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第5話 マジヤバ!ぶち切れ仁科父! ②

魔法少女 仁科明美は24歳のニート 兼 魔法少女である。

ある日、妹のエリート中学生 雅と魔法少女の契約を結ぶことに成功する。

だがしかし、その事が肉体派 頑固親父の逆鱗に触れてしまい、明美は家を追い出されてしまったのであった。

果たして、家を失ったニートに生きる道はあるのか!?


「な、なんでそれを……」

「明美から聞いたの。あの子が珍しく私たちに話があるなんて言うから、嫌な予感はしたんだけど」

 

 玄関で母と話していると、リビングに続く扉が開く。のっそりと、雅の父が顔を出した。大柄な体格の父は、まるで巣穴から現れた熊の様だ。気がつくと、雅は息を止めていた。

 「雅、話がある」

 そう言う父の表情には、感情の昂りは感じられず、用意していた言葉を、ただそのまま声に出している様だった。

 冷静になろう。履いていた革靴を脱ぐ。

「……雅、お父さんの話、聞いてあげてね」

 そう言うと母は雅の荷物を持って、リビングに向かった。

 はぁ……とため息をついた。緊張で呼吸が震えているのが分かった。

 

 雅の父は、決して癇癪を起こすような人間ではなかった。前回父が怒ったのは、確か明美が大学を卒業する年だ。明美と父は大喧嘩をした。

 大声で怒鳴りあう明美と父の声が、雅の部屋まで聞こえて、このまま家族がバラバラになってしまうのではないかと恐ろしかった。雅は、ただお気に入りのポメラニアンのぬいぐるみを抱きしめて、早く終わる事を願った。

 喧嘩の声が収まると、母は心配して部屋まで様子を見に来た。雅は母に抱きついて泣いた。大丈夫と優しく抱きしめる母の体温を、雅は今も覚えている。

 

 その時の記憶が蘇る。

 しっかりしないと。私が家族をダメにする訳にはいかない。


 ◇

 

 明美と雅の父、仁科晃一郎は、今年で47歳になる。

 専業主婦の母 咲苗、ニートの明美、私立の中学に通う雅を養う、一家の大黒柱だ。

 仕事は建築業をやっている。早朝から家を出て、大体夜の8時には帰ってくるので、娘たちとも良く会話をしていて、世間から見ると仲は良い方なのかも知れない。

 父の晃一郎は、母の咲苗とは高校の同級生だった。

 明美からの又聞きなのだが、高校時代は、父が一方的に母に好意を抱いていたが、当時の母は別の男と付き合っていたらしく、よく教室で話はしたものの、恋愛にはならなかったらしい。

 高校の同窓会で2人は再会し、その後、連絡を取り合ううちに、気がつけば結婚していた。という事だそうだ。

 はじめてそれを聞いた時、雅は「気がつけば結婚」なんてあり得るのかと明美に聞いた。明美には娘に馴れ初めを話すのが恥ずかしかったんだろうと言われたが、今思うと明美が出来たから結婚したのではないか?と雅は勝手に疑っている。

 その証拠に、父は母に頭が上がらない。

 

 ◇

 

 リビングに向かうと、晃一郎は頬杖をついてテレビを見ていた。野球のハイライトを見ていた様だ。それはよく見る光景だったが、テレビの内容を見ていると言うより、ただそちらの方を眺めている様で、どこか心ここに在らずと言う様に見えた。

