第4話 ミラクル!?雅との契約成立!
前回までのあらすじ
ニートの姉 明美と魔法少女になる約束をした雅。
他の魔法少女たちも見守る中、最強の魔法少女である明美が変身をする。その瞬間、大爆発が巻き起こり、明美の居た公園は灰燼に帰した。
変身の最中。明美は光の渦の中、何か心に引っ掛かるのを感じて、その原因について考えていた。
今居る、駅前の広い公園。
そういえば、ここ。昔、雅とよく来たな。
私が魔法少女始めたばかりの頃。
雅もまだ小さかった。
確か……お母さんが持っていたバトミントンの道具使って、2人で遊んだ気がする。
ラリーをして、雅がシャトルを落とすと、『私の勝ち〜』って言って、めっちゃくちゃ煽ったな。
楽しかった。
もう一回!って何度もムキになってくるのが、可愛いかった。
今では反抗期のクソガキだけど。
………………あっ、雅がバトミントン始めたのって、もしかして私がきっかけ??
変身を終えると、世界が煌めいて見えた。
この姿になるのは、本当に久しぶりだ。
身体中から満ち溢れた光の欠片が、虹色の星屑になってから消えていく。
その様子は何度見ても美しい。色褪せない。
次にこの力を使うのはいつだろう。
そうする時は、きっと私が魔法少女を辞めるときだろう。
昔、雅と来た公園は跡形もなくなっていた。
自分の変身が、2人の思い出を壊してしまった。
あっ、そんな思い出に浸っている場合じゃない。あとで魔法で治せばいいんだから。
「お〜い!」
外で自分の変身を見守っていた、仲間たちに手を振る。
「終わったよ〜!」
手を振った先に、目を見開いて、唖然とする雅が居る。
あれ?なんだろう。明美は、雅の表情を見て、もうこれまでの様に関わってくれないような気がして、寂しさを覚えた。
「…………なんだよ、アホづらしやがって」
明美は自分の目に涙が溜まっている事に気付き、ゆっくり目を瞑った。
目を開くと、涙はどこかに行ってしまった。
◇
目の前で、地盤やら瓦礫やらが、物理結界とかいう透明な壁に押し付けられて、粉々になった。まるで大きなミキサーを外から見ているみたいだった。
光と、音と、振動が全部ごちゃごちゃになって、一通り雅の頭の中を掻き乱したあとで、消えてしまった。
公園だった場所の中心に、真っ白な姿をした明美だけが残った。
明美は白いヴェールを被り、純白のドレスから伸びた長い6枚のリボンがはためいている。雅にはそれが、天使の羽根のように見えた。
明美が最強の魔法少女だという事は、この時までは信じていなかった。
だが、今は違う。いつもソファで寝転んでお腹を出しながら昼寝をしているニートの姉は、神様か何かの類いだったらしい。
キラキラと光る虹の破片が舞い散る中、ゆっくりと目を開けた明美が微笑んだ。
なにか、悪い夢の様な気がして、目眩がする。
「雅ちゃん」
隣に居た桃華が、雅の背中にそっと手を添えた。
「明美さんが待ってる。行こう」
はい。と言ったつもりだったが、声は出ていなかったかも知れない。
明美がふっと手を払うと、雅達の前に積もっていた砂と瓦礫の山がはけて、道が出来た。
「大丈夫だよ、もう安全だから!」
桃華は先に公園だった場所に入って、それを証明してくれた。「ほら!ね!!」桃華の笑顔に、雅の心も少し楽になった気がした。
公園だった場所に、足を踏み入れる。一歩目は、少し緊張した。
結界とかいうモノをすり抜ける時、光の波紋の様なものが生まれて、透明な壁を伝った様に見えた。
踏み込むと地面は、砂浜にでも居るかの様にさらさらと崩れる。
公園の中は、キラキラ光の粒が舞っていて、もうすぐ正午になろうというのに、その光は太陽の光に負けず、輝いている。
まるで星空が落ちてきたみたいだった。
