後編(愛しいフォデリーヌ)
キアラ前王妃に相談しようと、王宮の廊下を一歩踏み出した。
走馬灯のように、幻が現れては消える。
兄である王太子に、フォデリーヌを愛人にすると脅されたばかりだ。
それを相談しようと離宮の廊下を歩いていたのだ。
お祖母様が亡くなる?リシア王妃も、兄ルイード王太子も???
自分は王太子になり、後に国王になるのだろう。
フォデリーヌと別れて。
それが自分の望んだ人生?違う。
それは違う。私はフォデリーヌと生きたい。
フォデリーヌとバルセル公爵家を守って生きたい。
フォデリーヌはどうなった?他の男と結婚して幸せだったのか?
幻ではフォデリーヌのその後は見せてくれなかった。
私はこのまま、お祖母様に相談することが正しい事なのか???
頭を働かせろ。必要なのは、ルイード王太子の、兄上の弱みだ。
フォデリーヌを守る為にも。
それは、リシア王妃が、メイドだった母に毒を盛って殺し、父国王が子を出来ないように、種を殺す毒を盛ったというのが弱みになるはずだ。
キアラ前王妃に会いに行った。
そして、頼んだ。
「兄上に弱みを握られております。兄上を脅して、交換条件にしたいと思っております」
キアラ前王妃は驚いたように、
「どういうことか?」
「お祖母様なら、証拠を握っておいででしょう。私の母が殺された証拠。父が子が出来ないように毒を盛られた証拠。それを持って、バルセル公爵家を助けたい。フォデリーヌを愛人にしたいと兄上が言っています。それを阻止したい。そして兄上には王太子として自覚を持ってもらいたいのです」
「ああ、やはりアレは駄目だわ。どうしようもない」
「でも、お祖母様。早まった事はやめて下さい」
「何を???」
「お願いですから。兄上は兄上で使い道はあるでしょう。私は確かにあの兄上に苦しめられました。でも、兄上を失ったら私が王位を継ぐ立場になります。私には荷が重すぎる。それに私はお祖母様にはまだまだ生きていて欲しい。私にはお祖母様だけが身内です。どうかお願いですからお祖母様」
「まるで、わたくしが何をしようとしているか知っているような‥‥‥」
「お願いですから」
キアラ前王妃はため息をついて。
「解った。お前に証拠を預けることにしよう。死亡の原因を調べたあの医師の自白した証拠を持っておる」
「有難うございます」
兄ルイード王太子に対峙することにした。
「なんだ?まだ文句があるのか?フォデリーヌを早くよこすがいい」
「兄上。これは魔法契約で書いた証言書です」
ひったくるようにしてルイード王太子が証言書を見る。
死亡診断書を書いた医師が金をリシア王妃から貰って偽った事を書いた証拠が‥‥‥
「嘘だ。母上が、お前の母であるメイドを毒でもって殺して、父上が子を出来ないように毒を???」
「この証拠を公にすれば、リシア王妃様は破滅するでしょう。交換条件です。フォデリーヌに手を出すことを止めて頂きたい」
アルトスはルイード王太子に向かって、
「貴方の母上を破滅させたいのですか?」
ルイード王太子は母親に可愛がられて育てられた。
母である王妃の破滅を望むはずがない。
「解った。交換条件だ。フォデリーヌの事は黙っておく。お前も母上の悪事を黙っておけ」
「有難うございます」
「アルトスの癖に、私を脅すなどと」
「お祖母様は心を痛めておいでです」
「お祖母様が?」
「お茶にしませんか」
メイドにお茶とクッキーを運ばせた。
ルイード王太子は目を輝かせる。
「このクッキーはお祖母様が昔、私にも作ってくれた。大好物のクッキーだ」
「お祖母様は兄上の事も愛しておいででした」
そうだ。兄上はこのクッキーを疑いもなく、あの時も食べた。
兄上にその心が残っていれば。
ルイード王太子はクッキーを食べながら、
「懐かしい味だ」
「お祖母様も兄上の事を案じております。ですから、兄上。どうか、王太子としての自覚を持ってこれからも行動をお願い致します」
「自覚を持っていないというのか?」
「フォデリーヌを愛人にしたら、隣国の王女様がよくは思わないでしょう。どうかお願いですから」
ルイード王太子はクッキーを平らげて、
「お前ごときに指図される覚えはない。だが、お祖母様には礼を言っておいてくれ」
背を向けて部屋を出て行った。
フォデリーヌに会いに行った。
別の男と婚約をすることになった時にフォデリーヌは、
「愛しておりませんでしたわ。あくまでもこちらの都合。結婚しなくてはならなかった。それだけです。それは今の婚約者も同じですわ」
と言っていた。
本当に愛されていなかったのか?
フォデリーヌに問いかける為に公爵家に行き、客間で話をした。
「もう、兄上は君に対して執着をしないだろう。私の方で話をつけた」
「そうですの。さすが、アルトス様ですわ」
にこやかにそう言って微笑むフォデリーヌ。
アルトスは、
「君は私の事を愛しているのか?」
「ええ、愛しておりますわ」
「君がバルセル公爵家の血を引いていないという事は調べがついている」
目に見えてフォデリーヌは青くなった。
「わたくしを訴えますの?我がバルセル公爵家を潰したいのですか?」
「大丈夫だ。そんな事は私もお祖母様も望んではいない」
「そうですの」
「改めて聞く。君は私の事を愛しているのか?仕方なく?私と結婚すれば、正当なバルセル公爵家の血筋は守られるからな」
フォデリーヌは視線を落として、ため息をつきながら、
「愛しているって言っても信じて貰えないでしょうね」
そして、まっすぐこちらを見つめて、
「最初は政略だからと、どんな男性でも構わないと思っておりました。でも、この半年間。貴方の事を知れば知る程、守って差し上げたいとわたくしは思いましたの。苦労されてきた事は知っておりましたから。でも、貴方はわたくしが思っているよりも、しっかりなさっていたのですね。わたくしの生まれの事を知っておりましたし。でも、信じて下さいませ。貴方とお話したこの半年間。わたくしはとても楽しかったのです。この公爵家の事、国の未来の事。色々と過ごした時間はわたくしの宝物でしたわ。それに、わたくしは貴方との子を抱きながら、この公爵家で幸せに過ごしたい。幸せに過ごしたい‥‥‥そう願うようになっておりましたのに」
ぽろりと流れるフォデリーヌの涙。
芝居だろうか?いや、芝居でも構わない。
私はフォデリーヌが好きだ。
だから彼女の言葉を信じたい。
信じる事にしよう。
あの幻は何だったのか?
何が見せたものなのか?
まったくもって解らない。
ただ、現在。兄ルイード王太子は行いを改めて、隣国から来た王女フレシアと仲良くやっているようである。もうすぐ二人は結婚をする。
幻の中での妻だったフレシア。
自分との仲は義務での仲で、愛などなかった。
それでも、兄が生きていて、フレシアと上手くやっているのを見ると安堵した。
ルイード王太子達が結婚した後、半年後に、アルトスとフォデリーヌは結婚した。
キアラ前王妃は、アルトスとフォデリーヌの結婚式を見て、涙を流して喜んだ。
普段は毅然としたキアラ前王妃。余程、嬉しかったのであろう。
アルトスは愛しいフォデリーヌの手を握り締めて、教会の外に出る。
大勢の人が二人を祝福してくれた。
愛しいフォデリーヌをこれからも守っていきたい。
そう、新たに決意をするアルトスであった。