 雅がリビングに入ってきたのに、晃一郎も気が付いた。

「……今日は、遅かったな」

 雅にはそれが、振り絞って出した言葉の様に感じた。

「うん、家の前で明美、泣いてたから。ちょっと話してた」

 その事は知ってはずだが、晃一郎は「そうか」としか言わなかった。

 咲苗は台所で雅の夕飯の準備をしている。きっと2人で話をできる様に、気を使っているんだろう。

 晃一郎は何かを決意した様に、雅の方を向いて話しだす。

「明美から聞いたが、お前も明美と同じ、魔法少女になったんだってな」そう話す顔は、必死に自分の感情を殺しているかの様だった。

「雅、俺はお前に危険な目にはあって欲しくない。魔法少女はやめろ」

 晃一郎の意見は至極真っ当だ。だが、雅はどこか腹落ちがしない。

「親父……。どうして?明美は良いけど、私はだめなの?」

「だめだ」晃一郎の目に、迷いはない。

「明美が魔法少女をやる事だって、俺は認めていない。だが、あいつは魔法少女をやめないんだ。あいつは俺の意見を無視し続けてる」

「それはおかしいよ、明美は今日、今年で魔法少女をやめるって言ってた。やめないんじゃなくて、やめられなかったんじゃないの?」

「だとしても、それがお前を魔法少女にして良い理由にはならない」

 雅はムッとする。

「なるよ!明美は魔法少女が足りないって言ってた。少しでも魔法少女を増やさなきゃ、明美が永遠に代わりに魔法少女をやらなきゃならないんだよ、きっと!」

 分かって欲しい。明美は助けを求めているんだ。どんなに魔法少女の明美が強くても、誰かが明美を助けてあげなきゃならないんだ。

「……だからお前が明美の代わりに犠牲になるって言うのか?世の中には腐るほど女は居るんだ、なにも代わりになるのは、お前じゃなくていい。代わりを探すのは、魔法少女になったあいつの責任だ」

 何も言い返せなかった。悔しさよりも、ただ晃一郎の言葉を受け入れるしかない自分が情けなく感じた。

 そして、晃一郎にだんだんと腹が立ってきた。何より、自分を特別扱いする様な言葉が気に食わない。

「明美を見捨てるんだ!!明美は、実の娘なのに!!」

 それを聞いた晃一郎の顔に、怒りとは違う感情が混じる。焦りなのか、不安なのか。目線が“それ”は言うなと言っている。

 言葉が雅の喉につっかえた。自分の中で無意識に言わないようにしていた言葉だ。

「おかしいよね!本当の娘は見捨てて、養子の私は大切に育てるなんて!」

 ドン!!と晃一郎がテーブルに拳を叩きつけた。

「黙れ!!」

 それまで、冷静を装っていた晃一郎が声を荒げた。

 雅の体はびくりと強張る。

 はっと晃一郎は、我に帰った。

「すまん……。雅」

 大きな音に驚いたのか、咲苗も台所から飛んできた。エプロンで手を拭きながら、2人を見て何かを察した様で、そっと雅の隣に座った。

 晃一郎は、自分が大切にしていた物を、落として壊してしまった。そんな顔をした。

 少しの静寂があって、晃一郎が口を開く。

「俺は……、お前が産まれた時にどんな赤ん坊だったかを知らない。初めて歩いた時や、言葉を話し始めた時も。いつオムツを外したのか、初めて出来た友だちはどんな奴なのか。俺は知らない」

 ひとつひとつ、散らばった破片を拾い上げるように、言葉を紡ぐ。

「でも俺は、お前の本当の両親が見られなかったお前を見てきている。知っている」

 傷つけた晃一郎の顔を、雅は見られない。

「未来のお前を、守っていける。それじゃあ、お前の親父になれないのか?」

 晃一郎に叱られた事。褒められた事。幼い頃に肩車をしてくれた事。一緒に動物園に行った事。晃一郎との思い出は、数えられないほどにある。

「……ううん」

 自分の今の父親は誰か。そんなの、晃一郎に決まっている。

「ごめん……言い過ぎた……」

 そう言う背中を、咲苗は撫でる。

「謝って偉いね、雅。はい!喧嘩は終わり!ご飯にしましょう」

「そうだな」

「ほら、雅。しょぼくれてないで、元気出しなさい!」

 

 夕食を終えて、咲苗は気まずそうな2人を見かねたのか、「雅、お風呂入ってきな」と雅に話しかける。

「うん」とだけ言って、雅は自分の部屋から着替えを持って、風呂に向かった。

 咲苗は洗い物を済ませると、晃一郎の隣に座った。

「もうちょっと、あの子の気持ちも聞いてあげたら?」

「これだけはだめだ。魔法少女になったら、もう俺じゃあ助けてやれなくなる」

「じゃあ貴方も魔法少女になれば良いじゃない」

「ははっ!そりゃあ、なれるもんなら、なってやるさ。おじさん魔法少女、見参ってな!」

 そう言って2人は笑った。それが叶わないことは、なんとなく分かっている。

「雅は明美が大好きだからね。本当の明美を知ってしまって、心配で仕方ないんだと思うよ」

「分かってる」

「私は雅がほんとに魔法少女やりたいって言うなら、やらせてあげても良いかなって思うけど」

「嘘だろ?お前、正気か?」

「正気じゃないかもね。でも少しくらい頭のネジがぶっ飛んでないと、魔法少女の母親、10年も出来ないわよ」

 咲苗は台所まで行って、冷蔵庫からビールを取り出した。

「最後の一本、ゲット〜!」

「飲むのか?珍しいな」

 プシュっと缶ビールを空ける。自分のコップにそれを注いで、残りは勝手に晃一郎のコップに入れた。

 ビールを一口飲んで、天井を見上げる。

「明美がなんとかなったんだし、雅もなんとかなるわよ」

「なんとか……なってるのか?」

「なってるでしょ!あんな元気にニートやってるんだし!」

 ふと気付くと、時計は10時を過ぎている。

「あっ……」

「どうした?」

「いや、なんでもない」

 明美との約束を完全に忘れていた。1〜2時間で帰ってこいと明美には言ったが……。晃一郎の目を盗んで、携帯を見る。まだ連絡がない。明美は大丈夫だろうか?

