当にかわいかった。

 彼女にとっては楽しい出来事だった。




「『真実の愛を得る薬・マークツー』だ」


 小悪魔になってから一週間後の放課後。再び、学園の研究室でエスラーピアはルシェークと向かい合わせに座っていた。

 

「今度はどんな効果がある薬なんですか?」

「ネコミミが生える」

「え? ネコミミ? なんでネコミミなんですか?」

「『真実の愛』の相手は、時として泥棒猫呼ばわりされる」

「それは比喩表現です!」

「ああ、そのことは当然わかっている。だが調べたところ、ネコミミは非常に人気が高いのだ」


 そう言ってルシェークはテーブルの上に資料を並べた。

 そこには地域別、年齢別のネコミミに対する好感度が記されている。いずれも高い数値を示していることが分かった。

 

「いったい誰がこんな調査を……」

「とにかく、ネコミミは人気が高い。加えて、比喩表現とはいえ『真実の愛』の相手はネコの属性を持つ。だからネコミミによって『真実の愛』を見つけられる可能性があるということだ。

 さあ実験だ! この薬を飲んでくれたまえ!」


 ルシェークはずいと薬を差し出した。この王国で獣人の地位は高くない。普通の令嬢ならネコミミを生やすなんて嫌がるはずだ。だが、エスラーピアは違った。

 

「ネコミミにはちょっと興味があります!」


 エスラーピアは小瓶を手に取ると薬を一気に飲み干した。

 しばらくするとエスラーピアの頭からぴょこんと二本のネコミミが生えた。

 

「ど、どうですか? 変じゃありませんか?」

「よく似合っている。かわいいぞ」

「か、かわっ……!」


 正面からかわいいとほめられて、エスラーピアは頬を赤らめた。

 ルシェークから手鏡を渡され、エスラーピアは自分の姿を確かめた。頭から生えたネコミミは髪の色と同じ金色で、違和感もなかった。

 

「すごいですね。薬一つでこんなにちゃんとしたネコミミが生えるなんて……」

「たやすいことだ」


 ルシェークは何でもないことのように答えた。

 前回もそうだったが、たった一週間でこんな薬を作ってしまうなんて、ルシェークは発想も技術も卓越しすぎている。

 

「ところで……触ってみてもいいだろうか?」


 ピコピコと揺れるネコミミに、ルシェークは興味を引かれたらしい。

 

「ええ、かまいません」


 触りやすいように頭を下げると、待ちかねたようにルシェークはネコミミに触れた。


「おお、モフモフだ」

「すごい……ちゃんと触られた感触があるんですね。髪を触られるのともちょっと違って、なんだか不思議な感じです」

「テーブル越しでは撫でにくいな。隣に来てくれるか?」

「はい、わかりました」


 エスラーピアは言われるままに隣に席を移した。

 普通、令嬢はたとえ親しい相手だろうと、むやみに髪を触らせないものだ。奔放に育てられたエスラーピアもそうしたマナーはきちんとわかっている。だがネコミミを触られることに嫌悪感がなかった。むしろもっと触ってもらいたいとまで思ってしまう不思議な感覚があった。

 ルシェークも感触が気に入ったのか、両手でネコミミをモフモフしている。


 ルシェークはネコミミばかりではなく頭をなでたり髪に触れたりした。でも嫌な感じは全然しなくて、エスラーピアは気持ちよさげに目を細めた。





「はっ!? いつのまにか暗くなっている!?」


 ルシェークが驚きの声を上げた。ネコミミを触り始めた頃は、まだ日の傾き始めた頃だった。気づけばとっぷり日は沈み、あたりは暗くなっていた。二人ともネコミミに夢中になって、そのことに気づかなかったのだ。

 ルシェークは立ち上がると、魔法の明かりを点けた。

 

「すまないな。すっかり触りすぎてしまった」

「いえ、わたしも嫌じゃありませんでした。むしろなんて言うか……癒される感じがしました」

「そうか、それならよかった」


 二人ともただネコミミをいじっていただけなのに、奇妙な充足感があった。

 そうしているうちに、ふとエスラーピアは気が付いた。


「ああそう言えば……『真実の愛』は見つかりそうですか?」

「いや……なにか違う気がする」


 ルシェークは難しい顔をした。

 二人は今、ソファに隣り合わせに座っている。距離だけなら先日の小悪魔の時と近い。だが、あの時と違ってちっともドキドキしなかった。むしろ穏やかな空気があった。


「こういう言い方をしては君に失礼になってしまうが……ペットを愛でる気分だった」

「わたしも愛でられるペットの気分でした!」


 この不思議な感覚に当てはまる言葉が見つかり、エスラーピアはなんだかほっとした。そうだ、これはペットの関係だ。

 ルシェークは顔をゆがめ、頭をかきむしった。

 

