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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

異世界転生・転移関係

迷宮問題の片付け方

作者: よぎそーと
掲載日:2026/03/10

「…………」

 無言で目の前の亡骸を見つめる。

 迷宮の中、武装した者達が倒れている。

 珍しくもない事だ。

 怪物が徘徊するこの場所では、常にどこかで誰かが死ぬ。

 目の前の死体も、そうしたよくある日常の一つにすぎない。

 賀須賀ユキノリも探索者となってから何度も目にしてきた。



 そんなよくある事に手を触れていく。

 手にした超能力を使い為に。

 死者を悼むためではない。

 この場では他人の末路を偲ぶなんて高尚なことをしてる余裕はない。



 迷宮を探索する者達の中には、超常の力に目覚める者もいる。

 火炎や吹雪を発生させたり、身体能力を上昇させたりと身につける内容は様々だ。。

 ユキノリが手にしたのは探知能力。

 どこに何があるのかを見つけるもの。

 地味だが、探索にはうってつけの能力だ。



 この能力で死体から情報を引き出していく。

 この場であった事を探るために。

 様々な事を探る能力は、死体からこの場で起こった出来事を読み取る事も出来た。



 なかなかに凄惨なものだった。

 遭遇した探索者に襲われ、殺されていくのが見えた。

 男は殺され、女は犯され。

 これを怪物ではなく人間が行ってる。



 珍しくもない事だ。

 監視の目のない迷宮では人間に襲いかかる人間もいる。

 金銭のため、快楽のため。

 死んだ者達もこういう人間に襲われて命を失ったようだ。



 そんな彼らのこれまでを探っていく。

 どのような人生を送ってきたのか、それも可能な限り調べていく。



 探れる事はさほど多くはない。

 古い記憶ほど曖昧になっていくものだ。

 それでも、できるだけ確かめていく。

 死んだ者達の氏素性を。

 相手が悪事を働いてきたのかを確かめるために。



 だが、そういった事はなく。

 殺された者達に落ち度や疾患はない。

 ちょっとした失敗や、小さな事故を起こしてはしている。

 だが、好んで誰かをいたぶったりしてる様子はない。



 そんな者達が、何の接点もなかった者達からの襲撃を受けていく。

 一方的に攻撃され、殺されていく。

 捕らえられて犯されていく。

 落ち度もないのに。



 その情景が教えてくれる。

 誰が悪いのかを。



 情報は集まった。

 死んだ者達が最後に見た連中。

 その姿はユキノリもはっきりと見る事が出来た。

 迷宮を徘徊する怪物ではない。

 武装をした人間達。

 迷宮に潜る探索者。

 それが襲撃者達だった。



 探索者といっても様々だ。

 まっとうに迷宮探索と怪物退治にいそしむものだけではない。

 悪さをするために迷宮に潜り込む者もいる。

 殺された者達は、そういうゴロツキやロクデナシに遭遇してしまった。

 運が悪いとしかいえない。



 探知能力を使ってそいつらの居所を探す。

 人を襲うゴロツキの痕跡を探す。

 それなりのレベルになってるユキノリには難しい事ではない。

 これが何年も前というならともかく。

 数日程度なら問題なく追跡できる。



 残った足跡はたどる。

 襲撃者はまだ迷宮にいる。

 好都合だった。

 始末をつけるには。



 そうと知らない襲撃者は迷宮の中を進んでいく。

 一応は仕事である怪物退治をするために。

 だが、これは食っていくために仕方なくやってること。

 イヤイヤやってるのでやる気はない。



「どっかにいねえかな」

 中の一人がぼやく。

「また、手頃なのが歩いてねえかなあ……」

「そうそういるかよ」

 仲間が同調していく。

「いても、こんな所までこれる奴じゃあな」

「レベルも上がってるしな」

「だよなあ」

 最初にぼやいた者がため息を吐く。



 人をいたぶるのが好きな人間の集まり。

 同類が集まって探索者の一団を作ってる。

 それだけに、怪物退治よりも襲える人間がいないか探している。

 ただ、彼らが稼ぎのために向かう場所はそれなりのレベルの人間ばかりだ。

 襲えば逆襲される可能性高い。



 なので、人を襲うときは低レベルの連中がいる場所に出向く。

 なのだが、そういう場所だと稼ぎも高がしれている。

 それなりのレベルになってる者がうろついていれば目立ちもする。

 なので、迷宮に入った時か、帰り際に立ち寄る事になる。



 そこで見つけた人間を襲う。

 痛めつけて殺す。

 犯して楽しむ。

 そんな事を彼らは楽しんでいた。

 身ぐるみを剥いで売りさばくといった利益がも目的ではない。