 晃一郎は咲苗に注がれたビールをぐいと飲んで、立ち上がった。

「ちょっと、コンビニ行ってくるわ」

「えっ、あぁ……」

 晃一郎は上着を着て玄関に向かった。


 ◇


 晃一郎は家のドアを空けた。

 ドアの前に、明美が体育座りで縮こまっている。

 そういう光景を想像したが、明美はそこに居なかった。

 薄暗い通路には誰もおらず、その先には暗い闇の中に、ぽつぽつと街灯の明かりが灯る街の景色だけがある。

 一応、辺りを見まわす。階段の踊り場や、通路の曲がり角。家の前には明美の姿はなかった。

 友達の家にでも行ったか。


 団地を出て、夜道を歩く。

 コンビニに向かう道は街灯が少なく、歩道を歩く人影が男か女かもよく分からない。人影が女性だと分かると、明美では無いか確認してしまう。

 追い出したのは自分だったが、どこかすぐ戻って来ることを期待していた。

 家の近く、小さな公園のベンチに晃一郎は腰を下ろした。少し1人になって自分の考えを整理したかった。

 今日は娘たちにひどく感情的になってしまっていた。

 親父として最低だと、そう思った。

 

 明美には少し言い過ぎだのかも知れない。

 明美が魔法少女を雅に隠していた事は知っていた。それが何故、いきなり雅に打ち明けたりしたんだろうか。思えば最近は、明美を見ない日もあった。

 自分の知らない所で明美に何かが起きている気がする。

 夜の闇が、晃一郎の不安を掻き立てる。

 いや、今日こんな事があったから、そう思えるだけだ。

 ネガティブになっているだけ。気のせいだ。

 第一、明美に何かあったとして、自分は何が出来る?

 ただ、明美の帰りを待つ事しか出来ないじゃないか。


 ◇

 

 10年前、都内の商業施設の工事があり、工期が遅れていたこともあって、現場の空気は最悪だった。

 その日、晃一郎は疲労もあったのか、弁当を家に忘れてしまった。現場に向かう途中で、咲苗から電話が来た。

 「あの子、どうせ家に居ても、勉強もせずダラダラしてるだけだから」そう言って咲苗は、昼に弁当を明美に持って行かせると言った。現場は晃一郎の住む団地からはそれ程遠くなく、歩いても着くような場所だった。

 昼休憩に入れるかというところで、突然、空の色が暗くなり、現場に黒い巨大な人の形をした化け物が現れた。

 骨組みの鉄柱や、コンクリートの壁をめちゃくちゃに壊しながら、その黒い巨人は暴れ回った。

 晃一郎は最初、そんな事が起きているとは知らなかった。大きな音に気付き、同じ区画を担当していた仲間と共にマニュアルに従って、いち早く避難していた。

 避難した先で、現場に仲間が残されている事に気付き、晃一郎は周りの反対を押し切って現場に戻った。

 仲間の担当していた区画に向かうと、そこはもう崩れ落ちた廃墟の様になっていた。

 大きな音がする場所から、出来るだけ離れる様に辺りを探す。すると、倒れ込んだ鉄骨の下で、気絶する仲間を見つけた。

 必死に鉄骨をどかそうとするが、ビクともしない。

 晃一郎が初めてダークマターを見たのは、その時だ。

 黒い大きな巨人がこちらを見落ろしていた。

 体長は恐らく、10メートルはありそうだ。

 まるで、こちらを虫けらを見る様に見下している。

 鼻や口の無いのっぺりとした顔に、赤い目が光る。

 吸い込まれる様な真っ黒な身体は、深い闇の様だった。

 

「親父!!離れて!!」

 明美の声がした。

 晃一郎の後方から、何かが飛んできて、巨人の顔面にぶつかった。巨人は、その衝撃で倒れ込む。

 キラキラと虹色に輝く光が辺りに散らばり、晃一郎の前にピンクのコスプレをした少女が舞い降りた。

 明美???