「こんな倒錯した関係では『真実の愛』など見つけられるはずがない。くっ、この実験も失敗か!」


 ルシェークは悔しがった。

 

 残念ながらこの実験で『真実の愛』は見つからなかった。

 でもエスラーピアは悪い気分ではなかった。ネコミミを触られるのはなんだか癒されたし、婚約者との距離が縮まった気がしたからだ。

 彼女にとって楽しい出来事だった。




「『真実の愛を得る薬・ザ・サード』だ!」


 ネコミミになってから一週間後の放課後。再び、学園の研究室でエスラーピアはルシェークと向かい合わせに座っていた。


「今度はどんな薬なんですか?」

「それは飲んでのお楽しみだ。君もきっと満足してくれるはずだ。そして今度こそ、『真実の愛』が見つかることだろう!」


 ルシェークは今まで以上に自信ありげに言い切った。


「なんだか楽しみです!」


 エスラーピアは小瓶を手に取ると薬を一気に飲み干した。

 効果はすぐさま現れた。まず胸がカッと熱くなった。続いて胸元が苦しくなった。かつてない重さを感じ、身体がわずかに傾いた。

 

「こ、これはっ……!」


 エスラーピアの慎ましい胸が膨らんでいた。今にも制服のボタンがはじけ飛んでしまいそうなほどだ。それは巨乳と表現すべきサイズだった。

 

「……ルシェーク様。これはいったいどういうことでしょうか?」

「演劇や恋愛小説を研究して気づいた! 『真実の愛』とはとどのつまり、性欲をきれいな言葉で飾っただけ! その証拠に『真実の愛』の相手はほとんどが巨乳だ! ならば君の胸を大きくしてしまえば、『真実の愛』が見つかるということだ」

「へー。そうなんですね。すごーい」

「はっはっはっ! 凄いだろう!」


 得意げなルシェークは声に熱がこもっていく。それとは反対にエスラーピアの声は冷めきっていた。ルシェークはその温度差に気づかない。

 そしてエスラーピアは口元だけをニッコリと笑みの形にした。

 

「ルシェーク様、ちょっとお願いがあります」

「む? なんだ?」

「歯を食いしばってください」

「?」


 疑問に眉を寄せながら、それでもルシェークは律義に歯を食いしばった。そのことを確認したうえで、エスラーピアは一撃を放った。

 

「ぐはぁっ!」


 腰の入った見事な平手打ちだった。頬をはたかれたルシェークはソファからずり落ちそうになった。

 

「い、いきなり何をするんだ!?」

「それはこちらのセリフです! 人の胸を勝手に大きくするなんて、いったいどういうおつもりですか!?」


 エスラーピアの激しい声と逆立てた眉。ルシェークはようやく彼女が怒っていることに気づいたようだ。彼は困惑に顔をゆがませた。


「なぜだっ、なぜ怒っているんだ!? 女性はみな、大きな胸に憧れていると聞いている。君はうれしくないのか!?」

「確かにわたしも大きな胸を夢見て、枕を濡らした夜もあります。でも! だからといってこんなことは許容できません!」

「どうしてだっ!?」

「胸を大きくしたら欲情できる……それはつまり、普段のわたしでは全然興奮できないと言っているも同然です! 乙女としての尊厳を踏みにじられて、許せるはずがありません!」


 エスラーピアの怒りは正当なものだった。尊厳を踏みにじられれば誰もが怒るのだ。


「そ、そんなつもりはなかったんだ!」


 ルシェークは慌てて無効化薬を懐から取り出すと、エスラーピアへ振りまいた。

 エスラーピアの胸はたちまちしぼみ、元通りの慎ましい大きさになった。彼女は胸元を押さえ、泣きそうなほど悲しげな顔を見せた。それも一瞬のこと。怒りの炎を瞳に宿し、ルシェークのことをぎろりとにらみつけた。ルシェークはヒッと身をすくませた。

 エスラーピアははあっと息を吐くと、努めて冷静に口を開いた。

 