 ただ人を痛めつけるのが楽しい。

 だから人を襲っている。



 とはいえ迷宮の外ではさすがに難しい。

 犯行が見つかれば面倒な事になる。

 取り締まりを粉砕する事は出来るが、あいてにし続けるのもうっとうしい。

 だが、迷宮でならこんな問題も起こらない。



 人の目がない。

 だから殺しても問題にならない。

 死体が発見される可能性はあるが、疑われる事はほとんどない。

 それに、誰かが死んでも怪物がやったと思われる。

 無法地帯といってよい。



 そんな場所だから、人をいたぶる事が出来る襲撃者達にとっては極楽だった。

 何をやってもおとがめなし。

 万が一の目撃には気をつけねばならないが、そうなる可能性は低い。

 見つかるほど人間との遭遇率は高くはない。

 仮に見られたとしても、その場で始末してしまえばよい。



 実際、彼らはこれまで見つかる事もなく悪さをしてきた。

 これからもこんな毎日が続くと思ってもいた。



「生きのいいのがいるといいな」

「帰りのお楽しみだな」

 ろくでもない事を言いながら迷宮の奥へと向かっていく。

 今日が彼らの最後の迷宮探索になるとも知らずに。  



 いつもの狩り場に到着した襲撃者達。

 この日もいつも通りに怪物を見つけ、戦って倒すつもりだった。

 だが、その目論見はすぐに破綻する事になる。



「ちくしょう!」

 叫びながら戦士が斧を振る。

 戦闘用のそれを片手で軽々と使いながら怪物を倒していく。

 しかし、その後ろからすぐに別の怪物があらわれる。



 押し寄せる大量の怪物。

 それらは襲撃者達へと向かってくる。



 明らかにおかしな事だった。

 いくら迷宮といっても、大量の怪物がまとまっている事は少ない。

 ある程度の集団となってる事はあっても、途切れることなく続く事は無い。

 何らかの異常事態でもなければ。



「暴走か?!」

 思い当たる可能性を誰かが叫ぶ。

 大量の怪物が迷宮の奥から一斉地上へと向かう行動。

 暴走と呼ばれるこの現象が起こってるなら、大量の怪物が出てくるのもおかしくはない。

 だとすれば、とんでもなく運が悪い。



 しかし、おかしいのはそれだけではない。

 出てくる怪物が強い。

 見るのは、普段あいてにしてるようなものばかりなのに。



 いくら暴走といっても、それで怪物が強くなるわけではない。

 あくまで大量の怪物が外へめがけて向かうだけで、強さそのものは変わらないはず。

 なのに襲撃者達が相手にしてる怪物は、普段より強くなってる。



「どうなってやがる!」

 叫びながら戦い続ける。

 斧を、槍を、剣を繰り出しながら。

 盾で怪物の攻撃を受け止めながら。

 超能力の炎や氷結で敵を倒しながら。

 しかし、倒しても倒してもすぐに次の怪物が襲ってくる。



 次第に襲撃者達も疲弊していく。

 動きが鈍くなる。

 判断もおかしくなる。

 適切な行動がとれなくなり、傷が増えていく。



 怪物の攻撃を受けるたびにまとってる霊気が吹き飛ぶ。

 体からあふれるこれは敵の攻撃を遮ってくれる。

 だが、攻撃を受けるたびに散っていく。

 身体能力を上げる作用もある霊気が消えるたびに、襲撃者達の戦闘力が下がっていく。



 このままでは死ぬ。

 誰もがそう思っていた。

 だが逃げ場はない。

 十字路の中心で襲われた彼らの前後左右には怪物がひしめいてる。

 逃げるためには、それらを倒さねばならない。



 超能力で転移が出来れば良いが、そんな高レベルの能力を身につけてる者はいない。

 仮に使えたとしても、上手く脱出出来るかどうかは悩ましい。

 転移は向かう先の位置を正確に思い浮かべねばならない。

 戦闘中にそんな余裕があるかどうか。



 にっちもさっちもいかない。

 そんな状況に襲撃者は陥っていた。



 それでも、それなりのレベルの探索者である。

 いつもより強く感じる怪物を倒していく。

 疲労は大きく、傷も多い。

 だが、致命傷になるほどではない。

 押し寄せる怪物も無限にいるわけではない。

 やがて全ての怪物を倒しきり、襲撃者達は生き延びる事が出来た。



「やったな……」

 立ってるのもやっとなほど疲れている。

 それでも、終わった事を口にしていく。

 声にして実感を得ないとやってられなかったから。



 だが、彼らの安心はその一瞬だけで終わった。

 へたり込んだ襲撃者の1人の首が切り落とされる。

 その頭が床に落ちる前に、更にもう1人の心臓が貫かれる。



 その事に誰も気づく事が出来なかった。

 疲労に疲弊で感覚が鈍っていた。

 霊気も消耗していたので、能力の上昇も切れていた。

 今の襲撃者達の能力は並の人間以下。