今居る公園は、駅を使う時に何度も通ったことがある。見慣れた景色は、明美の変身で様変わりしてしまった。
ゆっくりと、一歩一歩踏みしめる。
明美の元に、近づいていく。
空気中に舞ったキラキラは、何故か危険なものの様には感じなくて、雅に触れるとふっと消えていった。
桃華も途中まで、着いてきてくれた。
ある程度明美に近づくと、「明美さんの所まで、行ってあげて」と言って、桃華は足を止めた。
自分は後ろで見ている。という事なんだろう。
明美の元に辿り着く。
これは、本当に明美なんだろうか。
「ふっふっふ〜!驚いたでしょ!」
明美が両手を腰に当てて、得意げな顔をする。
見た目はいつもより随分と華やかだけど、中身はいつもの明美みたいだ。
「驚くとか、そういうレベルじゃないよ……」
そう言う自分が、思ったよりもこの現実を受け止めているみたいな、妙な感じがした。
「こんな戦争みたいな事がそこら中で起きてるって知ったら、怖くて普通の生活できないって……」
「そうだよね……」
気まずそうに、明美がはにかんだ。
「私は、正直今でも、雅に本当に魔法少女になって欲しいのかどうか、自分の気持ちが分からない」
明美が雅の元に歩み寄り、そっと雅の頭を撫でた。
雅は少し赤みを帯びた綺麗な色の髪をしている。
「雅を私の戦いに巻き込むのは、嫌だったし。だから雅にだけは隠してきた。実はお父さんも、お母さんも、私が魔法少女だってことは、ずっと前から知ってるんだ」
明美が雅に触れるのは、本当に久しぶりだった。
魔法少女になると、人に触れることで、その魂を感じられる様になる。人の魂は、マナというエネルギーを発していて、それを魔法少女は魔力という力に還元して魔法を使っている。
やっぱり……と明美は確信した。
雅の魂は、太陽の光の様に際限なくマナを発している。
この子は、確実に強い魔法少女になる素質がある。
「どう……?本物の魔法少女を見て。これでも、魔法少女になりたい……?」
「…………なりたいかって聞かれると、なりたくはない」
「そっか」
「でも、なるって言ったのは私だから」
明美の手が一瞬止まる。雅なら、そう言うと思った。
雅が魔法少女になれば、もしかしたら自分と同じか、それ以上に強い魔法少女になるかも知れない。
でも……それがなんだというのだ。
雅には、雅の人生がある。
私の人生に、無理に巻き込む事なんてしたくない。
雅には、幸せになって欲しい。
「魔法少女は、私がやりたくてやっている事だから、雅は無理に魔法少女にならなくてもいい。就活だって、ちゃんとやるよ。約束する」
「それじゃあ、フェアじゃないじゃん」
雅は俯いて、明美からは顔が見えない。
「フェアかどうかなんて、どうだっていい」
明美は雅を撫でる事をやめて、両手で雅の肩を抱いた。
「やっぱり、やめよう。雅」
少し屈んで、俯く雅に目線を合わせる。
「雅なら、ちゃんとした大人になって、きっと幸せになれるだろうし。私みたいに、魔法少女になる必要なんてないよ。普通に生きていこう。魔法少女の契約はやめよう。そうしよう。」
雅は何も答えなかった。
申し訳ないとでも思ってるんだろうか。
「雅のことは、ずっと私が守ってきたし、これからもずっと私が守るから!大丈夫!」
「…………なにそれ。それって、明美はこれからもずっと危険って事なんじゃないの?」
少し雅の語気が強くなった。
「…………いや、これ見れば分かるでしょ!私、最強だから!さっきだって、私が戦っちゃうと瞬殺しちゃって参考にならないかなと思って、桃華に戦って貰ったんだし」
「いや、でも!おかしいよ!!本当に最強なら、私に魔法少女になって、一緒に戦ってなんて言わないでしょ?!」
雅の声が震えている。
明美は何も言えなかった。
「敵なんて、ひとりで全部倒せばいいんだもん!そうじゃないんでしょ!それが、出来ないんでしょ!?」