「結局……ルシェーク様はわたしのことがお嫌いなんですか?」

「な、なんでそういうことになる?」

「だってそうじゃないですか。魔法薬で小悪魔にしたり、ネコミミにしたり、巨乳にしたり……わたしを変えようとしてばっかり。今のわたしがお嫌いなのでしょう。それならこんな回りくどいことをせず、婚約解消してお好みの相手でも探せばいいじゃないですか」


 その言葉に、ルシェークは頭を振って全力で否定した。


「そんなことはない! 君のことを大切だと思っている!」

「は?」


 今さらどうして「大切」などという言葉を出してくるのか。エスラーピアは怒りをたぎらせた。しかしルシェークはその圧力に負けず、言葉を続けた。


「過去の婚約者は私の才能をほめるばかりで対等に話してなどくれなかった。だが君はちゃんと話を聞いてくれて、実験に付き合ってくれた。小悪魔になる薬をためらわず飲んでくれた。ネコミミの時は癒された。そして今、私が間違ったらちゃんと叱ってくれた。そんな人は初めてだった。君のことを大切だと思っている」

「それならなんであんなことをしたんですか?」

「大切だからこの婚約をより確かなものにしたかった。そのために君との間に『真実の愛』を見つけたかったんだ。その研究が君を傷つけてしまうなんて思わなかった。すまない……」


 ルシェークは深々と頭を下げた。その言葉もその様子も真剣で、嘘はないようだった。

 エスラーピアは怒りをひっこめた。ルシェークが研究以外では不器用な人間だということを改めて思い出したのだ。

 なにより、わかったことがあるのだ。

 

「つまり、あなたはわたしのことが好きなんですね」

「そうなのか?」

「そんなにもわたしと離れたくないだなんて、他にありえないじゃないですか」

「人のことを好きになるというのが、どういうことなのかよくわからない。君のことが好きかどうか、どうやって検証すればいいのだ……?」


 ルシェークは考え込んでしまった。そんな彼の不器用な姿に、エスラーピアはふっと笑った。


「別に難しく考えることはないのです」


 そう言って、エスラーピアは両手をルシェークの顔に当てた。戸惑う彼に、触れるだけの優しいキスをした。

 エスラーピアはそっと離れた。

 

「どうですか……?」

「えっ……えっ……!?」

「どうですかと聞いているんです」

「心拍数が上がる! 心臓の音がうるさいくらいだ! 汗が噴き出る! この状態はいったい……!」

「それが好きということです」

「そうか……この気持ちが好きということなのか……理解した、と、思う……」


 ルシェークはようやく納得したようだった。顔を真っ赤にしてしきりに頷いていた。


「君のおかげで理解できた。だが、よかったのだろうか?」

「何がですか?」

「乙女の唇は安くないと聞いている。私の理解の無さを正すためだけに、君はキスをしてくれたというのか……?」

「まったく……本当に鈍い人ですね」


 エスラーピアの呆れた声を聞き、ルシェークは身を縮こまらせた。

 エスラーピアは笑った。いい笑顔だった。


「わたしも、あなたのことが好きなのです」


 ルシェークは驚きに目を見開いた。そしてすぐ、とろけた笑顔となった。


「なんだろうこれは……すごく満たされた気分だ」

「好きな人に好きと言ってもらえたら、当たり前のことです」

「そうか、当たり前のことなのか」


 二人は見つめ合った。何とも言えない甘酸っぱい空気が広がった。

 それに耐えかねたように、ルシェークは問いかけた。


「その……もう一度キスしたい。この気持ちを確かめたい」

「いいですよ。それではあなたの方からお願いします」

「わ、私の方から!?」

「キスというのは本来、殿方がリードするものです」

「そ、そういうものなのかっ……!」


 ルシェークは立ち上がった。エスラーピアもそれに続いた。

 ルシェークはこわばった手で彼女のことを引き寄せる。繊細な壊れ物を扱うように、慎重な手つきだった。

 そしてゆっくりと唇を近づけ、キスをした。

 ぎこちない、ただ触れるだけのキス。しかし何より気持ちのこもったキスだった。

 

 その日を境にルシェークは『真実の愛』を求めることをやめた。二人で確かめ合った絆ほど大切なものなどないとわかったからだ。



終わり

『真実の愛』の相手はだいたい特徴が決まっています。

その特徴を使って何かお話が作れないかとあれこれいじっていたら、こういうお話になりました。


前の投稿から時間が空いてしまいました。

ネタ切れが深刻です。もっとインプットを増やさないと……!

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