第2話 カンベンして!明美の後輩魔法少女
前回までのあらすじ
ある日、中学生の雅は、ニートの姉 明美から「自分は魔法少女で、一緒に魔法少女になって欲しい」と持ちかけられる。
雅は明美が社会復帰することを条件に、それに応じる事にした。
「ミヤビ、契約する前に、一度本物の魔法少女というものを見せておきたいの」
明美は雅の分の料金もきちんと支払って、喫茶店を出た。
「見せたいものがあるから、着いてきて」
そう言って明美は自転車を押して、どこかへと歩いて行く。なんで歩いて来れる喫茶店に、自転車で来たんだろうと雅は気になっていた。どうせこの後、スーパーかどこかにでも行くんだろう。
相変わらず、明美が何を考えているかは分からなかったが、就活をしてくれるという約束をしてくれたからには、雅も明美のわがままには出来るだけ付き合ってあげようと思った。
「ねぇ、普通はさ、いや、普通なのかどうかも分からないんだけど、なんか小さくて可愛い生き物が、魔法少女になってよ〜って契約にくるもんなんじゃないの?」
とりあえず、魔法少女?の話をしてみる。
「今日、休みなの」
「何が?」
「聖霊」
「せいれい?」
「その小さくて可愛い生き物のこと」
「あれ、休みとかあるんだ……」
「あいつらみんな、こっちに出稼ぎに来て働いて、良い魔法少女を捕まえたら、すごいお給料出るらしいよ。ベーリング海のカニ漁師みたいな感じで」
「えっ、さっき魔法少女は給料出ないって言ってなかった?」
「そう、こっちの世界のお金は貰えないの」
さっきから『こっちの世界』って、明美は別の世界に行った事があるんだろうか。
仮にそういう世界があったとして、超絶ダメ人間の明美が別の世界でうまく生きているイメージは、雅には湧かなかった。
「実は私、あっちの世界だと超セレブなんだから!」
そんな出来る人間が、人間の世界でニートなわけがないでしょ。
「ふ〜ん、そんなにお金持ちなら、その聖霊の住む世界で暮らせばいいじゃん」
そう言って雅は、明美が毎日笑いながら、絵本のような世界でのんびり暮らしている所を想像した。
現実世界の雅は、1人で学校に通っていて、家に帰っても、スウェットでごろごろして、お帰りを言ってくる呑気な姉はいない。
それは少し寂しいなと雅は思った。
「それじゃ雅、寂しいでしょ?」
イタズラに笑って明美は雅の方を向く。
「別に……。高校行ったらどうせ会えないし……」
「……反抗期め……!」
明美は割とショックだったらしい。
憎たらしい、という顔で雅を睨んでから、明美は進行方向に向きなおした。
「家出るなんてやめて、お姉ちゃんが結婚するまで、ずっとそばに居てよ……」
そう話す明美の顔は、後ろからでは見れなかった。
「そしたらアケミ、一生結婚出来なそうだから、私も一生実家暮らしじゃん」
「ははは、そうだね」
明美が笑う。
「私も別に結婚とかしたくない」
雅は明美と下らない話をする時間が、雅は好きだった。
もう少し、こういう時間を雅は送れるらしい。
「なんか聖霊も最近は忙しいらしくて、ひとりで20人くらい魔法少女と契約してるから、休みもなかなか取れないんだってさ。今日は息子の授業参観らしくて、私が代理引き受けたの」
雅は子ポメラニアンの授業を、親ポメラニアンがニコニコ眺めている様子をイメージした。なんだそのかわいい世界は!