言葉と一緒に不安だった気持ちがどっと溢れてしまって、涙になって雅の頬を伝った。
「ははは……ばれたか」
雅は掌をぎゅっと握り締めた。
「明美って、いつもそうだよね!魔法少女でも、どうせそうやって、自分を犠牲にして、大丈夫って薄っぺらい嘘ついて!!自分のこと誤魔化して!!人生棒に振って来たんでしょ!!」
拭っても拭っても、溢れ出した涙を止められなかった。人前で泣くのは、子供の頃以来だ。恥ずかしい気持ちはどこかに飛んでいってしまった。
今はただ、明美が許せない。
「そんなこと、どうだっていいよ。私の事なんて」
「良くない!!!」
雅が真っ赤な目をして、明美を睨みつけた。
気押されて、明美は思わず退いた。
肩から離れた明美の手を、雅は掴む。
「魔法少女になったら、私も桃華さんみたいに戦えるんでしょ!?強くなれば、私が明美が危ない時に、助けられるかも知れないじゃん!!」
明美は掴まれた雅の手から、燃え上がる様な怒りを感じた。
「明美、私を魔法少女にして!!私が明美より強い魔法少女になってやる!!」
◇
「ほ、本当に良いんですか……?いや、魔法少女になってくれるのは嬉しいんだけど、やっぱり危険だったりするし、部活とか色々……」
明美はめちゃくちゃビビっていた。
「ねぇ……はやくして!この後、その部活があるの!!」
「そうですか……?本当にやっちゃって良いんですか……?」
「何度も同じ事聞かないで!!いいから!!」
こういう時の雅は、絶対に折れないのは明美も知っていた。
うぅ、でもやっぱやだなぁ……。雅を横目で見た。ほんと、流石ですよ。雅さん。
無意識に自分が笑っていることに、明美は気付いた。
…………私も覚悟を決めよう。自分で言い出した事だ。
体内で魔力を練り上げる。
強く、強く。この魔法が雅を守るようにと、願いを込めて。
明美の胸元ある、宝石が煌めいた。
「じゃあ、始めるね」
ドレスから伸びるリボンが、翼を広げたかの様に広がり、雅を包んだ。
辺りが暗くなり、ポツポツと浮き上がった光が、夜光虫の様に雅の周りを飛ぶ。明美と雅の足元には、大きな魔法陣が現れた。
「さっき渡した聖霊鏡を私にかざして」
雅はブレザーのポケットに入れていた、聖霊鏡と呼ばれていたものを取り出す。中心の宝石が淡く光っていた。言われるがまま、明美の方に聖霊鏡をかざす。
――仁科雅、汝の魂の灯火を聖霊鏡に写せ。さすれば、大いなる善神の一柱、女神アールマティの加護を与えん。
明美の声が雅の頭に直接入り込んできた様だった。
コンパクトの様なそれを開き、自分の方に向ける。
すると身体の内側に、何か温かい感覚が流れるのを感じた。いや、流れるというより、渦巻いている。鏡に映った自分から、光が溢れてくるのが見えた。
「私の後に続けて。“religare”」
「れ、レリガーレ……」
足元の魔法陣が強く光った。
雅から溢れた光が、聖霊鏡の鏡の中に入っていく。
カッと、鏡から光が放たれた。
その眩しさに、雅は目を瞑ってしまう。
――汝との契約をここに結ぶ。
明美とは違う、誰かの声がする。
一瞬、心臓を誰かに掴まれたような感覚がした。痛みや、苦しさはない。
手に持つ聖霊鏡が、まるで自分の身体の一部であるかの様に感じる。不思議と恐怖は無かった。
まるで、はじめからそうであったかの様だ。
明美の声がする。
「魔法少女、仁科雅 闇を祓う炎となりて、その魂を燃やせ」
昨日、本屋でなんとなく伊坂幸太郎さんの「オーデュボンの祈り」を手に取りました。
「胸の谷間にライターを挟んだバニーガールを追いかけているうちに、見知らぬ国へたどり着く、そんな夢を見ていた。」
なんて素晴らしい書き出しなんだと、気がつけば購入してました。