 そこまで落ち込んでいた能力では、すぐ近くで行われている惨事を見逃してしまう。



 気づくこともなく殺されていく。

 急所を切り裂かれ、貫かれて。

 気配もなく行われるそれに、へたりこんでる襲撃者達は気づかない。

 ようやく異常に気づいたのは、残りわずかとなってから。

 そのわずかな者達も、驚きと恐怖に表情をゆがめた瞬間に死んだ。



 総勢9人襲撃者達。

 これらはろくに痛みも感じる事なく死んでいった。



 その姿を見下ろしながら、ユキノリが姿をあらわす。

 霊気によって消していた姿や気配をらわして。

 探知能力の応用だ。

 何かを探す事を逆転させて、誰からも見つからないようにする。

 たとえ相手の目の前に立っていても、この能力を使えば気づかれる事はない。

 相手が強力な探知能力を持ってないかぎり。



 この能力を使って、ユキノリは危険な人間どもを始末した。

 見つかる事も無く。



 探索者を襲っていた襲撃者。

 これを見つけたユキノリは、すぐに対応を始めた。



 とはいえ、単独で突っ込むわけではない。

 相手との間に大きなレベル差があるならともかく。

 差がさほど大きくなければ負ける可能性がある。

 なので、よほどの事がない限りユキノリは敵に直接攻撃を仕掛ける事はない。



 代わりに使ったのは探知能力。

 これを応用して怪物を集めた。

 気配を増大させ、怪物が気づくようにして。



 探知能力の応用は、姿を隠すだけではない。

 逆に相手に気づかせて陽動をかける事も出来る。

 怪物が大量に集まってきたのはこれが理由だ。

 これを利用して、多くの怪物を襲撃者の近くまで呼び込んだ。



 あとは襲撃者を怪物が見つければよい。

 人間とみれば見境無く襲いかかるのが怪物だ。

 この習性によって。怪物は襲撃者達へと突進していく。



 あとは襲撃者が消耗するのを待つだけ。

 死なないまでも動けなくなるほど疲れてくれればよい。

 そうなれば簡単に処分が出来る。



 そうなるように怪物の能力を霊気で上げもした。

 襲撃者達が感じた怪物が強いという感想は正しかった。



 それでも襲撃者を倒しきる事は出来なかった。

 だが、疲れて動けなくなるくらいに消耗していた。

 それだけで十分だった。

 楽に倒す事が出来る。



 こうして人を襲っていた危険な連中は消えた。

 大量の怪物と共に。

 これだけの事をするために、ユキノリもそれなりに消耗した。

 探知能力を使い、怪物を強化していたのだから。

 だが、その元はすぐにとる事が出来る。

 周囲に散らばる霊気結晶によって。



 死んだ怪物は姿を消す。

 そして、その場に霊気結晶を残す。

 襲撃者が倒した怪物も例外ではない。。

 これらは霊気結晶を残して消えている。



 これらがかなり大量に残ってる。

 拾い集めれば、今回使った霊気を補うのに十分なほどに。

 なので、遠慮無く拾い集めていく。

「大漁、大漁」

 思わずうれしくなりながら。



 危険な怪物を大漁に倒して。

 危険な人間も一緒に倒す事が出来た。

 しかも大漁の報酬もその場に残ってる。

 さして労力を使う事もなく多くの成果を手にする事が出来る。

 喜ぶのも当然だ。



 ただ、犠牲者が出てるのが悔やまれる。

 問題が起こるまえに面倒を起こす連中を処分できるのが良いのだが。

 なかなかそうはいかない。

 今は問題の発生源が消えた事を喜ぶ事にする。

 殺されてしまった犠牲者達を悼みながら。



 最後に。

 襲撃者の死体がゾンビにならないように処分して。

 迷宮に残る死体は、怪物が食い散らかす事もあるが、念には念を入れる。

 わざわざ怪物になる材料を残す必要は無い。




 死体に必要の無い装備や道具なども回収していく。

 これらを放置するのももったいない。

 もってかえればいくらかの金にもなる。

 駄賃にはちょうど良い。



 こうして迷宮での掃除を終えて。

 ユキノリは外へと向かう。

 今日はこれ以上仕事をするつもりはなかった。

 大きなゴミを片付けたのだから。



 どうしても迷宮では様々な問題がおこる。

 それを少しでも片付けるために、ユキノリは行動している。

 迷宮単作の片手間ではあるが。

 しかし、この慈善活動によって、迷宮で死ぬ探索者は減っている。

 それだけ問題を起こしてる人間がいるという事でもある。



 それらが少しでも減ってくれる事で、世の中は住みやすくなる。

 ゆくゆくは自分の生活環境の改善のためにもなる。

 出来るなら住みやすい場所で生きていきたいというのは人の当然の思い。

 それをかなえるために、ユキノリは迷宮での慈善活動に精を出していた。





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