「一応、ミヤビも魔法少女になったら精霊がつくことになるから、そのうち紹介するけど。魔法少女として戦えるようになるまでは、私が直々にコーチングしてあげるから、期待しておいていいよ!ふふん!」
「はぁ、ありがと」
明美のバッグの中から、スマートフォンの通知音がなった。
「うお〜っと、ちょい待ち〜」
落ち着きなく自転車を停めて、ガサゴソと自転車の籠に入ったバッグを漁る。
もう少し大人の女性らしくしたらどうなんだ。そう雅は思ったが、自分の前だからというのも分かっていたので、口にはださなかった。
スマートフォンの画面を見てから明美は電話に出た。
「はい、もしもし〜?あっ、お疲れ〜〜、えっ!!ホント!!グッドタイミングじゃ〜ん!マジ!?ありがと〜〜!いや、ほんとごめんね〜!ほら、ちゃんと魔法少女ってのを見せてから契約したくてさ〜。うん。うん。ありがと〜〜、もう、ほんっと助かるわ〜〜。うん。分かった。桃華ね!多分行けば分かると思う!うん。うん。サーンキュー!!うん。じゃあ今から向かうね〜。ありがと〜。じゃあね〜。また。うん。じゃ!」
明美は電話を切った。
「やっぱり出ると思ったんだよな〜!ビンゴ!」
「なんか、電話してる時のアケミ、お母さんみたいだね」
「うるさい!!ほら行くよ!自転車の後ろ乗って!!」
そう言って自転車に明美は跨った。二人乗りを勧めてくるし、ほんとに明美ってやつは。
「これからどこか行くの?」
「さっき言ったでしょ??魔法少女のところ!!」
◇
細い路地裏を通る様にして、アケミは自転車を走らせた。二人乗りが学校にバレるとまずいなと雅はソワソワした。しかし、そんな心配とは裏腹に、何故か周りから人が少なくなっていっている気がする。
「今日、休日なのに外に出てる人少なくない?」
「もう結界の中だからね」
「結界?」
「魔法少女が、一般人を巻き込まないように、人を避けるような結界をはるの。その中で戦闘は行われる」
「はぁ」
明美の発言はよく分からなかったが、雅はそれよりも、二人乗りをしているのに明美が全く息が切れないことが気になった。結構なスピードで走っているのに…。
「結界も色々あるんだけど、今回は新人の子に結界はってもらってるから、基本のやつだね。何人か人が入っちゃってるけど、まぁ仕方ない」
「さっき電話してた人?」
「ううん、あれは別の子」
いや、魔法少女何人いるんだよ。
「あっ、いたいた」
明美の言葉に、雅も首を伸ばして前を見る。
進行方向の先に、手を振っている女の子が見えた。
「明美さ〜ん!こっち!こっち!!」
手を振る彼女は、明るい髪色のショートカットで、街中でよく見るような、今っぽい服装をしていた。
年齢は恐らく、雅よりは上。高校生くらいに見える。
パーカーにスウェット、ダウンの姿の明美は、まるでコンビニにでも行く様な格好で、彼女と比べると幾らか見劣りする。無邪気に笑う彼女は、アイドルみたいに見えた。
「知り合いなの?」
明美に話しかける。
「ふふふ。私の一番弟子だよ!」
横顔でも分かるような得意げな表情で明美が言った。
「あっ、この子がミヤビちゃんですね!うわ〜〜っ!可愛い〜〜!!ツインテールだ!!」
女の子に近づくと、明美は自転車を止めた。女の子も方もこちらに近づいてくる。
というか、雅に近づいてきた。
「ミヤビちゃんのこと、明美さんから聞いてるよ!想像してた通り!!ずっと会いたかったんだ〜!」
雅は実は人付き合いが苦手だったので、上手くリアクションが取れなかった。
出会って5秒で距離を詰めてきた桃華に、雅は苦手なタイプだなと思った。
キラキラした笑顔を向けてくる女の子に、雅は「ど、どうも……」とギクシャクした返事をする。
明美は雅の助けを求めるような目線を感じ、ふふっと笑った。
「ごめんね、この子、人見知りするの」
「シャイガールなんだね〜!それもまた、萌えですな!」
ぎこちない雅にも、女の子は気にせず、まるで友達の様に話しかけてくる。
「あっ、ごめん!私、明美さんの後輩魔法少女の片桐桃華です!!モモちゃんって呼んでね♡」
桃華は雅にウインクした。
雅は日常生活で初めてウインクをする人間を見た衝撃で、苦笑いを浮かべながら「は、はぁ……」と答える。
「さっ、行きましょうミヤビちゃん!!先輩魔法少女のカッコイイとこ、見せてア・ゲ・ル♡」
雅は「あはは……」と笑った。多分、悪い人ではなさそうだ。