 その少女は、仲間を下敷きにしていた鉄骨を片手で掴み、ぶん投げてどかした。

 がらがらと音がして、黒い巨人が起き上がる。

「はやく!逃げろって!!」

 巨人が少女を蹴り飛ばそうと足を伸ばし、少女はそれを受け止めた。がん!!とものすごい音がして、後ろに居た晃一郎も身を退け反らせた。

「ぉらあああぁ!!」

 少女が力む声がして、巨人の足を弾き飛ばす。

 巨人はそれでバランスを崩したが、体を捻って立ち上がった。その手で太い鉄骨をもぎり取って、少女に突き立てようとする。

 少女はさっとそれを避けて、突き刺さった鉄骨を伝い、巨人の腕の上を走り抜ける。

 少女が巨人の顔面を蹴り飛ばし、巨人は顔をねじらせて、倒れ込んだ。

 

 落ちてきた少女はぐっと屈み、身体から強い光を溢れさせる。

「はぁあぁあ!!」

 どかんと地面を踏みつけて、少女は砲弾の様に巨人に向かって飛んでいった。彗星の様に光の尾を引いて、光の矢になった少女は巨人の体を貫いた。

 身体に大穴を開けた巨人の身体は、ぼろぼろと崩れて灰になっていった。

 

 ハリウッド映画の世界にでも迷い込んだ様だった。

 現実を受け止められずに呆気に取られていると、少女が近づいてきた。

「お、親父……」

 見上げた先には、フリフリの衣装を着て立つ、ばつの悪そうな顔をした明美が居た。

 何が起きているのか、全く理解が出来ない。

「お前……なんだその服……」

「い、いいでしょ!服のことは!!」

 間違いない、これは明美だ。

 モジモジしながら、明美が言う。

「わたし……魔法少女なの……」

 遠くから、サイレンの音が聞こえる。

「帰ったらちゃんと話すから!あと、これから来る人には、絶対に私の事は言わないで!絶対だよ!」

 そう言った明美は、とんでもない高さまでジャンプしてどこかに行ってしまった。

 

 鉄骨の下敷きになった仲間は救急隊員に運ばれ、晃一郎もそれに付き添った。

 念のためと言われて診察を受けたが、医者からは身体に異常なしと診断された。しかし、黒い巨人の話をすると、心的外傷を受けている可能性があると診断された。晃一郎は気分を害して「すまん、多分ありゃ夢だ」とだけ言って、半ば強引に病院から抜け出した。

 

 家に帰ると、明美は両親に全てを打ち明けた。

 ある日、ラムネ色のポメラニアンに話しかけられ、魔法少女になったこと。他の魔法少女と協力して、ダークマターという化け物と戦っていること。晃一郎は自分が見たものを咲苗に伝え、明美も2人の目の前で変身してみせて、咲苗を信じさせた。

 その時に言った咲苗の言葉は今でも信じられない。

「あら、あんた!すっごく可愛いわね!!」

「でぇしょぉ〜〜!」そう言われて、明美はご機嫌のようだった。

 

 何より驚いたのは、翌日に工事が再開された事だ。

 夜には会社から電話があった。『今日、現場で資材の落下により、安全確認のため一時作業を中断。夕方には無事、安全の確認がとれたため、明日は通常通り作業を再開する。緊急入院をした作業員も居たが、どちらも熱中症によるものと思われ、本事象とは関連が無いものと思われる』そんな内容だった。

 疑い半分で翌日、現場に向かうと、何もなかったかの様に、工事現場は元通りになっていた。

 あの黒い巨人の居た区画の担当をする仲間に話をしても、そんな事は起きていないと言う。

 そして、晃一郎は後から知ったが、その日はもう1人緊急で入院した作業員が居たらしい。

 2人とも、数日後には復帰した。晃一郎が探し出し、救急車で運ばれた仲間は、あの時の話をしても、何も覚えていない。気がつくと病室に居た。と言った。


 自分の頭がおかしくなったのかと思った。

 だが、違う。俺の娘が証拠だ。

 何の根拠も無いが、なにか一般人には知られていない、強大な権力を持つ何かによって、事件が揉み消されている。そんな気がした。

 晃一郎はその事に恐怖した。

 娘がその何かに拐われてしまったら、きっと警察も何もしてくれないだろう。自分はただ、狂人として扱われるだけだ。


おしり探偵という作品がある様で、とても気になっています。おしり出しちゃったら、わいせつ物陳列罪で捕まって事件解決出来ないんじゃないでしょうか??

それとも、それが事件解決の手掛かりになる??

というか、おしり出しちゃうんでしょうか!?

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