「それで、敵の場所はもう分かってるの?」明美は桃華に話しかける。
「駅前に大きい公園がありますよね。そこです。多分、野良猫あたりがダークマになってるんだと思います。調査部隊が発見したのが30分前。物理結界で公園内に捕捉していて、多分もう、覚醒始まると思います」
「そう、じゃあ急ごうか」
明美は自転車に跨り、「ほら、乗って!」と雅に言った。
「えっ、桃華サンは……」
「あっ、私走るから!気にしないで!」
いや、気にしないでって、結構距離あるぞ。そう思いながらも、明美の自転車に雅も跨った。
◇
「そろそろ近いよ」自転車を飛ばしながら、明美が言う。
桃華が反応しないので、それが自分に向けられた言葉だと雅は理解した。そんな事よりも、雅は桃華が気になって仕方がなかった。
明美は猛スピードで自転車を飛ばしているのに、桃華は見るからに運動をするには不向きな格好であるのに、遅れる事もなく自転車の隣を走っている。
「桃華さんて、陸上とかやってるんですか?」
ガタガタ揺れる自転車の上、桃華に話しかける。
「おっ!ミヤビちゃん!私に興味が出てきたのかな!」
にんまりと笑いながら、桃華は息切れひとつせずに答える。
「何を隠そう、私はプロの帰宅部ですよ!あっ、私、いま高2なの!言ってなかった!」
帰宅部がこんなスピードで走り続けられる訳がない。
人の居ない、無機質な街の景色が雅には不気味だった。
少しずつ、明美が言っている事が現実味を帯びてくる。
どぉんと、大きな音が響き、街中がびりびりと振動した。雅はそれまでに感じたことのない危機感に、ビクリと体が反応した。
「えっ!!なんか爆発した?!」
明美に動揺はない。
「もう始まっちゃったか」
立て続けに爆発音が響く。建物が壊れるような音もする。テレビで見た、遠くの国の戦争の映像が雅の頭の中で流れ出す。
「ヤバくない?テロとか起きてるの?」
「ミヤビは私が守るから大丈夫だよ。こんなんでビビるなよ〜」
「いや、ビビらない方が無理でしょ!」
明美はこっちの話を聞かず、自転車を走らせる。
「あっ、そこの角だ」
なにか嫌な気配がする。グルルルと大きな獣の呻き声が聞こえた。
角を曲がると、公園の中に、人の何倍も大きい体をした黒い化物がいるのが見えた。
呼吸の度に、その背中が動き、着ぐるみや作り物ではない事が分かる。
動物園で見たホッキョクグマの様にのっそり、のっそりと歩いている。こちらにはまだ気付いていないようだ。
明美は自転車を停めた。
キィという、自転車のブレーキ音や、ガチャガチャと自転車を停める音ですら、視線の先の獣に感付かれるのではと恐ろしくなった。
「ダークマター」
明美が話はじめる。
「みんなはダークマって呼んでる。あれが、私たちの敵」
桃華が、ダークマと呼ばれるそれに向かって、歩きながら伸びをした。
「じゃあ、ちゃちゃっと終わらせますか!」
こちらを振り向いて、雅にまたウインクする。
「先輩のカッコイイとこ!ちゃんと見ててね!!」
雅は動けなかった。
山で熊に出会った時は、恐れて逃げ出すと逆効果で、かえって襲われる可能性が高まると聞いたことがある。
そんな余計な知識のせいで、熊よりもずっと大きな化け物に出会ってしまった今、襲われる恐怖で足が動かない。
そんな雅とは違って、明美も桃華も、さっきまでと変わらない様子で、緊張感も感じられない。
歩いていく桃華に明美は「真面目にやってよ〜?」と大きな声で言った。それにびっくりして、何やってるんだ!と雅は明美を睨んだ。
その声に漆黒の大きな獣が気がついたのか、こちらを向いた。それに何の躊躇もせずに、桃華は獣に近づいていく。桃華はポケットから何かを取り出して、獣のいる方向に掲げた。
「変身」
ドッと、虹色の光のリボンが桃華の手に持つ何かから溢れ出て、キラキラと光の粒が桃華の周囲に巻き上がった。
虹のリボンは桃華の全身を包み込み、大きな虹の球になる。ふわりと桃華の体は浮き上がり、球体の中で光が集まるのが分かった。
パッと集まった光が桃華のこめかみの辺りで弾けて、リボンが付いた髪留めになる。それに続くように、次々と光の集合が起こり、桃華の体を装飾していく。
虹色の球体が、内側からの圧力で膨張して、ぱあっと解けた。
球体の内側から溢れる光。雅はその不思議な現象に目を奪われた。
光の煌めきがキラキラと舞う中で、桃華の姿が現れる。
桃華は、全裸だった。
こち亀の特殊刑事課が好きです。




